第51話 武闘家ダッドと戦士ニーリェ
大会本戦当日。
「じゃあ、行ってくる」
僕達は大会の会場へ向かうニーリェに声援を送る。
「うん。頑張ってね、ニーリェ」
「楽しんでくると良い」
「予選も全勝でしたし、きっと本戦でも活躍できますよ、ニーリェさん」
激励の言葉を受け止めたニーリェは笑顔で手を振り、試合の会場へと向かって行った。今回は僕も見送る側だ。
ニーリェが姿が見えなくなると、僕達は休憩所へと向かった。
ここの休憩所には会場を映し出すための魔道具がいくつも設置されていて、各試合会場での映像が映し出されている。見たい試合会場の映像が見える席に各々座って見るというスタイルらしい。
「こっちですわよー、リディルカー」
僕達が休憩所に到着すると、そこで待っていたロザリンが僕達を呼ぶ。どうやらダットとニーリェが映される所で、ブレイドファングの面々と共に僕達を待っていた様だ。
僕達が席に座ると、ロザリンはズイっとリディルカに近づいて喜々とした雰囲気で言う。
「極炎の光星ダッドその真の実力。とくとお見せしますわ、リディルカ」
「その様子。そちらのダッドも強くなったという事かな?」
「ふふん。当然」
そんな話しをしながら席に座って少し待っていると、ダッドとその対戦相手が準備を終え、試合開始の時間となった。
ダッドの相手は槍使いの男。男は槍を華麗に操るパーフォーマンスをした後、槍先をダッドに向けて構える。
一方、ダッドは軽く瞑想をし、ゆっくりと静かに構えをとる。外見からは想像ができない様な繊細な動きだ。
お互いが構えをとり、準備が整うと試合が始まった。
先に仕掛けたのは槍使いの男。リーチの有利を生かし、ダッドに向けて槍の連撃を浴びせる。ダッドが格闘で戦うと見て相手を近づけずに戦うつもりだろう。雨の様な隙のない突きが繰り出されている。
ダッドの方は防戦一方。手甲で槍先の軌道を逸らして凌いでいるけれど、反撃の隙がないからかひたすら迎撃し続けている。
そんな試合の映像を見て僕は呟く。
「これ、マズくない?反撃まで持ってけない感じだけど」
「まぁ見ていなさいな。あの程度の攻撃、ダッドならどうとでもなりますわ」
一見ダッドが押されている試合内容だけど、ロザリンに不安の様子は無い。
槍使いの男とダッドの攻防。しばらくは槍使いの男が優勢で試合が進んでいたけれど、槍使いの男はだんだんと息が上がっていくのに対し、ダッドの方はまだ余力を残していた。
槍使いの男はこれはマズいと距離を取ろうとするが、ダッドはその分距離を詰め、緊張の距離感を保つ。そして、槍使いの男は体力の低下によって一瞬攻撃の手が緩んだ。
相手がバテた瞬間をダッドは見逃さない。ダッドは距離を詰め、正拳を放ち反撃を試みる。
ガァンと鈍い音が鳴った。ダッドの手甲と槍の柄が衝突したのだ。ダッドの攻撃は通らなかったものの、もうリーチの不利は無い。ダッドはすかさずアッパーの追撃。拳は正確に槍使いの男の顎へと当たり、脳を揺らす。そして、よろけて一瞬無防備になった槍使いの男めがけ、ダッドは渾身の肘鉄を打ち込んだ。
モロに肘鉄を食らった槍使いの男は吹き飛び倒れ、身に着けていた装備を残して消えていった。不利な状況からの一転攻勢。見事な勝利だった。
その試合を眺めていた敗退組、僕とブレイドファングの接近アタッカー3名は感想を並べていく。
「この試合、槍と格闘で開始からリーチでの不利が明らかで、槍の方がリーチを生かして距離を詰めさせない戦い方をするのが目に見えていた」
「でも逆に言えば、ダッドさんからすれば相手がどう動くのか分かっていたって事だね。相手はダッドさんを近づけさせないため、距離を取りながらの攻撃をしてくる。だから、あえて一定の距離を保ったまま攻撃を捌き続け、相手の集中が切れた所で一気近づいて攻勢に出たという訳か」
「近づいてしまえば有利なのはダッドさんの方だもんね」
「ダッドさんの感知スキルでの見切りがそれを可能にしたんだろうねぇ。良いなー、僕も感知スキルが使えるんだし、あんな風に華麗に戦いたかったよー」
大会で敗退した僕達はすっかり解説キャラに成り下がっていた。
