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【明けぬ獄夜に縋る糸】~少女の愛が届かない 異世界と繋がる人外暗躍復讐譚~  作者: 三十三太郎
3章ー運命集う魔法学島

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黄昏の友は笑顔に消えて


 走り始めた迷路は、思いがけず波乱に満ちた道中になった。


 「至る所に魔導外殻がいるわね……」

 「うわコッチに気づいた」


 ばらまかれる銃弾の雨を避け、機械仕掛けの番人を時には破壊し、時にはやり過ごし――……。


 「壁と天井が迫ってくるッ?」

 「なんでこんな仕掛けがあるのよ!?」


 大掛かりすぎるトラップを掻い潜り――……。


 「いやいやいやいやなんか岩が転がって来てないか!?」

 「コレを作ったヤツなに考えてるのッ」


 古いアクション映画でしか見たことがない、明らかに場違いな仕掛けに翻弄される。


 「(ん? あ、まてまて。これは壊して、と)」

 「何してるのよ!」

 「アー、手がスベッチャター」


 事故を装って、探していた電気系統の主要配電盤を壊せたのはよかった。これで地上階の監視カメラ類は復旧まで時間が掛かる。

 

 「はー……はー……ふざけ過ぎ。ここ政府管轄の場所じゃないの?」

 「ようやく静かになった」


 後ろから魔導外殻が追ってこない事を確認して一息つく。

 恐ろしく疲れた。主に精神的に。

 迷路じみた構造ではあるけど、ここは本物の迷宮(ダンジョン)ではない。あくまで島の内部機構。なのに何故ブービートラップじみた機構が組み込まれているのか?


 「……ここは? いつの間にか、さっきまでの通路とは雰囲気が違う……」


 確かに周りの様子は、今までとやや(おもむき)が違ってきている。俺達が走ってきた通路は床と壁、そして至る所に這う機械的なケーブルが目立つばかりの単調な景色だった。

 しかし今居る空間は、機械的な作りは変わらないまでも広く開けていて、中でも大きな扉が存在感を放つ。扉の横にあるボタンの形状から、扉がエレベーターであることが想像できた。


 「(さて、このエレベーターに乗っていいものか……上のカメラが復旧するまでに、今度は島内設計図をもとに上階の電気設備を破壊すればさらに時間が稼げる。問題は烈剣姫(れっけんき)だけど……)」


 少しの間、この後の予定を整理するために立ち止まる。


 「さあ、早く乗りなよ七郎。ゴールはすぐそこだ」


 だが璃音(りおん)は、昇降ボタンを押して扉を開けてしまう。思いがけない行動に俺は目を見張るが、彼は何食わぬ顔でエレベーターへ入り俺達を急かす。


 「え……勝手にエレベーターが……」


 烈剣姫などは不可思議な現象に戸惑うばかり。あまりに璃音が自然にボタンへ触れた事に、俺も疑問を感じたのは事実だ。

 とりあえず促されるまま扉を(くぐ)る。すると彼は迷いもせず目的階を選んで扉を閉めた。

 ヒトを運ぶ箱部屋(はこべや)が静かに上昇していく。


 「この階で合ってるのか……?」


 「ちょっと! これで下の迷路から外に出られるんじゃないのっ?」


 「何も考えずに乗ったのかい? あーあ、頭より先にカラダが動くところを見るに、この子は君とお似合いだね七郎」


 褒めてくれてありがとうな璃音。

 烈剣姫に聞こえなくて助かった。聞かれたら絶対にメンドくさい事になるぞ。


 「(……お、止まった)」


 エレベーターの旅は10秒もかからず終わる。元々そう地下深くに居たわけでもないのだ。

 扉から顔を出せば、やはり人気のない暗い廊下。地下よりは無機質を感じにくい造りだろうか。正面にはガラス張りの窓があり、外の夜景が暗闇の中に光る。

 周りの建物の配置を見るに、どうやら目的の学島中枢にはたどり着いたらしい。


 だけど、なら何でこんなに人気(ひとけ)が無い……?


 「こっちだ」


 「あ、待ってくれ」

 「何処へ行くのよ? さっさと誰かに事情を説明して、外へ出たほうがいいわ」


 璃音は躊躇いなく先導する。後ろ姿を追う俺に、烈剣姫も‘仕方ない’といった風に呆れながらもついてきた。

 

 俺は今日、“白旗“を勘ぐる”覗き”を始末するべく来たんだ。これじゃ見つかって騒ぎになるのも時間の問題だぞ!?



 「――悪いね七郎。ボクは、君に目的を遂げさせるつもりは無いのさ」


 「……は?」


 

 な……にを、いってるんだ? 

 そりゃあ璃音は、今日俺がやる事に反対していたが……だからって急に……。


 「まったく、君は他人(ひと)を信じすぎる。ボクの案内だからって油断したね。なぜこの中枢に人気(ひとけ)が無いのか、なぜこの場所までスムーズに来れたのか、疑問に感じなかったのかい? 」


 「この状況が……璃音の仕業だとでも?」


 「ふーん……本当に気付いてないんだね。ま、無理もないさ。()()()()()()()()()()()()。君に正体を掴ませないなんて、やるじゃないか」


 「ねえ、何をひとりでしゃべってるのよ……」


 頭が追いつかず、烈剣姫の言葉も耳に入らない。

 璃音は背を向けたまま歩き、そしてある扉の前で止まった。


 「安心しなよ。カメラ映像や侵入の痕跡も何ひとつ残ってないだろう。互いに何かと都合がいい。その程度の事は当然理解してるってことだよ」


 妙な言い方だ。まるで自分以外の誰かを、自分の事のように評価して喜んでる。

 裏切られたのかという疑問より、俺の知らない璃音の顔への戸惑いが大きい。


 「道案内にしては乱暴だったが、そこは寛大な心で許してあげようじゃないか」


 璃音が感慨も無くドアを開ける。いや、俺が開けたのか? 

