第63話 多大な犠牲
壊滅的な被害を受け、皆は諦め半分の表情を浮かべている。
無理もない。さらなる進化を遂げた巨体の変異種だけでも手一杯だったのに、味方は半壊している上、追加の強敵リントブルムまで出てきたのだ。定石で言えば、ここで諦めて次にかけるのが普通の判断となる。皆、負けて戻った後、次にどう戦うかを考え始めている。
この敗北濃厚な局面。もう次の策も出そうにない、そんな中で力強い言葉を放ったのはシシルーだった。
「奥の手を使います!」
突然の強気な発言。シシルーは危機的な状況の中テンパって言ってしまったのかもしれない。だけど、それが僕達リトライズの気持ちを一つにし、前へと向かわせた。
僕は皆に向けて言い放つ。
「シシルーが全力を出し切ろうってさ!」
ニーリェとリディルカが僕に続いて同時に叫ぶ。
「やるよ!オーバーリミット!」
「オーバーリミットだ!」
それを聞いた皆の顔が引き締まる。「おう!」「了解!」「はい!」と威勢の良い声が続き、シシルーがそれに応える様に強化魔法を発動させる。
「オーバーリミットー!!!」
シシルーの言葉と共に金色の光がシシルーの杖から放たれ、その光はシシルー以外の全員の体に入り、体にまとうオーラ状となった。
オーバーリミット。上位の強化魔法の一つであり、本人以外を対象に、5分程度の短期間全ての能力を倍近く向上させる魔法。ただし効果時間が終わると、能力は10分の1程度にまで下がってしまい、まともに戦えなくなる諸刃の剣。短期決戦で全てを出し切る。そんな魔法だ。
まともに戦って勝てる状況じゃない。策を話し合っている余裕もない。そんな壊滅的な状況で唯一打てる手を出した事で皆も覚悟が決まった様だ
僕達は再び討伐に意識を切り替え、眼前の敵に対峙する。
後衛組の相手は本来のフロアボスであるリントブルム。
作戦の相談をしている時間は無い。僕はそこらに落ちている石片を拾い、リントブルム向かって走り、後ろ姿を見せながらリディルカに告げる。
「時間を稼ぐ!リディルカは一発で倒せるのをお願い!」
前衛が居ない今の状況、魔法で攻撃しようものなら敵のヘイトが向かい、脆い魔導士は反撃であっけなくやられてしまう。半端な攻撃をしようものなら負けるのはこちら側だ。やるとしたら倒しきらなきゃいけない。そして、リントブルム相手にそれが出来るのはリディルカの貯め有りの大魔法くらい。だからここは、僕が囮になって大魔法までの時間を稼ごうという考えだ。
「30秒ほしい。それだけあれば十分な威力の魔法が撃てる」
と言い、リディルカは大魔法を放つためにマナを貯め始め、
「私も手伝います!」
「私も!」
とシシルーとミルカも囮を買って出る。
リントブルムという強敵を相手に、一撃で倒される貧弱な面子が前衛として前に立った。
僕は手に持った石片をリントブルム目がけて投げ、挑発の言葉を放つ。
「こっちだー!!羽根付きトカゲー!!!」
ダメージは無い。だけど投石によってヘイトは僕に向いた。リントブルムは僕に向けて咆哮を放ち、襲い掛かって来た。
爪、牙、尻尾に魔法。止めどない連続攻撃が僕に迫る。
走り、屈み、跳ねて転がり。僕は紙一重で逃げ回る。
僕のすぐ後ろでヤバそうな音が響いている。爪で床を引き裂く音、激しく歯と歯が噛み合う音、鞭の様に尻尾が叩きつけられる音、風の刃が地面にぶつかる音。一撃で倒される威力の攻撃がすぐ後ろに迫っているのが分かる。
ほんの30秒程度なら逃げきれると思って高を括っていた。10秒も経ってないけどもうキツイ。強化魔法のお陰でいつもより速く動けているけれど、強化が体に追い付いていない、そんな気がする。少し動いただけでもうバテてきた。
このままでは力尽きて避けきれなくなるとなったその時、僕を追うリントブルムに火炎がぶつけられた。ミルカがリントブルムのターゲットを逸らすために魔法を放ったのだ。
リントブルムは視線をミルカの方に向け、羽を広げて空中に魔法陣を展開。無数の風の刃を放った。視界を覆う規模の風魔法。とても避けられそうにない。
「後を任せます!」
ミルカはそう言い残し、風の刃の群れに呑まれていった。
ミルカに続く様に今度はシシルーが投石。
「頑張ってくださーい」
