第54話 ニーリェの試合が終わり、そして
しばらくすると、試合に負けたニーリェが僕達の元へとやってきた。
「みんなー!」
ニーリェは笑顔で手を振り、スキップ混じりでこちらに向かってくる。
「あれー?」
僕は首を傾げた。
てっきり今ニーリェは試合に負けて落ち込んでいると思っていたけれど、当のニーリェは陽気そのもの。まるで試合に勝利したかの様にウッキウキだ。
ニーリェは僕達に向けて笑いつつもちょっぴり恥ずかしそうに言う。
「いやー、負けた負けたー。さっすが兄ちゃんだ」
「なんだか、負けたのに嬉しそうですね、ニーリェさん」
ニーリェにつられてクスクスと笑うシシルー。ニーリェはニシシと笑い言葉を返す。
「だってオレ、前回は予選落ちだったんだぜ?それが今回は最終トーナメント。運が良かったって所もあるんだろうけどさ、ずっと目標にしてきた所に立てたんだ。その上、兄ちゃんとも試合の場で戦えた。負けた悔しさよりも嬉しさが勝つよ」
「ふむ。全力で戦い、良い戦果もだせたから悔いはないという事だな。ニーリェよ」
「あぁ」
そんなニーリェの様子を見て皆はにこやかに笑っている。
会話に間が出来た所、リュートは自身の感想を挟み込む。
「それにしても、めっちゃ強かったよなぁディクスさん。俺からすれば、ニーリェさんもダッドさんも雲の上の存在って感じなのに、そんなニーリェさんを圧倒だもんなぁ。ほんと、果てがねぇよ」
まるで部活でスポーツとプロスポーツを見比べた様な、そんな果ての無い程の実力差。リュート含めブレイドファングの皆はそれを感じている様子だ。
そんなリュートの言葉に騎士団の面々が反応を返していく。
「まぁうちの団長は、若くして騎士団の団長に上り詰めた天才ですからな。少なくとも、この国では上澄み中の上澄み。戦ってまともな戦闘になる者ですら少数派でしょう」
「ダンジョンのボスモンスターですら一人で余裕ですもんね」
「そうですよ。団長は比べちゃあいけないタイプの人です」
そんな騎士団メンバーの評価にニーリェは自分の事の様に胸を張る。
「ふふーん。そうだろそうだろ。オレの兄ちゃんはスゲーんだ」
と自慢気に言った後に一息つき、ニーリェは続けて兄との思い出を語る。どうやら語りたくなった模様。
「オレさ、小さい頃は兄ちゃんの後をずっと付いて行っている様な、そんな子供だったんだ。兄ちゃんは小さい頃から優秀でさ、勉学にも武芸にも秀でてて、オレはそんな兄ちゃんをずっと尊敬してるんだ。そんなディクス兄ちゃんに追い付きたくて、並び立ちたくて、昔はずっと後を追いかけてた」
懐かしみながら語るニーリェ。そんなニーリェを見てロザリンは食い気味に言葉を挟む。
「分かります。分かりますわよニーリェさん!尊敬できる程の実力を持つお人が自分のすぐ近くに居たというその気持ち。その人を追いかけ、いずれ追い越したいというその気持ち。よーく、分かりますわ!」
「はいはい、お嬢。回想の邪魔はしないでくださいねー」
一時遮られつつも、ニーリェはコホンと咳を入れて仕切り直す。
「でも、追いかけても追いかけても、オレと兄ちゃんとの差は広がっていった。オレは勉学でついていけなくなったけど、兄ちゃんは文武両道であり続けた。オレはろくにスキルを使える様にならなかったけど、兄ちゃんはいくつものスキルを扱える様になっていった。オレは気付いたよ、このままじゃあ追い付く事なんてないってな」
「だから、ディクスさんとは違う道として探索者を?」
「まぁそんなとこだな。最初こそ諦めた結果だったけど、今となっては探索者になってよかったと思ってるよ。前衛として前に立ち、前衛としてパーティーの皆を守る強さ。その強さを得られたのは、探索者の活動を続けてきたからだからな。オレは探索者になったからこそ強くなれたんだ」
「その探索者だからこその強さで、今回ようやくディクスさんに追い付けたって事ですね」
「あぁ」
ニーリェからすると、レースとかで姿が見えない程に差が開いていた相手の姿がようやく見えてきたといった所だろう。今回の大会はそんな手ごたえのあるものだったらしい。ニーリェも感無量といった感じだ。
そんなちょっとしたニーリェの思い出話の後、僕達は雑談を続けていく。
「にしても、ろくにスキルが使えないのによくあれだけ戦えるよなぁ」
「そうそう、何かコツとかあるんですか?ニーリェさん」
「ま、ひたすら訓練だな」
とか
「試合中に何か話してたよね?何の話してたの?」
「あれねー。オレがオレの強さはどうだった?って聞くと、本当に強くなったなってさ、最後の最後にめっちゃ褒めてくれたんだよー」
とか
「今回ディクスさんに追い付くって目標が達成できたわけだし、次は勝つのを目標にすんの?」
「まあな。ようやく手が届く所まで来たんだ。次は勝つために頑張るさ」
と僕達は主にニーリェをメインとした雑談をしていく。
そんな中、僕の頭の中に慌てた様子の声が響いた。
(可奈芽ちゃん大変だ!大量の変異種がグアドの街に進行してる!)
(なんだって!!)
聞いただけで分かる非情事態。それを裏付ける様に、今いる建物中にジリリリリと非常ベルの音が鳴り響く。
一瞬で場の空気が緊迫した雰囲気に変わった。
ある者は慌てふためき、ある者はキリっとした表情で非常時に備えている。災害的な何かが今始まった様だ。




