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【明けぬ獄夜に縋る糸】~少女の愛が届かない 異世界と繋がる人外暗躍復讐譚~  作者: 三十三太郎
3章ー運命集う魔法学島

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蓮の妄念(6)


 黒水が激しく波打ち、手塊(しゅかい)の異形が凄まじい勢いで増殖を始める。水が腐る臭いが何倍にも強くなった。


 「――!? ほんとうにキリが無いッ。もう一度聖剣を――」


 伽藍は再び聖剣を光らせ、魔力放出の構え。狙い定めるは腕肉の山。

 物質化した呪いは、聖剣の魔力で跡形も無く消える……と思われた。


 肉山から飛び出した、長く太い‘(むち)’に打ち付けられるまでは。


 「ッ、がは!?」

 「伽藍(から)ちゃんッッ」


 吹き飛ばされながらも辛うじて体制を保つ伽藍。彼女の前にうねるのは、丸太などよりも数倍太い腕の縄だ。


 「(蛇……っ?)」


 地面を蛇行する腕の河は蛇を連想させ、見る者に生理的嫌悪感を与える。本物の蛇と異なるのはやはり大きさと、鱗の代わりに並ぶ手の甲、そして頭の部分に咲く腕の大輪。

 よくよく目を凝らせば、腕花の中心にヒトを(かたど)る部分が見えなくもない。


 「デケェのが来たな。だが図体のぶん魔法の的だぜっ――【断崖剛槍(だんがいごうそう)】!」


 伽藍と入れ替わるようにヴィトーラが得意の地属性魔法を唱える。詠唱を破棄し、限られた範囲の隆起であるが、巨大な肉蛇を貫くに十分な威力と勢い。

 地電流を表す紫電(しでん)(ほとばし)る様に、術者であるヴィトーラや他の少女らも魔法の命中を確信する。


 しかし蛇は岩槍の波に対し、頭にあたる腕花で ”印” を切り、さらに声まで発して魔力を手繰る。


 ―― ッ Oン アビラ ウNkenド ソワカ ガ ガ


 凝縮される不可視の魔力。爆音と共に射出された‘透明’が、なんと岩の激流をキレイに削り取ったのである。


 「妙な術を使いやがる!? くそッ、アタシの魔法が押し負けやがった!」


 蛇の腕は印字を組み、体は下々を見下ろす様に悠々と(たたず)む。肉蛇が纏う魔力……そして恐らくではあるが、存在の強度も他の異形と一線を画しているようだ。


 「……やっぱり一度引いたほうが賢明。リンカ、立てる?」

 「ま、まだ七郎様が――」

 「あの人なら大丈夫っ、負けるはずが無い! さっきの嫌な感覚も気になるし……墨谷七郎のを助ける為にも、ちゃんと作戦を立てる」

 「……伽藍ちゃん、少し変わりましたね……でも言う通りです。七郎様の為にも今は――」



 ―― GRUuuuuuAアアアッ



 「 ッ! 横に新手だ嬢ちゃん!!」


 義瑠土(ぎるど)員やリンカと共に後退を始めた少女らへ、新たな巨影が襲い掛かる。


 ―― Gaアッッ!


 「(疾い!)」


 影には肉蛇と異なり(あし)があった。4本の脚で地面をジグザグに走り、視線を翻弄しながら確実に得物へと迫る!

 

