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【明けぬ獄夜に縋る糸】~少女の愛が届かない 異世界と繋がる人外暗躍復讐譚~  作者: 三十三太郎
3章ー運命集う魔法学島

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戦乙女と七郎


 「……【聖剣】は俺に話があるらしい。リンカ、2人にしてくれるかい?」


 「でも――……はい、わかりました。防衛線内でのお手伝いに回りますね」


 リンカは七郎に()われ席を外す。

 善意からとはいえ、少女と男の時間を壊してしまったメセルキュリアは、リンカに嫌悪されても仕方が無いと考えた。


 「っ」


 しかし垣間見たリンカの顔は想像と異なるもの。

 会釈(えしゃく)をして擦れ違う少女からは、責める意図や怒りなど感じない……いじらしくも悲しい瞳をメセルキュリアは見たのだ。


 「(リンカの、墨谷七郎への好意は誰が見ても明らかだ。だがこの若く、幼いともいえる少女は……自身の想いが報われないことを百も承知でいる……っ)」


 リンカと七郎が見る方向の違いに、不幸な結末を感じ取ったのは確かに自分。ではそんな自分の心に生まれた、想いの成就を願う感情はいったい何なのか?

 憐れみか、はたまたこの先に起こる運命に関わる何かなのか?


 「(己で制御できない思慕というのは、苦しいだろう……ふ、ワタシは何を考えているのか)」

 

 メセルキュリアはありありと情の籠る少女の表情から、取り留めのない考えを巡らせる。

 無論いかな【聖剣】、星譚至天(せいたんしてん)といえど心を読むことは出来ない。あくまで勝手な推測の域を出ないことは、本人も重々承知である。


 「(どちらにせよ無粋だな。ワタシはワタシの役割をこなすべきだ)」


 リンカへの思案を止め、聖剣を握り直す戦乙女は、いまだ妙な機器に触れながら(たたず)む男へ視線を向け直す。

 男の瞳は深く暗いままだ。


 「……それが聖剣。実物を真近で見たのは初めてだよ」


 墨谷七郎は聖剣を視界に入れた途端、表情を歪めながら肩のあたりを(さす)る。古傷を庇うような……とにかく、負の感情を抱いているのは確かだった。

 聖剣遣いも男の機微を感じ取る。


 「初めて見たという割には、少々不躾(ぶしつけ)に過ぎる視線だ」


 「申し訳ない。なぜか昔の嫌な思い出が甦るんだ。俺の勝手な連想だから忘れて欲しい」


 メセルキュリアは一旦謝罪を受け入れ、話題を男の手元へ移す。


 「ソレは……キカイ? こちらの世界の道具にはまだ(うと)くてな……ソレで迷宮(ダンジョン)を焼く炎を操っているように見えたが」


 迷宮(ダンジョン)の巨大異形を数十度斬り伏せ、さらに立ち上がり続ける異形達に引かざるを得なかった一時間ほど前。

 メセルキュリア達を追う怪物達を迷宮(ダンジョン)内に押しとどめたのは、この機器によって再点火された炎に他ならない。

 

 「そのとおり。呪いの浄化用に配備した焼却口を操作してる」


 「炎の源は魔力か? あとどの程度維持できる?」


 「12時間は焼却を続けられる設計になってる」


 「12ッ――、この規模の炎をかっ。いったい、どれだけの魔力を貯め込んでいるッ?」


 「だけど実際には、焼却できる時間はもっと短くなる。問題は設備自体の強度」


 要は燃料がいくらあっても、焼却浄化システム自体が呪いに汚染されれば火は止まるということ。


 「設備自体に呪詛汚染対策はしてるけど、このレベルの()()は想定してないんだ。土地自体が完全に支配下に置かれたらシステムはもたない」


 「やはり、詳しいな。10年程この迷宮(ダンジョン)を守っていたのはお前だと聞いたが……何を知っている」


 メセルキュリアの問いに、七郎は今度こそ侮蔑の色が滲む視線を寄こす。


 「貴女(アナタ)()()語る事は何もないよ【聖剣】。俺からは何も無い。霊園山の迷宮核――“彼女”については、伝えるべき人にもう伝えた。あとは希望の報せが届くことを待つだけだ。早く来てくれるといいけど……」


