「普通に生きていれば聞こえるはずのない、人体破壊衝動の軋轢。」
鬼ごっこ。
それは全世界の子供達界隈で親しまれている有名な遊び。
現代では鬼ごっこの世界大会も開催されているらしい。
鬼役が逃げ役を追いかけて、タッチされたら鬼交代という超シンプルなゲーム。
その鬼ごっこを、高校生にして、俺は今、命がけで行おうとしている。
なぜかって?
言わなくても高校生が鬼ごっこをする理由はただ一つ。
こんなところで殺されたいはずがないからだ。
「あいつらまじでやばかったんだぜ?こう、目の前で人の腕に噛みついてさ」
「うわーあの子殺したやつだ」
「あんとき身代わりがいて助かったと思ってたんやけどなあ」
「キチー見た目がな〜」
「でもおっぱいめっちゃでかいぞ」
「何!?」
「殺されたくない殺されたくない殺されたくない殺されたくない殺されたくない」
「まア、いけるっしょ」
「アレになら殺されるのも悪くないな」
「いざ!頂きへ!」
「逆に殺すのありっすか?」
十人十色の意見がグラウンド中に飛び交った。
くそったれ。
本当にやるのか?
やるしかないのか。この殺戮審判を。
「ブラああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
咆哮。近隣住民が観にくるぞ!!!
「グラウンドはグラウンドでもハリボテのグラウンドですから、近隣住民への心配はありませんよ」
なんで心の声バレてんの?俺独り言でかい?ねぇでかい?
「それでは、よーい、」
嘘だろ。まじかよ!
ゴクリ。一瞬で身体中に悪寒が走る。こんなところで殺されるわけにはいかないんだよ。
「スタートと言ったら始めてくださーい!!!」
みんなお手本のようにずっこけた。
あいつぶっ殺す。
「はいスタート」
え
その腑抜けた合図と同時に、馬鹿でかいホイッスルが鳴った。化け物たちが一目散にこちらへ向かってきた。鋭い鉤爪を輝かせらがら、大きな八重歯をちらつかせて血眼で走ってくる。彼とは目が合っている。一方デカパイの魔女は、大きな大きなさくらんぼを軽く指揮しながら、原付のように声を上げながら向かってきていた。
俺と目が合っている? 俺と目が? 合ってしまった?
「殺してやるうううるるるるるるるるるるるるるううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううウヒョヒョヒョヒョ0yヒョyヒョッyヒュゆゆゆゆrヒィごえr御;えlgskflgsgせおfぐぇがえfjsんwlgwぷgtght」
言語ですか!?言語なんですか!?それはおい…!
「メガネきゅん!ほら走る走る!」
「んなもんわかってんだよおおおおおおおおおおおおおおお」
走る。走る。俺たち。
流れる涙をそのま〜まに。
「うっわあああああああああああああああ」
「ぎゃあああああああああああ」
グチャア。ブギチュゥア。
背後で卵が快楽のように抉られる音がした。それだけじゃない。どんどんその音はこちらに近づいており、おそらくもう耳元まで来ていた。
普通に生きていれば聞こえるはずのない。人体破壊衝動の軋轢。どうしてこうなってしまったのだろう。この瞬間に俺は考える。もうどうしようもないことだと、そう、俺は考える。でも俺はそれらを拒否する。どうしよう。どうしよう。いや、どうしようもないのだ。多分こいつらは、脳を破壊しないかぎり、一生俺たちを殺しにかかってくるだろう。だとしたらそれはもはや俺たちは殺されているとほぼ同義ではないか?そんな理不尽な。あんまりですよー。
鉤爪が俺の制服の袖を掻っ切った挙句に、避けようとした俺は、バランスを崩してよろけてしまった。素早く体制を立て直し、俺は走り出した。早くも大ピンチ。
ピンチはチャンスという言葉があるが、あくまでも言葉に過ぎないので、実際には何の効力もないことを知る。
もうヤダヤダヤダやだやだやだやだヤダヤダヤダヤダ!!!死にたくない!死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくないんだってばあああああああああああ!
