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【明けぬ獄夜に縋る糸】~少女の愛が届かない 異世界と繋がる人外暗躍復讐譚~  作者: 三十三太郎
4章ー明けぬ獄夜に縋る糸

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フライング(2)


 「――ッ、“憧れのゴルドス”……力になれるってどういう意味?」


 威容。圧倒的な筋肉は、神話の男神(おがみ)(かたど)った彫刻を想起させる。だが大男の実力が、力任せの一辺倒で無い事は明白だ。

 聖剣を腰に()烈剣姫(れっけんき)のカラダが、無意識に警戒の構えをとる。


 「(伽藍(から)は油断してない。でもこんな近づかれるまで気づけなかった! 身にまとう魔力が信じられないくらい静か。でも、聖剣でも貫けるイメージが湧かない。この感じ何処かで――……ヒトの姿の時の墨谷七郎に、少し似てる?)」


 「オイオイ、そう邪険にすんなよ。驚かすつもりはねぇんだ、悪かったっ」


 「まさかこんな所で会うとはねぇゴルドス。てっきり【聖剣】らと一緒に居るのかと思ってましたよ」


 「冗談いうなよ“(くれない)天女(てんにょ)“。あんな息のしずれぇ場所は願い下げだぜ」


 「あ、あのっ……力になっていただけるって……もしかして、今すぐ七郎様の所へ行ける方法をご存じなんですか!?」


 「おう、その事よ。ま、ここじゃ何だ。歩きながら話そうぜ」


 何処へ向かうというのか。悠々(ゆうゆう)と、しかし控えめな歩幅でゴルドスは歩き出す。まさについてこいと言わんばかりの背中だ。

 女性陣は疑問に思いながらも、意を決し彼の後へ続く。


 「……なんのつもりだよゴルドス? アタシはあんたに貸しを作った覚えはねぇが?」


 「利害なんざ一旦置いとこうぜ嬢王。おらぁオメェらが楽し気な話してるんで、勝手に首突っ込んだだけさ」


 「楽し気って……伽藍(から)達は“白旗“の本拠地へ行く方法を話してた。あなたも霊園山の現状は【水鏡】で見たでしょうっ?」


 「おれらの世界でも、あんなヤベェ魔力凝縮はそうそうお目にかかれねぇっ。まさしく世界の危機だなっ。腕が鳴るぜ!」


 「嬉しそうに語るもんじゃないよゴルドス」


 「ガハハッ、戦場に血が沸いてこそ戦士だろうが! おらぁな、前の大狂行(スタンピート)の時はノルン神教のバカ共のせいで島から動けなかった。ギルドの爺さん方にゃあ、まだヤツらの権力を重く見てる()も多いからな。ゲートと枢機卿共を守れと泣きつかれちゃな……」


 「今回はいいのかよ?」


 「だからギルドに捕まる前に、霊園山へ()()()()()。あの星瞳獣(ベヒモス)にも蹴りの借りを返さなきゃだからな!」


 「と、飛ぶって……なんのことですか?」


 「ほら見えたぜぇ」


 ゴルドスらは、そう長い距離は歩いていない。たどり着いたのは島の内地にある平坦な空間だ。元は交通が為の大通りであったらしいが、今はひび割れや欠けた建物の一部で乱雑な印象を否めない。


 そこへ、伽藍達にとって驚愕すべきモノが()()していた。


 「わあぁ、アレって――」

 「帝天島が不時着した後に飛んでた――」


 「おうよ。ウィレミニアでも超貴重な、魔力で空飛ぶ飛行船だぜ!」


 奇しくも飛行船の形は、日本の海上に浮かぶ高速中型船と似通っている。

 航空力学的な観点からか、水船(みずぶね)よりもシャープなシルエットながらも、人を船内に乗せて運ぶ構造には変わりない。

 この乳白色の船体は、島に居た多くの人間が上空に見たことだろう。


 「島の一般人を帝海都の港まで運んでいたのを見ましたねぇ。速度があったので驚きましたが、3隻ぽっちだけじゃ焼け石に水でしたよ」


 そうなのだ。クジャクの指摘通り、落島(らくとう)に対して差し出されたウィレミニアからの正式な援助は、実はこの飛行艇3隻のみ。魔法使いを含めた人手はアイテールルの応急処置と移動に駆り出され、島の避難処置に関しては9割がた日本の対応によって成されていた。

 あとの異世界人は自主的なボランティアに終始する。

 日本の在来世界で起こった事件であるのだから、当然と言えば当然の処理ではある。しかしゴルドスら良識ある者に、負い目に似た思いが在るのもまた事実。


 「元はといやぁウィレミニア人が起こした事件だ。もうちっと人手をよこせりゃいいんだがな。だがこの船だってウィレミニアにとっちゃ虎の子のハズだ。なにせ増産不可能なシロモノ……いつかクレルトギスタに聞いた事があるが、首都に仕舞われてんのも全部で5隻だけだってよ」


 「あん? この船はウィレミニアが作ったんだろ?」


 「正しくは【小さな角】の発明品だ。動力にゃゼナ=マカウしか作れない部品が必要らしくてな、一回壊れたら誰も直せねぇ。……コレはな、元はノルン神教の飛行戦艦に積まれてた“突撃揚陸艇”で、動力が無事だった何隻かのガワを修理しただけなんだとよ」


