第60話 ボス戦前
ディクス隊の方へ向かっていく途中。感知スキルで周囲を探りながら進んでいた僕はある存在に気付いた。
「あ、居た!多分あれが大本だ」
城の中央にある巨大な広間、そこに他とは格が違う個体が居た。甲殻類と甲虫を合わせたデザインはそのままだけど、大きさは前に倒したベヒモスメタルゴーレム42よりも一回りくらい勝っている。甲虫の様な胴体、ムカデの形状をした牙のついた尻尾、人の上半身を模したパーツが胴体部分から生えていて、片手には杖を、もう片手には剣を装備している。禍々しく巨体なそれは正にボスモンスターといった風格だ。
その個体の周囲からはしきりに魔法陣が展開。街を襲ったのと同じ進化前の個体が呼び出されて外へと向かっていくのが見えた。少なくとも、ここが出所で間違いないだろう。
さらに周囲にはここらに居る様な進化済みの変異種が大量に待機していて、まるで軍勢を率いて戦いに備えている様だった。
「どんな感じですか?可奈芽さん」
シシルーの問いに僕は身振り手振りを加えながら答える。
「まず、めっちゃ数居るね。そこらに居る様な強化済みの個体がぱっと見ただけで50くらい」
それを聞いたシシルーは青ざめる。
「ひえー」
「それに、本体っぽいのはかなりデカいね。前にベヒモスメタルゴーレム42ってのと戦ったじゃん?あれよりも一回りくらい大きかった。少なくとも、僕が見て来た中では一番大きなモンスターだったよ」
「それ、勝てるんでしょうか、私達」
明らかにスケールの違う相手に怖気づくシシルー。
僕達は今までいくつものモンスターを倒してきた。ボスだって変異種だって蹴散らしてきた。でも今回は数が数な上、一体一体の質も高く、本体も強そうときたもんだ。これまでの経験があるからこそ、今回は流石にきつくないかと不安になっている様だ。
そんなシシルーを勇気づける様にニーリェとリディルカは言う。
「確かに相手の数は多いみたいだけど、今回はこっちも数が多いんだ。兄ちゃんだって居るし。なんとかなるさ」
「シシルーよ、そう気を張る必要はないぞ。討伐はあくまで努力目標。一番の目標は相手の能力を把握する事だ。倒せなくとも情報さえ得られれば援軍が倒してくれるであろう。そして、可奈芽であれば必ずや情報を得てくれるはずだ」
「まっかせてよ!」
僕はリディルカの言葉に応える様にニーリェに笑顔とサムズアップを向けた。
「それもそうですね」
ニーリェとリディルカの余裕の表情と僕の任せておけという態度にシシルーの不安はある程度晴れた様だ。表情が明るくなっている。
そんなこんなでしばらく進んでいると3組のパーティーが見えてきた。どうやら他の2組も既に合流していて、大所帯で僕達を待っていた様だ。
1組はディクス隊。ディクス、ニルスン、ベドゥイ、カルス、ミルカの5人のパーティで、前に変異種討伐のため共に戦った人達。
残りの2組は4人のパーティーと5人のパーティー。確かトウラ隊が4人の部隊でウェーズ隊が5人の部隊だって聞いたから、ここに居るのがその2組だろう。
「お待たせー」
僕はリトライズの皆と共に駆け寄りながら手を振り声をかけた。
「おう、来たか」
ディクスも手を振り僕達を迎える。これにて18名全員集合。本当ならここで自己紹介タイムといきたいけれど、今は急を要する。自己紹介は終わった後でするとしよう。
さっそくディクスは今回どう戦うのかを語っていく。
「今回の相手は大量の取り巻きを発生させるタイプの変異種だ。取り巻きも一体一体が強く、本体はそれ以上に強い事が予想される。なにぶん数が数だ、先ずは取り巻きを倒していって敵戦力の弱体化を図る。戦闘中にも取り巻きを発生させる可能性は高いが、出てくるのが進化前の個体であれば弱体化としては十分だ。そして取り巻きが減った所で本体を叩く。攻撃魔導士は先制攻撃を放った後弾幕を張り、相手を近づけさせない様にしながら数を減らしていく。それぞれ耐性が異なるので、それに合わせて撃つ魔法を変えて欲しい。盾持ちの重戦士は壁となりパーティーを守り、それ以外の前衛は抑えきれなかったモンスターの処理。支援魔導士は役割を分担し対応、シシルーさんは全体の強化、トウラ隊のジャックは回復、ウェーズ隊のペルラは防壁による防御、俺の隊のニルスンは不足している所を補う様に立ち回ってくれ。サーチャーは状況の随時報告を頼む。相手の能力は未だ未知数、能力が把握でき次第作戦を変えていく必要もあるから、皆には臨機応変な対応をして欲しい」
大雑把ながらも作戦が言い渡された。
相手に合った戦略も練れない、大量の群れを率いて待ち構えている事くらいしか分からない、そんな未知数の強敵との闘いがこれから始まろうとしていた。この場に緊張が広がる。
皆は静かに頷き、同意を示した。
「では準備が済み次第この先に向かう。準備ができたら教えてくれ」
ディクスがそう言うと、皆はボス戦前の準備をしていく。
皆が道具の確認やどう立ち回るのかの話し合いをしている中、ニルスンは僕の元に歩み寄ってきた。
「『可奈芽さん、先にも言いましたが・・・』」
「ふぇ!?」
ニルスンの声が2重に聞こえてきた。耳に届く声と頭に響く声の2つ。突然の事で僕はついすっとんきょうな声を上げてしまった。
「何!?」
「何かあったんですか?」
僕に視線が集まる。これから決戦だって時に驚きの声を上げた僕を何事かと皆が注視していた。
注目が集まる中、僕はばつが悪そうに言う。
「いやぁ、ニルスンさんの声が2重に聞こえて、びっくりしちゃってさー」
それを聞いた皆は何だそんな事かとホッと胸をなでおろした。
「『あー、それは通信の魔道具から聞こえてくるのと普通の声とでダブって聞こえるからですね』」
「『まぁこれはまぁ慣れてくださいとしか言いようがないな』」
「もー、何か問題でも起きたのかと思いましたよー」
「ごめんごめん。続けて、ニルスンさん」
そんなお騒がせの僕の様子にアハハと軽い笑いが起こる。ちょっと騒がせちゃったけれど、この場の緊張は解けた感じだ。
ニルスンはコホンと咳をし、仕切り直す。
「『先にも言いましたが、今回の戦いは討伐以上に情報収集が重要となります。可奈芽さんは無理に戦闘に参加せず、感知スキルに集中して頂きたい』」
僕はニルスンに向けてちゃらけた敬礼をする。
「僕に出来る事を全力でやるって事だね。りょーかい」
そんな僕を見てニルスンは少し呆れた感じに微笑んだ。
「『頼みましたよ』」
こうして準備も終え、僕達は大本の変異種の居るフロア、中央広場へと向かった。いざ決戦のバトルフィールドへ。




