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トリニティ・ガイスト:亡霊と少女と軍神の航跡  作者: ベルシア


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第53話:ノクターンデブリ帯再偵察

 ヴィジルの修復は、あと少しというところまで来ていた。クロンワークスの奥で、低浮上装甲車両の残骸だったものは、すでに“車両”と呼んでいい輪郭を取り戻している。剥がれていた前面装甲は仮留めされ、腹部の浮上ユニットには新しい補助フレームが噛まされていた。まだ武装は載っていない。だが、重い車体を低く沈めたその姿には、すでに「眠らず守るもの」という名にふさわしい鈍い圧があった。クロンはその横で端末を見ながら言った。


「足回りはもうじき起こせる。浮かせるだけなら今日中でもいける」


「走れるか」


カインが聞くと、クロンは鼻を鳴らした。


「まともに走らせるなら、あと少しだ。急かすな」


「急かしてない」


「顔が急かしてる」


クロンはそう言って、工具義肢でヴィジルの装甲を軽く叩いた。


「武装はそっちでやるんだろ」


「ああ」


「死なねえところまで戻す。そこから先は知らん」


「十分だ」


カインが短く返す。

その横で、アイリスはヴィジルを見上げていた。ノクス、アンブラ、ヴェスパー。ランタン。そこへヴィジルが加わる。自由港に来た時には何もなかったのに、今では船も車両も、少しずつ自分たちの形を持ちはじめている。

だが、空気は軽くなかった。

クロンワークスへ来る前、ティルザ経由で短い警告が入っていた。自由港内で、カインたちの周辺を探る目が増えている。それはまだ正体を掴めるほど露骨ではない。船の修理履歴を覗く者。ドライドック六番周辺の搬入記録を探る者。カラスという旧式機の噂を拾おうとする者。どれも細い。だが、細い線が何本も同じ方向へ向けば、それはもう偶然ではない。クロンの前で、その話はしなかった。カインはただ、軽く言った。


「少し外に出る」


「外?」


クロンが眉を上げる。


「ノクス三姉妹の調整も兼ねてな。外縁を少し回る。残骸も見てくる」


「残骸拾いか」


「使えそうな物があれば拾う」


それだけなら自由港では自然だった。船を作り、直し、部材を欲しがる連中が、外縁の残骸帯へ出る。珍しくもない。クロンも深くは聞かなかった。


「ノクス、アンブラ、ヴェスパーはこの前見た限り悪くない。だが外縁まで出すなら、無茶はするな」


「分かってる」


「本当に分かってる奴は、そういう顔をしねえんだよ」


カインは横目で見てから、話をそこで切った。


「ヴィジルは頼む」


「任された」


クロンは短く返す。それ以上は言わなかった。


クロンワークスを出たあと、三人はドライドック六番へ戻った。

エーテルガイストの艦内では、すでにアドミラルが次の準備を進めていた。

格納区画の一角で、ヴェスパーの内部貨物スペースが開放されている。本来ならヴィジルやコガラス、大型部材を積むための区画だが、今日は中央に十分な空間が作られていた。そこに、黒い機体が沈黙していた。カラス。旧式高機動戦闘翼機。かつてカインが連合軍で使っていた翼。今は近代化改修をされ、更に折り畳み式の艦載改修を受け、左右の主翼が根元から二段に畳まれている。翼端も内側へ折れ、機体の全幅は驚くほど小さく収まっていた。ヴェスパーの腹の中に、黒い鳥が眠っているようだった。カインはその姿を見て、短く息を吐いた。


「ずいぶん変わったな」


『ヴェスパー搭載運用のためだ』


アドミラルが答える。


『折り畳み翼、格納固定、ヴェスパーからの分離シーケンス、再展開機構。いずれも試験済み』


カラスの簡易表示が点る。


[Karasu_AI] 艦載形態、安定。


[Karasu_AI] 翼展開機構、正常。


[Karasu_AI] カイン、搭乗を確認できる状態です。


「急かすな」


[Karasu_AI] 急かしていません。待機しています。


アイリスはヴェスパーの中へ収まったカラスを見て、少しだけ目を丸くしていた。


「カラスも入るんだ……」


「積むために直したからな」


カインは答える。


『なお、今回のカラス運用は隠密偵察を主目的とする』


アドミラルが続けた。


『通常の反応抑制に加え、光学同化外装を一時使用可能状態にした』


壁面モニタに、カラスの外装表面の模式図が出る。黒い装甲が周囲の光を拾い、背景に合わせて鈍く色を変える。完全な透明化ではない。だが、デブリ帯の暗い残骸や散乱光の中では、目視確認が難しくなる。