俺はしがないただの高校生になって普遍的なハイスクールライフを送るはずだったんだよおおおおおおおおおおおおおお!!!!!
えっ。
あっ
頬に伝わる、生暖かい感触。
ああ。振り向く暇もない。あまりにも早すぎる。
食われる瞬間ってスローになるものなんだな。
ああ。
化け物に喰われて死ぬなんて、どんな人生の顛末だよ。
走馬灯が見えてきた。
俺は、薄暗い部屋にいる。
けれど、時々、辺りが白く光っている。なんだこれは。
走馬灯ってこんな感じなのか。
ああ。もうすぐ俺の体が食いちぎられる。
そうして、無数の人間が仰向けになっている俺を見下ろすように佇んでいた。
「だーかーら。すぐ諦めるのは君の悪い癖なのかな?KANA?」
ヤツの口が閉じ俺自身が栄養になる前に、俺はお姫様抱っこされていた。
「うぉおおお!って、どうなってんだああ!?」
「君をお姫様だっこしてるんだよ〜」
頼りになる女だ。じゃなくて!ど
「走りながらお姫様抱っこすげええええええええええええええええええええええええええ」
「これぐらい朝飯前〜だっちゃ」
うる星やつだな。
「うぉぉぉぉぉおぉぉぉぉぉおぉおぉおぉぉおアガガガガガガ」物理的には到底あり得ないスピードで移動しているため、その分振動がえげつなかった。
「あはははははははははははは!おもしろ〜い!」
しぬ。これはこれでしぬ。
「助けてえええええええええええええええええ」
「ちょっと!せっかく助けてあげたのにそれはないでしょ!」
「そっれはっっっめちゃあああありがたたったっったったいけッドッドドドそっれにしてっもこれはどうなんだああああああああががががっガガガがガガガガ」
「あはははは!まじうけるうううううううううううううう」
いやお前もかよ。
しかし。
こっからどうすんの?先生なんも言ってなかったよな?最初から俺たち全員殺すつもりなのか?
「今から殺すよ!」
「えぇえ!?」
「あいつらを殺すの!もうそれしか思いつかないんだもん!」
「殺せるのかあ!?」
「殺すしかないですよ〜ん!!!」
「どうやってえええええええ!?」
いやほんとにどうやって?
俺をお姫様抱っこした状態でどうやって殺すの?
その時、アナウンスが流れた。
『2体の化け物には、制限時間付きの爆弾が搭載されています。制限時間が0になるまで逃げ切ったらクリアです。』
急にデスゲ?まあ今に始まったことじゃないか。つか言うの遅過ぎだろ!卑怯者があ!
「よし!じゃあタイマーが0になるまで逃げ切ればいいんだね!そうしたら勝手にあいつらは死ぬんだね!」
すると後方からヤツらの咆哮が。
『ええええええええええええええええええええええさdsfん°fbwうえfbw3上bf3』
いやこの感じ絶対聞かされてなかっただろ。
ええええええええって言っちゃってんじゃん。驚いちゃってんじゃん。
つーか制限時間ってどのぐらいなんだ?
ったくほっっとに不親切だなあ!この社会の掃き溜め学校はよおお!
「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す」
殺気やば。
「おい!グラウンドはもう厳しくないか?とりあえず校舎へ隠れたらいいんじゃないか?」
「だめ!うぉっと!」
「なんでだよ!」
「今校舎に入ると先輩たちの邪魔しちゃうでしょ!」
そこは意外に律儀なのな。
「おい!化け物!」
ん?
「僕のところへ来るがいい!」
指定の制服が華奢な体にえらく似合っており、首周りに水色のマフラーを巻き、黒の革手袋を身につけ、髪色がワインレッドの美形な少年が、俺らの数十メートル先に仁王立ちしていた。
あれ?
気づいたら、周りには人間が俺らと少年しかいなくなっていた。みんなどこいった?数分しか立っていないのにも関わらず、なんで誰もいないんだ?
