第62話:共鳴の針
緩くお付き合い下さい。
特務戦艦は、ノクターン・デブリ帯を離れてヴォルフ元帥派閥の宇宙軍港に向かっていた。
艦体には戦闘の痕跡が残っている。
装甲表面の焦げ。
迎撃兵装の消耗。
ハルバード発射区画の再点検。
損傷と呼ぶには軽い。
だが、何事もなかったと言うには、戦闘の名残が多すぎた。艦橋では、各部署から上がってくる作戦終了報告が整理されている。
《リレイ》への共同作戦終了通知。
艦載翼機スパローの収容。
兵装残量。航路変更。帰投予定。
その通常処理とは別に、ゼルギウスは封鎖回線を開いていた。接続先は《スコル》。
ヴォルフ元帥の旗艦。映像は使わない。
必要なのは声だけだった。
「アクシデントはありましたが、予定通りです」
回線の向こうから、静かな声が返る。
『賛同者は』
「退避済みです。必要機材、保全資料も同様」
『そうか』
「ただし、一部の人材と機材が流出しました」
短い沈黙。
『シャドウランナーズか』
「関与した可能性が高いです」
シャドウランナーズ。黒外套の一派。
地球圏を広く動き回る運び屋の総称に近い。
合法貨物。非合法貨物。医療品。武器。人間。
記録媒体。依頼と報酬が釣り合えば、境界線にはこだわらない。
組織というより、複数の船団、仲介人、荷受人、船主が緩く繋がった流通網だった。
「ネスト内部から搬出された人員の一部と、未確認の資料、機材が彼らの輸送経路へ流れた可能性があります」
『回収班からの報告は』
「確認済みです。こちらが指定した対象については回収完了しています」
『なら構わん』
ヴォルフの答えは淡白だった。
『配達人は捨て置け』
「追跡しませんか」
『荷を運んだ者を追っても、次の荷主に辿り着けるとは限らん。あの連中はそういう商売だ』
「了解しました」
『それよりもだ』
声の温度が、わずかに変わった。
『カラスを見たな』
ゼルギウスは保存記録を開く。
黒い戦闘翼機。旧式の機影。
だが、細部は過去記録と異なる。
推進器。翼部。熱分散。
機体制御の反応速度。
「はい。外観は一部変化しています」
『搭乗者は』
「顔認証はできていません」
『聞いているのは顔ではない』
ゼルギウスは一拍置いた。
「……恐らく、カインです」
『そうだろうな』
ヴォルフは驚かなかった。
むしろ、その答えを待っていたようだった。
『カインが自由港と中央を引っ張ったか』
「結果としては、その形です」
ネストの存在を探り。
自由港の船を動かし。
中央本部の軍艦を呼び込み。
最後には、巨大艦化したネストそのものを沈めた。すべてを直接指揮したわけではない。
だが、始まりにカインがいた。
カインが動かなければ、《リレイ》も自由港の船団も、あの場所へ集まらなかった可能性は高い。
ヴォルフが低く笑った。
『流石は英雄だ』
皮肉ではなかった。
『あの状況から生き延び、艦を得て、そのままこちらの施設を一つ焼いた』
ヴォルフは淡々と言った。
『カイン・ウォーカーは生きている』
『カラスもある』
『少女もいる』
『そして、エーテル・ガイストも稼働している』
ゼルギウスは黙って聞いていた。
『ならば、居場所も大方決まる』
「自由港」
『そうだ』
迷いのない返答だった。
『カインが一人なら、どこにでも潜れる』
『少女と戦闘翼機だけでも同じだ』
『だが、エーテル・ガイストまで隠すとなれば場所は限られる』
「自由港なら、大型艦を隠せる」
『輸送船も、傭兵船も、登録の曖昧な大型船も出入りする。部品を買っても不自然ではない。人間も消せる』
「現地から上がってくる報告はあります」
『中身は』
「当たり障りのないものばかりです」
『なら、なおさらだ』
ヴォルフの声が低くなる。
『見つからないのではない。見せる気がない』
