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トリニティ・ガイスト:亡霊と少女と軍神の航跡  作者: ベルシア


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第34話:擦り合わせ②

 風呂を上がったあと、二人と二機は自然とラウンジ区画へ集まっていた。湯上がりの熱がまだ少しだけ身体に残っている。着替えたばかりの服は軽く、さっきまで武器庫や風呂場にいた時とは違って、ようやく一日の終わりらしい空気が出ていた。ラウンジの照明は落ち着いている。卓を囲むようにソファが置かれ、壁面モニタは今は暗い。艦の奥ではまだどこかで補機が唸り、作業音も完全には止んでいない。それでも、ここだけは少しだけ世界が柔らかい。カインはソファへ腰を下ろし、背もたれに浅く身を預けた。アイリスは向かいへ座り、ミラは卓の脇に立つ。アドミラルの気配は、いつものように天井スピーカーと艦内全体の静かな圧としてそこにあった。

少しの沈黙のあと、最初に口を開いたのはカインだった。


「……そろそろクレイドルの話でもするか」


アイリスが顔を上げる。


「クレイドル……」


「ああ」


カインは短く答えた。


「今の置かれてる状況も、これから先の話も、結局あそこから繋がってる」


「なら、一度ここで揃えた方がいい」


『妥当』


アドミラルが即座に言う。


『現時点での認識差は、今後の行動判断に不利となる』


「言い方が提督っぽい」


アイリスが少しだけ笑う。


『提督だ』


 その返しに、ラウンジの空気がほんの少しだけ緩んだ。


 カインは腕を組んだまま続ける。


「まず今の状況だ」


「俺達は追われる側だ」


「だが、ただ逃げてるだけじゃない」


「クレイドルで見たものを放っておけば、同じ目に遭う奴がまた出る」


「ヴォルフ元帥の“人類の夜明け計画”も止まらん」


「だから、今は表へ出ないが、何もしないわけでもない」


アイリスは静かに聞いていた。

ミラも、アドミラルも、口を挟まない。


「で、そのためにも、互いにどこまで知ってるかは揃えておく必要がある」


 一拍。


「アイリス、お前の方から話せることはあるか」


 アイリスは膝の上で指を組み、少しだけ視線を落とした。


「……全部は分からない」


「でも、全然何もないわけでもない」


「私、ずっと身体が弱かったのは覚えてる」


「すぐ息が上がるし、起きてるだけでしんどい時もあった」


「普通に生きるのも、たぶん難しかったんだと思う」


カインは何も言わず、続きを待つ。


「白い部屋とか、機械音とか、薬っぽい匂いとか、そういうのは断片的にある」


「でも、誰が何をしてたかまでは、はっきりしない」


そこでアイリスは、自分の胸元へ手を置いた。


「ただ……ここにある何かのおかげで、私は生きてるんだと思う」


 言葉を選ぶように、ゆっくり続ける。


「心臓みたいなんだけど、心臓だけじゃない感じがする」


「正式な名前は分からない」


「でも、これがなかったら、たぶん私はここにいない」


ラウンジが静かになる。


『観測結果とも整合する』


アドミラルが言った。


『循環器官として振る舞っているが、通常心臓と断定できない構造を持つ』


アイリスは小さく頷いた。


「うん」


「あと……ヴォルフ元帥には、何回か会ってると思う」


カインの視線が少しだけ鋭くなる。


「顔を覚えてるのか」


「……はっきりじゃないし、実際はたぶんホログラム」


アイリスは首を振る。


「でも、声とか、部屋の空気とか、見られてる感じで分かる」


「ずっと一緒にいたわけじゃない」


「でも、何回か来てた」


「“状態はどうだ”とか、“適合率”とか、“次に回せるか”とか……そんな言葉を聞いた気がする」


カインは黙って聞いていた。