そんな僕達の意見を聞き、ロザリンはドヤ顔で解説に加わる。
「ダッドは少し先を予想できる感知スキルの他に、一瞬動きを早くするスキルや、拳打に様々な効果を付与するスキル、高威力の攻撃スキルと、多種多様なスキルを自在に操る武闘家。その真価は、1対1の対人戦でこそ発揮されますの。この勝負、うちのダッドが頂きましてよ、リディルカ」
「なるほど、つまりこの大会でのダッドが真の実力という事だな。では次は、我らがリトライズ鉄壁の前衛、ニーリェ・ドーランズの力をその目に刻んで貰うとしよう」
今度はニーリェの試合の番だ。
ニーリェの相手は片手剣と盾というスタンダードな装備の男。ニーリェは盾と片手斧を、相手は盾と剣を構え、そのまま流れる様に試合が開始された。
試合が始まると両者は同時に相手に近づき、武器を振り下ろした。
ガキイィィンと2重の金属音。
ニーリェとその相手はお互いに攻撃を盾で受け止め、そのままの姿勢で睨み合いの形となった。
少しの間いの硬直。多分達人同士が組み合って力量を測る的なやつだ。
そして2人はお互いに盾で武器を払う様に弾き、そこから激しい攻防が始まる。ニーリェが斧を振ると相手が盾で止め、相手が剣で薙ぐとニーリェが盾で防ぐ。正に決闘といった光景。
「おー、おしてるおしてる」
試合はニーリェが優勢。攻防を続けながらも相手を押し込んでいく。
「このまま勝てそうですね」
ニーリェが勝てそうでウキウキな様子のシシルー。
「だが、まだ相手は手がある様だぞ」
一方リディルカは冷静な表情を崩していない。
まだ奥の手を残しているというリディルカの予想通り、相手は攻防を続ける最中高速の斬撃を放った。なんらかのスキルによる攻撃だろう。急に速度が上がったからかニーリェも反応しきれず、生身の腕に刃を食らう。
流石に大ダメージ不可避かと思ったけれど、ダメージは薄皮一枚程度だった。少し血は流れているものの、カッターナイフで少し切ってしまった程度。ダメージはあれど軽傷だ。
「「「いや、固!」」」
僕達はつい言葉を漏らした。
圧倒的な防御力だ。普段から前衛をしてもらっているから知ってはいたけれど、まさか剣で切られてかすり傷とは。シシルーの強化魔法と防具でノーダメになる訳だ。
ニーリェは少し刃先が食い込んだその腕で刃を払い、反撃の薙ぎ払いを繰り出す。
相手はそれを咄嗟に避け、少し距離を取り、大振りの一撃を放つ。半端な攻撃は効かないと考えたのか、威力重視のスキル攻撃を放った様だ。
が、ガアァァンと鈍い金属音。速度重視の攻撃でなければ防御も間に合う。強力なスキル攻撃も盾で防げば問題ないという事か。
そこから再び攻防が始まる。相手は速度重視のスキルと威力重視のスキルを織り交ぜて攻撃してくるが、ニーリェは速い攻撃はそのまま受け、高威力の攻撃は盾で止め、前へ前へと進んでいく。攻撃を受けるたびに小さな傷がついているけれど、ニーリェは一切気にする様子は無く、ゆっくりと歩いてにじり寄っている。格闘ゲームで言うスーパーアーマーが付いている様な挙動だ。
ニーリェはそのまま追い詰め、斧の両断を相手に食らわせた。相手の体は消え、装備だけがカランとその場に落ちる。ニーリェの勝利だ。
「言っちゃなんだけど、女の子の戦い方じゃないねー。いくら回復してもらえるからって、よくやるよ」
ニーリェの豪快な戦いを見て、僕は少し引き気味に言った。一方、他の敗退組は冷静に分析する様に語っていく。
「なるほど。ニーリェさんはろくにスキルが使えないって言ってたもんな」
「うん。だからだろうね。徹底的に素の身体能力強化に努め、鍛え上げたんだろう」
「あの強さ。身体能力、特に耐久力で言えばこの大会でも上位だろう。ありゃあ生半可な相手じゃあ太刀打ちできんだろうよ」
ロザリンは腕組みし、うんうんと頷きながら感想を述べる。
「身体能力を徹底させたその強さ、見事でしたわ。ですが、あの程度ならば、うちのダッドには勝てませんわよ」
リディルカは不敵な笑みを浮かべならがそれに返す。
「こちらこそ。ニーリェがあの程度のものとは思わん事だ」
ロザリンはフフフと笑いながらさらに返す。
「それは楽しみですわね」




