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【明けぬ獄夜に縋る糸】~少女の愛が届かない 異世界と繋がる人外暗躍復讐譚~  作者: 三十三太郎
3章ー運命集う魔法学島

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蓮の妄念(3)


 「いったん降りようか」

 「はいっ」


 リンカは七郎に脇を抱えられ地面に降ろされる。なぜかそこはかとなく誇らしげだが、理由は当人にしか分からない。おそらく修練した技を、愛しい男の為に役立てる時が来たと(いさ)んでいるのだろう。


 「まだ軍も動きだしてないのに……来てくれてありがとう」


 「いいえっ、リンカはいつでも七郎様の傍にはせ参じます!」

 「よお七郎、迷宮がご機嫌ナナメって聞いたが?」

 「霊園山……あまり変化が無いように見える」


 ――おお、烈剣姫(れっけんき)! 来てくれたのかっ

 ――久しぶりねっ。相変わらずカワイイ~

 ――え、他の美少女2人何者? 異世界からの援軍?

 ――七郎さんもメッチャ頼りになるけど、ほらやっぱり、一回追放されちゃってる人だし……


 リンカに続き伽藍(から)とヴィトーラも合流する。七郎の周りには霊園山の義瑠土(ぎるど)員達も待機しており、大狂行(スタンピート)で獅子奮迅の活躍を見せた(しろがね)伽藍(から)の登場に歓声が上げた。

 あまりの歓迎っぷりを不思議に思う伽藍であったが、霊園山での記憶を辿り納得する。

 

 「(……あ、そっか。魔犬の首領を倒したのが伽藍だって思われてるんだった。本当は墨谷七郎の功績なのに……)」


 「そういえば銀伽藍……此処に来る前に竜子(たつこ)さんに会ったかい? 何か言ってた?」


 「え……あ、そうね……“慌てても始まらないから魔法学島で無事を祈ってる”って」


 「流石。いまさら動じる竜子さんじゃないか」


 七郎は竜子の威勢を思い出したのか、口元を歪め笑う。以前であれば不気味に見えた表情も、彼の正体を知った伽藍には見惚れる程優し気に見えるから不思議だ。


 「ん? なんか飛んできやがったぞ」


 頼もしい援軍により義瑠土(ぎるど)員達の士気が上がる中、ヴィトーラは上空より噴く魔力の奔流を感じ取った。

 それは鉄塊を飛翔させるほどの勢いがあり、機械と魔術双方によって精密に制御された噴出である。

 さらに気流音はひとつではない。


 『 結庚町(ゆいこうちょう)の住民避難は60%完了しました。霊園山からも逃げ遅れていた女性を一名回収しています 』

 『 避難車両の誘導も予定通りです。他(けん)への通達と避難者の受け渡しも開始されました 』


 「わかった。引き続き避難作業を継続。軍が本格的に動き出せば魔法学島へ戻っていい」


 空から姿を現したのは、黒で塗装された人型の鋼鉄。滑らかに姿勢を制御し、操縦者の居ないまま人間と遜色のない動きで地面に降り立つ。


 「ま、魔導外殻!? どうしてここにっ? ――くっ、また暴走?」

 「まてまて嬢ちゃん、どう見ても七郎を手伝ってるだろうが」


 魔導外殻は少女達を一瞥(いちべつ)もせずまた何処かへ飛び立っていった。


 「七郎様、魔導外殻を操る事が出来るのですね!」


 「まあ、今回は特例的に……(ということにしておこう)」


 「味方なら頼もしいってわけだな」


 「(住民の避難が異様に早いのは魔導外殻のおかげだったのね……軍より早く……何故?……どうして魔導外殻を管理してる軍や帝海都義瑠土(ぎるど)より早く到着しているの?……それも、まるで最初から墨谷七郎に従ってるみたいに)」


 「――そろそろ陽が沈みはじめる……霊園山が、日影に……」


 伽藍の心に湧いた疑問は、七郎のつぶやきによって思考の彼方へ押しやられた。

 いま集中すべきは霊園山であり、此処(ここ)の専門家とも言える男の言葉を、少女は聞き逃すまいと意識を切り替える。

 

 七郎の言葉どおり、西日に照らされる無人の華瓶街(けびょうがい)は着々と影に染められつつあった。山稜が連なる遠い地平線へ陽が隠れ、霊園山の山林から墓地区画にかけての気温を下げていく。


 「まだ猶予は――、…………」


 自らへ言い聞かせる様な男の独白が途中で止まった。


 「どうしたのですか七郎様。霊園山をじっとご覧になって……」

 「あーん? 魔物でも出たか?」


 山の中腹を凝視する七郎を見て、自ずとリンカやヴィトーラも霊園山を見上げて目を細める。

 視線はちょうど墓地区画と森林の境を刺す。木々の合間は奥行きを見通せない闇一色……ともすれば、揺らぎの無い深淵を思わせる冷たい色をしていた。


 だからこそ、違和感が全身を駆け巡るのだろう。

 

