第75話:道の先の灯
自由港を離れてから、エーテル・ガイストの航行は驚くほど静かだった。
追跡の兆候はない。進路上にも不審な船影はなく、長距離観測に掛かるのは既定航路を行く遠方の船舶か、識別済みの人工構造物ばかりだった。
《追跡反応――なし》
《航路上脅威――確認されず》
《ステルス機能――継続》
大型貨物船を装った偽装外装を保ったまま、創世級試作実験艦エーテル・ガイストは暗い宙域を進んでいる。操艦はアドミラルに一任されていた。航路監視から機関出力の調整、周辺交通に合わせた細かな針路修正までが自動で処理され、艦は必要以上にその存在を晒すことなく目的地へ向かっている。現在の巡航速度を維持すれば、ファロスαまではあと一日ほど。それは、何もせず待つには長いが、次へ備えるにはちょうどいい時間でもあった。
格納庫には、自由港で積み込んだコンテナが整然と並んでいた。
交換用の制御基板や配線材、高容量の電力系部品。駆動機構の予備、補修素材、環境維持設備へ転用できる汎用品。その間には、食料や衣類をはじめとした生活物資も混じっている。
ファロスαが現在どこまで機能しているのか分からない以上、必要な物だけを選び切ることはできなかった。
「これが電力系で……こっちが制御部品?」
アイリスがコンテナ側面の識別表示と手元の端末を見比べる。
「はい。ただ、ファロスα側の設備が記録通りとは限りません」
傍らのミラが答えた。
「途中で改修されてるかもしれない?」
「その可能性はあります。逆に、記録更新以前の設備が残されている可能性もあります」
「古い方もあるんだ」
『現地で確認する』
格納庫のスピーカーからアドミラルの声が落ちた。
『使える設備を選別し、必要な箇所から起こす』
「うん。それが一番だね」
『ああ』
アイリスは端末へ視線を戻した。
最初の頃なら、並んでいる部品の名称を聞いても、その用途まではほとんど分からなかった。
今でも技術者のように扱えるわけではない。
それでも、何が生活を支え、何が艦を動かし、何が止まれば困るのか。その程度なら少しずつ分かるようになっている。
「これは?」
「環境維持系統用の汎用フィルターです」
「向こうの空調が止まってたら使える?」
「規格が合えば」
「じゃあ前に出しておこう」
「はい」
ミラが搬出優先順位を書き換える。
待機していた小型搬送ドローンがコンテナの下へ潜り込み、低い駆動音とともに荷を一段手前へ移した。到着後に使う可能性の高い物は、先に取り出しやすい位置へ。地味な作業だった。
だが、現地へ着いてから積荷をひっくり返すよりはいい。
「次は?」
「補助照明設備です」
「それも前だね」
「了解しました」
再び搬送ドローンが動き出す。
艦が宇宙を進む間にも、その内部では、次の場所で動き始めるための支度が着実に進んでいた。
エーテル・ガイスト自身の修復も止まってはいない。自由港で大量の資材と部品を確保し、以前とは比べものにならないほど多くの設備が稼働するようになり、少しずつ本来の姿へ近づいている。
航行へ影響しない区画では、修復ドローンが壁面パネルを外し、劣化した配線を新しいものへ交換している。応答を失っていた端末を取り替え、長く閉ざされていた設備を一つずつ艦内ネットワークへ戻していく。隔壁の向こうから、ときおり工具の駆動音が低く響いた。昨日まで暗かった通路に、今日は灯りが点いている。使えなかった部屋が開き、沈黙していた表示盤が何事もなかったように情報を返す。未完成であることは変わらない。ただこの艦では、使える場所が一つずつ増えていくことも、すでに日常の一部になっていた。
その日の予定が一段落したのは、艦内時間で夕刻を回ってからだった。ラウンジの照明は少し落としてある。卓上には飲み物が置かれ、アイリスはソファへ身体を預けると、ようやく息を吐いた。
