「これからは殺人は躊躇しないように。」
彼女の名前は『佐藤埜真子』というらしい。
さっきのことはトイレの水に流そうとしたら絶対に詰まってしまうので、ここいらで解消しとかなければならない。
佐藤埜真子が運転手の首に刺したナイフを抜いたおかげで、あたりには血飛沫が飛び散り、しまいには俺の制服ならびに純度100パーのキュートフェイスまで血に染まってしまっていた。
「じ…ぶん……で……グハ……フッふっ言う………?」
「うわああああああああああああああああああああああ」
「なんだしぶといな意外と」
ぐさっ ざっく ざっすっ ぐさっぐさっ ミジミジグジュ……………。
狂ったような、黒い、血液。
現実を突きつける、静かな、肉体_を破壊する音。
それは、どこか、どこかで、
そんなことは、ありえないと拒んで。
容赦ない。
人にこうも簡単に凶器を突きつけれるものなのか。
説明するまでもなかった。
言いたくない。
言えるわけがない。
言いたいと思えるはずかない。
言える権利なんてない。
「お……」
「お?」
「おお……おま」
「あら、どうしたのかな?カナ?」
「なにして」
「何してんのはこっちのセリフだろうがああ!危うくあっしの身代わり人形が一つ失ってしまうところだったわ!ふざけんな!」
はい?身代わり人形?油淋鶏の次は身代わり人形か。
「死ぬのは勝手だけど、殺されるのはやめて。これからは殺人を躊躇しないように。」
とりあえず頷いておく。意味がわからなかったけれど。
「ほら、降りるよ、もうちょっとでディナーだから」
ディナー?
「ディナーって…まさか、あれを食うのか?」
「はあ?あんたマジで頭おかしいの?」
「ディナーって言うのは、その、“清掃員さん“のことだよ。呼んでおいたから、早く降りるよ」
俺たちはバスを降りた。無論俺は全身血まみれなので、
「清掃員……」
「しかもなんだよ、いきなり、あんな……うぉえ…」
「だーかーら。あんた殺されかけてたでしょ?そう言う時に助けないで、ペア組んでる意味ないでしょ?こんなんで、君、大丈夫なの?」
絶句。
何も言い出せなかった。
言い出せるはずかないのであった。
こんなことがあっていいのだろうか。
殺人。人を殺す行為。
それは、その個人によって理由は異なるが、結果は全て集結する行為。
それが、今、俺の前で行われた。
「あのさー、聞いてる?」
え?
「だーかーらぁ。聞いてんの?」
かろうじて聞いてますとも。
「ジロジロ見てるくせに返事しないなんてどう言うつもりだ!殺すぞ!」
「すみ、ません!」
「よろしい」
なんと。
あの不審者の会合(?)のような初対面から、わずか数十分の間で、こんなにも上下関係がはっきりしてしまう暴力の絶対的な威圧感には、思わず脱帽してしまう。
「あのさ、つかぬことをお聞きするけどさ、」
「どうぞ…」
「君、人殺したことないの?」
「あるわけねえだろ!」
「え?それなのにこの学校に入学したの?」
「え?」
「えぁ?」
「はあ?それはどういう意味?」
「そのままの意味だけど」
「だって、聞くまでもなく、普通科の高等学校だろ…?」
「やっぱり。なんかおかしいと思ったら、君、来る高校間違えてるよ絶対」
「と言いますと?」
「だって、この学校、殺人鬼育成学校だもん」
*
(しろゆりがおかわすれな)
ここ田舎の私立高校、白百合ヶ丘勿忘学園は殺人鬼を育成する学校。
なんだってよクソが!んだよそれぇ!
