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【明けぬ獄夜に縋る糸】~少女の愛が届かない 異世界と繋がる人外暗躍復讐譚~  作者: 三十三太郎
3章ー運命集う魔法学島

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三者三様三人娘


 「くっふふ。えらく可愛らしい一張羅(いっちょうら)着込んでまあ……てっきり黒騎士んトコにシケこんでるかと思ってたが、ハズレたか」


 「ですから、伽藍(から)ちゃんはそんな事をする人じゃないって何度言えば分かるんですかっ」


 リンカは両手を小さく振り乱してヴィトーラに抗議する。伽藍は、リンカが(かぶ)る自分の物とは形の違う……しかし顔を隠すという目的は同じであろう大きめの帽子が揺れるのを可愛らしく感じていた。

 小動物のように動くリンカであるが、アンバランスな大きさの女性用キャップハットが妙に似合う。


 「まって、いろいろ聞きたい事があるけど……まずどうして2人が一緒に、しかもその服は何?」


 「いやな? アタシも外に出たはいいが人目にウンザリしてよ。だが変装しようにも準備を怠ってたんで立往生してたんだが……そこへちょーど良くリンカが通りかかってな、服屋に案内してもらって見繕ったんだよ。似合ってるだろ?」


 「私が通りかかったのではなく、ヴィトーラさんが学園の出入り口で待ち伏せてたんじゃないですか、もう……」


 ‘細かい事は気にすんな’と笑うヴィトーラの服装は、おおよそ変装には向かないコーディネートではなかろうか。

 ヘソを出し、胸の谷間も(あらわ)にし、長い髪をひとくくりに結んで髪型を変えたはいいが、何故か着用している丸縁サングラスのせいで胡散臭さが否めない。

 総じて派手。ヴィトーラの好みが押し出された結果である。


 「ところで……伽藍ちゃんも何かご用事があって外出を? 黒騎士を探しに、ではないですよね? あの人と会うなら義瑠土(ぎるど)の建物を当たった方がいいでしょうし……」

 「そ、そういうリンカだって」

 「私はもちろん――」

 「目当ては七郎、だろ? くふ、だから出入り口で張ってたんだよ」

 「えっ、ヴィトーラさんも七郎様をっ? 聞いていません!」

 「言ってねぇからな」


 ――なんだあの3人?

 ――よく見たら超美人じゃね?


 「っ、人目につくから移動するわよ」

 「そ、そうしよっか」

 「なんで嬢ちゃんが仕切んだよ」

 「いいからっ」


 3人は集まり始めた視線を避けるように歩き始める。容姿といい身に秘める実力といい強烈な存在感を放つ少女達であるが、変装のお陰もあって人ごみに紛れると注目の目は散った。

 日本人だけでなく観光に訪れた異世界人も大衆に混じることが、都合よく少女らの存在を集団に埋もれさせているのだ。


 「リンカ……体は大丈夫なの?」

 「うん、もうバッチリ元気ですっ。伽藍ちゃんが加減してくれたおかげで、もともと大きなケガも無かったですし……伽藍ちゃんこそ昨日のエキシビジョンマッチこと……」

 「アイツ(黒騎士)、嬢ちゃんのに適当な台詞を抜かしてたんだろ? 見てりゃなんとなく分かる。どう甘く見積もっても、嬢ちゃんに釣り合うモンを感じなかったからな」

 「……鋼城さんが初代魔導隊なのは本当なんだろうけど……でも、あの人じゃない。違ったのよ」


 鋼城を語る伽藍の顔に失望の色が浮かぶ。だが同時に、迷いを断ち切った晴れがましさもあった。


 「墨谷七郎だった――あの人が初代魔導隊だったの! あの鎧っ、戦い方っ、間違いなく伽藍が憧れた人の姿だった!」

 「でも伽藍ちゃん、ずっと七郎様にひどい態度をとってましたよね。ちょっとこれだけは許せない……かも」

 「 う ぐ !?」


 伽藍はリンカの‘じとり’とした眼光にぐうの音もでない。いや実際苦悶の声は上げているのだが。


 「そういやそうだったな。んで七郎に一言も無く、今更甘い顔すんのも不義理ってもんじゃねぇか?」


 「ふぐぅ!」


 「ね? 一緒に謝りに行きましょう? きっと七郎様も許してくださいます。見返りも無く紅蓮を救ってくださったほどのお人ですから」


 「リンカぁ……!」


 「あ、でもでも私も一緒の時にしてくださいねっ。伽藍ちゃんと七郎様が2人きりっていうのは、その、えと、えーとっ」


 「ま、んな小せぇ事をつつくような男じゃねえさ。なんたってアタシが認めた男だ! だからこうしてコッチから出向いて、苦労して探し歩いてやってんだからな。つーワケだ、頼りにしてるぜリンカ」


 「わ、私もどちらにいらっしゃるかまでは……」


 「しらばっくれんなよ、探し出せるだろ? ユイロウ流ってのでよ。魔戦大会じゃ驚かされたぜ。教室で七郎のヤツに何食わぬ顔で髪を絡めてたんは、髪を使った術で――」


 「わ、わかりました! だから言わないで下さいぃぃ」


 「リンカ……」


 「なんで伽藍ちゃんもちょっと引いてるんですかっ? う、うぅぅ///」


 リンカの情念をうっすらと感じる行いに、流石の烈剣姫(れっけんき)もやや尻込む。

 

 ……いつのまにか話の弾む彼女らを、道行く人々はどう見るだろう。

 ただ和やかな時間を楽しむ少女達の可愛らしさは、容姿や彼女らの有名さを(もち)いず(なお)、男女問わず擦れ違う者の目を引くのだ。


 「それで、ヴィトーラが墨谷七郎を探す理由を聞いていないのだけど。エキシビジョンマッチで話してた……話してた?……事となにか関係があるわけ? あの槍と、最後に(またが)ってた魔物もどうしたのよ」