「終わった……」
「本日予定していた物資整理は完了しています」
向かいに腰を下ろしたミラが答える。
「到着後の優先搬出物についても分類済みです」
「じゃあ、今日はもういいよね?」
『問題ない』
「よし」
アイリスは背もたれへ少し深く沈み込んだ。
艦橋とは違う。ここには艦長席もなければ、絶えず更新される航法表示もない。喧騒から離れられる場所だった。飲み物に口をつけながら、しばらく何となく壁面モニターを眺めていたアイリスが、やがて口を開いた。
「何か見ようかな」
「ライジンガーの続きですか?」
「それでもいいんだけど」
アイリスは端末を手に取った。
オールド・スパイン・アーカイブから持ち帰った娯楽映像。
天雷装甲ライジンガーは、あれから何度か続きを見ている。
食事を終えたあとや、予定が早く片づいた日。眠るにはまだ少し早い夜に、一話だけ見ることもあれば、そのまま二話続けることもあった。
カインは昔見ていたため、この先の展開も知っている。それでも、アイリスが続きを尋ねれば。
「見れば分かる」
いつも、それだけだった。
おかげでアイリスとミラは、今のところ先の展開を知らないまま楽しめている。
ただ、同じ日に持ち帰ったもう一作品だけは、まだ一度も再生していなかった。
映像一覧を流す。
【天雷装甲ライジンガー】
見慣れ始めた題名を過ぎる。
その少し下で、指が止まった。
【万能戦艦ヴァリアント・テトラ―四界を征く一人の艦長と一体の相棒―】
「今日は、こっちにしようかな」
「第一話からですね」
「うん」
アイリスは天井へ視線を向けた。
「提督も見る?」
『構わない』
「じゃあ決まり」
ミラが再生を選択する。
ラウンジの照明がゆっくりと落ちた。
最初に映し出されたのは、青い地球だった。
静かに浮かぶ惑星の周囲を、無数の光点が覆っている。破壊された軌道施設。崩れた防衛衛星。
その残骸の間を埋めるように展開する、異星文明の無人艦群。地球側の主要通信網はすでに断たれ、軌道上の拠点も大半が制圧されていた。
陸。海。空。宇宙。
各領域へ投入された自律兵器によって、人類は故郷から押し出されている。
生き残った軍と民間船団が退いた先は月面圏。
残された基地群を中心に、辛うじて戦線を維持していた。
「……最初から、かなり負けてるね」
「地球周辺の制宙権は、ほぼ喪失しています」
ミラが答える。
「ミラ、普通に見ようよ」
「見ています」
『敵の配置は分かりやすい』
「提督まで」
アイリスは苦笑した。
ライジンガーとは、映像の作りからして違う。
比較的新しい作品だけあって、戦況を映す立体表示には艦隊配置や敵無人機群の推移が細かく流れ、登場人物が何を見て判断しているのかまで自然に画面の中へ組み込まれていた。
やがて映像は、月面地下基地へ切り替わる。
巨大な格納ドック。その奥に、一隻の戦艦が横たわっていた。
長大な船体には複数の可動構造が折り畳まれ、通常の宇宙艦とは明らかに異なる輪郭を持っている。
宇宙。大気圏。海洋。地上支援。
四つの領域での作戦行動を前提として建造された全領域対応戦艦。
ヴァリアント・テトラ。
「これが……」
アイリスが少し身を乗り出した。
一人の男が艦橋へ入っていく。
艦長、カイト・レンジ。
そして彼を迎えるのは、一体のアンドロイド。
テトラ・ジェネシス。
艦の中枢制御へ直接接続され、航法、火器、機関をはじめとした各種艦内機構を統合制御する存在。
広い艦橋に、それ以外の人影はなかった。
「……本当に一人と一体なんだ」
『そうだ』
カイトが艦長席へ腰を下ろす。
テトラが、その傍らに立つ。
航法。火器管制。通信。機関。
本来なら幾人もの乗員が埋めるはずの席が、ことごとく空いている。
アイリスの表情が、少しだけ変わった。
「……あ」
「どうしました?」
「ううん」
