第52話 ダッド対ニーリェ
少しの休憩を挟み、ダッド対ニーリェの試合。
試合開始直前。ダッドは静かに瞑想した後に拳を構え。ニーリェは軽い準備運動をした後に斧と盾を構えた。
「ついに2人の試合だな」
「なんというか対照的な2人ですね」
「うん。スキルを駆使して優雅に戦うダッドさんと、鍛え抜かれたその身の強さで圧倒するニーリェさん。真逆の戦い方の二人」
「柔対剛って感じだな」
画面を見ている皆は各々感想を並べている。
そんな中、僕は腕を組み玄人ぶった態度で語る。
「僅か先の未来を読み、幾多のスキルを操り戦うダッド。素の戦闘力を徹底的に強化し、スキル無しでも相手を圧倒するニーリェ。これは、事実上の決勝戦だな」
その言葉にシシルーは唾を飲む。
「つまり、この試合がこの大会の頂上決戦になるという事ですね」
「ごめん適当言った」
「・・・・・」
場の空気に呑まれていい加減な事を言う僕。そんな僕をシシルーはジットリとした目で見ていた。
せっかく解説キャラの立ち位置になったんだし、それっぽい事を言ってみようと思った。ただそれだけ。実の所、2人の実力がどれくらいの立ち位置なのかは全く分からない。
僕達が各々好き勝手喋っていると、試合開始の時間となった。
ダッドとニーリェは構えながらお互いにジリジリとにじり寄る。
間合いに入ると攻撃が始まった。先に仕掛けたのはニーリェだ。跳躍と共に斧を振り下ろすが、ダッドはそれをひょいとかわし高速の拳打。ニーリェは防御は間に合わず、横っ腹に打撃を食らう。
ダッドの攻撃を食らったニーリェだけど、大して効いている様子は無い。ニーリェはすかさず薙ぎ払いでのカウンターを狙うが、ダッドはバックステップでそれを回避。斧は空しく空を切る。
ニーリェはさらなる追撃を連続で繰り出すが、ダッドは回避や受け流しで攻撃を捌き、合間合間でカウンター。攻められているのはダッドだけど、ニーリェが一方的に攻撃を受けている状態だ。
そんな試合状況を見てロザリンとリディルカは声を上げる。
「その調子ですわー!ダッドー!」
「一撃一撃は軽い。焦らず行くのだ!ニーリェよ!」
2人は試合が映し出されている画面に向けて声援を送っていた。そういや応援勝負なるものをするとか言ってたっけ。いくらここで応援した所でダッドとニーリェに聞こえるものじゃないんだけど、まぁ気分の問題か。
試合は続いていく。
ダッドとニーリェはお互いまだ小手調べといった感じ。ニーリェは攻撃を受けているものの平気そうだし、ダッドもダメージを与えれていないけどまだ手を残している様に見える。何より、2人は戦いながらも笑っている。余興を楽しんでいるといった雰囲気だ。
「ダッド!そろそろ本気を見せてやりなさい!」
ロザリンは画面に向かって言い放った。
その声はダッドに届いていないのだけど、ダッドは何かを感じ取ったのだろう。その声に応える様にダッドは動きを変えた。
いったん距離を取り、呼吸を整えると、ジグザグと素早い動きで翻弄しながら急接近し、ニーリェの腹に強烈な掌底の一撃。
ダッドの攻撃を受けたニーリェはグラリと体を揺らして膝をつく。攻撃を受けてもダメージらしいダメージを受けていなかったニーリェが、今明確なダメージを受けていた。
「あれは!」
リディルカはダッドの使ったスキルを知っている様で、まさかあの技を使えるのか!?みたいな感じに驚いている。
ロザリンはそんなリディルカの様子を見て満足そうに言う。
「ふふん。うちのダッドは防御無視のスキルだって使えますのよ。そのままやってしまいなさい!ダッド!」
今度はダッドの攻勢。俊敏な動きでニーリェを翻弄し、防御力無視の打撃によってニーリェにダメージを負わせていく。ニーリェも反撃を試みるが、斧での反撃は避けたり手甲で軌道を逸らされたり、攻撃するも当たらない。
ニーリェは耐久力もあるから多少のダメージで負けるという事はない。けれど、一方的に攻撃を受け続ける今の状況はマズい。このままだと自慢の体力も削りきられておしまいだ。
