真性下劣
「ミスルムめぇっ、さっさとボクちんの召使いになればいいものをっ」
教皇ファガス・オーダ・セルデオンは、首都聖堂へ帰還した後も苛立ちを収めていなかった。
「くそがっ、くそがっ、くそがっっ」
場所は、教皇専用の“遊戯室”。
「ひぐっ、イヤアアアア!?」
鬱憤は彼が振る鞭に全て込められる。振るわれる先は殆ど全裸の女性。鞭の裂傷の他にも、生々しい暴力の跡が肌に残る。
「教皇さま……もう、許してぇ……」
「黙れッ、おもちゃの分際で喋るなよ!」
「それでは猊下ぁ、儂は少々準備に……」
「さっさと行けよ! ちゃんと飛ばせるんだよねぇ!? 失敗したらボクちん許さないぞッ」
同室で控えていたドイル・サプライは、教皇の態度に内心憤りながらも、鞭うたれる女の悲鳴に溜飲を下げ遊戯室を後にする。
扉の外には、ウィレミニア世界に今や唯一となった聖堂神聖騎士が警備に立つ。
「……すぐに出番だぁ。鎧の調整をしておけえぃ」
「ひひ、あ˝―い」
神聖騎士は荘厳な鎧の下から、いやに浮ついて濁った声を発する。長年の麻薬の摂取により、もはや騎士拝命当初の思考の鋭さは失われている。
「お前の獲物はぁ、いつかの修道女ぉ……今度は殺してよぉい」
「あ˝―い」
騎士は、返答と共に鎧を透明化させ存在感を消す。
ドイルは鼻息を漏らしながら、廊下に敷かれる絨毯の上を歩き始めた。決して上機嫌とはいえない。
これから行わなければならない大掛かりな準備に辟易としてさえいる。
「(残骸を使いようやく形になったばかりだというに……安全確認を急がせねばならぬぅ。だが真竜が親子そろって倒れるとは都合がいい。もともと動力には、竜に魔力を注がせようと考えていたところだぁ。死にかけの子竜でも、飛ばすには十分。――……それにしてもぉ)」
ミスルム……相も変わらず、そそるカラダをしておる。
「(他の枢機卿よりも先にあのエルフを手中に収めたいぃ……あの女が最後に聖堂へ抱かれに来たのは、30年は前。おのれぇ、また儂に股を開かせるためには、多少従ってやるも仕方なしぃ。エルフの肌、今でも忘れられんわっ)」
ドイルは、若かりし頃に刻まれた快楽を頭の中で味わう。すでに数百数千と繰り返した記憶だ。
ミスルム公爵は今でこそノルン神教と距離を置いているが、数十年前はよく取引と称し聖堂にも足を運んでいた。
取引の内容は、主にウィレミニア貴族の情報。脅迫や懐柔の為に集めた、自国内に留まらない貴族らの弱みを、彼女は一夜の肉体関係を報酬に持ち去っていったのだ。
現任の枢機卿どころか、その父親にもミスルムと寝ていた者がいたほど。
「ミスルムの“女”に狂わされた者は多いでなぁ。”替え”をいくら壊しても治まらん! シルヴィアめをもう一度飼うのも面白いが……此度こそは殺さねばぁ」
弄んだ女の中では、惜しいと思う程度に上質であったが、始末をしくじったせいでノルン神教は多大な被害を被ることになった。
ドイルに激しい憎しみが湧く。
「反逆者めぇ、この落とし前は苦痛に塗れた死でしか償えぬぞぉ。ともすれば近く、ミスルムを寝所へ引き倒せる日がこよう。なおさらに生かす価値など無いわ。ミスルムは儂のモノ……ふん、教皇にはつまらぬ小娘がお似合いよのぉ」
ドイルは年甲斐も無く興奮の脂汗をかきながら、今のノルン神教が持てる全資金を費やした“造船所”へ急ぐ。
彼が最後に一瞥する遊戯室内は、暴力的で激しい息遣いに満ちていた。
「ほらぁっ! ボクちんのお情けだぞ! もっと感謝しろよぉッ」
ノルン神教内の上層部で蔓延る、異様な色狂いの空気。
元より腐る定めであったが、これがたった一人のエルフにより毒された末路だとは思うまい。
その腐敗の濃縮を一挙に担うファガスは、もはや誰にも救えぬ真性下劣。
心ゆくまで痛めつけた、肌へ血を滲ます女へ腰を振る。
「あ˝あ~♪ ボクちんの艦、楽しみだな~♪ ちょーどナーヴニルのバカが瀕死だっていうし、手間が省けたっ。これも女神様がボクちんを愛しているからに違いない! ボクちんのヘイロニアを盗んだシルヴィアは、ぜぇっったいに殺してやるッ」
「痛いっ、やだぁ……やだぁ……っ」
下劣は慣れ切った快楽を少しでも楽しむため、その肉の無い細身で乱暴の限りを尽くす。
悲痛な女の呻きは、誰にも拾われず寝台の中で掠れていくのだった。
「――たすけてぇ……まりあ……っ」
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