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トリニティ・ガイスト:亡霊と少女と軍神の航跡  作者: ベルシア


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第65話:自由港の網

 カインは、捕らえた追跡屋を連れて自由港の裏通りを歩いていた。

港湾労働者用の連絡階段を下り、古い補修通路へ入る。水漏れした冷却管。

止まったまま錆びついた貨物リフト。

天井から垂れ下がる配線束。

隔壁を一枚抜けるごとに、表通りの喧騒が遠ざかっていく。人の声は聞こえなくなった。

代わりに、送風機の低い唸りと、配管を流れる冷却水の音が通路を満たしていた。


「どこまで行く」


カインが訊いた。


「受け渡し場所だ」


追跡屋は前を向いたまま答えた。

先ほどまでカインを拘束しようとしていた男だ。

右手首には、自分で用意した拘束具が巻かれている。ただし、制御権はすでにカインの義眼へ移っていた。逃げようとすれば、手首が締まる。

男もそれを理解しているらしく、何度か気にするように腕を動かしたが、外そうとはしなかった。


「仲介屋のところではないのか」


「仲介屋が直接出てくるわけねえだろ」


追跡屋は鼻を鳴らした。


「俺みたいな木っ端が情報を運ぶ。決められた場所へ行って、端末に短文を入れる。確認が返ってきたら仕事は終わりだ」


「誰からの依頼だ」


「俺の仲介はスロットだ」


「スロット?」


「あだ名だよ」


追跡屋は肩越しにカインを見る。


「賭場によく出入りしてる。勝っても負けても、いつもスロット機の前に座ってるから、いつの間にかそう呼ばれるようになった」


「本名は」


「知らねえ」


「仲介相手の名も知らないのか」


「自由港じゃ珍しくねえよ」


追跡屋は乾いた声で笑った。


「名前なんか知ったところで、ろくなことにならない。それに、俺はスロットから仕事を回されるだけだ。その先に誰がいるかなんて、教えてもらえるわけねえだろ」


「受けた指示は」


「あんたを見つけたら追え。居場所と行き先を確認して報告しろ」


「捕まえろとは?」


追跡屋の足が、わずかに鈍った。

だが、カインは止まらない。

男もすぐに歩調を戻した。


「……それは言われてねえ」


「独断か」


「生け捕りにすりゃ、上乗せが出ると思ったんだよ」


「思っただけか」


「スロットが焦ってた」


追跡屋は苦々しく吐き出した。


「普段なら、場所と行き先を送れで終わりだ。今回は違った。見失ってないか、報告はまだかって、何度も確認してきやがった」


「何を焦っている」


「知らねえよ」


答えは早かった。

それ以上は本当に知らないらしい。


「お前は前にも俺を追ったのか」


「いや。俺は今回が初めてだ」


追跡屋は少し間を置いてから続けた。


「ただ、あんたを追う仕事そのものは、これで二度目らしい」


「誰から聞いた」


「スロットだ。今度は見失うなって言われた」


「前の追跡屋は」


「知らねえ」


「何があった」


「それも知らねえって」


男は苛立ったように首を振った。

だが、その声には怯えも混じっていた。


「俺は見てないが、スロットが前の件でえらい目に遭ったらしい」


「えらい目?」


「追跡屋や情報屋を何人かまとめて呼び出されて、持ってる情報を吐けって締め上げられた。それくらいしか聞いてねえ」


「誰に」


「知らない」


「スロットは話さなかったのか」


「話したがらなかった」


追跡屋の声が少し低くなる。


「あいつ、普段は何があっても賭け金の話をするような奴だ。誰かに脅されたって、負けた分をどう取り返すかしか考えねえ」


「今回は違った」


「ああ」


追跡屋は小さく頷いた。


「賭場にも顔は出してたが、いつものように座ってるだけじゃなかった。入口ばかり気にして、通信が入るたびに顔色を変えてた」


「それで報告を急がせた」


「そうだ」


「お前は、それを追加報酬の機会だと思った」


「……そうだよ」


「失敗したな」


「分かってる」


男は苦々しく吐き捨てた。

カインは黙って歩く。

階段を一つ下り、狭い通路を右へ曲がる。

