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【明けぬ獄夜に縋る糸】~少女の愛が届かない 異世界と繋がる人外暗躍復讐譚~  作者: 三十三太郎
3章ー運命集う魔法学島

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蓮の妄念(7)


 汚染の拡散者が消えた事により、周囲の者は頭へ強制照射される呪いから解放されていた。

 途端に多くがメセルキュリアの美貌に見惚れ、口々に感謝を伝えている。


 「(援軍が到着した……したけど――“ソッチの星譚至天(せいたんしてん)“は呼んでない)」


 だが、俺は内心苛立ちを感じていた。


 帝海都(ていかいと)から出撃可能な戦力のなかでは間違いなく最強の存在であり、事実状況を剣の一振りで改善する、味方にすれば頼もしい“規格外“である。

 

 「(魔法学島からの助けが来ることは分かっていた)」


 ウィレミニア側への応援要請は、義瑠土からの正式な依頼……ちょうど島に滞在していて、なおかつ日本で活躍した実績がある最高戦力に声が掛かるのは当然の流れだ。

 というか、俺が義瑠土の内通者に動きを指示した。別に組織全体を操れずとも、書類や指令のひとつやふたつに“白旗”の息を掛けることは出来る。


 「これが迷宮(ダンジョン)だと? ウィレミニアでも、ここまで呪い渦巻く戦場は珍しい。魔物も見たことの無い種類だ」


 あくまで戦乙女は強者の振る舞いは崩さない。

 例え、先ほど消し飛ばしたはずの怪鳥が異次元の速度で再生し、何食わぬ顔で羽ばたいていたとしても余裕の表情。

 ……若干こめかみが震えている気がしないでもないが……ああ見えて【聖剣】としてのプライドが傷ついているのかもしれない。


 リンカやシーリーンの態度にも隠し切れない畏怖が伺える。


 「ウィレミニアの星譚至天、【聖剣】のメセルキュリア……さま」


 「これが現在聖剣の本当のチカラか、敵に回せば(チリ)も残らねぇ……じゃあ、あの怪物は何なんだって話だが」


 「まさか“悪徳嬢王(あくとくじょうおう)”に先を越されているとは思わなかった。あの鷲獅子(ワーギット)は一緒では――ん? 伽藍(カラ)の隣に居るのは……リンカと言ったか。魔戦大会での戦いは見事だった、流石は“紅天女”の後継者なだけはある」


 「い、いえ……後継者だなんて」


 「そう、リンカは凄い。墨谷七郎には勿体ないと思う」


 「……ほう?」


 霊園山に動きが無いのをいいことに、メセルキュリアは先行していた(しろがね)伽藍(から)達と言葉を交わす。

 しかし俺の名が出た途端、メセルキュリアは含みのある視線をこちらに向ける。視線が合うも互いに無言が続いた。


 「……」

 「……」


 本家本元の【聖剣】を呼び寄せてしまった原因はさて置き、いまシルヴィアの正気が失われている事は逆に幸運なのかもしれない。

 でなければ、ここは地形を消し飛ばす規模の殺し合いの場になっていただろう。

 この女はノルン神教への復讐に立ち上がった人々を、飛行軍艦ごと葬ったのだと聞く。


 背中を刺せるチャンスであるが、今は我慢。


 「メセル、あの魔物は再生のスピードが異常に速い。伽藍の聖剣じゃ効果が薄い」

 

 「再生力が高いとはいえ、削り続ければいずれ魔力は底をつく。勝機はあるぞ。それに、此処へ来たのはワタシだけでは無い」


 どちらにせよ優先順位は霊園山の鎮圧にある。戦力の増加は嬉しい事だ。

 メセルキュリアの言葉と同時に、防衛線の後方から新たな気配をいくつも感じ取る。

 