「アトリー元帥が手を回したと?」
『恐らくな』
「自由港側の協力者もいるでしょう」
『当然だ。カインは短期間で人を選ぶのが上手い』
ヴォルフは少し間を置いた。
『こちらも、少し派手に動くか』
ゼルギウスの目が細くなる。
「兵を入れますか」
『小隊規模を送れ』
「では」
『試作体を一体』
艦橋の空調音だけが残った。
『それに、アンドロイドを一体』
続けて、
『兵士を二名つけろ』
「四名ですか」
『そうだ』
「兵士二名の選定基準は」
『お前が選べ』
即答だった。
『自由港で動ける者を』
「潜入経験を優先します」
『任せる。一人は指揮、一人は補助だ』
「試作体の装備は」
『市街地戦用のパワードスーツ』
ヴォルフは続ける。
『スティレット実戦検証型も持たせろ』
『データが取れる』
ゼルギウスは何も言わない。
ヴォルフは平然としていた。
『もしもの時、試作体は自壊させろ。共鳴器官も、制御部も、回収できないように処理する』
「目的は少女の捕獲ではないと」
『まだな』
「では、共鳴反応による捜索ですか」
『そうだ』
試作体に搭載されたものは、完全なセラフィックコアではない。
簡易型。機能を絞り、寿命と安定性を捨てた人工共鳴器官。長期間人間を生かすためのものではない。ただ、同系統の反応を見つけるために使える。
『少女の共鳴器官セラフィックコアは、接近すれば何らかの反応が出る』
「ですがエーテル・ガイストまでは」
『少女が見つかれば、カインがいる』
ヴォルフは断定した。
『カインがいるなら、艦も遠くない』
『自由港を壊す必要はない』
「はい」
『だが、遠慮も必要ない』
「承知しました」
通信が切れる。
ゼルギウスは数秒間、何も表示されていない通信画面を見ていた。それから振り返る。
「聞いたな」
近くに控えていた副官が姿勢を正す。
「はい」
「試作体を用意しろ」
「了解しました」
「アンドロイドも一体」
「外見偽装を行いますか」
「不要だ」
ゼルギウスは答えた。
「人間に擬態させる必要はない」
「では軍用外装のまま?」
「それは目立つ」
副官が端末を操作する。
ゼルギウスは続けた。
「自由港にいても不自然ではない外見にしろ」
「工業作業型、船舶整備型、荷役補助型。その辺りに見えるように」
「了解しました」
「顔は人間に似せなくていい。人工皮膚もいらない」
自由港には正規の宇宙都市よりも様々なアンドロイドがいる。旧式。民間型。改造型。作業用。個人所有。
人間そっくりのものもいれば、機械の顔をそのまま晒しているものもいる。
問題はアンドロイドであることではない。
現行軍用品に見えることだった。
「外装をくすませろ。塗装も適度に剥がせ」
「中古の民間作業機に見せます」
「それでいい」
ゼルギウスは次へ進む。
「人員候補を上げろ」
副官が操作する。
正面モニターに、実働部隊所属者の記録が並んだ。
名前。
階級。
任務歴。
潜入歴。
接触地域。
言語。
偽装身分使用経験。
「自由港への渡航歴がある者はいるか」
「類似する独立宇宙都市、無法港への潜入経験も含めろ」
「絞ります」
候補が減る。
ゼルギウスは一人の女性隊員の記録を開いた。
自由港への渡航経験あり。
民間傭兵会社を偽装した潜入任務。
工業区、賭博区、船員街での活動記録。
軍人の歩き方を消せる。
「これを指揮役に」
「了解」
次に、男性隊員。
自由港そのものへの渡航歴はない。
だが、複数の独立宇宙都市で潜入任務経験。
密輸船団への接触。港湾労働者偽装。
貨物記録の裏取り。追跡と近距離支援を得意としている。
「補助はこれだ」
「了解しました」
「二人には必要なことだけ教えろ」
「投入時期は」
「準備が終わり次第だ」
ゼルギウスは、自由港の簡易図を表示した。
「まずは、金を払った相手に仕事をさせる」
