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【明けぬ獄夜に縋る糸】~少女の愛が届かない 異世界と繋がる人外暗躍復讐譚~  作者: 三十三太郎
3章ー運命集う魔法学島

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コード:ブラック


 事は一刻を争う。まずすべきことは――更なる現状把握と、霊園山の避難!


 「(霊園山義瑠土(ぎるど)へ確認を……学島の義瑠土(ぎるど)から連絡しよう)」


 俺はとにかく行動するべく、周辺建物の屋根へ飛び移り移動を開始。屋根を粉砕せずに出せる最大の速度で疾走する。


 「あっっ、待ちなさいよ!」

 「まだ傷が、せめて手当てをっ」

 「オイ! 何処行くッ」


 後ろから少女達の声が追ってくる。しかし気に掛ける余裕は無い。一直線に魔法学島の中心にある義瑠土(ぎるど)施設を目指す。

 

 ――うわっ!? なんです?

 ――む……“墓守”


 「は、速いっ――追いつけない!?」

 「待ってください七郎様!」

 「足で敵わねぇのかよ、自信無くすぜッ。結局目立っちまってるしよ」


 途中、俺の姿を認めた観光客や警備役の魔法使いの騒ぐ声が聞こえた。だが呼び止められる前に義瑠土(ぎるど)の施設へ到着。

 飛び込むように入り口を(くぐ)り、義瑠土(ぎるど)の窓口へ駆け込む。


 「なんすか?」


 顔を合わせる事になったのは眠たげでやる気の無い、糸目の男性職員。エリートである首都義瑠土(ぎるど)職員にしては珍しい不真面目な態度が目立つ。


 「至急、霊園山の水影山(みずかげやま)白捨山(しろすてやま)義瑠土(ぎるど)へ連絡をしたい! 回線を貸してくれっ」


 「は? んなこと言われても……正規の手順と資格が無きゃ貸せないんすよ」


 「義瑠土(ぎるど)に登録はあるッ、義瑠土(ぎるど)員であればただの回線使用に問題はないだろう?」


 「チッ……はぁ~あ、またあの霊園山かよ。クソアニキが大狂行(スタンピート)の時の対応責められて、とばっちりで此処にトバされて……ぶつぶつ」


 職員はぶつぶつと文句を垂れ流しながら、手直にあった電話をコードごと引っ張って来る。

 義瑠土(ぎるど)の連絡機なら回線に対魔力保護がされているはずだ。これで()()窓口には繋げられる。


 「入力方法と手順は――」


 「知ってる。あとはこちらで」


 電話を受け取り、手早く緊急用の番号数列を入力する。


 「やっと追いついた! 何が起こってるのか説明してっ」

 「ったく、置いてきぼりとはヒデェじゃねぇか」

 「私達のことより、今は七郎様のご用のほうが重要です。あんなに焦られるなんて……」


 「ひえ!? 烈剣姫(れっけんき)っ……いやいやようこそお越しを――」


 「邪魔、退いて」


 後から来た(しろがね)伽藍(から)たちに、受付の男は態度を一変させて対応し始める。やはり烈剣姫のネームバリューは大きいらしい。


 ≪ 霊園山水影山義瑠土(ぎるど) 緊急連絡を受信しました ≫


 頭の片隅でそんな事を思っているうちに、電話口から女性の声が流れる。回線がつながったのだ。

受信したということは、やはり霊園山全体へは影響が及んでいないと見ていいだろう。ひとまず安心である。


 「 こんばんは、霊園山の様子は?」


 ≪ ああ、そのあいさつ……七郎さんですね。今は特に問題は起こってないですけど――? それもこれもあなた方のお陰です。竜之進(りゅうのしん)も元気いっぱいで、昨日も―― ≫


 さらに幸運、()()()()()人間だ。しかも協力関係の長い理解者のひとり。手間が省ける。


 「 問題発生、直ちに霊園山の封鎖処置を要請。コード:ブラックだ」


 ≪ コード:ブラック!? か、確認します。認証キーワードの発音を ≫


 「第1認証:ファイヤーバード 第2認証:フタバユウカ 第3認証: 3 0 9 6 6 」


 ≪ 受諾しました、対応を開始しますっ……! ど、どうか、あの子を―― ≫


 「ああ、助けて見せるよ。でも貴女は直に避難誘導を。すぐにそっちへ向かう」


 最低限の要請を終えて受話器を置く。受付の男などは何が何だかわからないといった顔だ。


 「(ぐずぐずしている時間は無い。後は神聖騎士の皆の安否と、魔導外殻の起動を……中枢の籠城が成功していれば……)」


 「ちょっと! いいかげん説明してっ、あ……説明して、ほしい、です……その……」

 

 「(急にしおらしくなったな)」

 「(七郎様が初代?の魔導隊さんだってこと、まだ受け止め切れてないんだと思います)」


 妙な態度の烈剣姫と、その後ろのリンカとシーリーンも状況を理解できていない。

 すぐに知れることだ、説明してもいいが……。


 「おい! “烈剣姫”になんだその態度はッ、アンタが何年義瑠土(ぎるど)の底辺やってるかは知らないが、名前くらい聞いたことがあるだろッ? 除名処分にしてやってもいいんだぞッ」


 すると俺の態度が気に障ったのか、受付の男が分かりやすく語気を荒げて突っかかってきた。二つ名持ちに取り入る機会だとでも思っているのだろうか、隠し切れない愉悦が男の目元に浮かぶ。


