コード:ブラック
事は一刻を争う。まずすべきことは――更なる現状把握と、霊園山の避難!
「(霊園山義瑠土へ確認を……学島の義瑠土から連絡しよう)」
俺はとにかく行動するべく、周辺建物の屋根へ飛び移り移動を開始。屋根を粉砕せずに出せる最大の速度で疾走する。
「あっっ、待ちなさいよ!」
「まだ傷が、せめて手当てをっ」
「オイ! 何処行くッ」
後ろから少女達の声が追ってくる。しかし気に掛ける余裕は無い。一直線に魔法学島の中心にある義瑠土施設を目指す。
――うわっ!? なんです?
――む……“墓守”
「は、速いっ――追いつけない!?」
「待ってください七郎様!」
「足で敵わねぇのかよ、自信無くすぜッ。結局目立っちまってるしよ」
途中、俺の姿を認めた観光客や警備役の魔法使いの騒ぐ声が聞こえた。だが呼び止められる前に義瑠土の施設へ到着。
飛び込むように入り口を潜り、義瑠土の窓口へ駆け込む。
「なんすか?」
顔を合わせる事になったのは眠たげでやる気の無い、糸目の男性職員。エリートである首都義瑠土職員にしては珍しい不真面目な態度が目立つ。
「至急、霊園山の水影山・白捨山義瑠土へ連絡をしたい! 回線を貸してくれっ」
「は? んなこと言われても……正規の手順と資格が無きゃ貸せないんすよ」
「義瑠土に登録はあるッ、義瑠土員であればただの回線使用に問題はないだろう?」
「チッ……はぁ~あ、またあの霊園山かよ。クソアニキが大狂行の時の対応責められて、とばっちりで此処にトバされて……ぶつぶつ」
職員はぶつぶつと文句を垂れ流しながら、手直にあった電話をコードごと引っ張って来る。
義瑠土の連絡機なら回線に対魔力保護がされているはずだ。これで表の窓口には繋げられる。
「入力方法と手順は――」
「知ってる。あとはこちらで」
電話を受け取り、手早く緊急用の番号数列を入力する。
「やっと追いついた! 何が起こってるのか説明してっ」
「ったく、置いてきぼりとはヒデェじゃねぇか」
「私達のことより、今は七郎様のご用のほうが重要です。あんなに焦られるなんて……」
「ひえ!? 烈剣姫っ……いやいやようこそお越しを――」
「邪魔、退いて」
後から来た銀伽藍たちに、受付の男は態度を一変させて対応し始める。やはり烈剣姫のネームバリューは大きいらしい。
≪ 霊園山水影山義瑠土 緊急連絡を受信しました ≫
頭の片隅でそんな事を思っているうちに、電話口から女性の声が流れる。回線がつながったのだ。
受信したということは、やはり霊園山全体へは影響が及んでいないと見ていいだろう。ひとまず安心である。
「 こんばんは、霊園山の様子は?」
≪ ああ、そのあいさつ……七郎さんですね。今は特に問題は起こってないですけど――? それもこれもあなた方のお陰です。竜之進も元気いっぱいで、昨日も―― ≫
さらに幸運、こっち側の人間だ。しかも協力関係の長い理解者のひとり。手間が省ける。
「 問題発生、直ちに霊園山の封鎖処置を要請。コード:ブラックだ」
≪ コード:ブラック!? か、確認します。認証キーワードの発音を ≫
「第1認証:ファイヤーバード 第2認証:フタバユウカ 第3認証: 3 0 9 6 6 」
≪ 受諾しました、対応を開始しますっ……! ど、どうか、あの子を―― ≫
「ああ、助けて見せるよ。でも貴女は直に避難誘導を。すぐにそっちへ向かう」
最低限の要請を終えて受話器を置く。受付の男などは何が何だかわからないといった顔だ。
「(ぐずぐずしている時間は無い。後は神聖騎士の皆の安否と、魔導外殻の起動を……中枢の籠城が成功していれば……)」
「ちょっと! いいかげん説明してっ、あ……説明して、ほしい、です……その……」
「(急にしおらしくなったな)」
「(七郎様が初代?の魔導隊さんだってこと、まだ受け止め切れてないんだと思います)」
妙な態度の烈剣姫と、その後ろのリンカとシーリーンも状況を理解できていない。
すぐに知れることだ、説明してもいいが……。
「おい! “烈剣姫”になんだその態度はッ、アンタが何年義瑠土の底辺やってるかは知らないが、名前くらい聞いたことがあるだろッ? 除名処分にしてやってもいいんだぞッ」
すると俺の態度が気に障ったのか、受付の男が分かりやすく語気を荒げて突っかかってきた。二つ名持ちに取り入る機会だとでも思っているのだろうか、隠し切れない愉悦が男の目元に浮かぶ。
「――黙って」
しかし、意外にも反論を行ったのは当の烈剣姫本人であった。目にもとまらぬ速さで聖剣を抜き、切っ先を半笑いの受付男性へ向ける。
「うぇ!? いや、その」
「除名処分? 底辺? 何も知らないなら二度と口を挟まないで」
「こちらはだだ、アナタの手を煩わせないようにと……っ」
「伽藍は頼んでない! 次に墨谷七郎へ失礼な態度を取ったら承知しないから」
「変わったモンだな嬢ちゃんも……――ま、テメェの態度が腹に据えかねてんのはアタシもだが」
「……覚悟なさってください……ね?」
「 !? スっ、スミマセンスミマセンスミマセン!」
さらに凄まじい威圧感を発するシーリーンと、冷たい瞳で髪を指に手繰り始めたリンカにも気圧され、あっという間に男は態度を一変させる。
「なんともはや、凄まじい勢いで走り去る姿を追ってきたが……何事か“墓守”?」
「な、なん!? 魔導隊の“一輪挿し”ぃぃッ?」
「養父さんっ」
「うむ、伽藍も来ていたか……ふ、どうやら己が目で真実を選び取ったと見える。もはや案ずる事は無い、か」
伽藍達にやや遅れて登場したのは藤堂領。受付の男は、続けて現れる最強格に足を震わせ怯えてすらいる。
なんだか少し可哀そうになってきたな……。
――すごい騒ぎだけど、どうしたんよっ?