照明の半分は死んでいた。

残った灯りも一定ではない。

明滅するたびに、配管の影が伸び縮みする。


「少女については」


「見つけても近づくな。場所だけ報告しろって言われた」


「理由は」


「知らねえ」


今度の返答には迷いがなかった。


「俺が知ってるのは、男を追え、少女には触るな。それだけだ」


「女型のアンドロイドは」


「見つけたら人数に入れろ。それ以上の指示はない」


末端に渡す情報としては、その程度だろう。

依頼主の名前も知らない。

狙いも知らない。

誰が前回の追跡屋を使い、なぜ再び自分を追わせているのかも知らない。

この男が知っているのは、仲介役の焦りと、決められた受け渡し場所だけだった。

カインは周囲の音へ意識を戻す。

送風機。冷却水。遠くを通過する貨物車両の振動。追ってくる足音はない。

だが、視線はあった。天井近く。

古い点検灯の横。

配線の影に、小さなレンズが埋め込まれている。

カインは顔を上げなかった。

視界の端だけで位置を記録し、そのまま通り過ぎる。


「受け渡し場所には誰が来る」


「普通は誰も来ねえ」


「普通は?」


「壁の端末に情報を入れて、確認信号を待つ。相手は別の線から拾う。俺は金を受け取って帰る。それだけだ」


「スロットも来ない」


「あいつは人を動かす側だ。自分から危ない場所へ出てくるかよ」


「なら、その先を引き出す」


追跡屋が足を止めかけた。


「何する気だ」


「報告を待っている奴に、本人を見せる」


カインは笑っていなかった。


「向こうが俺を探しているなら、手間を省いてやる」


「俺まで巻き込むなよ」


「もう巻き込まれているだろ」


「俺は仕事を受けただけだ」


「俺を捕まえようとしたな」


「それは……」


男は口ごもった。


「…少し欲を出しただけだ」


「その結果が今だ」


「分かってるって言ってるだろ」


追跡屋は再び歩き出した。

今度は少しだけ足が速い。

受け渡し場所へ早く着きたいのか。

それとも、カインから少しでも離れたいのか。

おそらく両方だった。


 同じ頃。

自由港の別区画。

古い貨物倉庫の地下にある補修室で、四人は次の報告を待っていた。

先に集めた追跡屋と情報屋は七人。

その中には、仲介役のスロットもいた。

金を受け取っていながら、必要な情報を上げなかった者。別口から報酬を積まれ、口を閉じた者。

何も知らないと言いながら、わずかな断片だけを握っていた者。七人から得られた情報は多くない。男。少女。女性型アンドロイド。

側車を付け替えられるホバーバイク。

クロンワークスへの出入り。

どこかに入った大型船の噂。

どれも決定打にはならなかった。

だが、同じ場所を指してはいた。

自由港。そこに、探している者たちがいる。

四人はそう判断し、七人を再び街へ戻した。


報告すべき項目を増やし、条件を改め、今度は見落とすなと伝えた。仮拠点の端末前では、ダリオ・マークスが集まった報告を選別していた。

短く刈った髪。感情の薄い目。


自由港の作業員に近い服装をしているが、端末を扱う指の動きには軍人の癖が残っている。

入ってくる報告のほとんどは役に立たなかった。

黒い上着を着た男を見た。

似た年頃の少女が市場にいた。

女性型アンドロイドが工房街を歩いていた。

大型船用の部品がまとめて運ばれた。

いずれも自由港では珍しくない。

ダリオは一つずつ開き、読み、不要と判断したものから閉じていった。

部屋の奥では、エリカ・ヴァイスが壁へ投影された港内図を見ていた。

受け渡し場所。

監視地点。

仮拠点へ戻るための保守路。

逃走に使える通路。

自由港では、一本の道に頼る者から消える。

だから出口は複数用意してある。

壁際に立つのは、作業用アンドロイドのガントリー。人間よりわずかに高い背丈。太い腕部。

肩から背へ折り畳まれた補助フレーム。

人型ではあるが、人間らしい顔はない。

頭部にあるのは光学センサーと発声器、それを守る無骨な装甲だけだった。

外装はくすみ、塗装の一部は意図的に剥がされている。肩には、実在しない民間整備会社の古い標章。軍用機械ではなく、中古の作業用アンドロイド。自由港の人間には、そう見えるように仕上げられていた。


