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【明けぬ獄夜に縋る糸】~少女の愛が届かない 異世界と繋がる人外暗躍復讐譚~  作者: 三十三太郎
3章ー運命集う魔法学島

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蓮の妄念(1)


 此処(ここ)水底(みなそこ) 無量の地獄 

 (つや)めく細指は女の蟲毒 ()える蓮花(はすばな)(ほとけ)偽証(ぎしょう)


 (もと)める欲める欲める欲める欲める欲める欲める欲める欲める

 何処(どこ)何処何処何処何処何処何処何処何処何処何処何処何処?

 

 ―――――――――――――ひかり


 わたしをわたしをわたしをわたしをみてみてみてみてみてみてみてみて

 くるしい いとしい きもちい さみしい にくたらしい


 ことばにできた わたしのねがい

 

 だからこちらにおいで あなた を わたし にしてあげる


 かきむしらせて? あいしているのよ


 ・

 ・

 ・


 「いつになったら着くんだ? もう何時間も移動しっぱなしだぞオイ」


 ヴィトーラの苛立(いらだ)たし気な言葉は、広いとは言えない車内をさらに狭くするようだ。スリットドレスから延ばした足を、行儀悪く前の座席に乗せて(くつ)いでいる。

 

 「仕方ないじゃない、霊園山まで走っていくわけにもいかない。帝海都(ていかいと)からいくつ(けん)(また)ぐと思ってるの?」


 これに反論するのは(しろがね)伽藍(から)。彼女も10人乗り程度の大型車に乗るひとり。


 「(けん)っつーのはいまいちピンと来ないけどよ、七郎は走ってったんだろ? 魔法学島から」

 「んぅ……出来ないことも、ないけど……身体強化をかけっぱなしだと戦う為の魔力が足りなくなる。伽藍も、まだ聖剣の魔力を自在に操れるわけじゃないし……」

 「私からすれば、自分で走らずに速く移動できる車にはいつも驚かされます」


 さらに伽藍の隣にはリンカの姿もあった。魔戦大会の晴れ着でなく、動きやすいラコウの戦闘装束……つまり日本へ密入国時に来ていた自前の服である。


 「霊園山とやらの救援依頼をギルドで受けたのはいいが……これで間に合うのかよ。なんか、他に便利な乗りモンも有るんだろうが? デンシャ?とか、ヒコーキ?とかいう……」

 「霊園山の麓、結庚町(ゆいこうちょう)に行ける私鉄はもう止まってる。空からなら、確かに一番早く到着できるんだろうけど……着陸できる場所が近くに無いのよ」


 伽藍はヴィトーラを冷静に(さと)すが、内心では同じように焦りを滲ませ、我知らず制服のスカートを握りしめていた。

 それに気づいたリンカは、優しく伽藍の手を包み緊張を(ほぐ)そうとする。


 「大丈夫ですよ伽藍ちゃん。七郎様が居るんですから、ひどい事にはならないはずですっ! ……本当はクジャク様にもお力添えいただきたかったのですが……」

 「仕方ない、クジャクはあくまでウィレミニアからの観光客として来てる。魔法学島の外に出る為には、リンカみたいに魔導隊の身分証明とか特別な許可が要る」

 「――の割には、アタシの参加はすんなり認められたな」

 「ヴィトーラは伽藍と魔戦大会で勝ち残ったのが証明書の代わりになった。もちろん伽藍の推薦があってこそなんだからっ」

 「へーへー、感謝しといてやるよ。いざ島から出るとなると、呆気(あっけ)ないもんだぜ」


 少女らを乗せた車両は目的地を目指してひた走る。道路自体は、日本で唯一観光地化された迷宮への陸路ということもあり、よく整備され通行はスムーズだ。今後は軍の車両もこの道を利用する事になるだろう。

 しかし反対車線は霊園山方面から避難する車両で溢れかえり、文字通り対極の状況である。

 これは、それだけ今回の異常事態が大きな危険を孕み、かつ避難誘導が不自然なほど迅速に為されているために他ならない。


 …………。


 「――ついたッ」

 「帝海都からじゃアタシらが一番乗りか!」

 「ここが……七郎様が10年守った場所」


 緊張を高めつつあった伽藍達3人が霊園山の(ふもと)に到着したのは、およそ1時間後の事であった。

 先日の緊急事態宣言からちょうど丸一日が経過している。


 「この山が迷宮だってか……――? おい、これは……」


 ヴィトーラが仰ぎ見るのは、麓から中腹までの斜面を街と化した双子山。傍目(はため)には珍しい景観の観光地、もしくは広大な墓所を内包する(おごそ)かな霊場にしか見えない場所である。