「あ、いや、これは、その」
大所帯となった受付窓口を不審に思う、別の女性義瑠土職員が近づいて来た。いよいよ受付男性は状況を処理できなくなったのか、言葉もたどたどしい。
しかし女性職員の言葉で、さらなる驚愕に突き落とされる事となった。
―― !? しょ、初代魔導隊のッ
「 は? 初代……?」
―― あんた昨日の魔戦大会見てなかったの!? この人は黒騎士と同じ初代魔導隊!! 10年霊園山で戦ってたどころか、霊園山義瑠土支部を作ったって噂もある人ッ!
「 ~~!?!? あひゃ、ひゃひいい」
『 ウ ウ ゥゥゥゥゥ ! ! 』
「な、何の音ですか伽藍ちゃん!?」
「これ……義瑠土の警報!」
いよいよ男性職員が泣き笑いで虚脱し始めた時、義瑠土内で重苦しいサイレンが鳴り響く。
スピーカーから流れ始めるのは、緊急を知らせる焦り尽くした声。
『 只今霊園山全域に退去指示が発令されました! これは霊園山義瑠土支部からの正式な要請ですッ。詳細は調査中ですが、職員ならびに義瑠土登録者は冷静な対応を心掛け指示に従ってくださいっ。繰り返します―― 』
「――なんと……!……すぐに向かおう」
「心強いっ、詳しい事は向こうで(手順通り避難が始まった。間に合うかどうかは状況次第だけど……)」
藤堂領以外の唖然とする面々を尻目に、俺は義瑠土の外へ出る。
目指すは霊園山――【愚か者の法衣】と質量軽減への意識リソースを削り、アスファルトの地面へヒビを入れ四肢を食い込ませる。
「霊園山へ向かうのっ?」
「っ、ああそうだよ」
ふと見れば再び銀伽藍が俺を追ってきていた。揺れる瞳で、らしくもなく鞘に納めた剣を不安そうに握っている。
「今の霊園山の状況は悪い、前の大狂行とはワケが違う。もし助力の依頼を出したら……受けてくれるか?」
「 ! う、うん。依頼なんか無くてもっ」
「その聖剣のチカラが必要だ」
「あ……そ、そうよね……聖剣の出番。必要なのは、聖剣よね」
「この後、正式に帝海都義瑠土にも救援要請が届く。じゃあ」
「ま、まって――」
もはや猶予は無い。俺は魔力を焚べて全身に力を満たし、地面の粉砕を気にせずに思い切り跳躍した。
島を横断し海を越え、目指すは汚水滴る霊園山。
事態は風雲急を告げ、数多の実力者を巻き込む嵐と変わる。
「なんスか? 警報?」
「え˝ まだ魔法学島観光の途中なのによぉ」
霊園山を知る若き義瑠土員。
「霊園山で騒ぎ? こうしちゃいられないね、僕の観察はまだ途中なんだよ。行くぞ ”明” 」
「えぇ、なんですー? 協力要請ー? まだこの本読み始めたばっかりなのにー」
好奇心と、兄を探すという願いが故に、魔法学島の根幹を織るに至った皮肉屋の少女。
書を愛し知識を積む、図書館を名乗る星譚至天。
「行くのメセル?」
「ああ、ただならぬ気配がする……話は後だ。ミスルム公、失礼。ニーナも養生しろ」
「待て、まだ話は終わっていないぞメセルキュリア殿――……行ってしまったか……新たな聖剣の遣い手をほんにウィレミニアへ迎える気はあるのか、当代の【聖剣】殿は……」
さらに異世界最強の戦乙女までが同じ場所、汚濁溢れんとする死の山へと引き寄せられるのだ。
聖剣ですら祓えぬ無限の澱みが、水底より滲み出したとも知らずに……。
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