 肉食獣の獣体に、これも頭には蠢く腕の大輪。


 「オ、オマエ――ッ!!」


 伽藍の脳裏に悪夢が過ぎる。見覚えのある動きに腐った獣臭。(こぼ)れる唸りは、自身のトラウマを呼び起こす。


 「間違いない! 前の大狂行(スタンピート)の――っ」


 ―― GUOOoオオンッッ


 復讐の機会を得た魔犬の王が、一直線にその巨躯で伽藍へと躍りかかるっ。

 だが剣握る少女も以前のままではない。

 なぜ墨谷七郎が倒したハズの魔物が甦ったのか……疑問は一旦捨て置き、烈剣姫(れっけんき)は名の通りに激烈な一太刀を振るった。


 「聖剣の()びにしてやるっ」


 刀の形をした光纏う聖剣が、放出する魔力を(もっ)て魔犬の王を真二つに割る。獣体は削れ、存在の大部分が消し飛んでいく。


 ―― ヴォVuッ


 「な!?」


 しかし魔犬の王は、肉体の残滓(ざんし)が地面へ降りないうちに再生を果たした。地面の黒水から伸びる細腕が、異形達のカラダを無限に補う。

 勢いの死なぬ魔犬が次に狙うは、瞠目して停まるリンカの柔肌。


 「っ、ユイロウ流――」


 髪が触れれば、また再びの苦悶が待つ。だがリンカに選択肢は無い。いつぞやの大会で見せた黒髪の槍を編み、訪れるであろう衝撃と苦痛を覚悟した。


 「 その()に触れるな 魔犬 」


 怒号と共に業火が犬を()く。覚えのある火山雷と炎の熱に、魔犬の王は転げまわりながらも悔しさを(にじ)ませるのだ。

 これが、以前の己を焼いた炎であると理解したが故に。


 「 ( ああ……――七郎様の、腕の中♡ )」


 間を置かずリンカを片腕に収めたのは、山上(やまうえ)から舞い戻る墨谷七郎であった。


 ・

 ・

 ・


 「(来てくださった……私を助けるために。今度は“誰か”じゃなく私を――。……ごめんさい七郎様、リンカはやはり悪い女です。迷惑を掛けてしまったのに、こんなにも嬉しいのですから)」


 リンカは固まったように、抱えた腕の中で小さくなっている。

 怖がっているのか、ただ驚き固まっているのか……何を想っているのかは分からないが、このままの方が安全に守れる。抱えておこう。

 手の中に在れば、二度と理不尽な運命に奪わせることなどしないっ。


 「湧き出しに際限が無さすぎて突破は無理だ。(ふもと)まで撤退しよう」


 「異論は無ぇッ(……アタシにもうちっと可愛げがありゃあ、リンカみてぇに助けてもらえたかな)」


 「そ、そうするべきね(い、いいもん。伽藍は前に魔犬から助けてもらったし……羨ましくなんか……)」


 全力の“滅火命却”なら何とかなりそうだが、リーンカーネーションの前に霊園山を吹き飛ばしては本末転倒。

 ここは少しでも物量差を埋めて着実にいこう、()()の当てはある。


 「火魔法は任せろ! 最後にバラ撒いてズラかるぞッ」


 シーリーンが辺り一面に火魔法を放つ。火の海を前に佇む蛇と魔犬の怪物から恨みがましい視線(?)を感じるも、彼等は動かず退避する俺達を(にら)むだけだ。


 「追ってこない……?」

 「何なんだよアイツらはっ。他の人型とは比べ物になんねぇ」


 「アレも迷宮核のチカラだ。さっき()()()()()ろう?」


 義瑠土(ぎるど)員と共に今度は斜面を下りながら、少女らに迷宮核についてを少しだけ伝える。白旗に関わる事までは語れないが、“彼女”と対峙するにはある程度の知識があったほうがいい。


 「撫でるだぁ?……っ、あの妙に気味の悪い感覚か」


 「そう、この無尽蔵に湧く()こそ霊園山の主。際限のない負の感情を魔力に変換して、呪いを垂れ流し続けるチカラの塊。“彼女”は心を犯す。人を通じて、恐怖や憎しみを世界から千切りとった(ダウンロードした)


 「それがあの蛇みたいのと、魔犬の王……」


 「誰か……というより、周辺に居る人間全ての記憶情報から恐怖を吸い上げたんだろう。“彼女”自身に腕以外のカタチが無いから、無限のリソースを使って敵を殺す為のしもべを作った。魂すら(いびつ)に模す人形を」


 「待て、無限っつったか!? んな”神”みてぇなバケモン、どうやって倒せばっ――」


 「 神 だよ 」


 霊園山から脱出し、最初に集まった結庚町(ゆいこうちょう)の防衛線に辿り着く。リンカを降ろし霊園山を見上げれば、山はさらに禍々しく闇を纏い、空に暗雲すら積み上げて侵入者を拒む構え。

 シルヴィアを完全に堕とすまで時間を稼ぐつもりなのだろう。


 「か、神?」


 烈剣姫が呆然と俺の言葉に驚く。流石に疑っているようだが、事実なのだから仕方が無い。


 「魔力によって変異した“魔獣”、語りや恐れが魔力で実体化した“怪異”……日本で大勢に恐れられる古い伝承、怪異とはケタ違いの歴史と存在強度を持ち現れる“妖怪“。――……戦うのなら覚悟が要る。アレはそのどれをも(しの)ぐ土地の支配者だ」


 「随分、神とやらに詳しいじゃねぇか」


 「これでも10年、あの呪いとは顔見知りやってるからね。“彼女”に顔はないけど」


 ――オイ何だアレ!?