 「――黙って」


 しかし、意外にも反論を行ったのは当の烈剣姫本人であった。目にもとまらぬ速さで聖剣を抜き、切っ先を半笑いの受付男性へ向ける。


 「うぇ!? いや、その」


 「除名処分? 底辺? 何も知らないなら二度と口を挟まないで」


 「こちらはだだ、アナタの手を(わずら)わせないようにと……っ」


 「伽藍は頼んでない! 次に墨谷七郎へ失礼な態度を取ったら承知しないから」


 「変わったモンだな嬢ちゃんも……――ま、テメェの態度が腹に()えかねてんのはアタシもだが」


 「……覚悟なさってください……ね?」


 「 !? スっ、スミマセンスミマセンスミマセン!」


 さらに凄まじい威圧感を発するシーリーンと、冷たい瞳で髪を指に手繰(たぐ)り始めたリンカにも気圧(けお)され、あっという間に男は態度を一変させる。


 「なんともはや、凄まじい勢いで走り去る姿を追ってきたが……何事か“墓守”?」


 「な、なん!? 魔導隊の“一輪挿し”ぃぃッ?」


 「養父(とう)さんっ」


 「うむ、伽藍も来ていたか……ふ、どうやら己が目で真実を選び取ったと見える。もはや案ずる事は無い、か」


 伽藍達にやや遅れて登場したのは藤堂(とうどう)(かなめ)。受付の男は、続けて現れる最強格に足を震わせ怯えてすらいる。

 なんだか少し可哀そうになってきたな……。


 ――すごい騒ぎだけど、どうしたんよっ? 

 

 「あ、いや、これは、その」


 大所帯となった受付窓口を不審に思う、別の女性義瑠土(ぎるど)職員が近づいて来た。いよいよ受付男性は状況を処理できなくなったのか、言葉もたどたどしい。

 しかし女性職員の言葉で、さらなる驚愕に突き落とされる事となった。


 ―― !? しょ、初代魔導隊のッ


 「 は? 初代……?」


 ―― あんた昨日の魔戦大会見てなかったの!? この人は黒騎士と同じ初代魔導隊!! 10年霊園山で戦ってたどころか、霊園山義瑠土(ぎるど)支部を作ったって噂もある人ッ!


 「 ~~!?!? あひゃ、ひゃひいい」



 『 ウ ウ ゥゥゥゥゥ ! ! 』



 「な、何の音ですか伽藍ちゃん!?」

 「これ……義瑠土(ぎるど)の警報!」


 いよいよ男性職員が泣き笑いで虚脱し始めた時、義瑠土(ぎるど)内で重苦しいサイレンが鳴り響く。

 スピーカーから流れ始めるのは、緊急を知らせる焦り尽くした声。

 

 『 只今霊園山全域に退去指示が発令されました! これは霊園山義瑠土(ぎるど)支部からの正式な要請ですッ。詳細は調査中ですが、職員ならびに義瑠土(ぎるど)登録者は冷静な対応を心掛け指示に従ってくださいっ。繰り返します―― 』


 「――なんと……!……すぐに向かおう」


 「心強いっ、詳しい事は向こうで(手順通り避難が始まった。間に合うかどうかは状況次第だけど……)」


 藤堂領以外の唖然とする面々を尻目に、俺は義瑠土(ぎるど)の外へ出る。

 目指すは霊園山――【愚か者の法衣】と質量軽減への意識リソースを削り、アスファルトの地面へヒビを入れ四肢を食い込ませる。


 「霊園山へ向かうのっ?」


 「っ、ああそうだよ」


 ふと見れば再び銀伽藍が俺を追ってきていた。揺れる瞳で、らしくもなく(さや)に納めた剣を不安そうに握っている。


 「今の霊園山の状況は悪い、前の大狂行とはワケが違う。もし助力の依頼を出したら……受けてくれるか?」


 「 ! う、うん。依頼なんか無くてもっ」


 「その聖剣のチカラが必要だ」


 「あ……そ、そうよね……聖剣の出番。必要なのは、聖剣よね」


 「この後、正式に帝海都義瑠土(ぎるど)にも救援要請が届く。じゃあ」


 「ま、まって――」


 もはや猶予は無い。俺は魔力を()べて全身に力を満たし、地面の粉砕を気にせずに思い切り跳躍した。

 島を横断し海を越え、目指すは汚水(したた)る霊園山。


 事態は風雲急を告げ、数多(あまた)の実力者を巻き込む嵐と変わる。


 「なんスか? 警報?」

 「え˝ まだ魔法学島観光の途中なのによぉ」


 霊園山を知る若き義瑠土(ぎるど)員。


 「霊園山で騒ぎ? こうしちゃいられないね、僕の観察はまだ途中なんだよ。行くぞ ”明” 」

 「えぇ、なんですー? 協力要請ー? まだこの本読み始めたばっかりなのにー」


 好奇心と、兄を探すという願いが故に、魔法学島の根幹を()るに至った皮肉屋の少女。

 書を愛し知識を積む、図書館を名乗る星譚至天。


 「行くのメセル?」

 「ああ、ただならぬ気配がする……話は後だ。ミスルム公、失礼。ニーナも養生しろ」

 「待て、まだ話は終わっていないぞメセルキュリア殿――……行ってしまったか……新たな聖剣の遣い手をほんにウィレミニアへ迎える気はあるのか、当代の【聖剣】殿は……」


 さらに異世界最強の戦乙女までが同じ場所、汚濁(あふ)れんとする死の山へと引き寄せられるのだ。

 

 聖剣ですら(はら)えぬ無限の(よど)みが、水底より(にじ)み出したとも知らずに……。


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