教え子
夜の村外れ。
風が止まった。
平と成宮。
かつて師弟だった二人が向かい合っている。
宝は少し離れた場所で息を呑む。
成宮の姿は昔と変わっていない。
だが。
纏う力だけは、別人のようだった。
「先生。」
成宮が笑う。
「やっぱり、その顔が一番似合いますよ。」
「……何の話だ。」
「戦う時の顔です。」
平は答えない。
レグルスガンを構える。
黒銀の銃身が月明かりを反射する。
「成宮。」
「まだ戻れる。」
その言葉に。
成宮の表情が一瞬だけ曇った。
「……。」
「先生は。」
「昔からそうですね。」
「いつも誰かを救おうとする。」
「それが自分を壊しているのに。」
平の指が止まる。
「何を知っている。」
成宮は笑う。
「知っていますよ。」
「先生が全部背負ったこと。」
「仲間を守れなかったと思っていること。」
「だから自分を罰していること。」
宝が平を見る。
「平……。」
平は目を逸らす。
「関係ない。」
「関係あります。」
成宮の声が強くなる。
「だから俺は――」
「先生を超える必要がある。」
次の瞬間。
成宮が消えた。
「速い……!」
宝が叫ぶ。
平は反応する。
だが。
先ほどより速い。
右。
左。
上。
全方向から攻撃が来る。
「くっ……!」
アンアーマーを展開する暇すらない。
平の身体に衝撃が走る。
「先生。」
成宮の声。
「昔なら避けていました。」
「今の先生は迷っている。」
平は地面を滑りながら立ち上がる。
「……そうか。」
「なら。」
レグルスガンを握り直す。
「お前も変わったな。」
成宮が眉を動かす。
「何がです?」
「昔のお前なら。」
「相手の弱さを笑わなかった。」
一瞬。
成宮の動きが止まる。
「……。」
平はその隙を逃さない。
踏み込む。
「お前の弱点は。」
「力じゃない。」
「心だ。」
レグルスガンを撃つ。
だが。
成宮はギリギリで避けた。
「まだそんなことを言うんですか。」
「甘いですよ。」
成宮の腕が変化する。
黒い装甲。
甲虫のような外骨格。
力が増幅される。
「これが。」
「俺の答えです。」
宝が驚く。
「なに……あれ。」
平は目を細める。
「アーマー……。」
成宮は笑う。
「先生の研究を元に作りました。」
「あなたが捨てたものを。」
「俺が完成させた。」
その姿は。
ヘラクレスオオカブトを思わせる巨大な装甲。
角を持ち。
圧倒的な威圧感を放っている。
「どうです?」
「先生。」
「これなら、あなたを超えられる。」
平は静かに見つめる。
そして。
「……違う。」
成宮の表情が変わる。
「何がです?」
「それは。」
「強さじゃない。」
平はレグルスガンを構える。
「ただの力だ。」
その瞬間。
成宮が怒りを見せた。
「やっぱり……!」
「先生は何も分かっていない!」
二人が同時に動く。
黒銀の英雄。
そして。
甲虫の鎧を纏った弟子。
激突。
衝撃波が村の外まで響く。
宝は拳を握る。
「平……。」
その戦いを見ながら。
彼女は初めて気づいた。
平が恐れているもの。
それは。
成宮の力ではない。
過去だった。
そして。
戦いの中で。
成宮が小さく呟く。
「先生。」
「本当は。」
「俺を止めてほしかったんじゃないですか?」
平の動きが一瞬止まる。
その一瞬を。
成宮は逃さなかった。
「遅い。」
強烈な一撃。
平の身体が吹き飛ぶ。
だが。
倒れる直前。
平は笑った。
「……やっぱり。」
「まだ甘いな。」
成宮の目が揺れる。
平はゆっくり立ち上がる。
「お前。」
「本気で俺を殺す気なら。」
「今の一撃で終わっていた。」
沈黙。
成宮は拳を握る。
「……。」
「先生。」
「ずるいですよ。」
夜空に風が吹く。
二人の戦いは。
まだ終わらなかった。




