監視者からの招待状(2)
ようやく体調不良から脱出。ぼちぼち執筆を再開します。
予想外の人物だ。てっきりメセルキュリアとホテルを去ったものとばかり……。
どうする? 適当に理由をつけてごまかすか……いや此処に居る時点で言い訳は難しい気がする。
「(ならいっそ――)」
「魔法学島にこんな場所があったなんて驚いたけど……っ、そ、そんな怖い顔しなくていいじゃない。伽藍は、あなたが何かしでかさないか見張ってるだけ。何もしないなら見逃してあげる」
見逃す……烈剣姫にしては悠長な言葉だ。
「本物? ニセモノじゃ?」
「どういう意味よッ」
「あ、いや、そう――、てっきりメセルキュリアと一緒に居ると思ってた」
「メセルは行かなきゃいけない所があるって。さっき魔物に侵入された件だと思う」
クレルトギスタが説明していた3大病魔達……突如として消えた彼らを追ったのかもしれない。
エヴァという人物が一緒なので、一応は安全と言っていたが……怪しいものだ。あの規模の魔力なんて、霊園山迷宮の核と殺戮姫以外で見た事も無い。明らかに日本にいてはマズイ存在だろう。
「なんにせよ、竜子さんに何もなくてよかった」
「そうね」
俺が迷路の奥へ歩き始めると、烈剣姫も当然とばかりについてくる。
できれば撒いてしまいたいが、どうすべきか……。
「そういえばその剣、聖剣に成ったんだろう? 正直日本刀が“聖剣に成る”というのはピンとこないけどね。魔力も全く感じない」
「魔力を放たないのは、伽藍が望まないから。やり方が自然に分かるのは伽藍も不思議だけど……」
まさしく聖剣に選ばれた、と。
魔法学島に現在聖剣が2本あるなど笑えない。どう対処するか、後でシルヴィアとも話し合わなければ。
「どこへ行くの。まさか義瑠土の依頼で来たわけじゃないでしょ?」
「ちょっと探しものを……烈剣姫も明日に備えて休んだらどうだい。憧れの黒騎士といよいよ戦えるんだろう? 万全を期すべきだ」
先ほど鋼城が去り際に、“エキシビジョンマッチの邪魔はするな”と吐き捨てていたな。
今日の騒ぎがあっても開催するのか……するだろうな。明日の試合はいわばメインディッシュ、魔戦大会の本選は前座に過ぎない扱いだ。
日本の英雄である“黒騎士”の実力を改めて異世界にもアピールする機会でもあるし、魔法学島の義瑠土は意地でも開催したいはず……異世界側の警備体制のミスも追及しない可能性が高い。
まあ、俺が考えることでは無いが。
「迷ってない?」
「迷ってない。道順は全部覚えてる(璃音が)」
「( ――誰を見てるの? ……そういえば……この男と2人で歩くのって、霊園山の時以来? あの時と比べて、すごく……なんていうか……ほんとうに楽しそうな顔)」
璃音と話そうとするが、烈剣姫の不審そうな視線を感じて控える。
「なんだ、まだ君にも客観的視点が残ってたんだね。関心したよ」
うるさいぞ、璃音。
「……ねぇ」
「ん?」
声に振り向けば、烈剣姫が気まずそうに目を背ける。なんだというのか。
「行き先と目的を答える気は無いんでしょ? 伽藍もいいかげん、あなたの扱いは学んだ。悪い事をする気なら、伽藍が剣で止めるだけ」
「じゃあ、何?」
「……そ、その……」
「?」
「……れ、烈剣姫って、いつまで呼ぶの。伽藍には伽藍って名前がある! い、いいかげん失礼っ、伽藍の名まえは知ってるでしょッ? まるで興味無いみたいに――……ちゃ、ちゃんと名前で呼んだ方が……ほら、アレよ……緊急時の伝達がスムーズだと思う!」
「緊急時なら猶更‘二つ名’の方が伝わりやすいと思う」
「ぐっ――ずべこべ反論しない! あなたは言う通りにすればいいのッ」
「……?……わかった、銀伽藍」
「う、うん……それで……いいのよ」
急に呼び方を気にし出して、いったい何のつもりだろうか。いつもなら即断即決で、俺を悪だと断じようとするだけなのに。
それに烈剣姫への興味は大いにある。もし彼女が現在聖剣を自在に扱うようになれば脅威だからな。
「はぁ~~あ」
……璃音……なんで憐れむような目で俺を見るんだ。俺なにかした?