 暗闇を切り取る1本の木、その影から生白い片腕が泳ぐように伸び踊っているのだ。


 「――ぅ!?」


 身体強化によって遠視していた伽藍は、どこか覚えのある本能を掻きむしる寒気と不快感に息を漏らす。


 「ぁ、れは」

 「ひッ、やだ」


 日本とは比ぶべくもない多様な魔物を知る他少女達も、あまりの不気味さに血の気を引かせ動きを止めた。

 ヴィトーラなど、隣に立つリンカの袖を小さく握っている。


 「――溢れ出した……始まるぞ!! 急いで電源盤を持ってきてくれ!!」


 七郎の叫びに大半の義瑠土(ぎるど)員達は驚いているが、冷静に指示に従う者もいる。

 太いコードを幾本も垂らした、ひと抱えもある配電盤を持ってきたのは、霊園山義瑠土(ぎるど)では古参の第2世代魔法使いの男。

 彼が持ち込んだ正体不明の機器は、組み立てるとテーブルに似た形で地面に立ち、この場においてより強烈な異物感を(かも)し出す。


 すると七郎は、おもむろに広場の地面に設置されたマンホールのような蓋を開け始める。内部には既存の下水管やメーターは無く、代わりにこれも場違いなプラグの差込口があった。

 七郎はそこへ電源盤から伸びるケーブルを全て接続した。


 「よし、繋がった」


 途端に機器へ埋め込まれたメーターが通電を示す。電力だけでなく、何かの魔力信号も送受信しているようだ。

 横に並列で並ぶレバースイッチが次々にONへと切り替えられていく。


 「安全装置解除。最終確認だッ、墓地区画と華瓶街(けびょうがい)に人は残っていないな!? 巻き込まれれば骨しか残らないぞ!」


 何体かの魔導外殻が霊園山へ飛び立ち全体をスキャン。生体反応を探すも反応は無い。


 だが霊園山そのものには変化があった。なんと森林の影から波のように黒い水が流れ出てきたのだ。

 粘度や不純物の無い‘さらさら’とした黒い流水は、せき止める物も無く斜面に沿って下へと広がる。

 速い。あっというまに多くの面積を黒へと染めていくのだ。


 「なんだよありゃあ……っ」

 「この臭い、っ!」


 ヴィトーラや伽藍だけでなくこの場に居る全ての人間が、強烈に漂い始めた腐臭に鼻と口を覆う。

 

 「“対呪詛汚染システム”起動――」


 七郎は最後のスイッチに指を掛ける。

 次の光景は、顔を(しか)めている目撃者全てを唖然とさせる衝撃があった。


 「―― 焼 却 浄 化 ! !」


 宣言と共に信号がケーブルを伝う。続いて霊園山のそこかしこに出現したのは、灯籠(とうろう)のような機構の数々。

 

 地面から、建造物の壁から、果ては墓石に(ふん)したカバーを割って、(おびただ)しい数の()()()()()()が起動する!


 「え、ええええええええ!?!? 街ごと燃やすのッッ?」

 「冗談だろコレぇッッ?」

 「に、日本では、こういうのは普通なんですか――??」


 ――なんだアレーーーーッ

 ――夢見てんのわたし……ここ地獄?

 ――熱っつ!? 熱が届いてるって!


 驚愕の声は火炎放射の轟音に霞む。


 機構それぞれから四方に放たれたのは、魔力を燃料とする炎の奔流。摂氏1000℃を超える超高熱地獄が華瓶街の隅々までを焼き尽くし、山全体が瞳孔を焼くような輝きを発する。


 祟り神に汚された地を、空間ごと焦土とする為に。


 炎は囲碁盤のように張り巡らせた通路を満たし、隣接する森林へも火の手を広げた。無事なのは竜子邸のある標高……比較的山頂に近い霊園山上部のみだ。


 「ひどい光景……っ」


 我に返った烈剣姫は思わず拒否感を(あらわ)にする。そして当然の心配を七郎に対して口にした。


 「あなたがやったの墨谷七郎っ? こ、これじゃ山火事になるんじゃ――」


 「()()()()()()()


 「え?」


 「……くそ、やっぱり足止めにしかならないか……」


 轟々と炎に呑まれ火だるまになるはずの双山は、しかし炎を押し込めるように影が濃くなるばかり。

 

 そして焼却機構の火が止んだ時、燃え盛り炭となるはずの森林には、驚くべきことに火の粉ひとつ漂っていなかったのである。


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