 「魔物じゃねぇ。スキルークっていう立派な名がある」


 「聞いたことの無い言語でした。私や伽藍ちゃんは翻訳魔法を刻印してないから、内容もまったく分からず仕舞いで……」


 (もよお)しを彩るキッチンカーを横目に見ながら、話題はヴィトーラと七郎の関係について。

 ヴィトーラは途端にくすぐったそうな表情に変わり、2人に目を背けながらもポツリポツリと語り始める。


 「槍とスキルークはレギラガのオジキ……アタシの同郷の仲間に預けてある。泣いて喜んでくれたよ。氏族の長だったアタシのとうさんのモノだからな――」


 「 ! お父様は獣牙種(オーク)の方……あれは獣牙種(オーク)の言葉だったんですね」


 「アタシはとうさんを探しにニホンに来たんだ。とうさんだけじゃ無ぇ、集落ごと消えた氏族もまとめて連れ帰りにきたんだよ」


 「そうだったの……なら最初からそう言えばいい。伽藍だって少しは協力できた」


 「ナーヴニルの手前、獣人だってバレると面倒だったからな。孤立無援の土地で獣牙種(オーク)の娘だと言いふらすほど世間知らずじゃ無ぇつもりだよ」


 「ウィレミニアだと獣人種の方々への風当たりが強いと聞きました。特にノルン神教が差別を正当化しているとも……」


 「ああ……だけど七郎のお陰で、ようやくとうさんの魂がアタシの所へ帰ってきた。ニホンへ飛ばされた氏族の行方も知れた。七郎はアタシひとりで行けって言ってたが……丁度いい。(つがい)候補だってことで連れていって、あの未練がましいツラに喝を入れてやらぁ!」


 「獣牙種(オーク)――、黒牢の……! 墨谷七郎は獣牙種(オーク)と戦ってた……っ」


 「いま(つがい)っていいました? 聞き捨てなりません――」


 少女3人は時折衝突しながらも、離れず並んで往来(おうらい)を歩く。

 

 リンカが七郎の魔力を髪で探りながら、彼女達は共に島のあちこちを巡った。


 「もぐもぐ。はあ、おいしい♡」

 「伽藍は霊園山で墨谷七郎と一緒に戦った。そこでガドランっていう獣牙種(オーク)と――」

 「なに!? 本当かよっ」


 途中で手軽な軽食を買い、ベンチに座り込みながら互いの過去を語る。

 

 「私はクジャク様やカルタ(ねぇ)さんと絡新婦(じょろうぐも)の追手から逃げてニホンに来たんです」

 「あの魚のバケモノには苦戦させられた」

 「“絡新婦(じょろうぐも)”レンメイに、ヤツメ家の亜水竜だぁ――!? とんでもねぇヤツらがニホンで暴れたもんだ」


 七郎を探す目的で集まった3人。しかしこの時間にはそれ以上の充実もあった。

 まるで長年の知古(ちこ)のように距離を縮めるまで、そう時も掛からない。


 …………。


 時間はあっという間に過ぎ、陽も傾いた(くれ)の頃。少女達はある場所に辿り着く。

 そこは魔法学島の片隅にある、海との境を守る石柵(いしさく)程度しか見当たらない海辺の公園。波の音が静かに聞こえ、壁の無い開けた景色が目に美しい場所だ。


 「……七郎様」


 3人は海を眺めひとり立つ七郎を見つけた。

 目当ての姿は石柵の(そば)にあるが、共に奇妙な異物も存在する。柵の上を置き場所代わりに鎮座するのは、絶妙な大きさの黒い塊。

 七郎は、それから伸びる受話器で誰かと話している。


 「七郎のヤツ……何持ってんだ?」

 「デンワ、ですね」

 「でもアレ……黒電話?」

 「クロデンワってなんだよ?」 

 「携帯電話と違って電話線を引いて家の中で使う……もう古すぎて使う人も少ないけど……」

 「(……前に、用意いただいた隠れ家で見たような……声を拾って――っ、乱れて聞こえないっ?)」


 リンカを筆頭に少女達の声はか細い。誰からともなく、隠れるようにして墨谷七郎の様子を伺っているからだ。

 しかし手をこまねいているわけにもいかない。まず誰が彼に駆け寄るのか……非情であるが、順番は必ず発生する。

 目当ての人物が見つかったからには、3人は互いにライバルの関係に変わるのだ。


 「(まずは謝らなきゃ。それで……それで伽藍の話を聞いてもらって――)」

 

 「(七郎様のお邪魔になってしまうかもしれない。でもリンカにもお手伝いできることがあるなら……あの(ひと)を癒して差し上げられるのなら――)」


 「(アタシをその気にさせてトンズラなんて許さねぇぞ七郎……! 故郷にはテメェも持ち帰る。アタシの本当の名は、氏族の他にはお前にしか――)」


 そして、今こそ駆け寄ろうと少女達が一斉に動いた時だった。


 「す、墨谷七郎っ」

 「七郎様!」

 「七郎――……?」


 声に振り向く七郎の異変にいち早く気づいたのはヴィトーラ。

 男の顔はとてつもない驚愕に染まっていた。視線が交われど心はこの場に在らず。少女達に驚いているのではない、もっと底知れない……何か致命的な岐路(きろ)に立たされた人間の顔だ。


 同時に、黒電話の受話器から禍々しい魔力が溢れる!


 「 !? ソレを捨てろ七郎ーー!!」


 無音の衝撃。飛び散る血しぶき。

 

 墨谷七郎の身体が、頭から(したた)る血だまりの中にゆっくりと倒れ込んでいった。


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