第56話 脱皮するモンスター
少し前まで人の営みで賑わっていたグアドの街。今は静寂の中、戦闘音だけが聞こえている。ついさっきまでの栄えている様子を知っているからこそ、今のグアドの街並みはとても不気味に見えた。
そんな街の中、住人が非難しているのをいい事にモンスターは我が物顔で闊歩している。カサカサと這いまわっていたり、壁に張り付いていたり、虫っぽい見た目も相まって生理的な嫌悪感が凄い。まるでB級モンスターパニック映画のワンシーンの様だ。
僕達リトライズはそんな街の中を駆け、モンスターを駆除していく。
僕が感知スキルでどこにモンスターが居るかを伝え、リディルカが魔法による先制攻撃で倒す。シシルーが強化魔法で支え、ニーリェが前に立ち僕達を守る。いつも通りの戦法だ。
進みながら道中のモンスターを倒し、所々で戦っている人達に手を貸し、倒し残しの無いように感知スキルを駆使して丁寧に丁寧に倒していく。
「にしても、なんで急にこんなに湧き出たんだろ」
駆除を進めながら僕は疑問を漏らした。
僕も変異種がダンジョンから出て来てしまう事があるのは知っている。けれど、これだけの数が一斉に出て来ているのは明らかにおかしい。ダンジョンの出入り口は探索者ギルドが管理しているし、もしダンジョンの中で異常があれば探索者の配信ですぐに分かる筈なのだ。
僕の疑問にリディルカがモンスターに魔法を放つ片手間で答える。
「今回の事態、この街の特徴と変異種の特徴、それがかみ合ったせいであろうな」
「というと?」
リディルカを引き継ぐ様にニーリェとシシルーが語る。
「グアドのダンジョンは街の下に広がる地下都市でな。その出入り口は街のあちこちに点在している」
「なるほど。出入り口がたくさんあるから、一斉に出てこられると対応できなくなるんですね」
「あぁ。複数の出入り口、大量に湧き出る特性を持った変異種、準備も間に合わない突然の襲撃、これらが合わさって今の状況を招いたって訳だな」
「ふむふむー、色んな要因の兼ね合いって訳ねー」
おおよその要因が分かった所で僕は神様に聞いてみる。
(ねぇねぇ神様。ダンジョンの配信とか見て何か気付いた事とかない?)
(あーし配信見てたんだけどさ。なんかダンジョンの奥の方から突然うじゃうじゃ湧いて、それに飲み込まれた感じだったよ)
(俺が見てた配信でもそんな感じだったぜ。大波みてぇな群れに押しつぶされる様にやられてた)
(ボクが見てた探索者パーティーも同じくー。一斉に襲い掛かられて、ろくな反撃もできてなかったよー)
視聴者である神様達の反応は似たり寄ったり。やっぱり突然大量に湧いて出た以上の情報は無い様だ。
そのまま変異種の駆除を続けていたその時、僕はある異変に気付く。
「あれ?なんかモンスターの種類変わってる?」
辺りに居るモンスターの姿がさっきまでとは異なっている。甲殻類と甲虫を混ぜた様な姿なのは変わらないけれど、一回り大きくなっていたり、バッタの様な足が生えていたり、カニの様なハサミが生えていたり、進化形態的なモンスターが現れている。さらに数が増えた様子は無いし、追加で出てきたというよりも置き換わっているという感じだ。
そんな姿の違うモンスターを雷撃魔法で倒しつつ、リディルカは口を開く。
「まさかこいつ・・・。可奈芽よ、感知スキルを広めに使ってくれ。もしかしたら体を変化させている奴がいるやもしれん」
僕は静かに頷き、周囲を調べる。
問題のモンスターはすぐに見つかった。剥がれかけのかさぶたの様に甲殻が脱げようとしている個体が1つ。
その個体は自身の身に着けていた甲殻を脱ぎ捨てるとすぐさま巨大化、ソフトシェルの期間なんて無いのか脱皮してすぐに駆けまわりだした。流石はモンスターだ。