 わからない。

 べっとりとついた血の手形は、俺だけが見る後悔の表れ。もはや幻かどうかも興味が無い。

 璃音が、ここに居てさえくれれば満足なのだから。


 「なんなの……この部屋?」


 烈剣姫と一緒に、ドアの向こうに広がった部屋を見渡す。

 室内は、今まで見た設備とは比べ物にならない機器類に埋め尽くされていた。


 スーパーコンピューターを思わせる装置が無数に並び、静かながらも排熱ファンが回る唸りが聞こえる。

 計算式や何かの設計図を浮かび上がらせる立体映像もそこかしこにあった。


 似た景色を俺は知ってる。これは霊園山の中枢と同じ、情報の集積と実用化を担う場所だ。



 「ドアの認証ロックは解除しておいたとも」



 璃音の声が部屋に響く。どことなく声がブレて、室内上方から聞こえた気がした。

 声に導かれて、ようやく部屋の主役を認識する。


 それはピラミットじみた階段の坂だった。

 

 観察すると、かなり広大な部屋を埋める設備は、あらゆる検証結果を階段の頂上へ集約させる為にあるのだとわかった。

 多様な分野を表示する無数の立体映像が、部屋の頂上に向かって流れるように投影され、ソレに凄まじい速さで入力処理が行われているのだ。


 …………俺の手は、知らず内に震えている。


 

 「さて、君ともお別れだよ七郎」



 璃音は背を向けてゆっくりと歩き出す。咄嗟に肩を掴もうとするが、感触も無くすり抜けてしまった。



 「常々考えていたんだ、なぜ“今”ボクが必要だったのかとね。これが答えさ。ボクが居る意味は此処に在る……だから役目もここで終わりだ」



 彼は階段を一段登り、もう一段登り……一歩昇るごとに存在感を薄れさせた。血の足跡が徐々に、まるで幻のように消えていくのだ。


 

 ―― いやだ、まだ逝くな。俺が成す事を最後まで見てくれよッ


 「ボクがこのまま君の前に居座ると、君は“このままでいいや”なんて考えて、今までの苦労も捨てかねないだろう? ……君が始めた物語だ、見るに堪えない中途半端は許さないとも」


 

 璃音の足は止まらない。足音は下から上へ、()()()()()

 逝かせたくないのに、何故言葉が出ないんだ。どうして追いすがって止めに行かないっ?


 「(理由なんてわかってるだろっ、この恥知らずのっ、大バカがッ。なにが邪魔者を始末するだ! 俺は……なんて事を……)」


 璃音が止めてくれた。この為に。

 俺も薄々感づいていたのか? だから璃音の姿の幻覚を見てたのか?


 

 「ボクは魂なのか、それとも幻なのか……この場合に限り、真実はさして重要じゃない。――不思議に思わないかい? ()()の隠ぺいは杜撰(ずさん)で、運任せの、それはそれは目を覆いたくなる物だ。だけど、めでたく仕上げまでたどり着いた。なぜか? “


 

 璃音は階段を登り続ける。背を向けたままでも、彼が皮肉いっぱいに笑う顔が見えるようだ。


 

 “ それはね七郎……君たち全員がひとつの意思で繋がっていたからさ。人間の想いと言うあやふやな言葉が、時に驚くべき成果をもたらすことをボクは知っている。ボク達魔導隊みたいにね ”


 

 彼が消える。声が光になって遠くなる。

 上り坂の中腹で振り返る璃音は、想った通りの笑い顔。



 “ じゃあ、その成果を脅かすほどのモノとは? ”



 誇らしげに笑う俺の友達。忘れられない俺の後悔。

 彼の姿に、()()()()()()()()()影が重なる。



 “ やはりボク()のような才能だとも!”


 「 やはり(ボク)のような才能だとも! 」



 重なる影は璃音と同じ顔をしていた。驚くほど似ている。

 長い髪も、異人の血が混ざる肌色も、小柄な背丈も、知性を感じさせる瞳も……違うのは学生服の上から白衣を着て、スカートを履いていることぐらいだろうか。



 「いやはや、ここへ招くまで苦労したよ。退屈しのぎに仕込んだサプライズは楽しんでもらえたかな? 初めましてだね――いや随分長い間観察していたから、初対面とするには妙な気分だ。僕は君に聞いてみたいことが山ほどあるんだよッ」



 ――妹とも遊んでやってくれ

   キミなどよりずっと頭がいい。保証しよう


 “(アケ)“と共に託された手紙の言葉が甦る。


 

 「光栄に思いたまえ。僕は、君に価値を見出した!」


 “ じゃあね七郎。君はボクが認めた人間だ。失望させないでくれ ”


 「 そう、この――…… 」


 “ そう、この――…… ”


 

 優しい黄昏(たそがれ)は消え失せて、代わりの昇る強すぎる光が、罪を犯さんとした俺の影を照らし出す。



 「 僕がね!! 」



 光は、白衣とスカートをたなびかせて自信満々に胸を張る。


 「 なによ、誰かと思えば……こんな所に(こも)ってたの、論亜(ろあ)。―― 論亜(ろあ) ウィズダム 」

 

 論亜ウィズダム。帝海都魔法学園、金冠クラス最後のひとり。

 彼女の中に生きる友の面影に、俺は頭を抱えて自分を(わら)い、止められない涙で床を濡らすしかない。

 

 友達が愛した家族を、俺が奪えるはず無いのだから。



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