『エーテル反応、熱源、電波反射、光学輪郭を低減する』


『ただし、火器管制を起動した時点で同化率は大きく低下する』


「撃ったら終わりか」


『そうだ』


[Karasu_AI] エーテルキャノン、レイヴンハング、機銃。いずれも使用時に反応を残します。


[Karasu_AI] 隠密継続を優先する場合、攻撃は非推奨です。


「分かりやすいな」


「……カイン、撃たないでね」


アイリスが少し不安そうに言う。


 カインはすぐには答えず、カラスの機首を見た。


「撃たずに済めばな」


「その返事、あんまり安心できない」


『同意する』


アドミラルが言った。


「…提督まで……」


アイリスが小さく呟く。


今回の表向きの目的は、ノクス三姉妹による外縁サルベージだった。ノクスが前に出て、アンブラが護衛につき、ヴェスパーが回収と運搬を担当する。以前アイリスが大型反応を感じたノクターン・デブリ帯周辺で、あくまで残骸回収の顔をする。その裏で、カインがカラスで離脱し、大型反応の正体を探る。ミラはノクスに乗る。アイリスも観測補助としてノクスへ乗る。アンブラとヴェスパーはアドミラルの制御支援を受けつつ、それぞれ独立運用する。カインはカラス。エーテルガイスト本体は自由港に残る。出発はすぐだった。

ノクス、アンブラ、ヴェスパーの三隻は、自由港の外縁ドックから順に離れた。いずれも小型船だ。大型貨物船めいた偽装外装をまとったエーテルガイストの影から出ていく姿は、自由港の小さな作業船団にしか見えない。

ヴェスパーの貨物区画には、折り畳まれたカラスが沈黙している。

自由港の外へ出ると、リング都市の光が背後へ遠ざかっていった。

ノクスが先行し、アンブラがやや右後方。ヴェスパーは少し遅れて、回収船らしい距離を保つ。


『外部登録上は、自由港所属小型サルベージ船団』


アドミラルが告げる。


『目的地は旧外縁航路K-9近傍。名目は残骸回収と部材確認』


ミラがノクスの操縦席で応じる。


「了解。出力は民間作業船域で維持します」


アイリスは隣の席で、前方の宙域図を見ていた。ノクターン・デブリ帯。前に一度、浅く触れただけの暗い帯。そこには今も、嫌な沈黙が横たわっているように見えた。


「……近づいてるね」


「まだ外縁です」


ミラは淡々と答える。


「前回より深く入りますが、深部へは踏み込みません」


「うん」


アイリスは頷いた。やがて、星の密度が変わった。正確には、星が減ったのではない。前方に漂う無数の残骸と微細な氷片、古い船体片、通信反射を乱す金属塵が、視界を濁らせ始めたのだ。照明を持たない暗い帯。ところどころで、古いビーコンの死にかけた信号がノイズのように揺れている。