何もかも同じではない。
カイトは逃亡者ではない。
月面には味方がいる。軍も。艦隊も。
まだ残っている。それでも。
広すぎる艦橋。空いた席。一人の艦長。人ではない相棒。そして、一隻の巨大な戦艦。
そこだけを切り取れば。
カインがあの夜、こちらを選ばなかった理由も少し分かる気がした。
地球奪還作戦は、単純な正面突破では始まらなかった。月面基地の作戦室。
地球を包囲する敵封鎖網が、巨大な立体表示の中に幾重にも浮かび上がる。
月面方向を警戒する迎撃群。
地球高軌道を巡回する無人艦。
大気圏への侵入経路を塞ぐ自律迎撃機。
まともに正面から押し込めば、地球へ届く前に戦力を削り切られる。だが人類側にも艦艇は残っていた。傷ついた巡洋艦。駆逐艦。支援艦。
数こそ少ないものの、まだ戦える船が月面軌道上に並んでいる。
「他にもちゃんと船はいるんだね」
「ですね」
作戦開始。
残存艦隊が月面圏を離れた。
しかし、その針路は地球へ一直線ではない。
艦隊は複数の部隊へ分かれ、それぞれ異なる方向から封鎖網へ接近していく。
敵の無人機群が反応した。
迎撃戦力が月面側へ移動し、高軌道を巡回していた無人艦の一部も針路を変える。
厚かった封鎖線が。僅かずつ。形を変えていった。
「陽動?」
『その通り』
正面では、すでに砲火が交わっている。
残存艦隊の目的は突破ではない。
敵を引きつけ。その場へ拘束する。
そして別の場所から戦力を奪う。
そのための戦闘だった。
月面基地の別ドックから、ヴァリアント・テトラが単艦で発進する。
テトラ・ジェネシスの視界へ、膨大な戦術情報が重なっていく。
《敵迎撃群――第二戦域へ移動》
《高軌道封鎖戦力――局所低下》
《侵入経路――成立》
《推定維持時間――限定》
味方艦隊が敵を動かしたことで、地球を覆う封鎖網の一角に、ほんの僅かな空隙が生まれていた。
「ここを抜けるんだ」
『そうだ』
ヴァリアント・テトラの主機出力が上がる。
その表示を見ながら、アイリスが何気なく尋ねた。
「提督なら、どうする?」
『エーテル・ガイストなら行く』
「やっぱり?」
『突破口は開いている』
アイリスは画面を見る。
「でも、一隻だよ?」
『問題ない』
「……そう言うと思った」
『艦長、あるいは君の命令なら行く』
アイリスが一度だけ天井を見上げる。
「私の命令でも?」
『今は艦長代理だ』
「そっか」
そう短く答えて、アイリスは再び画面へ視線を戻した。
ヴァリアント・テトラが加速する。
封鎖網の空隙が残っている時間は短い。
一度侵入を察知されれば、敵はすぐに穴を塞ぐ。
カイトが進路を決め。
テトラが、その判断を艦の運動へ変える。
一隻の戦艦が、地球へ続く僅かな道へ飛び込んだ。手薄になったとはいえ、敵が消えたわけではない。小型無人機が侵入を検知し、次々と針路を変える。陽動部隊へ向かっていた無人艦の一部も反転を始めた。
《侵入経路――閉塞進行》
《追跡戦力――増加》
テトラが複数の兵装を同時制御する。
カイトが進路を選ぶ。砲火が交差した。
迎撃。回避。突破。
ただ力任せに敵を薙ぎ倒しているのではない。
味方が作った時間。敵戦力の移動。
そして、一時的に生まれた空隙。
その全てを使って一隻が地球へ向かっていく。
アイリスは、いつの間にか言葉を挟むことも忘れて画面を見ていた。
最後の迎撃機群を振り切る。
眼下に青い地球が大きく広がった。
《地球高軌道封鎖線――突破》
後方では、人類側の艦隊がまだ戦っている。
誰もヴァリアント・テトラを追ってはこない。
追えない。ここから先、味方艦は来ない。地球へ向かうのは、ヴァリアント・テトラ一隻だけだった。
ヴァリアント・テトラが艦首を地球へ向ける。
大気圏突入軌道。
その先には、無人兵器によって制圧された空が、海が、地表が待っている。