 「――この状況で、情報を出し渋る意味など無いっ。知っている事があるなら話せ」


 聖剣を握るメセルキュリアの手が、我知らず強く握られた。

 対し七郎は全く怯む様子もなく、むしろ瞳に怒りと狂気を増してすらいる。


 「俺が信じ頼りたいのは、10年前に黒牢を破った光だ」


 「黒牢……っ、アウズンブラの事か。そうだったな、初代魔導隊……であればお前も」


 「逢禍暮市(おうまがくれし)の3万を奪ったのは、ウィレミニアに打ち棄てられていた呪い。魔法による悪意は魔法でしか(はら)えなかったっ」


 「(いか)る理由も分かる……確かに、ワタシはその場に居なかった。お前達を救ったのは――」


 「違う」


 言葉を遮り、七郎は暗い瞳を射抜くように燃え上がらせて、戦乙女の罪悪感にある誤りを正す。


 「貴女(アナタ)はウィレミニアの剣、他国の危機よりウィレミニアの守りを優先するのは当然のことだ。俺が許せないのは、貴女の居た場所じゃない! “行い” だ」


 「(何を言って――? アウズンブラがニホンへ転移した10年前……ッ……まさか。クーデターの仔細は出来る限りニホンには伏せられたはずっ、なぜこの男が知っている)……むっ?」


 メセルキュリアの脳裏に、自身にとって後味の悪すぎる事件の記憶が蘇った時だった。山を焼いていた火の勢いが突如弱まる。

 男の懸念通り浄化の炎までもが、呪いの腐水に沈む時が来た。



 ――縺悶∪、VGuルゥゥ縺ゅ∩繧ッッーー!!


 

 巨大魔犬の咆哮が一帯の地を震わせる。己を苦しめる熱が消え去った事に歓喜しているのだ。

 メセルキュリアは再びの消耗戦に備え、聖剣を掲げんとし――……。



 「 黙 っ て Ro ! ! モ う (しばら)く 燃 え て お けッッ」



 突如として視界を灼く熱波に後ずさる事になった。


 「な、ぁ……」

 

 「――sHUuuuuu……」


 霊園山が浄化システムの倍の規模で、まさに煮えたぎるように燃えている様と、七郎の口から細い煙が吐き出されている事で、メセルキュリアはようやく何が起きたかを理解する。

 魔戦大会でも見た熱線砲撃。

 見えてはいたが、余りにもヒトの限界を超えた行動に理解まで数舜の時を要したのだ。


 星瞳炎雷(サンダラガル)黒化顕現(ベヒィモス)。アウズンブラの魔力による変異。


 メセルキュリアの大きく実る胸の内に、言葉にして発さなければならない懸念が無数に湧くが、この時ばかりは口が凍り付いて動かなかった。

 100年前の恐怖が、そうさせたのかもしれない。


 そんな【聖剣】を他所に、七郎は何事も無かったように防衛線後方を指さす。


 「――どうやら、待ちに待った人が来た。これで作戦を立てられる。先に指令室へ戻っていてくれますか。俺はもう少し念入りに()()()してから向かうよ」


 「……ああ」

 

 メセルキュリアは、結庚町(ゆいこうちょう)の後方に()()()()()()()の気配を感じ指令室へ急ごうとする。

 その背中へ七郎からの言葉があった。


 「(クジラ)は落とせても、鳥は落とせなかったぞ【聖剣】」


 「っ――?……クジラとは何だ?……いや今はいい、迷宮(ダンジョン)の鎮圧を急ぐぞ」


 ウィレミニア最強の戦乙女は、暗い瞳がもたらす恐怖を拒む為にあえて振り返らない。

 彼を、倒すべき獣だと見定めながら。


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