第64話 まだ終わってなかった
「ふぃー。終わったー」
中央広場に1人だけ残された僕はペタンとその場に座った。
ドッと疲れた。元凶の変異種とフロアボスのリントブルムとの激闘、討伐部隊が壊滅する程の正に死闘だった。それが終わり、僕はすっかり気が抜けてしまった。
討伐も終わったし帰ったらなにしようかなと呑気していると、
(まだです!まだ終わってません!!)
突如僕の頭に神様の声が響いた。
「うぇ!?」
僕は驚きビクンと体を揺らす。そしてふいに横を向くと、飛び掛かってくる進化前の変異種の姿。
進化前の変異種の攻撃。僕はとっさのローリングでそれを回避し、体勢を整えて剣を持ち、袈裟斬りのカウンターを食らわせた。
進化前の個体は斜めに切れ、その場でサラサラと消えていった。
「どういう事?元凶は倒したんじゃないの?」
僕は自身の目と感知スキルで周囲を見渡す。
辺りにはわらわらと進化前の小型変異種。僕を標的にカサカサと向かって来ていた。
本体を倒しても消えないタイプなのかと一瞬思ったけど、そうじゃない。まだ湧いている。魔法陣が展開され、そこから進化前の個体が出続けている。そして、魔法陣の出所に居たのはさっきまで戦っていた巨大な個体ではなかった。そこらに居る進化前の個体と同じ姿、甲虫と甲殻類を合わせた様な中型犬くらいの大きさの変異種。自身の周りから取り巻きを発生させている以外他との見分けがつかない個体がそこに居た。
(何あれ!?何なのあれ!?何事なのあれ!?)
ただでさえ仲間が居なくなっているのに、別の本体が現れた様なこの状況。僕はつい狼狽えてしまっていた。
そんな僕に神様は今の状況を語る。
(なんかねー、今取り巻きを出してる奴、大きいのに引っ付いてたみたい。そんで大きいのが爆発する直前に離れて、今の状況って感じ)
(どうやら、あのちっこいのが本当の本体みてぇだな。あのでけぇのも取り巻きの1つに過ぎなかったって事か)
神様の話しを聞いて少し気持ちが落ち着いた。
(マジかー。ってー事は、こいつ放っておくと取り巻きが成長して元通りって訳ね)
一旦冷静になって改めて状況を見る。
今この場に居るのは僕1人。辺りには進化前の変異種がわらわらと居て、こっちに向かってきている。元凶の変異種は能力が未知数だけど、姿形は進化前の弱い個体と変わらない。シシルーのオーバーリミットの効果はまだ続いている。僕でも進化前の個体であれば十分に倒せる。そして、オーバーリミットの効果時間においても、変異種が進化する事においても、時間が無い。
僕に出来る事は1つ。やる事は1つだ。
(ねぇ神様)
(なんですか?)
(これから僕、本体に意識集中させるからさ、死角から来る敵を教えてくんない?)
僕の頼みに(はい)(分かったぜ)(任された)と声が続く。
僕はこれから元凶の変異種を倒さなきゃいけない。襲って来る取り巻きを掻い潜って、本体に近づいて、大本を断たなければならない。
元凶の姿はそこら中に居る取り巻きと変わらない。他の取り巻きに意識を向けていると本体を見失ってしまうだろう。見失わないためには感知スキルでその個体に意識を集中させる必要がある。目は前を向きつつ、感知スキルで本体を捉え続けていたい。そこで僕は、かつてフレイムリザードから逃げ回った時の様に神様に死角からの攻撃を教えてもらう事にしたのだ。
僕は大きく息を吸い、覚悟を決める。
「皆の犠牲は無駄にはしない!!!」
討伐部隊の皆はただ帰っただけではあるけれど、その場のノリであえてそう言い放ち、僕は今も取り巻きを出し続けている本体に向けて駆けだした。
僕が迫っていくと、本体は僕とは逆方向へと向かって走り出す。予想通りだ。この変異種は取り巻きに全てを任せて自身は高見の見物をする性質のモンスター。強くなった取り巻きが居れば戦い、強い取り巻きが居なければ逃げる。そういう奴なんだろう。
本体は逃げながら取り巻きを2匹召喚し、その2匹は僕に向かって来る。
僕は飛び掛かってくる1匹を避け、もう1匹を切り払い、走る。
(右から来ます!)
僕は足を止めず、チラリと横目で右を見て、飛び掛かって来ていた取り巻きを切り落とす。
(次、左から)
左から襲って来る取り巻きも同様、足を止める事無く切り落とす。
(後ろからも来るぜ!)
僕は後ろから飛び掛かってくるのを横に飛んで避け、僕を追い越し前に来た取り巻きを切り進む。
本体はさらに取り巻きを3匹召喚。僕にけしかけてきた。
(前からだけじゃありません!横からも、後ろからも来てます!)
(ヤバいぞ。囲まれてる)
どうやら包囲されたみたいだ。どの方へ行こうと敵とかち合うこの状況。いちいち相手にしていたら僕は物量に呑まれてしまうだろう。だとしたら、進むべきは前だ。僕はさらに加速し、正面を切り開き包囲を突破した。
だいぶ近づけた。本体はもう目と鼻の先だ。
他の取り巻きが迫っている。オーバーリミットの効果終了も迫っている。何度も攻撃を仕掛ける暇はもうないだろう。ワンチャンスで決めるしかない。
僕は剣を持った手を振りかぶり、思いっきり振り切った。僕が持っていた剣は手から解き放たれ、本体へと飛んでいく。
「いっけーーー!」
剣は本体の変異種に深々と突き刺さった。ダメージを受けた本体は足を止める。
僕はそんな本体に向かって跳躍。
「これで僕が、MVPだー!!!」
飛び蹴りをその刺さった剣にかまし、刃をさらに奥へと押し込んだ。
僕の渾身の一撃。飛び蹴りで剣の杭を打ち込まれた本体の変異種はドチャっとその場に倒れ、サラサラと消えていき、突き刺さっていた剣だけがカランとその場に落ちた。
そして、それに続く様に周りに湧いていた取り巻きもサラサラと消えていった。取り巻きが奏でていたカサカサという音ももう聞こえない。周囲を感知スキルで探っても変異種の姿は無い。
これで本当の本当に終わりの様だ。




