第49話 予選試合
カーラ武闘大会は2日にわたって行われる。初日は予選で大部分がふるいにかけられ、次の日はトーナメント方式の本戦。装備は自前の物じゃなくて、各々に支給品が配られるらしい。多分装備で差が出ない様にするためだろう。武術を競う大会だから当然魔法は禁止だけど、スキルは使用可能で、感知スキルも使って良いとの事だ。
大会の説明を聞き、受付を済ませ、支給された装備を身に着け、僕は会場へと向かった。
ダンジョンと同様に入り口には魔法陣があり、そこを抜けた先には広大な会場が広がっていた。予想通り、ダンジョンと同様に会場は建物の大きさよりも明らかに大きい。柔道の試合が出来そうな広さの舞台がいくつもあり、そこで大会の参加者が試合の開始を待っていた。
「えーっと、ここかな?」
少し歩いた所で僕は指定された番号の舞台に到着した。そこには対戦者だろう人が居て、その場で試合の開始を待っていた。
「あ!」
つい声が出てしまった。舞台の上で待っていた対戦者は僕の知っている人物だったからだ。
「おや、貴方は以前の。確かリトライズの、可奈芽さん、でしたか?」
前に一緒に変異種の討伐をした騎士団メンバーの一人、ベドゥイだ。初戦の相手が見知った相手とは、やり易いやらやり難いやら。
僕はひょいと舞台に上がり、気さくに話す。
「久しぶりー。ディクスさんの部隊にいた、ベドゥイさんだよね。ここに居るって事は、僕の対戦相手?」
「その様ですね。にしても、可奈芽さんも参加されるんですね。見た所好戦的な性格でもなさそうでしたし、こういった大会に出るタイプとは思いませんでしたよ」
以外そうな顔を見せるベドゥイ。僕はそれににこやかに返す。
「アッハハ、ニーリェに一緒に出ようって誘われちゃってね」
「そうですかー。実は、俺も団長にカーラ武闘大会に出ようって誘われましてね。団長だけじゃなくて、うちのカルスも参加していますよ」
「へぇー、兄妹だなぁー」
きっとディクスは、ニーリェと同じ様に友達を誘う感じに促したんだろう。ベドゥイはディクスの部下ではあるものの、命令された雰囲気はない。本人も結構乗り気で参加している様子だ。
ここで会場全体に「まもなく試合を開始します」と声が響く。
その音声を聞いた僕とベドゥイはそれぞれ武器を構え、お互い相手に意識を集中させ、言葉を交わす。
「手は抜きませんよ」
「望むところ!」
顔と剣を向き合わせ、呼吸を整える。心の準備も万端だ。
試合直前特有の緊張が走る。そんな中「試合開始ー!」と開始の宣言が会場の中に鳴り響いた。
開始するや否や、ベドゥイは僕に向かって来る。速攻を決めるつもりだ。
「見切った!」
読んでいた。僕は感知スキルを集中させ、ベドゥイがどんな行動をしてくるのか、どんなスキルを使ってくるのかを全て分かる様にしていたのだ。ベドゥイが速攻を仕掛けてくる事は分かっていた。分かってはいたのだ。
ふと気づくと、僕は裸の状態で別の部屋に送られていた。僕は負けたらしい。
(見切ってはいたんだけどねー)
速攻には気づいていた。切っ先も見えていた。だけど見えていただけだった。感知スキルのお陰で見切る事はできたけれど、体は自分のイメージに全然ついていけなかった。
(今回はシシルーちゃんの強化魔法もないし、普通のダンジョンとは違って俺達が評価する事での強化もねーからなぁ。普通のダンジョンよりも動きづらくてもしゃあねぇよ)
(そう言えばそうだったね。うーん。もう少しやれると思ってたんだけどなぁ)
思えば、僕は普段から結構な身体強化を貰っているんだった。そりゃあイメージ通りの動きが出来ない訳だ。
1戦目が瞬殺に終わった僕は、ちょっぴり落ち込みつつも再度装備を整え、次の試合へと向かった。
予選は何回か試合を行い、上位の者が本戦に参加する。本戦の定員まで人数を絞る目的で行われているため、参加人数によって毎回予選の試合回数は違うらしい。今回は5回試合を行う様だ。
2戦目。相手は大剣を持った大柄の男だった。