リントブルムはターゲットをシシルーに変え、距離を詰め、鋭利な爪を一振り。強化魔法の対象外な上に身体能力も低めのシシルーは回避も防御も出来ず、あっけなく爪に引き裂かれ、この場から消えていった。
僕は2人が犠牲になる隙に息を整え、ターゲットを引き継いで再び走り出す。
リントブルムの激しい連続攻撃。再びそれをギリギリの所でかわしていく。そしてようやく待望の時が来た。
「待たせたな!」
そのリディルカの言葉と共にリントブルムを囲む様に雷が落ち、その雷は檻の形となり、リントブルムを閉じ込めた。
そしてリディルカはポーズを決めて言い放つ。
「サンダージャッジメント!!!」
電撃の檻に閉じ込められたリントブルムに向けて雷が落ちる。何度も何度も。機関銃の様に連続で雷が落ち続ける。幾度も鳴り響く雷撃音。リントブルムは激しい電撃に体を焼き裂かれていく。
「このまま倒しきる!」
「やっちゃえー!リディルカー!!!」
何とか逃げ延びた僕はリディルカにエールを送った。
このまま倒しきれると思ったその時。死に際のリントブルムは咆哮と共に空中に魔法陣を展開。リディルカに向けて風の刃が飛ぶ。
「な!」
突然の反撃にリディルカは反応しきれなかった。
風の刃はリディルカに直撃。リントブルムは仕留めたものの、リディルカもここで退場する事となった。
後衛組は4人中3人の犠牲を払う事でなんとか勝利を収めたのだった。
一方前衛組は今回の元凶にして討伐対象である変異種と対峙していた。
オーバーリミットを受けた前衛5人は致命傷を受けない様に立ち回り、槍を持っている腕と尻尾を一本ずつ切り落とす事に成功していた。だけど、ここで新たな課題が発覚する事となった。
切り落とされた部分からボコボコと泡が出たかと思うと、そこから新たな腕と尻尾が生え、すぐさま元通りに修復。手に持っていた槍までもが復元され、振り出しの状態に戻ってしまった。
「こいつ自動回復まであんのかよ」
「まったく、時間がないというのに」
「もう何が来ても驚かん」
前衛組の皆が驚きを通り越して呆れている中、ニーリェはディクスに聞く。
「どうする?兄ちゃん」
「回復すると言っても一瞬で全回復する訳じゃなさそうだ。回復するよりも早くダメージを与えて倒しきるぞ!」
ディクスの言葉に「了解!」と息の合った声が続き、前衛組5人は一斉に巨体の変異種に攻撃を仕掛けた。
ディクスは素早い動きで距離を詰め、変異種の尻尾攻撃を掻い潜り、槍の薙ぎ払いで尻尾を1つ切り落とす。
ベドゥイとトウラは斧や槍や剣での武器攻撃を紙一重でかわしつつ、コンビネーションで剣を持った腕を切り落とす。
ニーリェとカルスは変異種の足元へ行き、足に斧や大槌での強烈な一撃を与え、変異種のバランスを崩させる。
オーバーリミットを受けた近接戦のエキスパート達によって着実にダメージが与えられていく。腕や尻尾は切り落とされ、装甲は砕かれ、再生はするも回復が追い付いていない。
ようやく変異種を追いこんだ。4本あった腕は1本となり、5本あったムカデ型の尻尾は全て断たれ、厳つい装甲もボロボロ。あれだけ強烈な威圧感のあった変異種は一目で分かる満身創痍の状態だ。
そんな変異種に向けてニーリェはダメ押しの攻撃。斧の横薙ぎによって足を断つ。足を1本失った変異種は大きくバランスを崩した。
「今だよ兄ちゃん!」
その大きな隙にディクスは必殺の一撃を放つ。
「これで止めだ!」
ディクスの必殺の一突き<スパイラルランス>が無防備となった変異種に向けられて放たれた。空間そのものを貫き破壊する様な強烈な一突き。ディクスの必殺技を食らった変異種は体のど真ん中に人が通れる程の大きな穴が開き、力を失い重量感のある音と共にその場に倒れた。
これで倒せた。皆がそう思って気を緩めたその時だ。
突如変異種の死体がオレンジに光りだした。
「まさかこいつ!」
前衛組は違和感に気付いて離れようとした。が、遅かった。
変異種の死体は爆弾となっていた。倒された変異種は前衛組の皆を飲み込む大爆発を引き起こし、前衛組全員を道連れにしたのだ。
対変異種は相打ち、対リントブルムは僕だけが生存。多大な犠牲を払いながらも、なんとか2体の大ボスを倒す事に成功した。まぁ、辛勝といった所かな。




