第59話 元凶を探して
グアドのダンジョンの奥地、城のある区画に到着するやいなや、僕は驚嘆の声を上げる。
「うわ、でっかー!」
そこにあったのは城とは思えない程馬鹿げた大きさの建物だった。形こそ城ではあるものの、中に街の一つや二つが入りそうな程に大きい。中は複雑に入り組んでいて、外観が城なだけの迷宮といった所か。
モンスターもさっきとは様変わりしている。変異種はさらに姿を変え、複数の腕を生やしているものや、さらに巨大になっているもの、人型になっているものまでうろついている。予想されていた通り、今回の変異種はダンジョンの奥地で進化を続けていたみたいだ。
通常のモンスターも、巨大な動く鎧だとかゾウくらいの大きさのドラゴンだとか、見るからに強そうなモンスターが多い。ゲームでいうと終盤の雰囲気だ。
僕達が到着するのとほぼ同じくして『ただいま到着しました』『ダンジョン深部に到着』といった到着を知らせる声が頭に響く。
「っと、そうだった。到着したら伝えるんだったね。リトライズは今着いたよー」
『これで全員揃いましたね。皆さん、元凶と思われるモンスターは近くに居ますか?』
『いえ、街を襲撃していたものの強化版らしきモンスターは居るのですが、大本のモンスターではない様です』
『こちらも同じく、変異種が湧いている所は見当たりませんね』
「こっちもそんな感じ」
どうやら元凶はまだ見つかっていないらしい。
街を襲った変異種が奥から湧いているのは見えているから元凶が近くに居るのは確かなんだけど、その大本が見えない。多分もっと奥に居るんだろう。
『ふむ。では事前の打ち合わせ通り、城を4組で4方から広範囲を調べながら進んでいきましょう。まんべんなく塗りつぶす様に』
『『了解』』
「分かったー」
僕が他の部隊とのやり取りを終えると、シシルーが僕に聞いてきた。
「どんな感じですか?可奈芽さん」
他の部隊からの通信はシシルーやリディルカやニーリェには聞こえない。だから通信の内容が気になったんだろう。
「今の所近くには居ないってさ。事前に話してた通り、隙間なく広範囲を調べながら中央広場を目指すって」
「となると、やっぱり元凶が居るのは中央広場か?あれだけ大量のモンスターを発生させるともなればそれなりの広さが必要だろうし、普段ボスが湧くあそこなら十分な広さがある」
「可能性は高いが、決めつけるべきではないな。本体が移動しながら発生させ続けている場合もあるだろう」
とニーリェとリディルカが予想を立てるが、僕達のやる事は変わらない。
「ま、ともかく。辺りを調べながら先に進もう。今予想した所で何か変わるでもないんだしさ」
「ですね」
「だな」
「うむ」
僕達は感知スキルで周囲を探りながら巨大な城の内部へと入っていった。
入り組んだ城の中、僕達は戦いながらも先へ先へと進んでいく。
その見た目からも分かっていたけれど、進化する変異種はさらなる強化を終えていて一筋縄ではいかない強敵になっていた。
複数の触手をうねらせて複雑な攻撃を繰り出してきたり、遠距離から魔法を放ってきたり、空を飛び空中から襲撃してきたり、攻撃は一つ一つが複雑でかつ強力になっている。それに加えて、通常のモンスターもダンジョン深部の強力なモンスター。
いつもはなんの障害も無いかの様にダンジョンを進めている僕達だけど、ペースを落とした進行を余儀なくされていた。
リディルカはモンスターが出る度に中級魔法を繰り出すが、一撃で沈める事は出来ない。連撃や貯めといったひと手間が必要になってきている。
「ふぅむ。ここまで来ると、流石に貯め無しの魔法で一撃とはいかんな」
前衛として攻撃を受け止めているニーリェも受け止める度に少し押されている。
「やっぱ強いなここのモンスターは。一撃一撃がそこらのボスモンスター並だ」
