「“クビシメロマンチスト“みたいな殺人鬼になっている」
あの惨劇から、およそ3日後。
休日を挟み、その休日を大体の生徒は寮で過ごしたことだろう
俺の気持ちこそは落ち着いていないが、事態はどうやら落ち着いたらしい。
殺人鬼の学校。殺人鬼育成学校。
この学校に何の意味があるというのだ。
この国は何を考えているのだ?
人が、人の下半身が、目の前で。
それについて謝罪はないのか?
生徒の治療費はどうしてくれる?その生徒の親は何を言えばいい。どこから言えばいい。
一生をかけて償え。
「いやっほう!メガネっくんおっはよ〜」
だが木っ端微塵になったとしても特越した再生能力があれば話は別らしい。
「朝からお元気ですね」
「いやあ〜それにしてもこの学校の寮はいいね!ほんっとにさ!朝飯に露天風呂!しかも色んな娯楽までついててさあ!最っっっっっっっっっっっ高だよおおお!ほんと朝イチで風呂頂いちゃった★」
これから殺戮マシーン共が世に放たれようとしているのに、こんなに豪遊させてもいいんですか?いいんですか?全く、この学校が存在する理由が本当にわからない。こんな学校今すぐ爆発してしまえばいのに。
先ほど彼女が言ったように、学校寮の設備は本当に素晴らしいものばかりで、簡単に例えるなら、自分の家が大型ショッピングモールになったみたいだった。ゲーセン、温泉、フードコート(食堂。それも結構いい感じの料理)、アパレルに、映画館。あげたらキリがない。とにかく素晴らしい。何なんだ、この気持ち悪さは。
俺らを全員罠に嵌めようとしているんじゃないのかと思うほど、不自由ない学校寮だった。
しかしやけにテンションが高いなこいつ。そして女の子なんだから“朝食“と言いなさい。朝飯なんておっさんくさい言い方はしなくて良い!ばかやろッ!
「どうだ?埜真子、下半身の具合は」
「や〜んメガネくんのえっち〜」
見る限り感度ビンビンらしいな。それで結構。
「てかさ、お前人間なの?」
「n Nー?」
「きっも声」
あまりにも機械すぎる声だった。
「あ“あ“ん“!ちょっと風邪ひいちゃったかな?この前やっぱりパワー使いすぎたのかなあ?」
使いすぎていたと思いますよ。
「大丈夫なのか?」
「だいじょ〜ぶ」
「てかメガネくん、名前はなんていうの?」
今更である。
「ずっとメガネメガネって呼びやがってたもんな」
「やに?イヤだったの?」
タバコか?
眼鏡をかけている人間の率直な感想を申し上げると、自身の固有名詞がメガネになってしまうのは、些かムカつくのである。俺はそれだけじゃない!もっとチャーミングなパーツだってあるんだっていうことを、目の前にいる人々に説きたい衝動に駆られてしまうのだ。
「まぁメガネもかわいけどね」
あう。
さすがのおれも、そんなこと、いわれるの、ハジメテ。きゅん。
「けど君のメガネはびびってるけどね!あはははははあはは!」
俺のメガネはエレキギターじゃねぇよ。
てゆーか。
このままだと、物語が早くも終わりを迎えそうだ。俺たちの物語と言っても、たいした話にならないんだろうけれど、でも、殺人鬼育成学校に普通の少年が入学してしまうというだけで、十分インパクトのある話(人生)だと思うけれど、実際のところどうなんだろう?いや、どうでもいいか、誰も俺の人生なんて興味ないだろう。
というか、人がたくさん死んでいるこの環境に慣れてしまっている自分が怖い。
あれだけの死体を見続けていた妥当な順応ではあるのかな。
だがそれはつまり“素質“があることを意味しているのではないか。
『あなたたちの命がどうなろうと、私たちの勝手です』
校長は先日GA◯TZみたいなことを我々に言った。
敷地内から半径一キロは出ることを許されてない。
もし出たとしたら、どうなるかはわからない。多分、想像を絶することだろう。
あの後どうなったかというと、埜真子の体はみるみるうちに再生し、すぐに起き上がってガッツポーズをかましていた。勝ち誇った大声で「FUUUUUUUUUUUUUUU」と叫んでいた。
俺の目には彼女がゴルフブランドのロゴに見えていた。なんてタフなんだ。この女は。見た目に反してさ。かくいうこの俺は血まみれで尻餅をついていたというのに。上半身を支えるだけで精一杯だったのに。
そうしてゲームは無事(?)終焉を迎え、俺たちはクリアすることができた。あの鬼ごっこで死んだ奴らは概ね5人程度らしい。あの瞬間で5人も亡くなったのだ。あいつらの手によって。
生き残った他の生徒は偶然近くにあった地面と同化していたシェルターを発見し、そこにずっと隠れていたらしい。俺たちは仲間には入れてもらえなかったようだった。
つか、よう見つけたなそんなん。
やはり俺はもうこの学園から逃れることができないのだろうか?