 「……?……何も……起こっていないように見えます」


 「そうね……いったいどういう事っ? 大狂行(スタンピート)みたいなのが始まってるんじゃないの?」


 静かすぎた。華瓶街(けびょうがい)に人の気配は無いまでも、迷宮の緊急事態であるならば魔物の影が見えて当然。

 しかし山は不気味なまでに静寂……墓地区画へ繋がる線路の始発駅前に降り立った伽藍は違和感を(ぬぐ)えない。


 「(これじゃ、伽藍が最初に此処へ来た時と変わらない。大狂行(スタンピート)の時に感じたような魔力の異常も無い。夜じゃないから?……ううん……でも何かがおかしい……)」


 「――ん? 向こうが騒がしいなっ――魔物かッ? よぉし鉄火場(てっかば)だ!」


 「あ! 追いかけよう伽藍ちゃん」


 「そ、そうね。此処で考えてても(らち)が明かない」


 伽藍は霊園山を見上げ首を(かし)げていたが、ヴィトーラのほうは何か騒ぎを聞き取ったらしい。

 父セギンの槍は魔法学島のレギラガの元へ預けてあるが、代わりに調達した義瑠土(ぎるど)謹製(きんせい)の長物型特殊警棒を(かつ)ぐ。

 “魔法の触媒としちゃあ物足りねぇが……無いよりはマシだな”と、砕けた葦沙刃(イサハ)の代わり持ち込んだのだ。


 「沢山の人の、焦る声が聞こえます」


 走り出したヴィトーラを置いかける伽藍とリンカだったが、より詳細に騒ぎの源を察知したのはリンカが先だ。

 魔力を流した髪を方々へ広げ、一瞬のうちに情報を収集する。


 「 ! 七郎様が居ますッ。他にも人が集まって……義瑠土の人達でしょうか?」

 「――あそこね!」


 駆けた先で3人を出迎えたのは、義瑠土(ぎるど)職員や登録魔法使いと思しき人々が忙しなく動き回る空間であった。彼らは門を構える入山口からやや離れ、結庚町(ゆいこうちょう)の一角に機材などを持ち込み拠点としている。

 ここは本来であれば街の憩いの場である総合公園――以前、いまや大人気となった魔法少女まじかる☆フレイヤのショーを開催したほどの実績を持つ多目的広場だ。

 山側の視界が開けており、華瓶街と墓地区画全体が見渡せる絶好の場所。


 「物々しいな。如何にも戦場って空気だぜ」

 「以前の大狂行の時と似てる。前は墓所区画に拠点を作って、魔犬の群れに立ち向かった」

 「魔獣の(たぐい)が湧く迷宮か。肩慣らしには丁度いいっ」

 「前の時はイレギュラー。普段は、夜に不死者が立ち還る」

 「……前言撤回、一筋縄じゃいかねぇみてぇだ。苦手だな、不死者(アンデッド)はよ……アタシが一番得意な地属性魔法と相性が悪い。ヤツらカラダが土で出来てる()も多いし……どーも……」

 「何? 怖いの?」

 「こ、怖かねーよ! 港をいくつも牛耳る“悪徳嬢王”が、不死者のひとりやふたり――」

 「……伽藍は、できれば斬りたくない」

 「あん?」

 「前に、霊園山の中で屍鬼(しき)と戦って……その時の伽藍じゃ歯が立たないくらい屍鬼が強かったのもあるけど……不死者が元は人間だったっていう当たり前の事を忘れていた。正しさばかりに(こだ)わった伽藍は、とても酷い言葉を墨谷七郎に……」

 「不死者(アンデッド)相手の情けは、自分(てめぇ)の命を捨てる事になりかねねーぞ? それに……屍鬼(しき)だぁ? 最下級とはいえ吸血種の魔物じゃねぇか! んなのが普通に湧く迷宮はウィレミニアでもそうそう無ぇ。……嬢ちゃんの言いたい事も分かるがよ、魔物相手のためらいは死に直結だ。コッチが不死者(アンデッド)になるんじゃ笑えねぇ」

 「それでも、墨谷七郎にとって不死者は人間なのよ……?……そういえばリンカは?」


 話に気を取られている間にリンカが居ない。伽藍とヴィトーラが辺りを見渡せば――。


 「お手伝いに来ました七郎様ぁ!」


 「ああ、うん、ありがとう。でも前が見えないかもー」


 既にリンカは、拠点の中心にいる墨谷七郎の顔に飛びついていたのだった。


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