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【明けぬ獄夜に縋る糸】~少女の愛が届かない 異世界と繋がる人外暗躍復讐譚~  作者: 三十三太郎
4章ー明けぬ獄夜に縋る糸

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フライング(1)


 クジャクの胸に()かれ5分か、10分か。


 「~~ッ、忘れろよ!? いいなっクジャク!」


 少女達は例外なく恥じらいに顔を赤らめ、互いに顔を見れないでいた。


 「はいはい、さっぱり忘れてあげましょうかね。可愛らしかったけどねぇ?」

 「クッソ! 何してんだよアタシは!? 別に、な、泣いてなんかねえからなッ」


 特に、長年を荒くれの頭領として生きたヴィトーラの羞恥は強い。

 その様子を微笑ましく見つめる成熟した女の顔が、またさらに若い少女のプライドを刺激しているのだが。


 「さて、それじゃ本題にはいろうかね」

 「本題?」


 クジャクは母性溢れる柔らかな笑顔から一転、真面目な表情へ変わった。いつかの折に見た紅蓮(ぐれん)の首領としての威厳に、伽藍(から)は姿勢を(おの)ずと正す。


 「リンカ、あたしと一緒にラコウへ戻ろうじゃないか」

 「……え?」


 突然の言葉にリンカは戸惑うが、冷静に考えるなら理由は明白だ。


 「元々リンカをニホンへ残したのは勉強の為。これからの世を生き抜くに必要な、異なる世界の知識を学んで欲しかったからですよ。リンカはよくやった。ニホンの事どころかユイロウ流の鍛錬も欠かさず、見違えるほど強くなった。……だから、もう潮時じゃないかい?」


 クジャクの表情は、真に娘を案じ心を砕く母親そのものだ。うつむき手を握りしめる、大切な黒い華を()でながら、(さと)すように故郷への帰還を(すす)める。


 「島はこの有様だ。ゲートだって、いつまで解放されてるか分かりゃしない。旦那の事はスッパリ忘れて、また家族そろってラコウで暮らそうじゃないか?」


 正しい。クジャクの意見はまったくもって正しい。

 その正当性を理解できるがゆえに、リンカ本人はおろか、伽藍やヴィトーラも反対はせず無言。

 息苦しい静寂が満ちる。

 

 「でもクジャク様……私、決めてるんです」


 数拍(すうはく)逡巡(しゅんじゅん)()て、リンカは顔を上げてクジャクを見つめ返した。


 「(――ああ、やっぱりこの娘は……)」


 幼い頃より育て上げた自慢の娘。この一年で見違えるほどに開花した、可憐で美しい黒い(はな)

 瞳を見ただけで分かってしまう。どうしてこの年齢(とし)で早すぎる、情念を燃やす女の(かお)だ。

 ウィレミニア人の自身には無い、ラコウの貴血(きけつ)成す業愛の火が、金の双眸(そうぼう)に燃え直す。


 「学園はすごく楽しかったんです。伽藍(から)ちゃん達と過ごす時間は、とっても温かくて、(まぶ)しい日々でした。今までの大変な事を忘れちゃうぐらい、楽しかったんです…………でも、七郎様がいらっしゃらなかった。日に日に、叫びたいほどに苦しくなって……それで、あの方が魔法学島へいらして、やっぱりこの気持ちを抑えられないって分かったんです」


 少女が語る心は、いじらしく可愛らしい。しかしだんだんとその表情に、学園では(つい)ぞ見ない、狂う程の情念を宿らせていく。


 「七郎様が私を見てないのは知ってます。なら刻みつけて振り向かせればいいんです。最後に私のモノに出来るなら――愛してくださるのなら、リンカはなんだって耐えてご覧に入れます。あの夜に、そう決めたんです」


 クジャクは諦めたように溜息を吐く。言葉で退()く覚悟ではない。それどころか例え今、髪で縛り上げラコウへ連れて帰ろうと、いずれは()いた男をまた(から)めに走るだろう。


 「――わかったよ、好きにしな。それに、あたしも旦那には言いたいことが山ほどあるしねぇ? このまま引き下がっちゃ女が(すた)るってもんだっ」


 「はいっ、クジャク様!」


 「(リンカって、もしかしてよ……アレか? かなりヤバめの女か?)」

 「(う、うん……)」

 「(ラコウの女っておっかねぇ)」


 どうにも覚悟の重い“紅蓮(ぐれん)”の母娘に、他2人は半歩後ずさって顔を見合わせる。

 だがリンカの言葉がきっかけで、(しぼ)んでいた怒りに火が灯ったのも事実。


 「ちっ、“悪徳嬢王(あくとくじょうおう)”と呼ばれたアタシが、何を弱腰に怯えてんだか。おかげで目が覚めたぜっ。アタシだってこのままじゃ収まりがつかねぇ!! ……よっし、決めた。七郎にはアタシを(だま)した落し前をつけてもらわねぇとなっ? ツラ突き合わせて殴り飛ばして、言い訳を聞くのはその後だッ」


 「能天気ねヴィトーラ。相手は空飛ぶ戦艦まで用意してるのよ? 聖剣クラスの攻撃力も無いのに、どうやって墨谷七郎の所までたどり着くつもり?」


 伽藍の懸念どおり、墨谷七郎を追おうにも問題は山済みだ。移動方法に戦力……全てにおいて足りないものが多すぎる。

 

 「ハン、嬢ちゃんは無理して付いてこなくていいんだぜ? 当の聖剣は“一輪挿し”が折っちまっただろうが」


 「聖剣は時間が経てば、剣自体から湧く魔力で再生するっ。あの時は虚を突かれただけ。伽藍だって、このまま何もせずに居るつもりは無いッ」


 「くっふふ、調子が出て来たな? さーて、そうと決まれば段取りを決めようぜ。七郎のヤツは今、ガッチガチに守りを固めた霊園山に居るんだろ?」


 「でもこんな状況じゃ移動も――」



 「 ガッハハハハ! 話は聞かせて貰ったぜぇ? 」



 「「 !? 」」


 いよいよ気炎(きえん)を上げ始める美貌の魔剣士たちであるが、そこへさらに暑苦しい笑い声が覆いかぶさった。

 少女らにとっては見上げる巨躯。人類の枠を飛び出した筋体が清々しく直立している。


 「テメェ……ゴルドスっ!?」


 「よう、悪徳嬢王。楽し気なこと企んでんじゃねぇか。もしかしたらおれが力になれるかもしれねぇぜぇ?」


 ゴルドスはニンマリと歯を見せ、含みのある笑顔で愛用の戦斧(せんぷ)(かつ)ぎ直すのだった。


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