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【明けぬ獄夜に縋る糸】~少女の愛が届かない 異世界と繋がる人外暗躍復讐譚~  作者: 三十三太郎
3章ー運命集う魔法学島

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微睡む姫は土の中


 冷えた闇沈む土の中。骨は在るべき場所に。しかし魂は妄念と共に。

 救いは、愛する男を胸に抱くこと。

 

 これが運命だというのか。なぜ愛する者達にまで、身勝手な悪意を向けたのか。


 恨みに狂い、世界を濁し、(まぶた)の裏の空洞が魂の嘆きに鳴いている。

 見るモノ全てが輝いていた、美しい思い出を映す眼球は、腐り落ちて血に溶けて。


 記憶。人生。過去。途切れ途切れの魂の揺らぎは、怨念の源だけを繰り返す。


 土の重みにひび割れる音を、決して止まない怨嗟(えんさ)のかわりに。


 ・

 ・

 ・


 「どうぞカロリーナ様、馬車の用意はできております」


 仰々(ぎょうぎょう)しく(じぃ)やが手を差し出す。ただの慣習だろうが、今更ダナンディグに目上扱いされると、いささか気恥ずかしい。


 「馬車なんて無くともいいけれど……」


 「なーにをおっしゃいますか。エスコートする爺の楽しみを奪わんで下され。それにカロリーナ様が小さい頃は、“お姫様みたいな馬車がいい”と駄々をこねておったではないですか」


 「蒸し返すなッ、もう……これからラコウへ出発だというのに」


 「輿入れを断る為に、当の本人が直接出向くなど剛毅な事で」


 「()を通そうというからには、誠心をもって向き合う他ない。それがワタシのやり方だ。……王にも承諾いただいている。幸いラコウも、ワタシの返答で殺気立つ様子はないと聞くが……」


 「(まこと)で? ラコウの連中は一度決起すれば、死兵になるを(いと)いませんからなぁ」


 「外交づての確かな話だ、間違いないだろう」


 馬車は真竜城を出発し揺れ始める。ラコウへの遠征など、飼いならした亜飛竜(ワイバーン)でワタシだけ移動すれば済むことなのだが、外交使節としての体裁を求める周囲が良しとしなかった。

 ワタシの率いる師団の約半数を連れ、周辺都市を慰撫しながらラコウへ向かう旅路となる。


 「(ウィレミニアを横断していれば、ラコウへの港に到着するまで2ヶ月はかかる……)」


 馬車の中ひとり溜息を付くが、実はそこまで長期の旅路に悲観している訳ではない。


 ―― 大丈夫ですか?


 「馬車に慣れていないだけだ。問題ない」


 ―― 腕の傷に障りがあれば、すぐに言ってください


 「ワタシはそこまで(ヤワ)じゃないぞハインリヒト。……しかし……道中、呪いの類に効く霊泉の湧き出る村があるらしいな。そこには多少長めに滞在しようか……護衛はお前だけにして」


 ―― 旅行みたいですね


 「 ハ イ ン リ ヒ トォ、護衛中に気を抜くとはいい度胸じゃ。お主には遠征中も基礎訓練3倍メニューを課す」


 ―― お、お許しをダナンディグ副長ッ


 「はっはっは! がんばれハインリヒト」


 ワタシの傍にはハインリヒトが居る。爺やも居る。

 死線を共に潜り抜けた、精強な兵たちが居る。


 幼い頃は、聖剣を振るうだけの生涯だとも嘆いたが……存外、ワタシの道行(みちゆき)は殺戮だけに(よど)まなかったらしい。

 

 多くの者と信頼し合えた自覚を、唯一の人を愛せる喜びを知る今に、なんの不満があるというのか。


 「(ダンスの秘密練習が出来ない事だけが、不満といえば不満だが……城に帰った後また始めればいい)」


 “きゅくく。すきなひととは、いっぱいおどりたいもんね? ‘わえ’こいばなだいすき。れっすん、はりきっちゃうから!”


 ダンス講師については、立場的にはよろしくない人選だろうが……元々ハインリヒトを驚かせたいが為の、秘密の練習なのだ。

 気の遠くなるような昔から世界を()()()()、ヒトに恋し恋される()()()を憎むなど、ワタシには始めから出来ない。このまま彼女に対して、聖剣を振るう機会が訪れない事を願うばかりだ。


 ワタシの心は、戦いに彩られた生涯に咲く、初めての安寧に(はな)やいでいる。



 ………………………………だからだろうか?



 ―― 警戒しろ!! 伸びきった陣形を整えるんだッ

 ―― どこだココ!? さっきまで交易路に沿ってたじゃねぇか!?


 兵たちの悲鳴が聞こえる。


 「どうなっているんじゃッ。なぜワシらは“森”に居る!?」


 爺やの、かつてない焦りが伝わる。


 ひと時の安らぎを求めたのが、間違いだったのか?

 

 ―― ま、魔物だあぁぁぁぁぁッ

 ―― これしきっ騎士の名に懸けッ、ぐ、ぐあああああっ?

 ―― っ、魔法が、正確に我らを狙ってッ? 魔物の襲撃ではないのか!?


 もしくは、これが人並みの生を夢見た罰だとでも?


 「カロリーナ様を守れッ。よいなハインリヒトッッ」


 ―― 無論!!


 鍛えたはずの五感、戦歴を経て学んだ危機への予感が、なぜこの時ばかりは沈黙したのか。

 それはこの四面楚歌が、綿密に、油断なく、埒外の術技を以て準備された罠であるからに他ならない。


 突如広がる、押さえつけてくるような樹海。

 不可思議に現れる、血に飢え狂う魔物。

 自然を手繰り、有利を以て不利を悟らせる、冷酷無比な攻撃魔法。


 “ もはや 決しました ”


 寒々しいまでに平坦な、悪意の声がどこかで響く。


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