勝手にしろ
成宮の拳が震えていた。
怒りなのか。
悔しさなのか。
それとも。
まだ残っている昔の感情なのか。
平には分からなかった。
ただ一つだけ分かる。
目の前の少年は。
かつて自分が守ろうとした弟子だった。
「先生。」
成宮は低い声で言う。
「あなたはいつもそうだ。」
「相手のことを勝手に決めつける。」
平は静かに答える。
「違う。」
「何がです?」
「俺は。」
「お前を見ているだけだ。」
その言葉に。
成宮の表情が歪む。
「……。」
「まだそんなことを言うんですね。」
次の瞬間。
成宮のアーマーから魔力が噴き出す。
黒い装甲がさらに展開される。
角の部分が光り、地面が震える。
「なら。」
「俺が証明します。」
「先生が間違っていたって。」
成宮が踏み込む。
先ほどまでとは比較にならない速度。
平は目を細める。
(速い。)
だが。
今度は違った。
平は動きを読んでいた。
攻撃の癖。
踏み込みの角度。
力の流れ。
全部。
昔から知っている。
「成宮。」
平が呟く。
「お前は昔から。」
「力を出しすぎる。」
一瞬。
成宮の拳が止まる。
平はその懐へ入り込む。
「そして。」
「守るための力を。」
「壊すために使うようになった。」
カウンター。
装甲の隙間を正確に撃ち抜く。
「ぐっ……!」
成宮が後退する。
宝が驚く。
「今の……。」
「弱点を狙ったの?」
平は答えない。
ただ構える。
成宮はゆっくり立ち上がる。
「……さすがですね。」
「先生。」
「でも。」
顔を上げる。
「俺はもう昔の俺じゃない。」
その瞬間。
遠くから声が響いた。
「そこまでだ。」
全員が振り返る。
村の入口。
黒い外套の男たち。
その中心に一人の人物が立っていた。
「成宮。」
「随分楽しそうだな。」
成宮の表情が変わる。
「……。」
「お前らか。」
平が警戒する。
「誰だ。」
男は笑う。
「我々は。」
「世界の秩序を守る者。」
「あなたを回収しに来た。」
宝が前に出る。
「平を?」
男は頷く。
「そうだ。」
「悪石平。」
「世界から消えるべき存在。」
その言葉に。
平の目が冷たくなる。
「またか。」
「何度聞いた言葉だ。」
男は続ける。
「だが今回は違う。」
「あなた自身ではなく。」
「その中に眠るものを回収する。」
平の表情が変わる。
「……何?」
男は笑う。
「知らないのか。」
「あなたが何者なのか。」
宝が不安そうに平を見る。
「平……?」
男は続ける。
「英雄ではない。」
「科学者でもない。」
「あなたは――」
その瞬間。
成宮が割り込む。
「やめろ。」
全員が成宮を見る。
男が笑う。
「おや。」
「裏切り者が何をする。」
成宮は拳を握る。
「先生には。」
「俺が言う。」
平は驚く。
「成宮。」
成宮は平を見ない。
ただ前を向く。
「こいつらは。」
「先生を利用しようとしている。」
「俺も最初はそう思っていた。」
「でも。」
一拍。
「違った。」
平は黙る。
成宮は小さく言う。
「先生は。」
「俺が知っている英雄のままだった。」
静寂。
男たちが動く。
「ならば。」
「二人まとめて回収する。」
その瞬間。
平の横に成宮が並ぶ。
「……。」
「なんだ。」
平が聞く。
成宮は少し笑う。
「一回くらい。」
「昔みたいに隣で戦ってもいいでしょう。」
平はため息を吐く。
「勝手にしろ。」
宝が叫ぶ。
「平!」
「大丈夫だ。」
平はレグルスガンを構える。
成宮もアーマーを展開する。
黒銀の英雄。
そして。
かつて敵だった弟子。
二人の背中が並ぶ。
「行くぞ。」
平が言う。
成宮が笑う。
「はい、先生。」
夜の村に。
再び戦いの音が響いた。