第一話は一隻の戦艦が青い惑星へ降りていく姿を映したところで終わった。
エンディングが流れ始めても、アイリスはしばらく画面を見ていた。
「……面白かったね」
「第二話を再生しますか?」
「見たいけど、今日は一話でいいかな」
ミラが連続再生を解除する。
アイリスは、画面に残ったヴァリアント・テトラの姿を眺めた。
「カインが、あの時こっちを選ばなかった理由も、ちょっと分かったかも」
『そうか』
「うん」
それ以上は続けず、アイリスは作品情報を開いた。
《全本編》
《劇場版》
《特別映像》
その下。
《関連立体物生成用データ》
「あ」
「どうしました?」
「これもあったんだった」
項目を開く。
《ヴァリアント・テトラ艦本体――簡易生成モデル》
《カイト・レンジ――可動フィギュア》
《テトラ・ジェネシス――立像》
《敵性無人機――ミニセット》
アイリスは少し迷ってから、最初の項目を選んだ。
「せっかくだし、船だけ作ってみようかな」
『可能だ』
「じゃあ、一個お願い」
『了解』
《対象――ヴァリアント・テトラ》
《簡易立体モデル》
《必要資材――許容範囲》
《生成開始》
表示の端で進行率が動き始める。
「カイトとテトラは?」
ミラが尋ねた。
「それはまた今度でいいかな」
生成に、それほど時間は掛からなかった。
小型生成機の収納部が開く。
中には先ほどまで映像の中で地球へ突入していた戦艦が収まっていた。
「……おお」
アイリスが両手で取り出す。
手のひらより少し大きい程度。
それでも、艦首や側面の可動構造、艦腹、推進器周辺までかなり細かく再現されている。アイリスは模型の向きを変え、横から、下から、そして後ろからと眺めていった。
「ここ、こうなってたんだ」
「映像では確認できませんでしたからね」
「これ動く?」
『簡易版は一部可動を省略している』
「ちゃんとしたのもある?」
『ある』
「へえ。じゃあ今度見てみよう」
模型を眺めながら。
ふと思いついたように、アイリスが口を開く。
「提督」
『何だ』
「エーテル・ガイストと、どっちが強い?」
『エーテル・ガイストだ』
アイリスが笑った。
「即答なんだ」
『当然だ』
「そっか」
ソファへ戻る。
カップの邪魔にならない場所へ、模型を置いた。
「ここでいいかな」
画面にはまだ作品ロゴが残っている。
その下には今度は小さなヴァリアント・テトラ。
アイリスは少し離して眺めた。
「なんかいいね」
「気に入りましたか?」
「うん。せっかく持ってきたんだし」
卓上の模型を見ているうちに。
さっきの第一話が、もう一度頭に浮かんだ。
「……似てたね」
「何がですか?」
「ヴァリアント・テトラと、私たち」
ミラが少しだけ考える。
「一人と一体で運用する艦という点でしょうか」
「それもあるけど」
アイリスは模型を見る。
「最後のところ」
味方の艦隊が敵を引きつけた。
その間にヴァリアント・テトラが一隻だけ封鎖網を抜けた。
「向こうは、仲間が道を作ってくれた」
「はい」
「私たちは……」
自由港の光景が浮かぶ。
ドック。偽装された船体。開いていく出口。
そして。そこへ残ったカイン。
「カインが残った」
ミラが静かに頷く。
「追跡者の注意を自分へ向けるために」
「うん」
カインは言った。
一時間は稼ぐ。その間に出ろ。
あの時エーテル・ガイストは先に自由港を離れた。カインがまだそこにいると追っている側に思わせたまま。
「ちょっと違うけど」
アイリスが言う。
「同じように、道を作ってもらったんだね」
『目的は近い』
アドミラルが答える。
「うん」
卓上の小さな戦艦。
ヴァリアント・テトラは、仲間の援護を受けて地球へ向かった。
エーテル・ガイストも、カインが残ったことで自由港を離れることができた。
「無茶するよね」
『否定はしない』
「提督まで」
『事実だ』
アイリスが小さく笑った。