部屋の中央には、ノインが座っていた。

少女とも少年ともつかない細身の身体。

白に近い肌。外套の下には、市街地戦用の薄いパワードスーツ。胸の奥には、簡易型のセラフィックコアが埋め込まれている。

そして外套の内側には、三本のスティレット。

実戦検証用として与えられたのは、最初からその三本だけだった。

情報屋たちを脅した際にも使った。

一本で服を壁に縫いつけ、残り二本を顔の横へ浮かべた。あの程度なら、ノインにも扱える。

だが、実戦でどこまで通用するかはまだ分からない。


「ノイン」


エリカが呼ぶ。

ノインが顔を上げた。


「共鳴を試せる?」


「やってみる」


ノインは胸元へ手を置いた。

簡易型コアが、弱く脈動しようとする。

その直前。ダリオの端末が短く鳴った。

通信音は一度だけ。

登録された中継線からの暗号化短文だった。


「待って」


エリカの声で、ノインの手が止まった。

コアの脈動も始まらない。

ダリオが届いた短文を開く。


「スロットの中継線です」


「内容は」


「対象を発見。受け渡し場所へ移動中」


エリカが振り返った。


「スロット本人?」


「…違います。恐らく雇われた末端の追跡屋です」


「対象は?」


「確認します」


報告には一枚の画像が添えられていた。

遠距離から撮られた荒い画像。

前を歩く男。

その背後を歩く、擦れた上着の男。

ダリオが拡大する。

義手。腰の拳銃。刀。顔は鮮明ではない。

それでも判別には十分だった。


「カイン・ウォーカーです」


ノインは胸元から手を離した。

エリカが言う。


「共鳴は中止」


「探さなくていい?」


「向こうから来てる」


ノインは小さく頷いた。

ダリオが受け渡し場所周辺の監視映像を開く。

受け渡し場所は仮拠点から離してある。

情報を置きに来た者を確認する。

怪しい動きがあれば切り捨てる。

監視線を逆に追われても、四人の居場所までは届かない。そのために、通信系統も別にしていた。

一つ目の映像に、古い補修通路が映る。

水漏れした冷却管。壁を這う太いケーブル。

不規則に揺れる照明。

そこへ二人が入ってきた。

追跡屋が前。カインが後ろ。

距離は近い。

追跡屋の歩き方も硬い。


「案内役は、対象の管理下にあるようです」


ダリオが言った。


「捕獲は指示した?」


「いいえ。発見後の追跡と位置報告だけです」


「独断ね」


「スロットが焦らせすぎたのでしょう」


「余計なことをする」


エリカは映像を見たまま答えた。

カインが、ふと顔を上げる。

天井近くの監視カメラへ視線を向けた。

画面越しに、目が合ったように見える。


「気づかれました」


ダリオが呟く。

カインは銃を抜かなかった。

刀にも触れない。

通路の壁へ義手の指先を触れさせる。

右目が一瞬だけ赤く光った。

映像に白い線が走る。


《信号喪失》


一つ目の画面が消えた。

ダリオが別の映像へ切り替える。

だが、二つ目も同時に乱れた。


《信号喪失》


続いて三つ目。


《信号喪失》


 端末上から、受け渡し場所までの監視線がまとめて消えた。ダリオの指が止まる。


「監視設備を無力化されました」


「こちらまで辿られる?」


「監視系統は受け渡し場所で切り離しています。仮拠点の位置は追えません」


「確実?」


「接続上は」


ダリオは残った痕跡を確認する。


「ただし、設置されたカメラの位置はすべて認識されたと考えるべきです」


ガントリーの光学センサーが低く点滅する。


《対象、監視設備を認識》


《電子侵入能力を確認》


《接触確率、上昇》


エリカは壁の港内図へ視線を戻した。

カインはまだ仮拠点の場所を知らない。

だが、受け渡し場所が監視されていたことは分かった。そのまま立ち去る可能性もある。

逆に、相手が出てくるまで待つ可能性もある。

カイン・ウォーカーなら、後者を選ぶ。


「こちらから出るわ」


ダリオが端末を閉じた。


