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【明けぬ獄夜に縋る糸】~少女の愛が届かない 異世界と繋がる人外暗躍復讐譚~  作者: 三十三太郎
3章ー運命集う魔法学島

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脱出行(1)


 鬱蒼(うっそう)とした樹海は死角が多く、根や苔が足元を(すく)う。それだけで訓練された兵士であっても不利な状況になる。


 「ふぅんッ!」


 師団副長ダナンディグは、戦時に置いて“大鬼将軍”と恐れられた剛剣を遺憾なく振るう。

 彼は馬の背に無い。ウィレミニアで軍馬として調教される“一角馬”から降りて戦っていた。

 

 「っ、今度のはデカいのうっ」


 得意の騎馬戦術は森の木々に阻まれるも、下馬し戦えば剣の威力はむしろ倍増。一振りで眼前の魔物……人間より巨大な“大赤蠍(スカーリオグ)”の(ハサミ)と尾針を粉砕した。


 「むぅ!?」


 しかしダナンディグは瞠目する。振り抜いた大剣を、周りに生えた樹木の一本が止めたのだ。


 「本気のワシの一撃で切れぬ()じゃとっ?」


 樹自体も大木ではない。そこらに生えるような、子供でも手を回せる太さのモノ。

 当の樹木は傷こそあれど、皮二枚程度の食い込みで剣を受け止めている。鉄と同等の甲殻を持つ“大赤蠍(スカーリオグ)”を粉砕した自慢の一撃が、木の1本を両断できぬ訳がない。


 「この樹……“霊樹”の若木か!? 周り全てがッ?」


 驚き、動きを止めてしまった数秒の間にも、兵士たちの悲鳴は多くなる一方。ダナンディグは剣を振り、魔物に対抗し続けながらも頭を動かす。


 「(霊樹などっ、そこらにほいほい生えはせん! ウィレミニアでも世界樹の森――くらい、にしか……)」


 霊樹は、その希少性と扱いの難しさから、伝説級の素材として市場にも殆ど出回らない。しかし加工に成功すれば、無類の魔力伝導率と強度を誇る。


 嫌な考えが浮かんだ。線と線が繋がるように、最悪な答えに近づいていく。


 「(じゃとしたら、(しん)此処(ここ)は世界樹の森ッ? だ、だがワシらの居た場所からは馬で1か月は掛かる場所じゃ。森に入った覚えも、近づいた覚えもない! ……転移かっ?)」


 転移魔法は存在は知られているものの、どの国でも秘術中の秘術として扱う。

 魔術への研究が特に盛んだった戦時中であっても、転移魔法を自由に扱えた話は(つい)ぞ無い。


 「(ええいッ、ここに至って可能か不可能かなどよいわッ!! これは(はかりごと)じゃっ。なぜ? 誰が? エイン=ガガンか? 不可能じゃ。ワシらは真竜城を出発し2週間――ウィレミニアのど真ん中におった! ヤツらが大規模な術をしでかせる場所ではないッ)」


 そもそも、本当に転移魔法なのだとしたら、この規模の軍を巻き込める存在など、世界広しと言えども限られるはず。

 木々のせいで確認できないが、周りに兵士は多い。おそらく同行した第1師団半数の殆ど、もしかしたら丸ごと全部が森に居る。


 これが可能な術者……例えば、偉大なる真竜と……。


 「(――魔法に長けた、世界樹の森に住まう不老の種族。……今ワシらを襲う魔物の大軍は、どこから湧いた? 世界樹の森は彼奴(きゃつ)らの国……本来、こんな魔物共など()りゃせん! それに、ラコウへの遠征路や日程を指定したのも……――! )」


 方法は知らんが魔物を外から用意して、油断したワシらを餌として放り込んだ。


 「軍としてまとまるを防ぐが狙いか! 確かにここ(樹海)では“破陣槍”戦術も使えんっ、速度が出せんわいっ!」


 予感を確信に変えながら、再び魔物へ剣を振り下ろす。


 ―― ダ、ダナンディグさま、なぜっ?


 「む、むうう!?!?」


 傍に居た兵士の呆然とした声に我に帰れば、剣の下に在ったのは師団兵士の死体。


 ―― あ、あああっ、魔物が、仲間に変わってぇ!?

 ―― き、気を付けろーッ! 幻覚魔法だ、同士討ちさせられてる!

 ―― な、っ、ぐあああああッ、こっちはホンモノだッ


 「あ、悪辣(あくらつ)なあああ! やってくれおったな!? ワシらが近衛師団でも、攻めに特化した編成であるを知ってからにッ」


 第1師団には魔法を解析・レジストする術師が少ない。それは近衛第3師団が専門として担う領域。

 終戦後の訪問であるからとラコウを刺激せぬように、カロリーナ様を守護する術師を除き、大規模魔法戦を想定しない編成で来たことが裏目に出た。


 「(もしや、それすらも……!)」


 ダナンディグは心からの怒りに震える。

 同時に、木々を縫うように降る攻撃魔法の先……自分達の弱点を知り責め立てる、恥も情けも知らぬ裏切り者へ()えた。


 「カロリーナ様を邪魔と断じたかッ!! (たばか)りおたなッッ、こぉの女狐があぁぁぁぁッッ」


 ダナンディグの元へ、膨大な数の魔物が殺到した。


 ・

 ・

 ・


 「――退路が必要だ」


 ―― カロリーナ様っ、馬車に戻ってください!


 「断る。窮地に戦わずして何が主君かっ。何が聖剣か!」


 ―― あなたの腕ではっ、もう聖剣は


 「剣技は失っても、聖剣の魔力は健在だ。あとは、ワタシが痛みに耐えればいいだけの事! ―― 【聖剣 抜刀】ッ」


 ―― カロリーナ!


 自軍は明らかに劣勢。魔物の襲撃による混乱から抜け出せていない。形勢を変える一手が必要であり、カロリーナにとってその一手とは、聖剣の魔力に他ならない。

 カロリーナは膨大な魔力を聖剣から放出させ、自らの存在を彗星に変える。

 

 跳びあがり上空から見る景色は、“当たってほしくない予感”が現実であると彼女へ突きつけていた。


 「(もしやと思ったが、やはり世界樹の森!)」


 乾燥地帯に生息するはずの“大赤蠍(スカーリオグ)”、ラコウの山奥に棲むという“悪手(ゴア)肉百足(センチュピュリオ)”、光無い洞窟に住まう“半人魔蛇(ラーミア)”。

 本来決して生息域の重ならない魔物達が一つの場所に集結し、示し合わせたように兵士だけを襲っている。

 さらに遠方から降り注ぐ攻撃魔法と、悪質な幻覚魔法のオマケつきだ。

 

 人為的に集められた、子供でも名を知る強力な魔物。膨大な魔力が無ければ成し得ない広範囲魔法。

 なにより突然連れてこられたこの場所が、黒幕の正体と覚悟を悟らせるのだ。


 「(()()()は証拠を完全に消す準備を整えたに違いないっ。ワタシを含め、皆殺しにする気だ! ――思い通りに殺されてなどやるものかっ。必ずこの窮地、脱してみせる!)」


 腕の黒傷が、聖剣の光を恨むように激痛を与える。

 しかしカロリーナは痛みに一切ひるまず、むしろ聖剣の光を増して霊樹の森を切り払う。


 「【彗天聖剣ヴェザルディカリバール!!】」


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