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【明けぬ獄夜に縋る糸】~少女の愛が届かない 異世界と繋がる人外暗躍復讐譚~  作者: 三十三太郎
3章ー運命集う魔法学島

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久遠の月


 墨谷七郎が混乱した夜会を抜け出して少し経った頃。魔法学島のゲートでは警戒が強まっていた。


 広大な面積を誇る厳重設備の部屋は、丸々すべてが異世界ゲートを警護・安定させる為の空間。主にウィレミニア世界の魔法技術設備でゲートを保持し、100人に迫る人間が常時保全に当たる。

 青白い水面のような巨大ゲートと、魔法設備、魔力干渉保護済みの機械類、そして多種多様な能力を持つ人々が稼働する光景は壮観であった。


 ―― 魔法学島内、電気系統への影響は軽微です

 ―― 引き続き観測を怠るなっ


 だがやはり、室内は慌ただしく騒然としている。


 突如として観測された所属不明の超高魔力数値に、ゲートの警備に当たっていた日本人、派遣された異世界人問わず緊張を強いられているのだ。

 先ほどゲートを渡った真竜ナーヴニルも、ただの人間にとっては格の違い過ぎる存在であるが、彼女は(一応)ウィレミニアからの通達を経て渡来している。緊張はすれども、警戒すべき事柄ではない。

 しかし正体の分からない膨大な魔力は、ゲートを守る者達にとって神経を張り詰めるに十分な理由になるだろう。


 ゲート周辺の魔力数値観測者、警護に当たる魔導隊選抜者達に油断は無い。


 「 Huu u u ム ……」


 では、ゲート制御室を堂々と横断する影たちは何者なのか。

 背の高い獣人が、タキシードの男が、青ドレスのラコウ人が、‘ゴツリ’、‘コツリ’、‘カツリ’と、それぞれの足音を隠そうともしないのは如何なる理由なのか。


 それはゲートを守る人間達が、誰一人として彼ら侵入者を認識できないからだ。


 3人のみならず、他にも微笑みに牙を覗かせる者達が追従し行列を作るが、気に留める人間は居ない。異物を“存在しない”ものとして無視する。

 

 ()()へ、拝謁は許されない


 「 エヴァ。 我慢 して やった ぞ 」



 “ おりこう。どこをなでよう? ”


 

 「 アゴ の 下 が よ い 」

 「 ずるいぃぃ 」

 「 さて……今晩、ご主人様を誰がお迎えするかについてを―― 」


 「待て」


 厳重区域で魔物の行列が闊歩するという異常事態の最中、凛とした制止の声が響く。

 聖剣を携えたメセルキュリアだ。

 清廉と美貌を振りまく銀髪の戦乙女に、ゲートを守護する者達は驚きの目を向けた。


 しかし、それだけだ。


 なぜメセルキュリアが現れたのか。彼女が誰と話しているのか。疑問を浮かべた者は皆無。

 皆、虚脱したようにメセルキュリアを見るか、自分の役割に集中するかして騒ぐ者は居なかった。


 「 ―― 聖 剣 。 見逃して やった と い う に 無粋 なぁ 」


 ノスフォロスは、獣の頭で醜い牙を剝き出しにしてメセルキュリアへ振り返った。

 瞳孔は爛々と殺意に濡れ、殺戮を待ち望むように爪を伸ばす。


 「【黒死卿】、いずれ貴様は討ち果たす。……だが、今は別れの挨拶に来ただけだ」


 尚も怒りを(にじ)ますノスフォロスであったが、後ろに控える“輝き”の仕草ひとつで沈黙する。

 気づけば異色の集団は全て(ひざまづ)き、心からの陶酔を自らの愛する主人へ捧ぐ。

 彼女が歩み差し出す白銀のつま先が、彼女がそよぐ世界の揺らぎが、頭を垂れる吸血鬼達にとって至高の幸福なのだから。



 “ めせるきゅりあ。みおくりたいぎ ”



 「……ただの確認だ。ニホンに紛れ込まれては敵わんからな」



 “ わかってるわかってる、てれちゃって ”


 

 「それと……仲裁感謝する。ワタシはまだしも、伽藍(カラ)にナーヴニルの()()()()は荷が重い」



 ” あたらしい‘せいけん’は、とってももろい。やさしくしてあげるといい。みがくときも――……こわすときも”



 楽し気に彼女の口角が上がる。それだけでメセルキュリアの心に喜びが生まれ……気をしっかりと持ち、耐える。

 月の魅了は、健気な抵抗さえ慈しむように仄暗(ほのぐら)い。


 「(聖剣を向けず、こうして言葉を交わす時点で手遅れかもしれないがな)」


 メセルキュリアはそっと自嘲する。だが彼女との穏やかな距離感が、世界の平和に繋がっていることも事実なのだ。

 ウィレミニア3国同盟にとって無視できない脅威……3大病魔。その全てが、本来魔王と呼ばれるべき器の持ち主。

 エイン=ガガンのノスフォロス、ウィレミニアの深淵粘魔(ショゴス)、ラコウのキク、それぞれが国内最悪の吸血種としてアイテールルの炎からも逃れ得ている限り、全てのヒト種に夜の安寧は無い。