自由港へ入る船の数は、ネスト攻略後も減っていなかった。むしろ増えている。
損傷船。部品を売りに来る者。
残骸の買い付け。作戦報酬を使いに来た傭兵。
その金を狙う商人。商人を狙う詐欺師。
人が動けば、その後ろから別の人間が来る。
四人が自由港へ入った時も、誰も特別な注意を払わなかった。先頭を歩く女。少し後ろを歩く男。
外套の下に市街地戦用パワードスーツを隠した試作体。そして、荷物を持つアンドロイド。
アンドロイドの顔に人間らしさはない。
平坦な装甲面。簡素な光学センサー。擦れた外装。片方の肩には、消えかけた民間整備会社の偽造標章。自由港では、その程度の機械は珍しくなかった。四人は歓楽区へ行かなかった。宿を探すこともしない。先に呼び出しをかけた。
情報屋。
追跡屋。
港湾作業員を装う仲介人。
船員の出入りを売る者。
宿の利用履歴を横流しする者。
大型船の出入りを見張る者。
全員ではない。
以前、ヴォルフ側の仲介線から金を受け取った者だけだった。
呼び出し場所は、使われなくなった小型貨物倉庫。自由港では珍しくもない場所だ。
約束の時間になると、七人が集まった。
誰も、互いに呼ばれているとは知らなかった。
「何だよ、これは」
一人が最初に言った。
「俺は個別の話だと聞いたぞ」
「俺もだ」
「依頼の追加なら、先に条件を――」
扉が閉じた。
重いロック音。
七人の視線が振り向く。
女兵士が入口の前に立っていた。
男兵士は横の壁に寄り、周囲を見ている。
アンドロイドは動かない。
試作体だけが、倉庫中央に立っていた。
女兵士が口を開く。
「質問は一つ」
誰も答えない。
「何故、欲しい情報を上げなかった」
一人の情報屋が眉をひそめる。
「何の話だ」
「金は前払いだったわね」
「……依頼はこなした」
「結果が来ていないわ」
「情報がなかったんだよ」
女兵士は男兵士を見る。
男が端末を操作した。
七人の名前。
支払額。
依頼日時。
調査対象。
大型船。
外部から来た男。
若い少女。
軍歴不明。
古い高機動戦闘翼機の噂。
「情報がなかった?」
女兵士が繰り返す。
沈黙。試作体が、ゆっくり右手を上げた。
外套の隙間から、小さな金属光沢が浮かぶ。
一基。二基。三基。
細い刃のような飛翔体。
スティレット実戦検証型。
指で操作していない。
視線も向けていない。
それでも三本の刃は試作体の周囲で静止していた。
「おい……」
一人の追跡屋が後退する。
一本のスティレットが走った。
音は小さい。
男の上着の肩口だけを貫き、背後の金属壁へ突き刺さる。
「っ!」
身体は傷ついていない。
だが、服ごと壁に縫い止められた。
残る二本が、ゆっくりと彼の顔の横へ移動する。
「待て! 分かった、話す!」
「最初からそうしなさい」
女兵士の声は穏やかだった。
「何を見たの?」
「男と……若い女だ」
「人数は」
「だから二人――」
「…違う」
別の追跡屋が口を挟んだ。
「三人だ」
女兵士がそちらを見る。
「続けなさい」
「男と少女。それからアンドロイドが一体」
「アンドロイド?」
「ああ。女性型だったと思う。遠目だったから確証はねえ」
最初の男が言い返す。
「俺が見た時はいなかった」
「別行動してたんだろ」
「人数の記録が一致していないのは、それが理由?」
「知らねえよ。俺達だって四六時中追ってたわけじゃない」
アンドロイドが一歩動いた。
床が小さく鳴る。
別の情報屋が反射的に後ろへ下がろうとした。
肩を掴まれる。
そのまま首元へ機械の手が移る。
「待て、待て!」
指が閉じる。
持ち上げはしない。
逃げられないだけだ。
「本当に知らねえ! 深追いしなかったんだ!」
女兵士が訊く。
「何故?」
「金だよ!」
「こちらも払ったわ」