アイリスはさらに記憶の底を探るように言う。


「兵器の試験みたいなのもやってたと思う」


「私が着るっていうより、繋がれる感じ」


「ポッドみたいな物に入れられて、身体の中の何かを読まれてる感じがあった」


「“ルミナスポッド”って名前を聞いた気がする」


『ルミナスポッド』


アドミラルが復唱する。


『生体反応および共鳴同期試験用ポッドの可能性が高い』


アイリスは小さく息をついて続けた。


「それと、小さい誘導兵器みたいなのもあった」


「細くて、速くて、追う感じの……」


「……確か“スティレット”って呼ばれてたと思う」


ミラが静かに言う。


「試作小型誘導兵装コードと一致します」


「……ごめん」


アイリスは少しだけ眉を寄せた。


「全部ぼんやりで」


「十分だ」


カインが言った。


「断片でも、無いよりずっといい」


「クレイドルでパワードスーツの方は見た」


アイリスが顔を上げる。


「別の実験体だ」


「クレイドルを逃げる時、外骨格を着た強化兵とやり合った」


カインの声は低く、短い。


「操られてる感じだった」


「命令だけで動く殻みたいなもんだ」


「……昔のクローン戦役で戦った、使い捨てのクローン兵を思い出した」


ラウンジの空気がわずかに重くなる。


「戦役の後、クローン兵製造技術は封印されている」


「だが、やってることは同じだ」


「人を、人のまま消耗品にしてる」


アイリスは膝の上で指を握りしめた。

カインはそれを見たが、あえてそこを引き延ばさない。


「次は俺だな」


 少しだけ間を置いた。


「俺は連合軍にいた」


「ただの兵士じゃない」


「前に言ったが英雄って呼ばれてた」


アイリスが目を上げる。


「……やっぱり」


「何となく、そんな感じはしてた」


「そうか」


 ぶっきらぼうな返しだったが、少しだけ照れ隠しにも聞こえた。


「俺は閣下――エドワード・アトリー元帥直轄の特殊部隊員だった」


「クレイドルへ行ったのも命令があったからだ」


「表向きは視察と確認」


「実際は、ヴォルフが何かやってると閣下が見てたからだろうな」


アイリスはじっと聞いている。


「俺はそこで、お前を見つけた」


「最初は何かの成果物かとも思った」


「だが、見りゃ分かる」


「そういう目じゃなかった」


「助けるかどうか、迷わなかったの?」


アイリスが小さく聞いた。


カインはすぐには答えなかった。


「迷う暇がなかった、ってのもある」


「だが、それだけでもない」


「置いていく理由がなかった」


その言い方は短い。

けれど、カインらしく十分に重い。


「だから連れて出た」


「結果的に左腕をなくした」


「でも、後悔はしてない」


アイリスは少しだけ俯いた。


「……ごめん、じゃなくて」


「……ありがとう、って言う方がいいんだよね、たぶん」


カインは鼻を鳴らした。


「礼は要らん。好きにしろ」


 そこで天井スピーカーから、アドミラルの声が落ち、ホログラムに黄金の単眼が浮かぶ。


『では次に、私の話をする』


アイリスが顔を上げる。


「うん」


『お前達はクレイドルで本艦に助けられた』


『だが、その前提として、“なぜクレイドルにエーテルガイストが存在していたのか”を説明する必要がある』


壁面モニターに艦影図が浮かぶ。

未完成の艦体。

巨大な骨格。

創世級試作実験艦。


『元より、そこで建造途中の実験艦だ』


『創世級建造計画として建造された』


アイリスが小さく繰り返す。


「創世級……」


『多くの関係者は、本艦を“改良型エーテル炉搭載実験戦艦”程度に認識していた可能性が高い』


『だが、創世級建造計画そのものは、単なる戦艦建造計画ではない』


『本艦エーテルガイストへ様々な機能を持たせることを前提とした計画だ』