死ぬか、卒業するか。
この2択は、実際のところ他の学校でも用意される2択だろう。この現代社会において。
*
すみませんでした。
私にはもう耐えられません。
人を殺すなんて。
楽しくありません。
もうしたくありません。
*
さて。時刻は昼休憩の後半戦と言ったところだ。
なぜ女性の死体が男子トイレの個室にあるんだ?
相場は女子トイレだろう。
しかし、このままでは、まるでオレが殺したみたいになってしまわないか?
首のあたりに索溝がある。これを見るだけで大体死因がわかる。
この死体、どこかに違和感が……?
それはそうと。
殺生してはいけないことはない。今までの任務とボスから学んだ。
そういう価値観を持っている奴らが蔓延っているこの学校にこのような状況があったら、
例えるなら、この前図書館で読んだ、“クビシメロマンチスト“な殺人鬼になっているみたいにオレは見えてしまっているのではないか。
「うわあああああ!クビシメロマンチストが現実にいたのかああああ!?」
は?
「お前……お前かあああ!」
横に並んでいる真ん中の個室から、そこにはやぼったい黒縁の眼鏡をかけた天パが用を足し終えて出てきたようだった。そいつが今、「クビシメロマンチスト」といったに違いなかった。だって後ろにはそいつしかいなかったのだから。
「違う。オレがやったのではない。やったのは他の誰かだ」
「この状況において、そのような発言はいかにも犯人が言いそうなセリフだけど、実際のところ、あまり犯人がそんなセリフを言っているところは聞いたことがないから、多分、犯人じゃないんだろう…?」
「ああ。」
「うん。」
…………………………………………………………。
「ていうか、どっかで見たことあるような…鬼ごっこで最後喚いてた…」
「ああ、それは双子の兄だ。」
「えええええええ双子なの?」
「そうだ。お前が見たのが風神でオレが雷神だ。」
「なるほど……」
「と・り・あ・え・ず、この状況はまずいよな!?俺はただ用を足してただけだったんだがあああ!?」
「てゆーか、お前も、もちろん殺人鬼なんだよな?」
「いや、俺は殺人鬼じゃない。」
「え?」
「厳密にいうと、この学校は殺人鬼志望で蔓延っているわけではないんだ。」
「どういうことだよ」
「人を殺したことがあるか、人を片手で数えるほどしか殺していないか、そのどちらかに当てはまる奴らがほとんどなんだ。」
「やけにみんな死んでいくなと思ったら、殺人ミーハーだったってことか?」
「……おそらく、そういうことなのかもな…」
「じゃあお前は何志望なんだ?」
「暗殺者志望だ」
「そうだったよな…?」
そうだったよな…って変わった口を聞くやつだ。風神とリンクさせてんのか?奴と交流があるのか?
「あ!ちなみに名前はなんだ!?」
「……だから雷神だって。」
「ああぁ!そうだった!雷神ね!うんうん!古風でイケテンネェ!」
「ちなみにコードネームはアバランチだ。」
「それはどこからが苗字で名前なんだ?」
「厳密にいうと、ア・バラ・ンチだ。」
「ヴァスゴ・ダ・ガマみたいな感じなのな」
「誰だそいつは?新人か?」
「新人かと問うあたり、どうやらお前は“本物“みたいだな。安心しろ、簡単に言えばとても野心家って意味だよ!」
「そうか」
「うん」
……………い 感……な……………。
「今なんか言ったか?」
「いや?」
「そうか。だが言いたいことや思ったことがあるのならはっきり申してくれ。折角会話しているのに、心を閉ざされてしまっていたら、オレも気分が良くない。」
「いやいやいやいや!本当に何も考えていないんだ!本当に!何も!いやーなんか、初めての環境に身を置いているものだから、ちょっと緊張してるのかな〜〜〜〜」
「まあ、無理もない。自殺か他殺かもわからないミステリーのようなこの状況に、慣れているほうがおかしいからな。名探偵でもない限り。」
「オレが思うに、これは自殺にしては理解し難い状況だ。」
「というと…?」
「まず、なぜ“男子トイレ“に死体があるのか。」
「まあ、そこだよな。この時点で他殺ってことなのか?」
「十分そう考えることができるだろう。」
「うーん、一体何のために…?」
「何となく“事故“のようにも見えるけど」
「事故?」
「なんかの拍子で死体がここに現れちゃいました!みたいな」