「もっと払う奴がいた!」
倉庫内が静かになる。
「誰?」
「知らねえ」
アンドロイドの指が少しだけ締まる。
「本当に知らない!」
「名前は?」
「聞かなかった!女だ。軍人っぽくは見えなかった」
「特徴は?」
「金払いが良かった」
「それは特徴ではないわ」
「本人は賭場で儲けたって言ってた!」
男は必死に続ける。
「大勝ちしたから金があるって。調べても、実際に賭場で派手に勝った奴がいたって話は出た」
「それだけで口を閉じたと」
「それだけじゃねえ!」
別の情報屋が声を上げる。
「後ろがある」
「何処の?」
「知らない」
スティレットの一本が壁から抜ける。
追跡屋の肩を縫い止めていた服が破れ、男が床へ転がった。飛翔体は試作体の横へ戻る。
「知らない、ばかりね」
女兵士が言った。
「自由港じゃ、知らない方が長生きすることがある」
年長の情報屋が吐き捨てるように答えた。
「最初はただの金持った女だと思った。だが途中から違うと分かった」
「何が」
「こっちが調べようとすると、別の線から牽制が来た」
「誰から」
「それも分からねえ。分からねえから止めたんだ」
「自由港の三派閥?」
「可能性はある」
「軍?」
「知らねえ」
「本当に?」
「知らねえって言ってるだろ」
男はそこで口を閉じた。
女兵士は何も言わない。
年長の情報屋が続ける。
「この街で、軍のいざこざに首を突っ込む馬鹿はいねえ」
「確証はないんでしょ」
「確証を取るまで掘ったら、確証と一緒に死体になる」
試作体のスティレットが、ゆっくり旋回した。
男は目で追う。
「だから止めたと」
「金も受け取ったと」
「ああ」
「こちらからも受け取った」
「ああ」
「二重取りね」
「…情報屋だぞ」
男は乾いた笑いを浮かべた。
「慈善事業じゃない」
アンドロイドに掴まれていた男が、ようやく解放された。咳き込みながら床へ膝をつく。
女兵士は次へ進んだ。
「他に何を見た?」
「ホバーバイク」
一人の追跡屋が言った。
「バイク?」
「男が乗ってた」
「一人で?」
「その時はな。別の日には側車付きだったって話もある」
「同じ車両?」
「多分な。フレームに特徴があった」
「行き先は」
「工房街」
「出入り先」
少し間が空いた。
「…クロンワークス」
女兵士の目が動いた。
「確実に?」
「何度か出入りしてる」
「修理依頼か」
「そこまでは分からない」
「小型船も?」
「見たって奴はいる」
別の男が口を挟む。
「工房に出入りするのがあった。だが、自由港じゃ珍しくない」
「男と少女が乗っていた?」
「毎回じゃない」
「アンドロイドは」
「見た奴もいる」
人数が揃わない。
行動も一定しない。
だが、同じ場所へ繋がる。
クロンワークス。
女兵士はその名を記憶する。
「大型艦については」
七人の空気が少し変わった。
今度は、誰もすぐには答えない。
「何かあるわね」
「…噂だ」
一人が言った。
「どんな噂?」
「ホエール級の話」
「正確に」
「曳航筋から聞いただけだ」
男は両手を見せる。
「大型輸送艦が一隻、どこかの大型ドックに入った」
「場所は」
「知らない」
「大型ドックは全部、俺達みたいなのが覗ける場所じゃねえ」
「時期は」
「今の騒ぎよりずっと前だ」
「前?」
「ああ」
「それから」
「最近また動きがあったって話がある」
女兵士が目を細める。
「入港か、出港か」
「分からねえ」
「それでは情報にならないわ」
「だから報告しなかったんだよ!」
情報屋が声を荒らげた。
「ホエール級なんて話が出ても、実際にホエール級とは限らねえ!この街じゃ大型船を全部クジラって呼ぶ奴もいる!」
「ギアハンドの誰が言った?」
「そこは言えない」
アンドロイドが動く。
「待て!」
「言え」
