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【明けぬ獄夜に縋る糸】~少女の愛が届かない 異世界と繋がる人外暗躍復讐譚~  作者: 三十三太郎
3章ー運命集う魔法学島

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蓮の妄念(4)


 火を受け付けない祟り場を眺めると、呪いを育んだ過程が嫌が応にも思い起こされる。

 

 「(肥大を制御しきれないことはわかっていたことだ。”彼女”の存在と呪詛はリィンカーネーション:プロトコルにとって最大の障害となる……魔力を利用するだけ利用して、用済みになれば処分する……最初から決めていた……俺がそう決めたんだ)」


 10年前――シルヴィアが異界を構築する際、偶然に出会った水底の怨霊。

 意思疎通は不可能。ただ生者が恨みを貯め込むように、死した彼女は形無きチカラを吸い続け静かに肥大していた。


 そんな混沌を極める集合怨霊に、手を差し伸べたのがシルヴィア。


 伝わる害意の暴風を(さば)き切るシルヴィアの天才的な施術によって、”彼女”は無限に魔力を生む自縛神として神格を得る。

 同じく子を失った母であるからこそ可能だった干渉。魂が生む魔力の質が似通っていると言ってもいい。


 「(だからこそ“白旗”は願いを追い続けられた。呪いから精錬される膨大な魔力は、俺達の研究にとって生命線)」


 憎まれてしかるべきだ。改造と搾取を行った人間を許すはずが無い。


 「(俺は”彼女”との結末は、互いの存在を掛けた喰い合いしかないと主張し……シルヴィアは共に歩む道を探っていた。それでも最終的に共存は不可能と考えて神殺しをプロトコルの過程としたのだ。準備に準備を重ね、白旗に優位な条件下で対峙するはずだったのに――)」


 「山全体が暗く……それだけじゃねぇ。空の色もオカシくなってきやがった」


 シーリーンの言葉通り、霊園山は浄化の炎熱をものともせず、腐りに満ちた正体を(あらわ)にしていく。

 

 影やヘドロに似る腐り水が、皮肉な程に()いだ水面となって土地を覆う。

 至る所から()れ生えるのは、生々しい女の腕達。


 「前の大狂行(スタンピート)の時と同じ……あの時以上の……」


 (しろがね)伽藍(から)の記憶に、星光すら遮る瘴気の夜空が甦る。今度は墓地区画を覆うだけに飽き足らず、山外の土地にまで暗がりが()りる。


 「う、腕が……あっちこっちに――」


 リンカの恐怖は深まるばかり。まるで山の異界が世界を飲み込んだような有様だ。

 山に生える枝葉の影、路地や建物の向こう側、人の目が無意識になぞる死角という死角で、女の細腕が‘おいでおいで‘と狂気に揺れる。


 ――お、おい! アレ見ろよ!?

 ――山の斜面に腕みたいのがびっしり生えて……

 ――所々手が集まって……肉の塊が、人の形みたいに


 「(肉のカラダを揃え始めた……やっぱりこうなる前に中枢へ突っ込むべきだった、か?)」


 仰ぎ見る霊園山には、内臓の柔毛や海洋生物を思わせる腕の絨毯(じゅうたん)が広がっていた。黒水から生える腕はうねり、固まり、ヒトや四足動物の形を模していく。


 「見たことねぇ魔物だ……コッチの世界の魔物は常軌を(いっ)してんな」

 「あんなのを普通にしないでっ」


 墓地区画を中心に生まれ始める、手が寄り集まり蠢く不定形の異形。アレは人への害意を孕む“彼女“の爪であり盾。

 悪くなる一方の状況に自分の選択を後悔したくなるが、無関係の人々を呪詛の犠牲にすることはシルヴィアにとって耐えがたいこと。華瓶街(けびょうがい)結庚町(ゆいこうちょう)を見捨てることなど選べない。


 最善を尽くさなければ。シルヴィアの命と魂がかかってる。


 「……まず威力偵察だ。可能なら俺が突破して大本を叩きに行く」


 ――援護します……()()奪われたくない!