何も知らずにこの学校に入学してしまった俺は、初日の通学路で第一殺人に邂逅してしまったわけだが、これからはもっと多くの血肉を目の当たりにするだろうと先ほど予言をいただき、絶望しているところだ。城へと続く通学路が、俺の目には地獄への道標に見えた。
「助けてくれたのは嬉しいけど、なんで?」
「なんでって?」
「なんであの人は俺を殺しにかかってきたんだ?」
「そんなの知るわけないじゃん。うーんそうだなあ。強いていえば、怨恨?」
えーん。こんなことあり得るわけないよーん。←無理やりすぎるか。
「怨恨って、そんな恨まれるようなことしてないし、バスの運転手なんて第一初めましてだし、俺知り合い一人もいないし」
「じゃあ怨恨はなしか…あ〜!あっしわかっちゃった〜! 君さ、あのお姉さんのことエロい目で見てたしょ?」
ぎくり。
「おっぱいめっちゃ大きかったもんね〜」
ぎくり。ぎくり。
「そんなエロい目で見てたのバレて、つい殺したくなっちゃたんじゃな〜い?君のこと。そりゃ仕方ないよね〜」
ぎくり。ぎくり。ぎくり。
いやだとしても「よしあのガキ殺そう!」とはならんだろ。
「そんなの関係ないだろ!人を殺したらダメに決まってるだろ!別に本能だから仕方ないだろ!不可抗力だ!不可抗力!不可抗力!」
「人を殺してはいけないって言う法律はないよ〜ん。罰則があるだけでね〜」
「そんなの戯言だ!」
「なんとでも言うがいいさ〜。あっしは日本屈指の殺人鬼になって、日本を守るんだ〜」
とてつもなく綺麗な矛盾。
「意味わかんねぇこと言ってんじゃねぇ!俺はもう帰らせてもらう!殺人鬼の学校に放り込まれるなんてまっぴらごめんだね!」
俺はそそくさと逆方向へ帰ろうとする。けれど、あれ?
おれ、なんか、あれ?
最寄りは、えと、あれ?
「帰れない、でしょ? 正確には、帰り方がわからない、って言った方がいいかな?」
あれ、俺、ここまでどうやって、きたっけ?
「もう遅いんだよ。何もかも、君はこの学校に入学手続きをしてしまった以上、殺人マシーンになり変わるしかないんだ。君がどういう経緯で入学しようとしたかはわからないけど、そんなもんはもうどうでも良くなるんだよ。過去の思い出も、生活も、人も、世界も。何もかもがなかったことになって、全てがどうでも良くなるんだ」
ふざけんな。ありえない。
だが、彼女の言う通りで、本当に何も思い出せない。どうやってここにきたのか、それすら覚えていない。まるで生まれた瞬間からあの城へ続く通学路を歩いていたかのように。
俺は、そのひどく動揺し、使い物にならない頭脳に鞭を打ち、反論を捻り出した。そうするしか、俺が、俺自身が保つ方法がなくなっていくと思ったからだ。
「じゃあ逆に質問するが、なんでお前はそこまでわかりきっているんだ?あそこに行けばわかることなのか?」
「難しい質問だね、確かにそうだよね。普通なら、物語の終盤で判明することだもんね。こんな序盤で明らかになることはないよね」
何が言いたい。
「そうだなあ」
「殺人鬼の卵、とでも言っとこうか。君もその卵だっていうことを、絶対忘れないでよねん」
*
聳え立つ、まっっっしろな城。
あまりにも白すぎるせいで、気味が悪い。
あまりの生徒は、同じ制服を着ている。
この異常さが、君にわかるだろうか。
違う人間と、同じ服を着て、違う人間と、同じような生活をする。
この果てしない、業の深さ。
果てしない。
私には、もう無理だった。
ごめん。もう無理だった。
みんな、ごめんね。
*
「これより、私立勿忘ヶ丘学園、第25回入学式を始めます。起立、気をつけ、礼」
「学校長の挨拶」
「皆さん、ご入学おめでとうございます。」
……………………………………………………………………………。
「ふふっ。油断させない。」
「試験に合格した皆さんなら、既に理解していることだと思いますが、この学園には、生徒の皆さんに絶対に守っていただきたいルール、学園内ルールがあります。」
「其の一、敷地内での殺人は合法。」
「其の二、敷地外での犯罪は、学園側は一切の責任を負わない。」
「其の三、教職員、また来訪者を殺してはいけない。」
「其の四、キンモクセイのジャックがこの中に潜んでいる。」
「其の五、在学中、当校から半径一キロ以上に踏み入れることは許されない。」
「其の六、死体が発見された場合、その殺人は合法ではなくなる。」
「そして、皆さんには、最高の殺人マシーンになってもらいます。我が国を守るために!」
「我が国を守るために!」
「我が国を守るために!」
「我が国も守るために!」
「生徒の皆さんには、これらのルールを守って生活していただきます。それでは、私からは以上です。ご清聴ありがとうございました。」
「皆さん、良い殺人ライフにしましょうね」
鼓膜がはち切れんばかりの拍手喝采。
「ルールを破った場合の説明はなしかあ」
それにしても、生徒の数が少なすぎる。こんなものなのだろうか。それにしても、わすれなって言う名前、いいチョイスだと思うんだけど、どうしてわすれななんだろう?希望っていう単語が入っているとやばいところっていうジンクスは存在するけど、これもその類なのかな?
