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【明けぬ獄夜に縋る糸】~少女の愛が届かない 異世界と繋がる人外暗躍復讐譚~  作者: 三十三太郎
4章ー明けぬ獄夜に縋る糸

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真性下劣


 「ミスルムめぇっ、さっさとボクちんの召使いになればいいものをっ」


 教皇ファガス・オーダ・セルデオンは、首都聖堂へ帰還した後も苛立(いらだ)ちを収めていなかった。


 「くそがっ、くそがっ、くそがっっ」


 場所は、教皇専用の“遊戯室”。


 「ひぐっ、イヤアアアア!?」


 鬱憤(うっぷん)は彼が振る(むち)に全て込められる。振るわれる先は殆ど全裸の女性。鞭の裂傷の他にも、生々しい暴力の跡が肌に残る。


 「教皇さま……もう、許してぇ……」


 「黙れッ、おもちゃの分際で喋るなよ!」


 「それでは猊下(げいか)ぁ、儂は少々準備に……」


 「さっさと行けよ! ちゃんと()()()()んだよねぇ!? 失敗したらボクちん許さないぞッ」


 同室で控えていたドイル・サプライは、教皇の態度に内心(いきどお)りながらも、鞭うたれる女の悲鳴に溜飲(りゅういん)を下げ遊戯室を後にする。

 

 扉の外には、ウィレミニア世界に今や唯一となった聖堂神聖騎士が警備に立つ。


 「……すぐに出番だぁ。(よろい)の調整をしておけえぃ」

 「ひひ、あ˝―い」


 神聖騎士は荘厳(そうごん)な鎧の下から、いやに(うわ)ついて濁った声を発する。長年の麻薬の摂取により、もはや騎士拝命当初の思考の鋭さは失われている。


 「お前の獲物はぁ、いつかの修道女ぉ……()()()殺してよぉい」

 「あ˝―い」


 騎士は、返答と共に鎧を透明化させ存在感を消す。

 ドイルは鼻息を漏らしながら、廊下に()かれる絨毯(じゅうたん)の上を歩き始めた。決して上機嫌とはいえない。

 これから行わなければならない大掛かりな準備に辟易(へきえき)としてさえいる。


 「(残骸を使いようやく形になったばかりだというに……安全確認を急がせねばならぬぅ。だが真竜が親子そろって倒れるとは都合がいい。もともと動力には、竜に魔力を(そそ)がせようと考えていたところだぁ。死にかけの子竜でも、()()()には十分。――……それにしてもぉ)」


 ミスルム……(あい)も変わらず、そそるカラダをしておる。


 「(他の枢機卿よりも先にあのエルフを手中に収めたいぃ……あの女が最後に聖堂へ抱かれに来たのは、30年は前。おのれぇ、また儂に股を開かせるためには、多少従ってやるも仕方なしぃ。エルフの肌、今でも忘れられんわっ)」


 ドイルは、若かりし頃に刻まれた快楽を頭の中で味わう。すでに数百数千と繰り返した記憶だ。


 ミスルム公爵は今でこそノルン神教と距離を置いているが、数十年前はよく取引と(しょう)し聖堂にも足を運んでいた。

 取引の内容は、主にウィレミニア貴族の情報。脅迫や懐柔の為に集めた、自国内に留まらない貴族らの弱みを、彼女は一夜の肉体関係を報酬に持ち去っていったのだ。

 現任の枢機卿どころか、その父親にもミスルムと寝ていた者がいたほど。


 「ミスルムの“女”に狂わされた者は多いでなぁ。”替え”をいくら壊しても治まらん! シルヴィアめをもう一度飼うのも面白いが……此度(こたび)こそは殺さねばぁ」


 (もてあそ)んだ女の中では、惜しいと思う程度に上質であったが、始末をしくじったせいでノルン神教は多大な被害を(こうむ)ることになった。

 ドイルに激しい憎しみが湧く。


 「反逆者めぇ、この落とし前は苦痛に塗れた死でしか償えぬぞぉ。ともすれば近く、ミスルムを寝所へ引き倒せる日がこよう。なおさらに生かす価値など無いわ。ミスルムは儂のモノ……ふん、教皇にはつまらぬ小娘がお似合いよのぉ」


 ドイルは年甲斐も無く興奮の脂汗をかきながら、今のノルン神教が持てる全資金を費やした“造船所”へ急ぐ。

 彼が最後に一瞥(いちべつ)する遊戯室内は、暴力的で激しい息遣いに満ちていた。


 「ほらぁっ! ボクちんのお情けだぞ! もっと感謝しろよぉッ」


 ノルン神教内の上層部で蔓延(はびこ)る、異様な色狂いの空気。

 元より腐る定めであったが、これがたった一人のエルフにより毒された末路だとは思うまい。

 その腐敗の濃縮を一挙に(にな)うファガスは、もはや誰にも救えぬ真性下劣。


 心ゆくまで痛めつけた、肌へ血を(にじ)ます女へ腰を振る。


 「あ˝あ~♪ ボクちんの(ふね)、楽しみだな~♪ ちょーどナーヴニルのバカが瀕死だっていうし、手間が省けたっ。これも女神様がボクちんを愛しているからに違いない!  ボクちんのヘイロニアを盗んだシルヴィアは、ぜぇっったいに殺してやるッ」


 「痛いっ、やだぁ……やだぁ……っ」


 下劣は慣れ切った快楽を少しでも楽しむため、その肉の無い細身で乱暴の限りを尽くす。

 悲痛な女の(うめ)きは、誰にも拾われず寝台の中で(かす)れていくのだった。



 「――たすけてぇ……まりあ……っ」



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