 皮肉を込めて蠢く手の海を睨んでいると、周りの義瑠土(ぎるど)員がざわめき出す。

 視線が注がれるのは霊園山の上層、特に腕の密度が濃い呪いのたまり場。



 ―― CUuKA AA A AAッ!



 そこで、新たな怪物が産声を上げた。


 腕が混ざる腐水を跳び散らし外気に晒されたのは、大きく汚らわしい一対の羽。密集するはずの羽毛も、全て手指で出来ているように見える。


 翼は癇癪(かんしゃく)を起こすようにひと羽ばたき――、生まれた風圧はそれだけで怪物のカラダを上空へと弾き飛ばした。


 「カラス――?」


 烈剣姫が翼の怪物を(カラス)と見まがうのも無理はない。黒汚水を纏う怪鳥には(くちばし)があり、頭に対して大きすぎる目玉が虚ろに光る。

 それ以上の細かな特徴は、呪いが生む実像のブレにより上手く認識できない。


 「(いや……ヒモ?、縄?……地面と繋がってる……)」


 さらに辛うじて俺が認識できたのは、鳥の腹に腕が蠢く裂け目がある事。次いで裂け目からへその緒を思わせる肉の管が伸び、下の地面へと接続されている事だ。


 怪鳥は己の姿を誇示するように空中で静止し、翼を目いっぱいに広げた。同時に周りの空が歪み始める。



 ―― 縺ゥ縺薙hpl.@,o縺l;k薙←縺薙]:;縺DOooコォォNAァのおおおおお!?



 次の瞬間、大きく裂けた(くちばし)と腹から、脳味噌を揺さぶる不協和音が発せられた。

 

 「っっ、いやああああッ」

 「なんだっ、コレ!? アタシの中に、入ってくんなぁぁ」

 「あ、頭が割れそうですぅーーッ」


 怪鳥の絶叫は霊園山を越え、結庚町(ゆいこうちょう)全体をも(おびや)かす。本来黒い腐水で広がる汚染が、声によって広範囲にまき散らされているのだ。

 脳神経がスパークし、誰の物とも知れない他人の記憶と苦痛を強制的にフラッシュバックさせられる。


 女の記憶。子と暴力。恨み、憎しみ、やるせなさ。


 ――おえええええぇぇっ

 ――イタイイタイ、気持ち悪いぃぃぃ


 周囲から悲鳴と嘔吐が繰り返される。防衛線を作り始めていた義瑠土(ぎるど)員達のものだ。

 ただの精神汚染とは侮れない。これでは命に係わる。


 「せ、聖剣……ぐッ」


 烈剣姫も体が震え、聖剣を上手く握れていない。今更俺にこの程度の汚染は効かないが、このままでは上空からいいように蹂躙されるだけだ。


 「(”愛魚スペシャル(弓矢)”だと届いても再生されるな……仕方ない、【愚か者の法衣】を乱してでも滅火命却(めっかめいきゃく)で――)」


 「 ―― “聖 剣 抜 刀 っ” 」


 「 ! 」


 俺が外見欺瞞を一部(ほど)こうとした時だった。はるか後方から、凛々しく澄んだアルトボイスが響く。



 「 現在女神の(ウェザルディ)聖剣(カリバール) 」



 狂気を振りまく腐翼(ふよく)を一瞬にして飲み込むのは、超魔力の大瀑布。


 「待たせたな伽藍(カラ)。ワタシも手を貸そう」

 「メセルッ――来てくれたの」


 呪い蔓延(はびこ)る戦場へ威風堂々と降り立つのは、不侵の美しさを持った戦乙女。

 窮地を跳ねのける救世主として現れたのは、魔力の煌めきを纏うメセルキュリアであった。


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