『ノクターン・デブリ帯外縁へ到達』


アドミラルの声。


『ヴェスパー、カラス分離準備』


ヴェスパーの内部で固定具が外れる音がした。

カインはすでにカラスの操縦席に収まっていた。閉じたコックピットの中、正面モニタにカラスのAI表示が浮かぶ。


[Karasu_AI] 分離シーケンス待機。


[Karasu_AI] 翼展開は分離後。


[Karasu_AI] ステルスモード、起動準備完了。


「行くぞ」


[Karasu_AI] 了解。


ヴェスパーの腹部ハッチが開く。

外は暗い。デブリ帯の手前、散乱光の少ない空間。カラスは折り畳まれたまま静かに押し出され、ヴェスパーから離れた。


数秒後。


[Karasu_AI] 分離完了。


[Karasu_AI] 翼展開。


折り畳まれていた主翼が外へ伸びる。第一関節が開き、第二関節が伸び、翼端が跳ねるように位置を取る。黒い機体が本来の輪郭を取り戻す。

しかし、その姿はすぐに薄れた。

カラスの外装が、周囲の暗い残骸の色を拾い始める。輪郭が黒から灰へ、灰から背景の影へ沈む。エーテル反応も熱源も極小に落ち、機体はデブリ帯の影へ溶け込んだ。


[Karasu_AI] ステルスモード起動。


[Karasu_AI] 光学同化率、七十八パーセント。


[Karasu_AI] 低速移動を推奨。


「十分だ」


カインは操縦桿を握る。

背後では、三姉妹がサルベージ作業を始めた。

ノクスが大型船体片へアンカーを撃つ。ヴェスパーが回収用の作業ドローンを出す。アンブラは少し離れて護衛位置につき、外縁の漂流物を警戒する。それは、外から見れば本当に残骸拾いだった。ノクスの作業ドローン二機が、古い外装板を切り離し、ヴェスパーの回収スペースへ誘導する。アンカーランチャーが低く鳴り、強化ワイヤーが残骸を抑える。アンブラは軽く位置を変えながら、周囲へ浅い探査波を放つ。

その作業の影で、カラスはさらに奥へ滑り込んだ。カインの視界に、ブラッドハウンドの表示が重なる。


《デブリ密度:上昇》


《通信反射:不安定》


《前回大型反応推定域:前方二十七キロ》


『艦長』


アドミラルの声が、細い通信で届く。


『この先は通信遅延が増える』


「分かってる」


『戦闘は避けろ』


「努力する」


[Karasu_AI] その返答は努力目標です。


「うるさい」


カラスはデブリの影を縫った。

古い船体の腹。割れた輸送コンテナ。凍りついた推進器。誰かが過去にここで死んだ痕跡が、無数に流れている。だが、自然な残骸だけではなかった。規則的に切断された船体片。

外装だけを抜かれたドローンフレーム。

同じ規格の接続痕を持つ金属片。

漂流物のふりをしているが、明らかにどこかから排出されたものだった。


「……廃棄場か」


『その可能性が高い』


アドミラルが答える。


『便宜上呼称を――』


そこで声が止まる。

カインは短く言った。


「まだ名前を付けるな」


『了解』


さらに奥へ。


アイリスの声がノイズ混じりに届いた。


『カイン……そこ、近い』


「感じるか」


『うん。前よりはっきりしてる』


アイリスの声は小さい。


『嫌な感じ。似てる。でも、もっと大きい』


「位置を送れ」


『ミラが送ってる』


ブラッドハウンドの表示に、新しい推定域が重なる。カインは機体をわずかに傾けた。


[Karasu_AI] 進路修正。


[Karasu_AI] 前方、異常構造物反応。


最初、それは巨大な岩塊に見えた。


デブリ帯の奥に沈む、いびつな黒い塊。だが近づくにつれ、それが自然物ではないことが分かった。古い遺構。曲線を持つ外殻。人類の構造物ではありえない滑らかな面と、不規則に脈打つ共鳴紋。それに、人類製の足場、ドックフレーム、排熱管、外部装甲、通信アレイが無理やり貼り付けられている。遺跡を基地にしたのではない。

遺跡に寄生した基地だった。


「……あったな」


カインは低く言った。


[Karasu_AI] 大型反応源、視認。


[Karasu_AI] 光学記録開始。


『こちらでも受信している』


アドミラルの声がわずかに低くなる。


『エーテリアン遺構に、人類製設備を後付けしている』


カインは火器管制には触れなかった。カラスはまだ影の中にいる。外部ドックが見える。

そこには小型無人艦の骨格が並んでいた。完成品ではない。船体フレームだけのもの。外装を付けられたもの。炉心らしきユニットをまだ抱えていないもの。逆に、結晶性の部品をすでに組み込まれたもの。そして、その奥。

開いたドックベイの中で、一隻の無人艦が“生まれて”いた。まず、軍規格に近い旧式フレームが搬送アームに吊られる。次に、中央部へ混成炉らしき球体ユニットが挿入される。周囲を人類製の固定具が締め、共鳴導体が血管のように伸びていく。外装板が閉じ、無人制御コアが接続される。