「いた!脱皮している奴!」
それを聞いたニーリェとシシルーの顔から血の気が引いていく。
「となると、マズイな。この変異種、放っておくとどんどん強くなるぞ?」
「それ大変じゃないですか!早く倒しきらないと!」
皆がそんな危機感を抱いていると、僕は感知スキルにてさらなる問題を発見した。
「皆大変!ピンチな人が居る!」
一人の兵士が4匹のモンスターに囲まれている。その兵士は負傷していて肩からはダラダラと血を流し、怪我をした肩を庇いながらもモンスターに向けて武器を構えている。戦える状態ではあるけれど、一歩間違ったら致命傷を受けかねない。
リディルカとシシルーとニーリェは3人声を合わせ言い放つ。
「「「助けに行こう!」」」
一切の躊躇もない即決。助けが必要な人が居て、助けれる力があるのならば助ける。それを決定するのに僕達の間に時間は要らない。
僕達がピンチの兵士の元に駆けつけた時、今まさにモンスターが飛び掛かろうとしている瞬間だった。
「リディルカお願い!」
「任せておけ!」
と阿吽の呼吸でリディルカは魔法攻撃を放った。
モンスターに向けて放たれる4本の雷撃の槍。雷撃の槍は飛び跳ねた4匹のモンスターを貫いた。魔法に貫かれたモンスターはボタボタと地に落ちる。
「助かりました」
ピンチだった兵士は助けられた事を察し、安堵の表情を僕達の方に向け礼を言う。がしかし、
「まだ!まだ倒せてない!」
命中はさせたものの、仕留め切れていないモンスターが一匹。足が一本千切れていながらも、負傷し油断した兵士に目がけて跳躍。攻撃を仕掛ける。
モンスターの牙が兵士の首元にまで迫る。兵士は構えを解いている。リディルカの魔法攻撃も間に合わない。もうだめかと思ったその時。
ドズンという鈍い音と共にモンスターは実体の槍に貫かれた。誰かが槍を投げてぶち当てた様だ。
貫かれたモンスターはサラサラと消え、貫いた槍はカランと地に落ちる。
「間に合ったな」
そして聞き覚えのある声、ディクスだ。
「ディクスさん!」
「兄ちゃん!」
「ディクスさん!」
「ディクスさん!」
変異種の駆除をしていて丁度ここに来てくれたのだろう。ディクスは自分の部隊を引き連れてキメ顔を決めている。
ディクス達はピンチだった兵士に駆け寄り優しく声をかける。
「大丈夫か?君」
兵士は傷を庇いながらぎこちない敬礼をディクスに向ける。
「はい。ご助力有難うございます、ディクス騎士団長」
「それは良かった」
僕達もディクスの元に駆け寄っていく。
「ディクスさんありがとう。助かったよ」
「いやいや、こちらこそ兵を助けてくれて感謝する」
お互いに一礼を交わすと、僕はすぐに話題を切り替える。さっき見た変異種の脱皮についてだ。
「そうそうディクスさん、大変だよ。今回の変異種、なんか放っておくと脱皮してパワーアップするっぽいよ」
既に知っている様でディクスに驚く様子は無い。
「知っている。厄介な特性だ。大量の取り巻きを出し、その取り巻きが時間経過で強化される。すぐにでも大本を討伐しなきゃならんだろう。だが、一方で良いニュースもあるぞ」
「良いニュース?」
「ダンジョンの出入り口の封鎖は済んだ。これで追加の変異種は来ない」
「じゃあ今街に居る変異種を倒せば街の安全が確保できるって訳だね」
「あぁ。一気に片付けるぞ!」
ディクスの声に続き、僕達は「おー!」と掛け声を上げ、引き続き変異種の討伐を進めていく。
目につくものを粗方駆除し、住人の協力を得て感知スキルの妨害装置を一時的に解除してもらって街の中を徹底的に探り、街の中のモンスターを全滅。安全を確保したのだった。




