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【明けぬ獄夜に縋る糸】~少女の愛が届かない 異世界と繋がる人外暗躍復讐譚~  作者: 三十三太郎
3章ー運命集う魔法学島

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監視者からの招待状(1)


 人気の無い地下通路は、心もとない照明が点々とあるだけだ。鬱々としていて暗い。

 霊園山異界の秘密通路にも似た無機質の構造は、まるで侵入者を阻むように入り組んでいる。


 「まさしく迷路か」


 俺が居るのは魔法学島の地下深く。ここが島である以上、もはや海底深くと言った方がいいか。

 信じられないかもしれないが、この場所も政府と義瑠土(ぎるど)が管轄するれっきとした設備。魔法学島の魔力循環を制御し、()()()()を各種点検するために造られた空間らしい。

 いくつか設けられている非常用ハッチのひとつを探り当て、祝賀会から帰る足で侵入したはいいものの、あまりの広さに気が滅入る。


 「(でも白旗を嗅ぎまわる人間がいるのはこの先だ。()()が出した俺への調査指示は、必ずメールや書面を介してやり取りされている事はわかった。そのどれもが魔法学島中枢……一部許可された人間しか出入りできない区域からの発信)」


 PCのアドレスや書面発行元を地道に調べ上げた”協力者”のお陰でようやく掴んだ尻尾だ。


 「(サクっと引導を渡してやろう。そうしよう。電気系統を落として、カメラを切って、死体は影収納へ仕舞って終わりの簡単なお仕事)」


 入手した魔法学島の設計データと照らし合わせ、白旗を監視する者が使うPCの位置を割り出したわけだが、当然魔法学島中枢へのエレベーターは使用不可能。

 だからこの点検通路へ目をつけたわけだ。

 ここが入り組んだ迷宮と化しているのは、一定箇所に留まらない魔力力場への干渉距離効率など、あくまで諸々の事情(ゆえ)の結果だ。関係者でさえ、地図がなければ脱出不可能なのだとか。

 入り組みようから死角は多いので、通路に誰かいてもやり過ごすのは簡単そうだが……。


 「地下から島全体を整備できるコンセプトらしいけど、だからってやりすぎじゃないかコレ? なあ璃音(りおん)?」


 返事が無い。静寂だけが場を支配する。


 「――璃音?」


 姿が見えない。途端に焦りを感じて息が引きつる。


 「(……血が)」


 視線を惑わせていると、通路の床に血の足跡がある事に気づいた。跡を追って直ぐそこの角を曲がれば、壁に持たれかかり血だまりを作る璃音がいる。

 変わらず彼の体は、最後に見た瞬間を切り取ったかのようにそのままだ。命は既にこぼれたと言わんばかりの惨状である。


 「……脅かさないでくれよ。何処へいったのかと」


 「ボクの有様を見てまず言うことがソレかい?」


 聞き慣れた声に安堵するが、違和感もある。どうしてか璃音の存在が薄く感じてならない。先ほどの祝賀会あたりから口数が少なくなってきた気がする。


 「何を弱弱しい顔をしているんだい七郎? 情けない。この先で君は殺人を犯すつもりなんだろう。外道に墜ちたのなら割り切って堂々としたらどうかな」


 「うん」


 「……呆れたね。皮肉のつもりだったんだけど」


 「みんなが還ってきてくれるなら、これくらい何度だってこなしてみせる」


 「それで、ボク達が喜ぶとでも――……」


 「でも璃音は手伝いに来てくれた。はははっ、10年前に戻ったみたいだっ。まさかリィンカーネーションの前に、こんな嬉しい事があるとは思わなかった。……約束したろう? みんなで朝日を見ると。生きて帰ると」


 俺は鮮明に覚えてる。絶望に負けそうだった闇夜の下で、皆と感じた希望の光を。

 虎郎(ころう)と、愛魚(まな)ちゃんと、璃音(りおん)が生きていた証だけは忘れるものか。


 「ボクは死んだんだよ七郎」


 「認めない。取り戻してみせる。やり直してみせる」


 「ボクは君が作る幻だ」


 信じない。璃音はここに居る。俺が忘れない限り、魂は世界のどこかに居てくれる。

 そう信じたからこその10年間だ。


 「引き返しなよ。勝也(かつや)みたいに、嫌な記憶を捨てて前に進むといい。七郎を見捨てたことは、まあ、許容してやるつもりは無い。けど人間の生き方としては、勝也のほうがよっぽど健全だと思うね」


 「もう遅い、10年前にやるべき事は選んだんだ。どんなに苦しくても、俺は真理愛(まりあ)の示す糸を掴む。シルヴィアと一緒にだ。……だから璃音、頼むよ……もう少しなんだ……もう少しだけ、昔みたいに一緒にやろう。まだ俺と、一緒に……」


 ……わかってる。この幸せな光景が長く続かないことは。

 段々と璃音の声は遠くなってきている。今の俺に引き留めるチカラは無い。

 でも望んだっていいだろう!? これが、俺が夢にまでみた時間なんだからッ。


 「ふん、今の君に出来るとはおもえないけど……だけどボクは結局、君にとって都合のいい幻だ。役目を果たすまでは後ろで眺めてやるとも。すぐに足元を(すく)われるだろうけど」


 できるさ。やり遂げてやる。その為に準備に準備を重ねてきた。

 理論と素体は完成してる。あとは邪魔をする者を排除するだけだ。


 「不安だね。実に不確かと言わざるを得ない。いま君が狙っている人物はね、君はまだしも、君の協力者が知恵を絞って遂げた情報封鎖を搔い潜ったんだ。そんな人間が杜撰(ずさん)な足跡を残すと思うのかい? これほど分かりやすい罠に吊られて、なおかつ追跡に気づかない今の君には、とてもとても……」


 「追跡っ?」


 ―― っ、しまった


 振り返れば、確かに通路の奥に気配がある。向こうも俺が感づいた事を察した様子だ。

 注意が散漫だった。

 ……いやこの場合、璃音が幻だったとしたら璃音の功績=俺の功績としていいのでは。……つけられた時点でどっちにしてもミスか。


 「誰だ」


 邪魔者が俺の企みに気づいてよこした専門家(プロ)かな。騒がれると面倒……――。


 「何をしようとしているか暴いてやろうと思ったけど、残念。もともと隠れるなんて性に合わないやり方だった……だから直接聞く。どこへ行くの、墨谷七郎」


 「……烈剣姫(れっけんき)


 通路の奥から姿を現したのは、疑いの視線を送る(しろがね)伽藍(から)であった。


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