「受け渡し場所へ?」


「仮拠点は」


「維持する。外との線だけ切って」


「了解」


ダリオは監視記録を携行端末へ移した。

外部との接続履歴を消去。

使い捨て通信機から記録媒体を抜き、内部の一部だけを焼く。

焦げた臭いが補修室へ広がった。主要端末の電源は落とす。床を這っていたケーブルはまとめて壁面へ戻した。

ガントリーが使用中の機材を収納扉へ入れ、外から見える荷物だけを背部コンテナへ収める。


《秘匿処理完了》


ノインは立ち上がり、外套の留め具を直した。

内側で、三本のスティレットがわずかに触れ合う。最後にエリカが室内を見回す。

予備物資。主要端末。武器と医療品。

戻ればすぐに使えるものは、そのまま残してある。


「封鎖」


ガントリーが扉の内側へ手を当てた。


《簡易警戒機構を起動》


照明が落ちる。

仮拠点は放棄されたのではない。

ただ、誰にも使われていない古い補修室へ、一時的に戻っただけだった。

四人は裏手の保守路へ出た。

ガントリーが先頭を進む。

その後ろにノイン。

ダリオが携行端末で周囲の回線を確認し、エリカが最後尾についた。

保守路は狭い。配管がむき出しになり、床には古い整備用レールが残っている。

人通りはない。遠くから、自由港の喧騒だけが低く響いていた。エリカは歩きながら封鎖回線を開く。接続先は、英雄ゼルギウス・カーマイン。

映像は使わない。


『状況を』


短い声が返る。


「カイン・ウォーカーを確認しました」


『自由港にいたか』


「はい。こちらが指定した受け渡し場所へ向かっています」


『本人で間違いないな』


「本人と判断します」


『少女は』


「未確認です」


『エーテル・ガイストは』


「同じく未確認。ですが、自由港内に不自然なエーテル散乱があります」

ガントリーが曲がり角の手前で止まる。

光学センサーを左右へ動かし、安全を確認。

四人はそのまま進んだ。


『試作体の反応は』


「共鳴を開始する直前に、対象の接近を確認しました。現在は中止させています」


『それでいい』


「これより接触します。指示を」


『試作体とアンドロイドの戦闘を許可する』


ノインがわずかに顔を上げる。


「捕獲は」


『狙うな』


返答は即座だった。


『カイン・ウォーカーを相手に、四名で捕獲を試みる必要はない。お前とダリオは支援に徹しろ』


「スティレットは」


『使用を許可する。三本すべての挙動と、カインの対処を記録しろ』


「ノインが危険になった場合は」


『撤退させろ』


エリカは一拍置いた。


「ヴォルフ元帥は、試作体の自壊処理を容認しています」


『知っている』


ゼルギウスの声が、わずかに低くなる。


『だが、私は許可しない』


エリカは黙って次の言葉を待った。


『ノインもガントリーも、ここで使い潰す必要はない。スティレットの戦闘データが取れれば十分だ』


「損傷限界は」


『お前が判断しろ』


「引き際も?」


『任せる』


 短い返答だった。

だが、それは責任を押しつける声ではなかった。

現場を見ている者へ、判断を預ける声だった。


「了解しました」


『ガントリーを前へ。ノインはその後ろ。ダリオは視界を作れ』


「私は全体を見ます」


『そうしろ』


一瞬、通信の向こうで別の声が聞こえた。

艦内報告か、別部署の連絡らしい。

ゼルギウスはそちらへ反応せず、最後に言った。


『無理はするな』


「承知しました」


通信が切れた。

エリカは腰の拳銃を確認する。


「聞いたわね」


ダリオが頷く。


「はい。視界と記録を担当します」


ガントリーの補助フレームから、低いロック解除音が鳴った。


《戦闘許可確認》


《防壁行動を優先》


ノインが外套の内側へ手を添える。


「…スティレットは」


「三本とも使っていい」


「…ガントリーの後ろから?」


「そう。前には出ないで」


「…分かった」