最後に、船体表面のセンサーが赤く灯った。

起動。完全な進水ではない。だが、眠っていたものが目を開ける瞬間だった。


カインの喉の奥で、声が低くなる。


「量産しているな」


『無人艦生産プラントと判断する』


アドミラルが告げた。


『ただし、稼働状況に不自然な点がある』


「何だ」


『搬出が早い』


カインも見ていた。


 完成した無人艦は、検査もそこそこに外部レールへ送られている。別の区画では、コンテナが次々と輸送艇へ積まれていた。機材。記録媒体。制御核らしき封印箱。人員らしき気密ポッド。

その一方で、いくつもの端末が焼かれている。ドックの一部はすでに爆破処理を受けた跡がある。


「捨てる準備だな」


『クレイドルと同様の処理傾向』


アドミラルが答える。カインは歯を噛んだ。

早かったのではない。遅かったのだ。


 ここはもう、守る施設ではなく、切り捨てる施設に変わり始めている。


[Karasu_AI] 外部巡回機、接近。


カインは操縦桿をわずかに倒した。

カラスが近くの大型残骸の影へ滑り込む。外装が背景の黒と灰を拾い、輪郭がさらに沈む。巡回ドローンがすぐ近くを通過した。赤いセンサー光が、デブリの表面を撫でていく。動けば見える。

撃てば終わる。カインは呼吸を浅くした。


[Karasu_AI] 光学同化率、八十五パーセント。


[Karasu_AI] 動かなければ見えません。


「分かってる」


巡回ドローンは数秒止まり、何かを探るように周囲を見た。だが、通り過ぎた。

カインはそのまま影から離れず、施設外殻を観察した。外部保守口がある。

人一人が入れる程度の補助搬入口。周囲の装甲は古く、最近開いた形跡がある。内部へ入れば、もっとデータが取れる。だが、同時に危険も跳ね上がる。


『艦長』


アドミラルが言う。


『外観偵察で十分な成果は得ている』


「内部を少し見る」


『推奨しない』


「少しだ」


『その“少し”は信用できない』


[Karasu_AI] 同意します。


「二人してうるさいな」


カインはカラスを保守口近くの残骸影に固定した。機体を完全停止に近い状態へ落とし、ステルス同化を維持する。そして、小型外部活動装備を起こした。カラスから離れる時間は短くする。深く入らない。戦闘もしない。取るのは、外縁端末のデータだけ。保守口のロックは古かった。人類製の後付け端末。ブラッドハウンドが補助線を走らせる。


ピピッ


《開錠補助:八秒》


八秒後、外部保守口がわずかに開いた。

内部は暗い。カインは滑り込むように入った。

空気は薄く、冷たい。壁面は遺構の黒い素材と、人類製のケーブルが混ざっている。足元には廃棄された工具、焼け焦げた記録端末、半分だけ破壊された無人機の腕部。ここは外縁整備区画だ。

深部ではない。だが、施設の呼吸は聞こえた。どこか奥で大型機械が動き、何かを組み立て、何かを壊している。壁際の端末に触れる。

反応は死にかけていた。だが完全には死んでいない。


「ブラッドハウンド」


《接続開始》


《外縁整備ログ》


《搬出記録断片》


《生産ライン警告》


《データ焼却進行》


文字が走る。欠けている。焼かれている。

それでも、断片は残っている。


《無人艦素体:第三系列》


《混成炉制御:搬出済》


《共鳴導体ユニット:搬出済》


《試験管制核:搬出済》


《残存素体:破棄対象》


《外部偽装部隊:配置継続》


《証拠処理:進行中》


カインの目が細くなる。


「やっぱりな」


ヴォルフの名前はない。人類の夜明け計画という文字もない。だが、軍規格の暗号形式があった。さらに、貨物搬出先の一部が抹消されている。隠そうとした跡そのものが、証拠だった。その時、奥で何かが動いた。


ピピッ!


