第62話 崩壊
あるものには幾多の魔法を撃ちこみ、あるものには近接攻撃の連撃で、あるものには近接攻撃と魔法攻撃の連携で、1体また1体と着実に進化済みの取り巻きを減らしていく。
見る見る内に進化済みの個体は居なくなり、敵の取り巻きは脅威となる戦力から事のついでで処理できる程度のものに変わった。これなら本体の討伐に専念できるだろう。
「よし!これで」
後は本体だけだとなったその時、それは起きた。
突如変異種はウオォォォと雄たけびを上げる。そしてその体は青白い光に包まれていく。何かは分からないけれど、何かが起きようとしているのは分かる。
「な!なんだ!?」
「何々!?」
「何をするつもりだ!?」
皆狼狽えている。戸惑っているのは僕だけじゃないみたいだ。
そんな中、このまま様子見をしていてはマズいと思ったのだろう、既に間合いに居たディクスは攻撃を仕掛けた。
槍を構え跳躍し、刺突を繰り出そうとするディクス。だけど焦りがあったのか、ディクスは反撃の切り払いを食らってしまい、叩き落された。
反撃の一太刀を受けて地面に叩きつけられたディクスだったけれど、咄嗟に槍で剣を受け止め、受け身を取った事で事なきを得た様子。それでも衝撃はなかなかのものだった様で、ディクスは毅然と立ちながらも少しふらついている。
「大丈夫!?兄ちゃん」
心配し声をかけるニーリェ。
ディクスはトウラ隊のジャックから回復魔法を受け、すぐさま構えを取る。
「あぁ、問題ない」
突然の出来事に混乱する中、光に包まれた変異種は体を変形させていく。腕は新たに2本生え4本腕に、新たな腕には斧と槍、ムカデみたいな尻尾は5本に増え、全身を覆う殻は鋭くトゲトゲした装甲に強化された。光が収まると、そこには別物になった変異種の姿。元々禍々しい感じだった風貌がさらに凶悪そうなものへと変貌を遂げていた。
「気を付けて!こいつ強くなってる。3割増しくらい」
僕の警告を聞いた皆は構えながらも言葉を並べる。
「見た目通りの強化形態って事か、こりゃあ取り巻き居た時よりもやっかいかもな」
「この強化?取り巻きを倒したからか?それとも時間経過か」
「『取り巻きと同様と考えると、新たな能力を持っている可能性もありますね』」
「『どうします?団長。一時撤退して体制を整えますか?それともこのまま戦いますか?』」
ディクスは迷う事無くすぐに決断の言葉を放つ。
「このまま戦おう。本体も時間経過で強くなっていくのなら尚更放っておけない。強くなったとはいえ、進化済みの取り巻きは倒しきった。集中攻撃で畳みかけるぞ!」
それに「はい!」「分かった」「了解」といった同意の言葉が続き、僕達は隊列を組み直していく。
前衛組全員で敵を囲み、動きを封じつつ近接攻撃を浴びせ、後衛組が攻撃を食らわない様に距離を取り、前衛のサポートと攻撃魔法の食らわせる。前衛と後衛をハッキリ分けたポピュラーな隊列だ。
前衛が前に出て変異種を囲み、後衛組が離れたその時だ。
僕の感知スキルが異変を察知した。僕の居る後衛組のすぐ横に空間に歪みが生じている。何が起きようとしているのか分からないけれど、そこから何かが起きるのは間違いない。
「気を付けて!なんか来るよ!!」
僕が歪みが出来ている所を指差し叫ぶと、続いてニルスンが叫ぶ。
「『フロアボスが出現します!!』」
その歪みが生じていた所から大型の魔石が現れ、そこからモリモリと肉体が生えていく。先ずは黒いウロコの付いた長い胴体が形成され、次に竜の頭、コウモリ様な翼、鋭い爪のある2本の腕、巨大な蛇型のドラゴンが形作られた。
そしてそのドラゴンは僕達に咆哮を放ち、敵意を示す。
「リントブルム!こんな時にか!」
リントブルム。グアドのダンジョンの最終フロアに出現するフロアボスで、自在に空を飛び、空中から魔法攻撃や牙や爪や尾を駆使した攻撃を繰り出すドラゴン。対空中戦を余儀なくされる強敵だ。
リントブルムは通常のフロアボス。そしてここ中央広場はそれが湧く場所。つまり出てくるべき所にボスが出てきただけに過ぎない。ただタイミングが悪すぎる。別の強敵と戦っている真っ最中、しかも前衛と後衛が離れている時に後衛の居る所に出てきた。タイミングも場所も最悪だ。
後衛組の誰かが叫ぶ。
「攻撃が来るぞー!」
リントブルムは翼を大きく広げて空中に魔法陣を展開、羽ばたくと共に僕達に向けて無数の風の刃を放った。
リントブルムから放たれた魔法の絨毯爆撃。ダダダダダと戦場かの様な轟音の中、僕は「ひー!」と情けない声を上げながら走り回る。このレベルの攻撃じゃあ防ぐなんて僕には出来ないし、見切って避けきるなんて芸当も無理。運任せのお祈り行動をするしかないのだ。
「ハァハァ。皆、大丈夫!?」
僕はなんとか無事だった。実力があったからとかそんなんじゃない。単純に運が良かっただけだ。だけど、他はそうはいかなかったみたい。
仲間が4人減っている。その内3人は後衛組でリントブルムの魔法でやられたんだろう。残りの1人は前衛で、多分リントブルムの出現で意識が向いた隙を変異種に突かれたんだろう。逃げ回るのに夢中で見れてはいないけど、だいたい予想はできる。
残り14名。さらに事態は動く。
前衛組の一人が、このまま後衛組がリントブルムの攻撃を受け続けるのはマズいと思ったのか変異種に背を向け僕達の方へと向かって来たけれど、それを狙いすましたかの様に巨体の変異種は手に持った槍を投擲。背を向けた前衛の1人を刺し貫いた。
残り13名。ここでリントブルムはさらなる追撃を仕掛けてくる。
リントブルムは空中から強襲。牙を向きだしにして襲い掛かってくる。後衛組の1人は必死に逃げるものの追い付かれて噛みつかれ、1人は魔法で反撃を試みるも尻尾の叩きつけをモロに食らい、ニルスンは魔法の障壁でリントブルムの噛みつきは防いだものの、爪による追撃で引き裂かれた。リントブルムの攻撃によって瞬く間に3名が葬られた。
一方前衛組は変異種の猛攻に苦しめられていた。ある者は尻尾での攻撃を受け止めた所を叩き切られ、ある者は連撃を防ぎきれずに押し切られ、2人が変異種にやられてしまった。相手は強化によって文字通り手数が増えているのに対し、こちらは頭数が減ってしまっている。前衛組もボロボロだ。さらにはさっき投擲していた槍も自動で戻ってきている様で、相手は万全なままときた。
あっという間に元居たメンバーの半数、9名が喪失。一応リトライズの皆は無事だけど、状況はかなり悪い。後衛の生き残りは僕とシシルーとリディルカとディクス隊のミルカの4人で回復役が居ない。前衛はディクス、ベドゥイ、カルス、ニーリェ、トウラ隊隊長のトウラと実力者が残っているけれど、それでも攻撃を凌ぐので手一杯な状態。このままでは押し切られるのも時間の問題だろう。
ここグアドのダンジョンのフロアボスリントブルムの出現により、今回の変異種討伐部隊はほぼほぼ崩壊してしまった。