しかも、殺人は一応合法だけど“死体が見つかった場合は合法ではなくなる“ってことは、犯罪になってしまうというわけか?なんかどうにも価値観がわからないな、この学校は。
僕の右斜め前にいる黒髪のおかっぱちゃんと横にいる芋くさいメガネの男がどうやら痴話喧嘩をこの神聖な体育館の入学式でオッパじめっているようだった。
「だから……んなこと……だろ!」
「しず………けんな!そんな……」
よく聞こえないけど、なんか楽しそう。
1
クラス替え。
僕のクラスは全部で15人。入学式の時から少ないなって思ってたけど、田舎ならこんなもんだろう。
お。
あの子たちと同じクラスなのか。ちょっと嬉しい。
「だーかーら。そん……け……なんの……ない?」
「うるさいな………だろ!………くれ!」
え笑。まだ喧嘩してるの?仲良いなあ。今度は距離が近いからさっきよりかは聞こえる。
「三本目の腕ってなんだよ!」
彼の大きな声で教室がツンドラに。
「そこ、どうしましたか?」
「なんでもないです!申し訳ございません!殺さないでください!!!!」
変わった子だなあ。
てか三本目の腕?
三本目の腕って言ったよな?
「あのバス………じゃ…やばいんだろ?」
「ヤバいのは君の今後の人生だよん」
まあいいや、後から話きこ。
それにしても、ずいぶん真っ白だなあ。ホワイトルームって感じだ。
そういえば、キンモクセイのジャックが潜んでるって言ってたけど、なんなんだ、キンモクセイのジャックって?殺し屋の名前かな?だとしたら、僕たちはジャックとやらに殺される可能性があるってことなのだろうか。殺す側から、殺される側へ。怖いなあ。怖いよ。
殺してきた奴らも怖いって感情抱いてたのかな死ぬ前には。
「それでは、1時間目、始めます。全員グラウンドに集まるように。」
てか、初日から授業あんのかよ。
*
初日から授業あるのは聞いてない。まあ最初なんて授業らしくない授業だけど。
『只今より、生徒の皆さんには三つのグループに分かれてもらいます。』
1時間目はレクリエーションだった。いわゆる生徒同士の親睦を深めるために設定された授業である。俺と埜真子はワイングループに入れられた。そのほかの生徒はそれぞれウォッカグループとジングループに分けられた。なんでお酒の名前なのかはわからない。
なんの前触れもなく自由時間を与えられた俺たちは、『気になった人に話しかけてコミュニケーション力を磨こう!』というお題目で散らされた。
いやお見合いパーティーじゃねぇんだからさ。なんかこう、この学校はこういう感情的なところに訴える行事を催すのが苦手な人が多いのかなと思った。まあだって殺人鬼を育成する学校なんだだもんな。
あまりこういうのにいい思い出はないのだが。
「ない記憶を作り上げても意味がないよ〜んだ」
こいつは。
「お前も心が読めるのか?」
「いや、全然。ただ君の顔があまりにもわかりやすくてねん〜」
わかりやすい顔、か。
どんな顔なんだろ。
こんにゃく顔とか?