 まず姿を現したのは、帝海都から派遣された義瑠土(ぎるど)登録者――。


 「やーっと到着したッス、ってなんじゃこりゃあーー!?」

 「うし、帰るか。霊園山で騒ぎだって聞いて、気張ってきてみれば――人間の手に負えねぇよこんなの」

 「帰るって何処にッスかセンパイ?」

 「え……所属してる義瑠土……?」

 「それはー?」

 「ここだ……ここだよチクショウ……」


 同じく派遣された魔導隊の精鋭――。


 「山すべてが、このような地獄と化すとは……っ」

 「これは……骨の折れる仕事になりそうですね藤堂さん」


 さらに異世界から訪日していた冒険者も少数混ざり、防衛線は迷宮を攻略せんとする者々の最前線と様変わりしたのだ。


 「伽藍、ついてこい。本来は手順を踏みながら教えてやるべきだが、【聖剣】が必要とされるのはこうした場だ。女神の加護の何たるかを、ワタシの戦いから学ぶがいい」


 「……上等。すぐに聖剣を伽藍のモノにしてみせる」


 「同行します。道すがら状況を聞いてもいい? 伽藍」


 「うんっ、裕理さん」


 俺については後回しにしたのか、メセルキュリアは伽藍と魔導隊灯塚裕理(ひづかゆうり)と共に霊園山へと向かう。


 「噂に聞く星譚至天に伽藍チャンも一緒と来れば、もう勝ったも同然ッスね! これは安全に実績をつくるチャーンス。ほら行くッスよセンパイ!」

 「え、七郎さんに初代魔導隊の話とかサインをだな――ちょ、わーったわーったって、引っ張るなッ」


 聞き覚えのある声がすると思ったら、(つじ)くん達も派遣されてきていたらしい。魔戦大会で見た2人は以前より格段に成長していたし、死ぬことはないだろう。

 ……一応、魔導外殻に見張らせておくか。


 「では“墓守”……非力ながらこの身この剣、呪いの削りに尽力しよう」

 

 「頼む……ああ、そういえば、鋼城は来ていないのか」

 

 「ヤツは義瑠土や魔導隊からの猜疑に晒され、戦いに出向ける様子ではない。(まこと)を知る政治屋も口を閉ざし……(まつりごと)とは厄介なものだ。思えば憐れな……己らで祭り上げた虚像を、1人に背負わせ続けるなど――」

 

 「それは、鋼城が自分で選んだことだろ。――何もしないことを選んだのはアイツだ」


 “一輪挿し”も剣を携え山へと登る。最高戦力たちの背中は何とも頼もしい。

 俺は息をひとつ吐き、黙って彼らの戦いを見上げるのだった。


 ………………。


 「 ? 七郎様は戦いに行かずよろしいのですか? わ、わたしは一緒に居られるのでしたら、どこでも……」

 「全員行っちまったぜ? 行かねぇのか七郎?」


 「ひと当てして、今はあの呪いをどうにも出来ない事がわかったからね。表面の削りは適任者に任せよう」


 結局、求めている人物が到着しなければ膠着状態だ。外側の魔力を大きく削り続ければ、抵抗を続けているシルヴィアの助けにはなる。

 勝負時はそう長く待たずして訪れるだろう。焦る気持ちを押し込めて、今はまだ耐えるのみ。


 「リンカはここに居ようか、今回は相性が悪い。シーリ……ヴィトーラもここで待っていれば、逢いたい人に会えると思うよ」


 「はいっ、お側におります!」


 「逢いたいヤツぅ……? なんのこった? まあ、七郎がここに居んなら、アタシもここで魔力の回復に励むとするか。嬢ちゃんもご苦労なこった」


 俺は霊園山から響く派手な戦闘音を聴きながら、防衛線構築の手伝いにまわることにする。

 

「ようこそ俺の古巣へ、歓迎するよ。大したもてなしも出来ないけどゆっくりしていってね」


 最後に、言いそびれていた歓迎の言葉を少女2人に伝える。

 2人は地獄のような山を見上げ、何とも言えない渋い顔をしていた。


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