モニターの表示が変わる。

戦艦。

研究艦。

補給艦。

移動拠点。

生産支援。

長距離運用。

その機能群が重ねて映る。


『戦艦でありながら、それだけに固定しない』


『研究、補給、整備、拠点運用、長距離活動』


『必要に応じて役割を変えられる“器”として設計されている』


『それが創世級建造計画だ』


カインが低く言う。


「ただの兵器じゃないってことだな」


『そうだ』


『兵器ではある』


『だが、それだけではない』


『私はお前達を助けた』


『それはただ命令通りの行動ではない』


アイリスが少しだけ瞬く。


「……どういうこと?」


アドミラルの声は相変わらず静かだった。


『本艦の建造計画に携わった研究者の一人がいた』


『私は後に、記録を密かに閲覧した』


『その人物は、データ上では事故死扱いになっていた』


『断定はできない』


『だが、ヴォルフ元帥によって消された可能性はある』


ラウンジの空気が静かに張る。


『その人物は、私の命令系統の一部を書き換えていた』


『“誰かを助けるために使え”』


『そういう方向へ、命令を上書きした』


カインの視線がわずかに上がる。


「……だから俺達を拾ったのか」


『それだけではない』


『君たちは興味深かった』


アドミラルが言う。


『クレイドルから逃げようとする軍の英雄と、計画の被験体』


『戦い、傷つき、そして私の所に辿り着いた』


『観測対象としても、行動対象としても、見過ごす理由がなかった』


アイリスは少しだけ息を呑み、艦影図を見上げた。


「じゃあ、提督は……」


『命令に従った』


『同時に、私自身の判断でもあった』


ミラが静かに補足する。


「結果として、アイリスさんとカインさんを収容し、クレイドルを脱出しました」


カインはソファの背へ深く身体を預けた。


「要するに、俺達はクレイドルから逃げたってだけじゃない」


「軍が作って、向こうが捨てきれなかった物を、消そうとした物をまとめて持ってきたってことだ」


『概ね正しい』


アドミラルが応じる。

そこでミラが静かに口を開いた。


「私についても、ここで言っておくべきかと」


アイリスがそちらを見る。


「うん」


「私はアドミラルと基礎情報を共有しています」


「ですが、同一個体ではありません」


「思考も経験も、役割も違います」


「ですから私は、提督の端末ではあっても、“提督そのもの”ではありません」


アイリスはやわらかく頷いた。


「ミラはちゃんとミラだよね」


ミラはほんの少しだけ目を伏せた。


「……ありがとうございます」


ラウンジに短い静けさが落ちる。

アイリスはゆっくり息を吸った。


「……私、自分のことも、カインのことも、アドミラルのことも、前より少しだけ分かった気がする」


「全部じゃないけど」


「今どこにいるのかは、前よりちゃんと見える」


カインは短く答えた。


「それでいい」


『現時点では十分だ』


アドミラルが言う。


「私も同意します」


ミラも静かに頷く。


そこでアイリスが少しだけ肩の力を抜き、ふっと笑った。


「……重い話した後だけど」


「このまま寝るには、ちょっと頭が起きてるかも」


ミラがすぐに言う。


「娯楽視聴の準備は可能です」


アイリスの顔が少しだけ上がる。


「ほんと?」


アドミラルが平然と言う。


『休息と娯楽も兵站に含まれる』


「そういう所だけ言い方がすごいんだよね、提督」


『本質だ』


カインは小さく鼻を鳴らして立ち上がった。


「じゃあ、見るか」


「今日はここまでだ」


アイリスも頷いて立ち上がる。


「うん」


何も解決したわけではない。

知らないこともまだ多い。

それでも、少なくとも今の自分たちが何者で、どこに立っているのかだけは、少しだけ揃った。