 「ああ、そうなのかい……噂は聞いてたけど、コレが10年前のねぇ……」


 100に迫る突撃揚陸艇を格納していた空中空母ディースガルドは、クーデターの際アイテールルの竜炎に砕かれ、反乱に加わった乗組員ごと空の藻屑となった。

 修理可能であった数隻は皆、空母からの出撃後に魔法使いの砲撃で墜落した機体ばかり。

 当時の現場を知らぬゴルドスやクジャクでさえ、飛行船を見上げる程に憂鬱な気分になってしまう。

 それ程にウィレミニア首都での事件は、ある程度詳細は伏せられていながらも、異世界全土に衝撃をもたらしていたのだ。


 「……まさか、コレに乗るの?」


 しかし伽藍にとっては10年前への追憶より、ハッキリとさせなければならない事がある。


 「伽藍達が勝手に使っていいわけないじゃない!?」


 「なぁに、少しの間借りるだけさ。それによ、乗り込むのはおれ達だけじゃねぇぜ?」



 「やっと来たニャ、ゴルドス。遅いニャ」



 ゴルドスの意味深な言葉と同時に聞こえる声。

 声の主は大分に目立つ姿であったが、飛行船のおかげかインパクトが和らいでいる。


 「(猫耳の獣人?)」


 伽藍の視線は、まずやはり声の主の頭に生える(けもの)(みみ)へ。

 次に猫を思わせる瞳孔に、布面積の少ない露出過多な服装……だが寒くはないのだろう。人肌との境界線を上手く溶かしながら、カラダの各所に柔らかそうな猫毛が生えている。

 思わず撫でたくなるような茶色の毛並みだ。胸元に飾られる牙の装飾品が若干禍々しいが。


 「お、獣耳種(ライカン)……もしかして“牙の笛”かッ?」


 「そういうアニャタは“悪徳嬢王(あくとくじょうおう)”。 フニャーン♪ 有名人に顔を覚えられるなんて、アッチも有名になったもんニャ。……ところでゴルドスぅ……説明も無しにここで待っとけって、何のつもりニャ?」


 “牙の笛“……異世界ギルドにおいてソレと知られた冒険者の名だ。クラスは銀燭級。

 猫耳を跳ねさせる彼女とゴルドスは、以前からの知り合いであるらしい。


 「紹介するぜぇ、コイツは“牙の笛”ルールーニ。エイン=ガガンで知り合ってな。知ってる銀燭級のなかじゃアタマ一つ抜けた女冒険者だ」


 「ルルって読んでニャ。いやー、島が落ちた時は死ぬかと思ったニャ。ソッチの子はニホン人ニャ? こっちの世界も大変ニャねー」


 「オメェは従魔の翼鷲獅子(グリフォン)が売りだろう? 飛んで逃げりゃ良かったじゃねぇか」


 「無茶言うニャ、ゴルドス。あんなデッカくて恐っろしい船が飛んでる所に、堂々と(マト)になりに飛んでく馬鹿いないニャ。ほーら、おいでニャ。この美人さん達は怖くニャいニャー」


 ―― GuRUuu……?

 ―― KUFuuuuッ


 獣耳種(ライカン)のルールーニ……ルルが胸元の牙を咥え息を吹き入れる。すると上空から大きな影が舞い降りた。

 影は猛禽の爪を地面に降ろし、広げた翼を折りたたみながら(くちばし)を擦りつけてルルに甘え始める。

 それは2頭の、重量馬ほどに巨大な翼鷲獅子(グリフォン)であった。


 「翼鷲獅子(グリフォン)を2頭も使役してんのかッ? だけどよ、島で見かけた覚えは無かったぜ?」


 「島じゃ目立ちすぎるんでニャ、用意してもらった専用の部屋で休ませてたニャ。島が落ちた後は空から警戒してたからニャー……でもあの細長い魔物とマドーガイカク?とかいう魔法人形(ゴーレム)はぜーんぶ飛んでちゃったみたいニャ」


 「あの柱みてぇな、見たことねぇ魔物はニホン固有の魔物か? いや従魔って雰囲気でもねぇし、アレも魔法人形(ゴーレム)に近ぇのかもなぁ」


 「旦那の手下だったってのは確かみたいですがね。楽々子(ららこ)の家じゃ一芝居うたれたようで」


 「それよりゴルドスぅ、アッチの可愛いルッピとラッピまで指名で呼びつけて、いったい何をさせるつもりニャ?」


 ルルは翼鷲獅子(グリフォン)(くちばし)を撫でながら、疑り深い目でゴルドスを見る。


 「(2頭の翼鷲獅子(グリフォン)、ルッピとラッピというお名前なんですね)」

 「(思ったよりカワイイ名前ね……)」


 「これからあの飛行船をちっと拝借してよ、霊園山へ一番乗りしてやろうって腹だ。だが、こらぁおれの勘だが……飛べる騎獣がいたほうがいい気がすんだよなぁ」


 対しゴルドスはどこかとぼけた顔で、平然と飛行船の奪取計画を明かすのだ。


 「ええぇー……あの飛行船ブン盗るニャ? おもしろそうニャけど、止めといたほうがいいニャ。ギルドどころかニホンのヒトにも怒られるニャ。ほら、あそこでやさぐれてる”おねーさん”にも迷惑かかるニャよ」


 ルルが指さす先には、飛行船の真下で、廃材から引っ張ってきたようなイスに座る女の姿があった。

 スーツを着崩しながらタバコをふかしているようだが、どこかヤケクソ気味な印象が否めない。


 「見張りがいんのか。くっふふ……ま、ここはアタシがいっちょ“交渉”を――」


 「あれっ? あの方って……」


 「……ぁ」


 覇気のない小じんまりとしたシルエットに、ヴィトーラは意気揚々と恫喝の算段を立てるが、伽藍とリンカは女性の正体に気づき驚く。


 「なんか、マドータイ?っていう所のヒトらしいニャ」


 「――……裕理(ゆうり)さん」


 それは極限まで肩を落とす灯塚(ひづか)裕理(ゆうり)の、どこまでも疲れ切った姿であった。


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