 ――逢えなくなるならどうせ死んだも同じだ

 ――そうよ。わたしだけ生きてたって仕方ないのよ


 2人、3人と、(こころざし)を同じくする義瑠土(ぎるど)登録者が集結するのを見て、すっかり中身を整理した影収納から虎郎剣(ころうけん)を引き抜く。

 目標は山頂の水影池。結庚町(ゆいこうちょう)の避難が完全に終わるまで呪いの進行を防ぎつつ、中枢への()()()を目指す!


 「オイ、あいつら何者だ? 義瑠土(ぎるど)の人間にみえるが」

 

 ヴィトーラは傍に居た他の義瑠土(ぎるど)員に、七郎の元へ集まった数人についてを聞く。


 ――ああ、霊園山でもベテランの人達だ


 「全員‘死兵’の目をしてやがるぞ……七郎と一緒にアレへ突っ込む気かっ?」


 ――そんな……あの生えてきたバケモノ、物凄い数だぞ!?


 「(七郎もそうだが、あの数人からもスゲェ覚悟を感じる。他のヤツらが慌てふためいてるのに、七郎達だけが獣みてぇな目の色に変わりやがったッ)」


 黒剣を、警棒を、(ほとばし)る魔力を手にした切り込み隊が歩み始める。

 たった数人なれど、阻む者は全てを殺すだろう……そんな確信を抱くヴィトーラを尻目に、七郎は霊園山の入り口へ向け歩き出した。


 「よし……後ろを頼む、ついてこい。――他の皆はここを防衛線にしろ! 呪いを結庚町(ゆいこうちょう)に入れるなっ、アレには火が効く」


 あとは魔導外殻に持たせた情報を、()()()が受け取っていてくれれば……俺の予想が正しければ、この情報こそ打開の一手になる可能性を秘めている。

 

 「伽藍も行く。その為に来た……しょ、初代魔導隊の事を話してもらうまでに何かあったら困る。それに、ここは竜子(たつこ)さんの土地。変な腕なんかに好き勝手させない」

 

 「七郎様の敵は、私の敵です」

 

 「氏族と再会する前にとんだ事になっちまったが……ここまできたら一生託蓮だ。だろ七郎? 礼は後払いでいいぜ。たっぷり言う事をきてもらおう……くふふ」

 

 「あっ、ずるいですよヴィトーラさん!」


 少女達は七郎と共に戦う為にここへ来た。恐れも無く、自らで選んで武器を取る。

 それぞれが聖剣を、魔の黒髪を、3属性の魔法を構え彼に並んだ。

 

 「一緒に、戦ってくれるのか?」


 「もっ、もちろんよ!」


 「……アレに直接触れてはいけない、魂を呪いで汚される。ただの物理攻撃も効き目が薄い。絶対無理をしないでくれ」


 「伽藍を甘く見ないで。聖剣と剣技があれば、あんな魔物に負けは――……違う、あなたの隣で戦える。伽藍だって初代魔導隊の人たちに遅れは取らないはずよ!」


 「――……」


 不意に感じた涙の熱を、顔を背けて隠し通す。


 初代魔導隊――身体強化しか与えられなかった第一世代、しかし俺にとっては一番大切で唯一の矜持。

 強さや魔法適性で見れば、すでに俺達はこの少女達に追い抜かされているのだろう。


 「(だけど皆の為にも少しだけ……今一瞬だけ、この誇らしさを噛みしめよう。俺達が助けたのだというこの少女が、皆を目指して歩んできてくれたのだから)」


 例え、最後に全てを裏切る事になるとしても。


 「行くぞ!」


 俺は虎郎剣に魔力を(うな)らせ、霊園山の斜面を駆けあがる。


 此処は迷宮。これこそが霊園山の真なる姿。妄執(もうしゅう)(あるじ)()えた触れ得ざる闇。

 現世に歪んで現れた、罪(よど)みきる衆合地獄(しゅうごうじごく)


 まさに今、死の山に沈む大怨霊との全面戦争が幕を開けようとしていた。


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