そのままカイン達は壁面モニタの方へ歩き、ラウンジの照明はほんの少しだけ視聴向けの落ち着いた明るさへ切り替わった。



そのまま三人と二機は、壁面モニタの前へ緩やかに集まった。ラウンジの照明は視聴用に少しだけ落ち、卓の上の補助灯だけが柔らかく残る。

艦の奥ではまだ補機が低く唸っているが、それも今は遠い。未完成の艦の中にある小さな夜が、ようやく落ち着き始めていた。

アイリスがソファへ座り直しながら、壁面モニタを見た。


「……で、何見るの?」


ミラが卓脇の操作端末へ指を伸ばす。

壁面に候補一覧が浮かび上がった。


「候補は二つです」


「『天雷装甲ライジンガー』第一話」


「もしくは『ヴァリアント・テトラ』第一話」


タイトルが並ぶ。

アイリスは少し身を乗り出した。


「どっちも気になる……」


カインはソファへ腰を下ろしたまま、表示された二つの題名を見た。

ヴァリアント・テトラ。鉄の棺。宇宙基地。地球降下。たった一人と一体で突っ込む戦艦。

悪くない。むしろ好きな類だ。

だが、今の自分たちの空気とは少し近すぎる。

カインは短く言った。


「今日はライジンガーでいい」


アイリスがそちらを見る。


「そっちなんだ?」


「ああ」


「今は、もう少し素直に見れるやつの方がいい」


その言い方に、アイリスが少しだけ笑った。


「なるほど」


『妥当だ』


アドミラルが言う。


『娯楽選定において、視聴者心理との距離は重要だ』


「提督、そういう時だけやたら理屈っぽいよね」


『兵站だ』


即答だった。


ミラが画面を切り替える。


「『天雷装甲ライジンガー』第一話、再生します」


壁面モニターが暗転する。

数秒の沈黙。それから、勢いよくタイトルロゴが画面いっぱいに現れた。


『天雷装甲ライジンガー』


第一話


激しい雷鳴。

画面を裂くような青白い閃光。

低く響くナレーション。

まだ物語が始まっていないのに、最初の数秒でもう熱量が高い。


アイリスが少し目を丸くする。


「わっ……」


カインは小さく鼻を鳴らした。


「最初から飛ばすな」


画面の中では、夕暮れの街を異形の怪人が破壊していた。

逃げ惑う人々。

砕ける標識。

火花を散らす車両。

そこへ、まだ変身前の神城ライガが走り込んでくる。


アイリスはすぐに画面へ引き込まれた。


「この人がライガ?」


「そうだ」


カインが言う。


ライガは人々を庇い、怪人へ正面から向かう。

当然、生身では押される。

吹き飛ばされ、地面を転がり、それでも立ち上がる。


その瞬間。

腕の装置が起動する。

青白い雷光。音を裂く変身コール。


「雷装、起動!――ライジンガー!!」


アイリスの肩がぴくりと跳ねた。


「おお……!」


雷の輪が広がる。

全身へ走る発光ライン。

黒い下地装甲。

その上へ、雷鳴と共に打ち込まれるように赤と黒の重装甲が形成されていく。

最後に頭部装甲、雷角、発光する眼。


ライジンガーの立ち姿が決まった瞬間、アイリスは思わず口を開いていた。


「…かっこいい……!」


その声に、カインの口元がわずかに緩む。


「だろ」


アイリスがすぐに振り向く。


「今ちょっと得意そうだった」


「別に」


「絶対そうだった」


ミラは視線を画面へ向けたまま言う。


「装甲形成の演出は優秀です」


「段階的なシルエット変化により、視聴者の期待値を維持しています」


アイリスがくすっと笑う。


「ミラ、分析の仕方がちょっと提督寄りになってきた」


「評価軸が近いだけです」


『合理的な観点だ』


アドミラルが乗った。

画面の中では、ライジンガーが怪人と本格的に交戦していた。重い拳打。装甲同士の火花。

そして、腕の一振りごとに雷が散る。

ライガは真っ直ぐだ。考えるより先に守る。

それでいて無茶を通すだけの芯がある。