けれど、自由港で思い出すことはそれだけではなかった。
アイリスの手が、無意識に胸元へ触れる。
胸の奥には、自分を生かしている人工の器官がある。
そして自由港では、その奥へ触れてくるような反応を一瞬だけ感じた。
自分とは違う。けれど、どこか似ていた。
白い光の中に浮かんだ、不鮮明な人影。胸の辺りには機械のようなものがあり、その周囲には細い影が浮いていた。
スティレット。
「……あの人も」
アイリスが小さく呟く。
「どうしました?」
ミラが顔を向けた。
アイリスは胸元へ触れたまま、少しだけ考える。
「私と、似てるのかなって」
「自由港で感じた反応ですか?」
「うん」
あの時、確かに何かが繋がった。
けれど、それが何だったのか。
相手が誰なのか。
自分と何が同じなのか。
まだ何も分からない。
「……でも、まだ分からないね」
アイリスは胸元から手を離した。
今ここで考えても答えは出ない。
またどこかで、あの感覚に触れることがあるのかもしれない。
そんなことを考えた、その時だった。
『――反応を検知』
アドミラルの声。
壁面モニターの表示が切り替わる。
作品情報が縮小され代わりに航法星図が展開された。
アイリスが顔を上げる。
「船?」
『違う』
星図上。進行方向。遠方に。
微かな反応が点滅している。
《微弱信号――捕捉》
《出力――極低》
《一般航路ビーコン規格――不一致》
ミラも表示を見る。
「秘匿信号ですか?」
『可能性が高い』
通常の航路標識なら、もっと強く。
もっと分かりやすい規格で発信する。
だがその信号は弱い。
近づいている艦だけが拾える程度の出力。
しかも発信内容の大半が暗号化されていた。
《暗号形式――照合中》
《識別パターン――抽出》
数秒後。
《登録識別データ――一致》
「分かった?」
『ああ。ライナ・ヴェルグから受領した識別情報と一致する』
「それって……」
自由港を離れる前、ライナから渡されたのは、ファロスαの位置情報だけではなかった。
そこには、古い軍施設を誤認しないための識別コードや、外部から不用意に所在を拾われないよう設定された限定的な認証情報も含まれていた
照合が進む。
《識別鍵――一致》
《登録名称――PHAROS-α》
「……ファロスα」
『一致した』
「じゃあ、あそこから出てるんだ」
『そうだ』
星図の一点。
まだ肉眼では見えない。
望遠観測でも、構造物として捉えるには遠いが信号はそこから届いている。
「基地は動いてる?」
『不明だ』
アドミラルが答える。
『識別設備の一部が稼働していることまでは確認できる。それ以上は接近後に判断する』
「そっか」
ミラが受信内容を確認する。
「信号そのものも最小限ですね」
『秘匿運用を前提とした出力だ』
アイリスは星図を見つめた。
ファロスαは、ライナから渡された座標と古い施設情報の中にある名前でしかなかった。
けれど今そこから確かに信号が届いている。
「ちゃんとあるんだね」
『ああ』
アイリスが少しだけ笑った。
「次の場所」
『そうだ』
《ステルス機能――維持》
《秘匿識別信号――追跡》
《現在針路――継続》
《目的地――PHAROS-α》
アイリスは頷いた。
「そのまま行こう」
『了解』
卓上には、小さなヴァリアント・テトラ。
壁面の星図には、まだ姿の見えないファロスαから届く微かな信号。物語の戦艦は、仲間が開いた道を抜けて地球へ向かった。
エーテル・ガイストもまた、カインが残した時間の先を進んでいる。行き先も、目的も違う。
それでも、誰かが開いた道の先へ進んでいるということだけは、少し似ていた。
エーテル・ガイストは針路を変えなかった。
暗い航路の先から、ファロスαの信号が静かに届き続けていた。
作者のモチベになりますので、
★評価よろしくお願いします。
_| ̄|○何卒。