「か、伽藍はこのまま見張る! 一日ぐらい寝なくても支障はないっ。 あなたの企みを暴いてからじゃないと、休むに休めないのよっ。伽藍の目の届く場所で悪事を働かれると、鋼城さんにも顔向けできないっ」
「なんか変わったなぁ……これも聖剣のチカラか。メモしておこう」
「伽藍がいつも鬼みたいだってコト!?!? やっぱり突き出されたいみたいねっ??」
「冗談です(切実に帰ってほしい……やっぱり何処かで撒こう。ただ方法がなぁ……――ん?)」
耳をそばだて歩みを止める。音が聞こえたのだ。しかし通路の暗がりにヒトの気配は無い。
「何? 足音?」
烈剣姫も音に気づいたところで、黒いシルエットが曲がり角に現れる。
大柄な人型だった。
鎧のような装甲を持ち、関節を駆動させ2足歩行する影だ。関節が金属の重みを支える音が小さく響く。
「魔導……外殻っ?」
俺はすぐに正体を察した。正規採用デザインとやや見た目は異なるが、間違いなくアレは魔導外殻の自律機。
人が乗っていない事は間違いない。
なぜなら頭部が、センサー類を剥き出しにするアンテナのような部品に置き換わっているからである。
その不気味な姿に面食らっていたのも束の間、魔導外殻は片腕に小銃のような物を装備し射撃体勢に入る。
「おお、問答無用かぁ」
烈剣姫を庇い彼女の正面に立つ。すると間髪入れず小銃が火を噴き、俺の体に銃弾が浴びせられた。
豆粒をぶつけられた程度の衝撃だ。
「ちょ、ちょっと墨谷七郎!? 何してるのよ!! 守られなくたって伽藍は平気!」
言うが早いか、烈剣姫は俺の後ろから消えるように飛び出し、射撃を続ける魔導外殻の頭を跳び越して刀を一閃。コンマ数秒極彩色が輝いたかと思えば、魔導外殻は斜めに両断され地面へ倒れる。
「鉄の塊を、こうも簡単に」
「別に聖剣じゃなくても、伽藍ならこれくらい出来る。そっちも相変わらず頑丈ね。銃弾を通さない身体強化なんて、あなた以外で見たこと無い」
本当に烈剣姫はどうしたんだろう。前は俺の事を魔物を見る様な目で見ていたのに、今はどことなく柔らかい顔だ。
聖剣を持ったことで、この子にも心境の変化があったのかもしれないな。
「でも、マズイか? もしかしてコレが警備員の代わりだった……?」
もし映像や信号をリアルタイムで何処かに送信していれば、俺達の侵入がバレたことになる。その場合は即座に撤退するしかなく、魔法学島の協力者にも面倒な後処理を願わなくてはならないだろう。
「いや七郎、その心配は無いよ」
しかし俺の疑念を否定したのは、倒れた魔導外殻をしゃがんで観察する璃音であった。彼は長い髪を地面に垂らしながら、まじまじと眼を好奇心に光らせる。
「映像を即座に送信するには、ここは魔力が濃すぎる。無線通信は安定しないだろうね。この魔導外殻は設定に従って決められたルートを巡回してるだけだ。頭部のハードメモリを破壊すれば、少なくとも誰が破壊したかの証拠は残らない」
璃音の指示に従い魔導外殻の頭部を踏み潰す。しかしなぜ璃音は見ただけでわかるのだろうか?
「頭の鈍い君に解説してやってもいいけど……その時間は無いみたいだ。ほら」
璃音が示すのは背中側の通路。俺達の来た方向だ。
新手の魔導外殻の気配。ガシャガシャと鉄靴が走ってくる音がする。
「面倒だ。正規品より機動力は無いみたいだし、逃げよう」
「むぅ、さっきは正当防衛だったけど、これ以上壊すのは確かに……いいわ、まだあなたを見張る必要がある。一緒に逃げてあげるわよ」
男と少女に焦燥を与える固い足音。
迷路の奥へ走り始めた2人を照らす非常灯の光は、無意識に笑う少女の口元を映すにはあまりにも弱すぎた。
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