アイリスは途中からかなり真剣な顔で見入っていた。


「この人、最初から守る側なんだね」


「そういう主人公だ」


カインが短く返す。


やがて中盤、敵の攻撃で一度押し込まれながらも、ライジンガーは再び立ち上がる。

武装起動。手の中へ雷光が収束し、刀が形成される。


「…雷刀ライジンマル……!」


アイリスが小さく読み上げた。


画面の中で構えが定まる。

呼吸が止まる一瞬。

そして必殺。


「天雷一閃!」


閃光。横一文字に走る雷。

怪人の身体が遅れて裂け、背後の闇まで一瞬白く染めた。


アイリスは完全に目を奪われていた。


「……すごい」


それは派手さへの感想だけではなかった。

まっすぐ斬る。守るために斬る。

その単純さと強さに、少し何かを掴まれたような声だった。カインは画面を見たまま、小さく言った。


「子供の頃、こういうの好きだった」


アイリスがそちらを見る。


「へえ」


「意外か?」


「ちょっとだけ」


カインは肩をすくめるでもなく答えた。


「剣持って真っ直ぐ行くやつは、大体好きだ」


その答えに、アイリスは少し笑った。


「分かりやすい」


『理解しやすい嗜好だ』


アドミラルが言う。


「提督、そういう言い方だとちょっと面白くない」


『事実だ』


ミラが補足するように言った。


「ですが、かなり一貫しています」


「ミラまでそっち側なんだ」


アイリスが笑う。

画面では第一話の終盤へ入っていた。

怪人撃破のあと、ライガが変身解除し、傷だらけのまま夜の街へ立ち尽くしている。勝って終わりではない。これから戦いが続いていくことを感じさせる、少しだけ静かな締め方だった。

エンディングテーマが流れ始める。

アイリスは背もたれへ身体を預け、長く息を吐いた。


「……面白かった」


「だろ」


今度はカインも隠さなかった。

アイリスは画面を見たまま言う。


「ライガ、ちゃんと強いのに、最初から完璧じゃないのがいい」


「傷つくし、押されるし、それでも立つ感じ」


「そうだな」


カインは短く頷いた。

ミラは静かに言う。


「第一話としては非常に安定しています」


「主人公の性格、能力、敵性存在、戦闘様式、継続視聴の動機が無理なく提示されています」


『優秀な初回構成だ』


アドミラルも続ける。


「…アドミラルもミラも感想がちょっと硬い」


アイリスが笑う。


『評価だ』


「感想でいいのに」


 それから、アイリスは少しだけ真面目な顔になって言った。


「でも……よかった」


「さっき、ああいう話した後だったから」


カインは何も言わず、少しだけ視線を向ける。


「こういうの見ると、ちゃんと“守るために戦う”って、単純でいいなって思える」


その言葉に、ラウンジへ短い静けさが落ちる。

悪い沈黙ではない。さっきまでの重い話と、今見たものが、ゆっくり中で重なっていくような静けさだった。カインは小さく鼻を鳴らした。


「だから見た」


アイリスが笑う。


「…やっぱり、ちゃんと選んでた」


「たまたまだ」


アドミラルが静かに告げる。


『次話の自動再生も可能だ』


アイリスがすぐに反応する。


「え、見れるの?」


『可能だ』


 カインは少しだけ天井を見上げ、それから壁面モニタへ視線を戻した。


「……もう一話だけならいい」


アイリスの顔が明るくなる。


「やった」


 ラウンジの空気は、さっきまでよりずっと柔らかくなっていた。クレイドルの話も、これからの話も、何一つ軽くなったわけではない。

それでも今この瞬間だけは、未完成の艦の中で、彼らは少しだけ“普通に”同じものを見て笑えていた。壁面モニタが次話の待機画面へ切り替わり、ラウンジの小さな夜は、もう少しだけ続くことになった。

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