「危ないと思ったら下がること」


 ノインはエリカを見た。


「…自分で決めていい?」


「遅れそうなら、私が決める」


「…うん」


エリカは少しだけ視線を止めた。

ノインの表情に恐怖は見えない。

それが本当に怖くないからなのか。

恐怖を理解するほどの経験がないからなのか。

今は確かめる時ではなかった。

四人は受け渡し場所の手前にある保守区画へ入った。狭い正面通路。頭上の整備足場。

左右を走る太い配管。

退路へ繋がる横道。

ガントリーなら、正面を塞げる。

ノインが三本の飛翔体を動かす距離も取れる。

ダリオは壁面の梯子へ手をかけた。


「上へ行きます」


「任せる」


ダリオが整備足場へ上がる。

ノインはガントリーの後ろへ。

エリカは横道と退路を確認した。

煙幕弾。閃光弾。予備通信機。

すべてすぐ使える位置にある。


ガントリーが正面通路へ進んだ。

カインと追跡屋は、指定された受け渡し場所へ着いていた。


古い補修室の扉。

壁に埋め込まれた小型端末。

その横に、消えかけた保守番号。

他には何もない。


「ここだ」


追跡屋が端末を指した。


「ここに情報を入れるのか」


「ああ。短文を送って、確認信号を待つ」


男が端末へ手を伸ばした。

カインが腕を出し、その手を止める。


「触るな」


「何でだよ」


「もう報告は届いている」


「いつ」


「さっきだ」


追跡屋が天井を見上げる。

監視カメラは沈黙している。

カインが潰した後だからだ。


「見られてたのか」


「ああ」


「先に言えよ」


「言えば態度に出る」


「出ねえよ」


「今も出ている」


追跡屋は何か言い返そうとした。

だが、その前に音がした。

通路の奥。

重い金属が床を踏む。

一度。また一度。

作業機械に似た足音。

けれど、荷物を運ぶ機械の不規則な音ではない。

歩幅も間隔も一定だった。

追跡屋の顔が引きつる。


「……来るのか」


「らしいな」


「俺は今回が初めてだぞ。こんなの聞いてねえ」


追跡屋が後ずさる。


「スロットがえらい目に遭った理由、これか?」


「おそらくな」


「冗談じゃねえ。俺は降りる」


「下がっていろ」


「どこにだよ」


「死なない所だ」


「分かるか、そんなもん!」


「通路の壁際にでも隠れてろ」


「最初からそう言え!」


追跡屋は端末から離れ、通路脇へ走った。

配管の陰へ身を滑り込ませる。

カインはそれを見届け、崩兼元の柄へ手を置いた。足音が近づく。

薄暗い通路の奥。

最初に見えたのは、光学センサーの淡い光だった。次に、無骨な頭部。太い肩。

くすんだ装甲。

人型の作業用アンドロイドが、一歩ずつこちらへ近づいてくる。


民間整備会社の消えかけた標章。

使い込まれた外装。

だが、その歩き方に作業機械らしい揺れはない。

背後には、細身の人影が一つ。

さらに上方。整備足場の暗がりで、誰かが動いた。カインの右目が情報を拾い始める。


《複数反応》


《前方機械体、出力推定不能》


《上方に熱源》


《後方に小型飛翔物》


 三つ。


細い反応が、背後の人影の周囲で静止している。

追跡屋が配管の陰から、小さく息を呑んだ。


「……あれだ」


「何が」


「あの細い奴だ。スロットたちを締め上げた時に使われたって……」


カインは答えなかった。

視線を前へ戻す。

作業用アンドロイドが通路の中央で止まった。

正面を塞ぐ。

人間一人が横を抜ける余地もない。

低い合成音声が響いた。


《対象を確認》


カインは崩兼元を抜いた。

刃が薄暗い照明を拾う。


「情報の受け渡しにしては、ずいぶん物騒だな」


アンドロイドの補助フレームが開く。

金属音が、狭い通路へ広がった。

作者のモチベになりますので、

★評価よろしくお願いします。

_| ̄|○何卒。

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