汎用の強化魔法では足りないからか、シシルーは相手に合わせて強化魔法を切り替えている。いつもはボスモンスターくらいにしかやらない対応だ。
「無理せずに進みましょう。遅れてしまう事よりも、私達が欠けてしまう方が他の部隊にとって迷惑でしょうし」
そして僕はと言うと、強敵相手でもやる事は変わらず。感知スキルで調べながら皆にそれを伝えつつ、所々で湧いている進化前の変異種を倒していく。出来る範囲でやるべき事をこなしていった。
「進化前の奴は僕に任せて。こいつらなら僕でもやれるからさ」
そうして進んでいく中、僕は他の部隊と情報共有をしていく。
『見た所、進化したモンスターはダンジョンの外へ出ようとはしていないみたいですね。外へ出ようとしているのは進化前ばかりの様です』
『ですね。どうやら今回大量に発生している変異種、目標の場所にまで移動し、そこで待機して自身の強化をしていくといった特性を持っている様です。ここらに居る変異種を倒してみて分かったのですが、すぐに進化前の個体が補充される様にその場に待機しているのが確認できました』
「じゃあ、強い個体が街へ出てくる可能性は低いって事だね」
『しかし逆に言えば、大本の近くに居る奴はそれだけ強化されている可能性が高い。予想されていた通り、相当数のモンスターが力を蓄えていると見るべきだろう』
『それに今回の変異種。強化の方向性もバラバラで、弱点もそれぞれ違う。このまま強化され続けるとなれば、手が付けられない事態になりかねませんでした。援軍が来る前に来て正解でしたね』
と情報共有が済んだ所で僕は話しを切り替える。
「にしても、今使ってる通話の魔道具って便利だねー。これならワープ罠とかで離れても合流しやすくなるし。こういうの普段使い出来ればいいのに」
これまで探索者を続けてきたからこそ分かる。距離の離れた仲間との会話が出来るというのはとても有用だ。ワープ罠で飛ばされた時に合流しやすくしたり、離れた所に居る別のパーティーと連携を取ったり。いくらでも使い道がある。
『あー、残念だけどそれは出来ませんね。この魔道具、ダンジョンに入っている間使っている者同士の声や言葉が聞こえる様になるって代物なので、大勢の人が使うとその分大量の声が聞こえる様になってしまうのです。誰でも使えてしまうと意思疎通どころではなくなってしまうので、使用が制限されているんですよ』
「え?でもそっちの声って僕と話しているの以外聞こえてないんだけど」
『我々はこの魔道具を使う場合、パーティーメンバーとのやり取りはハンドサインで行う様にしております』
「って事は、僕が喋ってた事全部聞こえちゃってたんだ。気が散っちゃってたらごめんねー」
余計な話し声が全く聞こえてこなかったから、僕はてっきり伝えたい言葉だけを伝える的な都合の良いものだと思っていた。けれど実際は他の皆が気を遣ってくれていただけだったらしい。ちょいと気まずい。
『いいんですよ。民間の貴方達に協力を要請しているのはこちらなのですから』
『メルツの言う通りですよ。訓練も積んでいないのに変に気を遣って言葉での意思疎通を控え、実力を発揮できなくなる方がこちらとしては困ります。こちらの事を考えてくれるのなら、全力を出し切って頂きたいものですね』
トゲのある言い方だけど、一応ニルスンも思いやりの言葉をくれている。
「まぁ、そう言ってくれるのなら気にしない様にしとくよ」
気を遣わなくて良いって言いたいならもう少し優しく言えばいいのにと思いつつも、僕は厚意を受け取っておく。
そして、そうこうしているとニルスンの居るディクス隊が目標を発見した模様。
『本体を発見。予想通り、中央広場に居ます』
これにて捜索は終了。討伐のため、僕達はディクス隊の元へと向かう事となった。




