失うつもりはない
夜の村。
静寂は一瞬で崩れた。
黒い外套の集団が一斉に動く。
数は十数人。
だが。
平は数を見ていなかった。
見ているのは。
敵の動き。
魔力の流れ。
そして。
「……。」
一人だけ。
後方で動かない男。
「成宮。」
「分かってます。」
珍しく、成宮も真剣な声だった。
「指揮官ですね。」
平は頷く。
「おそらく。」
その瞬間。
敵の一人が飛び込んでくる。
「悪石平!」
剣を振り下ろす。
だが。
遅い。
平は半歩横にずれるだけで避ける。
そして。
拳。
一撃で相手を沈める。
「弱い。」
成宮が笑う。
「先生。」
「相変わらずですね。」
「何がだ。」
「手加減してる。」
平は答えない。
昔なら。
敵を倒すことに迷いはなかった。
だが今は違う。
必要以上に傷つけない。
それが今の平だった。
「甘いなぁ。」
成宮が呟く。
「昔の先生なら——」
「言うな。」
平が遮る。
成宮は少し黙る。
そして。
「……はい。」
二人は背中を合わせる。
自然だった。
昔のように。
まるで時間が戻ったように。
「来るぞ。」
平の声。
次の瞬間。
地面が爆発する。
「っ!」
巨大な魔力弾。
平と成宮は左右へ飛ぶ。
その中心に。
先ほどの指揮官が歩いてくる。
「流石ですね。」
男は笑う。
「悪石平。」
「そして成宮。」
「二人揃うとは。」
平は銃を構える。
「名前を言え。」
男は頭を下げる。
「私はアルド。」
「回収部隊の隊長です。」
「回収?」
「あなたをです。」
アルドは平を見る。
「あなたの中にあるもの。」
「我々はそれを求めている。」
平の目が細くなる。
「俺の中?」
アルドは笑う。
「まだ知らないのですね。」
「あなたの力は。」
「ただの科学技術ではない。」
その言葉に。
成宮が反応する。
「……。」
「何を知っている。」
アルドは答える。
「あなたたちは。」
「英雄と弟子。」
「そう思っている。」
「だが違う。」
平は黙る。
アルドは続ける。
「悪石平。」
「あなたは世界を救ったのではない。」
「世界を変えてしまった存在だ。」
風が吹く。
宝が不安そうに叫ぶ。
「平!」
平は振り返らない。
「宝。」
「下がっていろ。」
「でも!」
「頼む。」
その一言で。
宝は黙る。
アルドが笑う。
「大切なものができたようですね。」
平の目が鋭くなる。
「触れるな。」
初めて。
明確な怒気。
成宮が驚く。
「先生……。」
アルドは満足そうに笑う。
「やはり。」
「それが弱点。」
次の瞬間。
アルドの姿が消えた。
速い。
成宮よりも。
平よりも。
「先生!」
成宮が叫ぶ。
だが。
平は動かなかった。
いや。
動けなかった。
アルドの狙いは。
平ではない。
宝だった。
「……。」
平の目が変わる。
次の瞬間。
黒銀の光が爆発する。
アンアーマー。
完全展開。
「そこから先は。」
低い声。
「許さない。」
アルドの拳が止まる。
平の手がそれを受け止めていた。
「な……!」
アルドが驚く。
平の力が先ほどまでとは違う。
成宮が呟く。
「先生……。」
「本気。」
平は静かに言う。
「俺は。」
「もう失うつもりはない。」
その瞬間。
村全体を覆うほどの圧が広がった。
かつて世界を救った英雄。
その力が。
再び目覚め始めていた。