「お前のことなんてぶっ殺してテメエらのハラワタを犬と一緒に鍋に入れて食ってやるよ!」
見た目に劣らず、エキセントリックな美男子だこと。
挑発されたヤツらは、ビダッと動きを止め、彼の方をギョロリと目線を向けた。
静寂。
グラウンドに先ほどの砂ボコリが舞い上がっていた。決闘の合図のようだった。
両者見つめ合う。一瞬の隙もない。
果たして彼は何者なんだ?
彼に勝ち筋は見えているというのか?あいつらを目の前にしてか?
あと俺はいつまでこいつにお姫様抱っこをされなくちゃいかんのだ?
「ぅううううううぅぅぅぅぅ…………」薄気味悪い声。
「しぃぃぃぃぃぃぃシャァぁあああああああぁあぁ」今朝の妖艶さが一ミクロンも感じられない薄気味悪い声。
「さあ、迷える子猫ちゃんたち、僕のところへ来なさい。」
………………………………奴らは少年をフルシカトした。
「おいいいいいいいいクソブスがあああ!」少年、いいツッコミだ。少々口が悪いが。
「おい!お前ら!僕をシカトするとはいい度胸だな!なんだ?今朝お前らの仲間か知らんが、全身の骨が全くないババアを焼き殺したからか!?いいか、僕が本気を出したらすっごいんだぞ!僕の特別なパワーでお前らをころ…」
「えなにあの子可愛いけどキッツいね」
「はははははははははは笑笑笑そんなこと笑言ってやんなよはははははっは!あと俺いつまでお姫様だっk」
「まずい!」
「うぉお!」
八重歯の化物が俺たちを踏み潰そうとしたが、間一髪で避けた。その拍子に吹っ飛ばされ、俺は足を挫いてしまったようだった。よりによって右足だ。これはきつい。
「メガネくん!大丈夫?」少し遠くから彼女が声をかける。
「これが大丈夫に見えるかああ!!?」
化け物とは目と鼻の先だった。前方には八重歯の化物、後方にはデカパイの魔女。右にはエキセントリックな美男子、そして左にはニュウドウカジカ。あまりにも四面楚歌すぎやしないか?
埜真子が駆け寄って来てくれた。
「しっかりして!メガネくん!」
「痛い痛い痛い痛い痛い痛い!優しくしろおお!」
「十分優しくしてるじゃない!ほらっ」
「あぁああああああああああああああ」
断末魔が響く。
俺の足が彼女の治療(?)によってより破壊に拍車をかけている最中ではあるのだが、あいにくそんな掛け合いをしている状況ではなさそうだった。
遠く美男子はずっと何かをほざいている。早くこっちに加勢してくれてもいいんじゃないか?何だ、敵だって、ある一瞬の瞬間だけ味方になることだってあるんだぞ?
ああ、本当にまずい。徐々に距離を縮められている。そう、遊ばれているのだ。我々下等生物は今、本能を剥き出しにしたゲキつよ生物に狩られようとしているのだ。
「くらえ!マスタースパーク!」
え?でるの?まじ?
「出ないか〜」
んだよそれ!
こいつはよくこの状況下でそんなことを言えるもんだな。
そうして、我々は奴らの胃のなかへ入ろうとしていた。
もう、終わりなのか。視界が暗くなった。これは俺が恐怖で目を瞑ったせいなのか、奴らに食べられてしまったからのかは、到底理解できるはずがなかった。
『うぅうう…うううブウぶッ……ヴァあああああああ』
「危ない!」
!!!!ヴァッジャヴィちゅやゔぁ……!!!!!
え……?
危機一髪で奴らの体内にあった起爆装置が爆発し、あたり一面は血の海になった。
そしてその血は、人間らしいかったものが身につけていた服やものが消化されずに、たくさん混ざっていた。
そうして、ふと横を見ると、俺を爆発から守ろうとした埜真子の下半身が跡形もなく、爆散していた。