 しかし彼らは世界を大きく犯さなくなり久しい。多少の被害はあれど世界と彼らは、およそ停戦に近い奇妙な均衡状態を保つ。


 それは3魔が、ヒトを愛す銀月へ忠誠を捧げているからに他ならない。

 彼女にとって、贄へ注ぐ嗜虐も愛。温もりを抱く欲も愛。ヒトの運命を生かすも殺すも微笑みのまま。意志も心も思いのまま。

 ヒトの善悪と秩序の外に、彼女が定める価値がある。

 

 本質的にヒトの天敵なのだ。その事実は不変である。

 だからこそ彼ら夜に羽ばたく魔は、彼女の冷たい光に狂うのだろう。



 “ そういえば、あのおもしろいひと……あたらしいせいけんが、ずっとこがれてみつめてた ”



 「おもしろい? ……キモノのご婦人の事か……それとも」



 “ かがやくあのこは、いつかまた。まもってた()()、ないていた()()よ ”



 銀月は噛みしめるように思い出す。入り込んだ魂の世界、誰もが隠す心の部屋。

 そこには裸の、心を写すヒト型の投影があるだけ。覗き、舐めとり、熔かし堕とす事など造作もないはずだった。

 誰もがそうなのだから。魂で形作られた世界の中では、誰もが裸でしかないのだ。ヒトは最も弱い姿をさらけ出すしかない。


 しかしあの男は違った。極々稀に居る、魂にまで火を持ち込める人間。狂っているとも言える。

 

 男はあろうことか、魂だけで剣を、弓を、槍を持ち、驚くほどに抗って見せた。

 獣に墜ちた六腕二脚が、既に失った者達の為に躍る暴風は、遥かニホンまで足を延ばした‘甲斐’を見出すに十分なモノであったのだ。



 “ きっと、いつかわかる ”



 意味深な言葉だけを残し、“月”は背を向けてゲートの前へ。

 メセルキュリアの瞳は青く輝くゲートよりも、全ての光を吸い込みながら唯一の光で在らんとする月光に(くら)んだ。


 跪いていた吸血鬼たちも立ち上がり、月の本質たる闇へ自ら沈んでいく。


 まるで彼女に吸われるように。


 「 い つ か その剣…… 血 で (けが)して や ろ う」


 黒の獣人が、貴種の足取りで闇へと消える。


 血なまぐさい牙のぎらつきに、銀月も牙を見せて微笑み返す。

 月の牙は血に濡れない。他の吸血種とは一線を画す存在であるが故に。

 存在が魔力の暗黒特異点(ブラックホール)。彼女へ捧ぐに血の通貨は必要ない。

 触れるだけで、想うだけで、殻無きチカラは全て我が物。


 「 またいずれお会いしましょう。あなたにも、私達とご主人様のような運命の出会いがあるといいですね 」


 ヒトを偽る粘魔が闇へと溶ける。


 銀月に形を偽る理由は無い。されど少女の面影も無く、輝く姿は極美の淑女。

 月下美人が纏う闇夜は、芸術の枠を超えた美を高める。


 魔の者達が酔いしれる服従の快楽は、深淵すら凌駕する知の泉は、真なる慈悲への親愛は、すべてこの絶世の肉体の中に在る。


 「 おひぃさまとずぅぅっと一緒ぉ。お皿を数えてぇいつまでもぉぉぉ 」


 闇色の肌も、真暗(しんあん)の中ではきらめくように。月光に触れて儚く(かす)む。


 彼女は永遠。彼女は無限。

 遥か遠けき昔日の亡国、忘れ去られた過去の姫。

 血を得るごとに心が混ざり、魂を吸う度に己が増える。

 

 もはや在りし日の意味は失い、今や魔なる者共の月でしかなく。


 ならば至高として生き(死に)、運命を啜る夜であらん。

 恐れるモノは孤独のみ。


 「 喝采 せ よ 我ら の 月 を (たた)える 夜 ぞ 」

 

 闇の中から、病魔達の声が降る。


 (かしず)(かばね)は死せぬ者達


 「 喝采せよ 我らの月を(たた)える夜ぞ 」


 夜に彷徨(さまよ)う愛しき血族


 「 喝采せよぉぉ 我らの月をぉ(たた)える夜ぞぉ 」


 彼らの愛こそ闇夜の居城


 喰らい奉ぜよ 月を染めるは魔の(ほま)

 (こうべ)を垂れて(ひざまづ)け 支配の翼が(とばり)を降ろす



      魔  王  顕  現


      吸血女帝(ドラキュリア) 月下死美君(クラリモンド)

       久遠真祖のエヴァリディア



 “ きゅく、じゃあね ”


 「ああ。ワタシ達の世界へ帰れ」


 “ また‘わえ’も かろりーな のおもいでがききたいな ”


 真夜の闇が、狂おしいほどに輝いて……跡形もなくゲートに消える。


 こうして人知れず、吸血種の魔王は日本を去ったのであった。


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― 新着の感想 ―
xからきましたー しっかり世界観がつくられてる感じがしました₍ᐢ ɞ̴̶̷.̮ɞ̴̶̷ ᐢ₎
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