「流石のニーリェさんもここまでか」
「だなぁ。いくら耐えれる体力があってもここまで一方的じゃあなぁ」
「やっぱり、スキルが無いと決め手に欠けちゃいますよね」
この場の皆もダッドの勝利を確信する空気を漂わせている。
「この勝負、もらいましたわ!」
ロザリンはリディルカを指差し勝利宣言。けれどリディルカはニヤリと笑い、言葉を返す。
「ふん。勝ちを確信している所悪いが、ニーリェはまだ諦めていない様だぞ?」
一方的に攻撃され、反撃もかわされ、心が折れても仕方がない状況にあっても、ニーリェの目は死んでいなかった。
幾度となく浴びせられる拳打の中、起死回生のチャンスを探っていたのだ。行動を見極め、タイミングを探り、ここだという刹那に放たれた一撃はようやく相手に当たり、ダッドを切り飛ばす事に成功した。肉を切らせて骨を断つってやつだ。
ダッドはぶっ飛ばされて一時倒れたもののすぐに立ち上がった。肩には痛々しい傷がつき、そこからタラリと鮮血が垂れている。ダッドも相当鍛えているからだろう、ぶっ飛ばす程の威力にしては傷は浅い。けれど結構なダメージにはなったはずだ。
ニーリェの見事な反撃に僕達は沸く。
「攻撃を受けながらも相手の動きを観察していたのか」
「所々で反撃をしてたのも、いつなら攻撃が当てれるかを把握するためにやってたのかもね」
「凄いぞニーリェ。やったれニーリェ」
ダッドが思わぬ反撃を食らい、ロザリンは少し慌て顔。
「ま、まだ一発食らっただけ、こちらの有利に変わりありませんわ!」
ダッドとニーリェは激戦を繰り広げていく。
ダッドは俊敏な動きで翻弄し、幾多の拳をニーリェに浴びせて体力を削っていく。ニーリェは針の穴に糸を通す様な僅かな隙をつき、強烈なダメージをダッドに与えていく。手数と威力の戦いだ。
戦い方の違う2人が互角の戦いをしている。しかもそれが自分の身内。応援していたロザリンとリディルカも声援につい力が入る。
「いっけーーー!ダッドーーー!」
「ゆけーーー!ニーリェーーー!」
「ちょっとそこの人、うるさいよ」
席を立って吠えていた2人が別の試合を見ていた人から注意された。
「あ、ごめんなさい」
「すまない」
ロザリンとリディルカは席に座ってシュンとする。まぁ応援とはいえ、公共の場で騒いでいたら注意もされるか。応援勝負とやらは引き分けだ。
そんな僕達とは関係なく、ダッドとニーリェの試合は続く。
勝負は互角。あと一手、何か相手を上回るものを出せれば勝てる。そんな戦いの最中、ダッドはその一手となる奥の手を繰り出す。
ニーリェが横薙ぎの攻撃を放ったその瞬間、ダッドはその斧を肘と膝で叩く様に挟んだ。その衝撃で斧は砕け、斧は短い棒きれに成り下がってしまった。
「よし。ダッドの武器破壊。これで決まりですわ」
再び勝利を確信するロザリン。けれど、勝利を確信しているのはリディルカも同じだった。
「うむ。これで決まりだ」
武器を破壊され、本来であれば絶望するべき状況。けれど、ニーリェはそれを予測していた様だった。滑らかな動きで盾をダッドに向け、まるで消える様な急加速。盾を構えての突進攻撃<シールドタックル>を放った。
ニーリェの使える数少ないスキル。相手を弾き飛ばす性能が高く、威力もそれなりにあるけれど、使った後の隙が大きいから、確実に当てれる時や後隙を晒せる時にしか使えないと聞いた。そして、今がその確実に当てれる時なんだろう。
武器破壊が成功して勝ちを確信した瞬間。油断による僅かなほころびが生まれるその刹那。ニーリェは通常攻撃よりもはるかに強いスキルによる攻撃を放ったのだ。感知スキルでちょっと先が見えた所で回避は間に合わないだろう。
ダッドはニーリェのスキル攻撃の直撃を受け、場外まで弾き飛ばされ、壁へと叩きつけられた。場外の地面に体が触れたダッドは装備だけを残してスゥっと姿を消す。
この試合、ニーリェの勝利だ。