「おはよっす〜!ねえねえ君さ!名前なんていうの?」埜真子が隣のグループの人に話しかけに行っていた。
すごいなこいつ。相手はあくまでも殺人鬼の卵なんじゃないのか?よくもまあそんなずけずけと土足で踏み入れることができるもんだ。
「イッタ〜イ」
ああ。
当然のように手の甲をナイフで刺されていた。
当然である。そういう学校なのだから。どう見ても見た目やばい奴だったし。ヒッピーみたいな。見た目だったし。エルビスのような感じもする。
そういう学校なのだからと受け入れている自分が怖くなってきた。
「はいはい!これからも仲良くしてね〜!」
埜真子が戻ってきた。
「あいつら絶対殺す」
あう。
さすが、今朝1キルしただけある。明日には生徒数が減っていそうだ。
「そういえばさ、あの蔵は何?」
グラウンドに聳え立つ、一つの蔵。財閥の本家にありそうな立派な蔵だった。
「なんだろうね〜」
「なんか知ってんのか?」
「なんなんだろうねぇ〜」
知ってんな。
「教えろよ」
「今は無理」
チッ。
質問を変えよう。
「てかあのバスの運転手ってなんだったんだ?本当にさ」
「だーかーら。わかんないって。エイリアンとのハーフだったんじゃない?」
「そんなんで済まされるかダボ」
「ダボ〜んダボ〜ん」
「殺すぞ」
「おおぉ!ようやく片鱗が見えてきたねぇ〜!」
「殺すぞと口に出しても殺す奴はいないんだよ!」
「まあ、私が思うにさ、あの女の人は多分学校側が仕組んだ“試験“だったんじゃないかな?カナ?」
それやめろ。
「試験って、どういうことだよ」
「試験は試験だよ。まあ普通の学校?なんかじゃないんでしょ?君がいうにはさ」
こいつらと価値観を擦り合わせすぎたら身を粉にしてしまいそうだ。
「つまり、俺らの実力を試すために仕組まれた刺客だったてことか?」
「なんじゃないかな〜。実際別の通学路でも今朝何人も死んだらしいし」
はい?
「え?」
「何人も死んだらしいし」
「はあ?何人も死んだ?まじでいってのか?」
「それじゃあ、同時刻に別のところで殺人試験が起きていて、それで死んだ、つまり“不合格“になった生徒もいるってわけか?」
「そう、その数およそ200人!」
200人。およそ200人?
人間が殺されてしまった数。今朝の通学路で。
「まじで言ってんのか?」
「あっしはいつだって本気だよ〜ん」
「吐き気がするぜ…」
あの朝の数時間で200人もの少年少女が死んでしまったのか。
なに、世界では、今でも人間は死に続けている。気にすることはない。気にすることはないのだが。
けれど、やはり、こうして間に受けると、心に来るものがある。
死。
それは安らかな意味でも捉えられることがある。だがそんなに、綺麗なものではない。綺麗にすればいいってもんじゃない。
安らかとか、見守ってるとか、天国に行ったとか、喜んでると思うよとか。
全部、生きてる人間たちの主観でしかないのだから。
所詮、死人に口無しなのだから。
いずれ、わかることなのだから。
それは、今この瞬間なのかもしれないのだから。
『それでは、皆さんには今から二人一組になってもらいます』
嫌な予感。
「ほら。あっしと組んどいてよかったでしょ?」
さいですか。
その瞬間、蔵の門が地ならしをしながらゆっくり開いた。
「なんなんだ……?」
中から何か出てくる。
それは、既視感のある影。
この世のものとは思えない、存在感の闇。
「今度こそ殺してやるよ」
俺に対して、聞き覚えのある、そんな声。
と。
「食い損ねちまったなあ」
と、理性を保つのに必死な、そんな声。
「まっじか……」
『皆さん?見覚えあるはずですね。そうです。皆さんが今朝通学路で遭遇した怪物たちです。』
周りから、悲鳴のようなため息が広く聞こえた。
『今から、この怪物たちと鬼ごっこをしてもらいます。』
てか、意外とみんな、人殺しなのに、悲鳴とかあげるんだな。