「本当にそこを売ったら俺が仕事できなくなる!」
「仕事を続けられると思っているの?」
女兵士が冷たく訊いた。
男の顔色が変わる。
「……直接聞いたわけじゃない」
「続きを」
「酒場で聞いた。ギアハンドの下請け連中だ」
「内容は」
「でかい輸送艦が入った。補修扱いだった。今の自由港の賑わいのにも、何か噛んでるらしい。それだけだ」
「船名は」
「知らない」
「所有者は」
「知らない」
「係留ドックは」
「本当に知らない!」
今度の声には嘘がなかった。
女兵士は少しだけ間を置く。
「エーテル・ガイストという名前を聞いたことは?」
七人とも、反応しなかった。
一人が眉を寄せる。
「何だ、それ」
別の者も首を振った。
「船名か?」
「知らねえな」
「初耳だ」
女兵士は男兵士を見る。
男が小さく頷く。
反応解析上も、知っている様子は薄い。
本当に知らない。
彼らが持っているのは断片だけだ。
男。少女。アンドロイド。
人数の揃わない目撃情報。
ホバーバイク。
クロンワークス。
金払いの良い正体不明の女。
自由港の力関係。大型輸送艦の噂。
だが、その中心にある名前は知らない。
試作体が、初めて少しだけ顔を上げた。
胸部の奥。人工的に埋め込まれた簡易型共鳴器官が、弱く脈動する。
一度。
それだけ。
女兵士が振り向く。
「反応したの?」
試作体は答えない。
単なる環境反応か。
それとも。この巨大な自由港のどこかにある、同系統の何かを拾ったのか。判断できるほどの値ではない。だが、女兵士は見逃さなかった。
「記録をとって」
男兵士が端末へ入力する。
「微弱反応。発生時刻保存」
情報屋の一人が、不安そうに試作体を見る。
「あんたら……何者だ」
女兵士は答えなかった。
代わりに七人を見回す。
「仕事をしてもらうわ」
「まだやるのかよ」
「追加で払う」
「…何を探す?」
「今まで通りよ」
女兵士は淡々と言った。
「男と少女」
「アンドロイド」
「ホバーバイク」
「クロンワークスへの出入り」
「大型船の動き」
「余計な動きは必要ない」
年長の情報屋が目を細める。
「また別の奴に金を積まれたら?」
「次は選択を間違え無い事ね」
一本のスティレットが、彼の耳元を通過した。
背後の古い端末へ刺さる。
一瞬遅れて、端末の画面が割れた。
「……分かりやすいな」
女兵士は扉へ向かう。
アンドロイドがロックを解除する。
試作体の周囲を回っていたスティレットが、静かに携行収納部へ戻った。
四人が倉庫を出ていく。
外は、いつもの自由港だった。
酒場から流れる音楽。作業ドローン。
積み荷を運ぶ人間。
値段を巡って怒鳴る商人。
その間を、四人は何事もなかったように歩いていく。
女兵士が言った。
「…クロンワークス」
男兵士が答える。
「ホバーバイク」
「人数の不一致」
「アンドロイド一体」
「大型輸送艦の噂」
「それから、正体不明の女」
「本人曰く、賭場で儲けたと」
女兵士はそこで少しだけ口元を歪めた。
「ずいぶん景気のいい話ね」
「自由港らしい」
「本当に賭場だけなら」
二人の後ろを、アンドロイドが歩く。
その横に試作体。
外套の下で、簡易型セラフィックコアが、また一度だけ脈を打った。今度は先ほどより、わずかに強い。試作体が足を止める。
「どうしたの?」
返答はない。
顔だけが、工房街のある方向へ少し向いた。
女兵士はその視線を追う。
工房街。クロンワークス。そのさらに外。
巨大な自由港の壁と、大型ドック群。
「……なるほど」
彼女は端末を開いた。
自由港は広い。人も船も多い。
嘘も噂も、金で買える沈黙も多い。
しかし、共鳴まで金で黙らせることはできない。
四人は、人波の中へ消えた。
作者のモチベになりますので、
★評価よろしくお願いします。
_| ̄|○何卒。