…………………………………………………………。
「…俺が一番出口側の洋式便所に入った時にはまだ“死体は存在していなかった“。」
「はぁ?」
「なにぃ!?」
……………………………………って、
「何でお前がいるんだよ!!!!ここ男子トイレだぞ!」
「ってかいつの間に!?」
「何言ってんだ!早くどっかいけ!」
「はあぁ!!?うるせえよ!バーカバーカ!」
「んだと?があああああ」
「…………。」
女が一人増えた。
「えぇええええええええ!てかそれ何?だれ!?死体?やっぱり死体だよねぇええええ!?うんうんうんうんうんうんうんうん!これは確実に死体だ!首に跡がある!トコラおばさんの時とそっくりだもん!」
そう叫びながら彼女は死体に近づく。珍しいものに釘付けの猿のようだった。
「おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいそんな近づくなよ!」
「えーなんで別にいいじゃん中々こんな間近で自殺死体なんて見られることはないんだよ!?」
彼女はその死体の元へ行き、体を弄り始めた。
「というか、何で一目見て自殺だと分かったんだ?」
静寂、男子トイレでの静寂は、肌寒い。
「まあ、何人も殺してきたからね。それぐらいは。縄の跡があるし。直感で自殺かなって。」
「否、否、否。それだけでは自殺だとは断定できないだろう。しかも現場は“ここ“だ。自殺場所にわざわざ選ぶなんて、あまりにも不自然じゃないか?首も吊られてない。」
「そうかなあ。自重で縄が緩んだのかもよ?目立ちたがり屋だったのかもよ?そういう性癖だったとか!」
「否、先ほども言ったが、オレが個室に入ろうとした時にはまだ死体がなかったんだ。」
「えーじゃあ犯人はまだ近くにいるんじゃない?死体だけ置いて、その窓から逃げたのかも!」
彼女は窓を開けて外に指を指す。
「ほら!ちょうど人間が飛び降りても大丈夫な高さだよ!」
その高さはおよそマンション五階分の高さがあった。
「いや無理だろ!死ぬわ!」
「えー私はまだ許容だと思うけど〜」
「まあ、オレもそう思うが。」
「え、えなに、俺がおかしい感じ?」
俺はある一つの違和感に気づいた。もっとも身近で、なおかつ一番最初に目がつくもの。
本来首に絡みついている“凶器“がないのだ。
「あれぇ!?本当だ!確かに無いなんで気づかなかったんだろう?あっしとしたことがああ」
「ほんとだ!ない!よく分かったね!」
なんか喋り方が癪に触るな。
「………ってことは他殺…しかないよね?誰かが別の場所で殺して、その子をここまで運んできたってことだよね?」
そう考えるのが自然なことだろう。
「うっそーん…。つまりはこれって、殺人事件ってこと?」
そうなるな。
「ねぇ、じゃあどうする?」
「どうするってなんだよ?」
「このままにしておく?」
「見なかったことにするってことか?」
「だってそうするしかなくない!?こんなとこ見られたら、うちらが真っ先に疑われるに決まってるじゃん!」
「てゆーかお前ら今までたくさん人殺してきたんだろ!?じゃあ処理の仕方も知ってるはずだろ?」
「そんなのわかるわけないよ…」
「何でだよ!」
「だって基本的に業者に頼むのが常だもん」
「はぁ!?」
そう。その通りである。
我々同業は、任務の後、大体処理班を現場によこして、後片付けは彼らにすべでやってもらっている。この世界では常識なのだ。
だから、誰も“その後の始末“の方法なんて、知るはずがない。
「否、ここはとりあえずこの場を去るしかないだろう。今の最善の策だ。もうすぐ修業のベルが鳴る。」
「そうだね!私たちは巻き込まれた側なんだし!見捨てても何の罪もないよねん!」
「そうしよう。南無三!」
そうしてオレらは男子トイレを後にした。
普通の人間なら罪悪感を感じるのだろうか。
オレはあいにく、脳のアーモンドを誰かに食われてしまったために、そのような感情を持ち合わせていない。
まあ、人生の一興ということにしておこう。多分これから面白くなる。
耳が痛くなるほどのベルが鳴った。
*
彼らがいなくなったことを確認して、再び男子トイレの中に入った。
「これどうしたらいいんだよ……」
俺は少し鼻頭からずれ落ちた黒縁の眼鏡を直した。