《警告》


《小型防衛ドローン起動》


カインは端末から手を離し、身を低くした。

曲がり角の向こうを、小型ドローンが一機通る。武装は軽い。警備というより、異常確認用だ。今なら斬れる。だが、斬れば痕跡が残る。

カインは動かなかった。

ドローンは数秒端末前を見て、異常なしと判断したのか、奥へ戻っていった。


『艦長、撤退しろ』


アドミラルの声。


「データは」


『十分だ』


「本当にか」


『十分だ。深部へ行けば、得るものより失うものが大きい』


カインは短く息を吐いた。


「分かった」


素直に引いた。保守口を抜け、カラスへ戻る。


[Karasu_AI] 帰還確認。


[Karasu_AI] 搭乗を推奨。


「言われなくてもだ」


カインが乗り込んだ瞬間、ノクス側から通信が入った。


『カイン、今の……!』


アイリスの声だった。


「見えたか」


『見えたっていうか、感じた』


アイリスの声は少し震えていた。


『奥で何か、大きいのが動いた。すごく嫌な感じがした』


カインは施設の方を見た。

外部ドックのさらに奥で、大型反応が一度だけ脈打った。エーテル反応。混成炉か、遺構そのものか、それとももっと別の何かか。


『大型反応、再検出』


ミラが言う。


『前回アイリスさんが感知した反応と近似』


アドミラルが短く告げた。


『撤退を推奨する』


「分かってる」


カインはカラスを静かに動かした。

火器には触れない。

カラスは再び背景へ沈み、デブリの影を縫って離脱する。その間、三姉妹はサルベージ作業を続けていた。ノクスがアンカーを巻き取り、ヴェスパーが回収した部材を積み、アンブラが護衛位置を維持する。表向きは、何も起きていない。

だが、カインが戻ると同時に、ミラは作業終了を宣言した。


「回収予定量に到達。撤収します」


ヴェスパーが回収ハッチを開き、カラスを受け入れる準備をする。ノクターン・デブリ帯の暗い残骸が、背後へ流れていく。誰かに見られていたかもしれない。見られていなかったかもしれない。だが、少なくとも施設はこちらを敵と認識する前だった。ヴェスパーへ帰還したカラスが翼を折り畳む。


[Karasu_AI] 艦載形態へ移行。


[Karasu_AI] 隠密偵察、完了。


[Karasu_AI] 発砲なし。


「珍しく理想的だったな」


[Karasu_AI] 継続を推奨します。


「毎回そうはいかん」


ヴェスパーの格納固定具がカラスを抱え込む。


 ノクス、アンブラ、ヴェスパーは自由港へ進路を戻した。帰還まで、誰も大きな声を出さなかった。エーテルガイストへ戻ったあと、壁面モニタに偵察データが展開された。


遺構を改造した大型施設。

無人艦生産ライン。

搬出済みの制御核。

焼却処理された端末。

外部偽装部隊。

残存素体。

そして、奥で脈打った大型反応。


カインはその前で腕を組んだまま、しばらく黙っていた。


「施設はあったな」


やがて、短く言う。


「無人艦も、あそこで作ってる」


『同意する』


アドミラルが答えた。


『ただし主要データと機材は搬出されつつある』


「捨てるつもりだな」


『クレイドルと同じ傾向だ』


アイリスはモニタの施設外観を見つめていた。


「……巣みたい」


小さく言う。


「船を作って、外へ出してる」


カインはその言葉を聞いて、ほんの少しだけ目を細めた。


「巣、か」


『便宜上の呼称としては有用だ』


「まだ使うな」


カインは低く言った。


「その名前は、ライナに話す時でいい」


モニタ上では、無人艦が生み出される瞬間の記録が繰り返されている。骨が組まれ、炉が入り、導体が走り、外殻が閉じる。機械の卵が、目を開ける。カインはそれを見つめながら言った。


「ほっとくと面倒だ」


「次は、こいつをどう焼くかだな」


アドミラルが静かに返す。


『カイン達だけで動けば目立つ』


「ああ」


「だから、自由港を使う」


その言葉で、部屋の空気が次の段階へ変わった。

ただの偵察は終わった。

暗い帯の奥に、確かに何かがある。

そしてそれは、もうこちらに見つかった。

作者のモチベになりますので、

★評価よろしくお願いします。

_| ̄|○何卒。


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