僕は初戦と同じく感知スキルで相手の攻撃を見切り、回避に専念し立ち回った。大振りの攻撃ばかりだったから紙一重で避ける事はできたけれど、ろくに強化されていない僕のスタミナは貧弱だった。避け続けている内に息が上がり、疲労によって隙が生まれ、その隙を突かれて斬撃を食らい敗北。
3戦目。相手はスラっとした体形のナイフ使いの女性だった。
僕は相手をスピード自慢だと考え、感知スキルで攻撃を察知し受け止め、力勝負に持ち込んだ。が、しかし、僕は力負けし、弾き飛ばされ、そのままとどめを刺され、また敗北。
4戦目。相手は片手剣を持ったきゃしゃな体系の少年だった。
僕と同じく戦闘慣れしていないのか構えも様になっていない。試合内容は酷いもので、へっぴり腰同士がわちゃわちゃとやり合う、とても武闘大会とは思えない泥試合。お互いがバテた所で僕が何とか渾身の一撃を加え勝利。僕は始めて目の前で装備だけを残して転送される瞬間を見た。
5戦目。1勝しかしていない以上僕は予選落ち確定、これが最後の試合となるだろう。そして、その相手とはブレイドファングのレイラ。またもや僕の知っている相手だった。
「やっほー」
「あ、可奈芽ちゃん。やほやほー」
僕が手を振り気さくな挨拶をすると、レイラも気さくに挨拶を返してくれた。
「レイラ達も来てたんだね。僕は1勝3敗で全然なんだけど、そっちは?」
「アタシは2勝2敗。まぁぼちぼちかな」
「2勝かー、すごいねー」
「可奈芽ちゃんこそすごいよ。感知スキル専門って感じなのに、武闘大会で1勝を勝ち取ったんでしょ?アタシは普段から前衛してるのに2勝だしさ」
「いやいやー、運が良かっただけだって」
そんなやり取りをしていると、まもなく試合開始の時刻となった。僕は片手剣を、レイラは双剣を構え、お互いに準備が完了。試合開始が宣言された。
レイラは慎重に戦うタイプなのか、間合いを取って様子を見ている。僕は間合いとかは分からないけれどなんとなくで距離を取った。
少しのにらみ合いの後、レイラが仕掛ける。
最初は双剣による2連撃。僕は初撃を横に飛んでかわし、2撃目を剣で受け流す。
続いて大振りの横なぎ。僕は背後に飛んでそれを回避。
さらに双剣である事を生かした連続攻撃。僕は迫り来る斬撃を剣で払う様に叩き、攻撃を逸らしていく。
力も速度もレイラの方が上だ。だけど圧倒的という程じゃない。回避も防御も十分間に合う。攻撃に対処していく内に僅かな隙も見えてきた。僕はその僅かな隙をつく様に反撃の一太刀を振る。
僕の斬撃は空を切った。レイラはとっさに腰をくねらせ、その攻撃を空ぶらせたのだ。惜しかった。
「やるね」
レイラは余裕そうにニヤリと笑った。僕は少し息を荒げながらも言葉を返す。
「そっちこそ」
レイラは双剣を×字に構えて告げる。
「じゃあ、これはどう?」
そう言うとレイラは一気に僕との距離を詰め、彼女のスキル<ダブルスラッシュ>を放った。同時2つの斬撃が僕を襲う。
攻撃の瞬間、ギイィィンと金属同士の衝撃音。
少し弾き飛ばされたけれど、ギリギリで剣での防御が間に合った。速い。その上威力もある。剣を持っている腕がジンジンと痺れている。次同じ攻撃をされたらもう防ぐ事は出来ないだろう。
「もう一回いくよー」
そんな僕の状況を知ってか知らずか、レイラは再び双剣を×字に構えた。
防げない以上全力で回避するしかない。僕はレイラがスキルを放つと同時に全力で横にジャンプ。回避を試みる。
「あ」
大きく跳ねた僕を見てレイラは気の抜けた声を放った。
何事かと思ったその瞬間。僕は真っ裸で転送されていた。僕は負けたらしい。
「どゆこと?」
事態がのみ込めずつい声が出てしまう僕。
(あー、場外負けだねー。残念)
(そんなー)
割といい勝負が出来ていたと思っていたら、最後は場外負けというなんとも締まらない決着。戦績も1勝4敗と、なんともしょっぱい結果だ。僕は自分の服に着替えつつも(まぁ僕は別に戦闘要員じゃないし)と自分に言い訳をするのだった。
これで僕の試合は終わった。後は皆の元に戻って結果発表を待つことにしよう。




