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誤字・脱字等を修正いたしました。27.5.6

 雪が、降った。殿下たちが来てからすでに………二十日は過ぎちゃったわねー。で、食料の在庫とかの見直しをしなくてはならなくて、余計な仕事になったのよね。腹がたつから強行突破しようと思います。


 もうね、世間的にも我慢の限界だと思うし、私の我慢の限界ともいますか。だいたいがまとまってきたのなら、そろそろ出ていっても大丈夫だと思うのよね。私にはそう感じるわ。


 殿下を中心にそれぞれの対策を話し合っていた。まず、ようやく殿下が国王となる未来は諦めたそうよ。もともとハーフエルフがいきなり全面的に出てくる方がおかしかったのよ。嫌われているものが受け入れられるわけないじゃない。


 と、言うわけで父王に取り次ぐそうよ。糾弾してきた貴族にはどう立ち向かうのかは知りませんけど、なにか策は考えているようね。流れ的には末のテジラト王子を立てて裏から応援しつつ、ハーフエルフの迫害を薄めるように努力するってぼそぼそと聞こえてきたわ。


 そのためにアヴリーベ。の、私を引き込もうとしているけど、私は揺らぎません。熊男がなぜか私を落とそうと頑張っていたけど………落ちは、しなかったわ。ただ、テテラが私を遊ぶものだから意識が変わったのは認める。好き嫌いはまだ形になっていませんけど………まあ、残念だったわね。


 私の方もこれ以上は限界でしたから、私を最後まで落とせなかった方が悪い。あの手この手でよく頑張っていたわよね。しかし、これも―――私が望んでいること。代わりにこの四人に上級魔法が数回、それ以下なら無効にしてくれる防御結界と物理防御を強化した指輪を渡してあげるわ。久しぶりに作ったから少し時間がかかったのよね。四人分ですから。魔力も使うから本当に時間がかかったわ。餞別だから取っておきなさい。


 子どもたちは初めて見る雪に興奮する年少組を見守るために外に出てくれた。私はそれを見やすいように、と言う理由でフードを抜いて歌と言うなの詠唱を唱える。その姿に驚いてみている四人に気づかれないように。子どもたちを見つめて歌えば私が無意識に口ずさんでいるように思えたようで何も言わない。


 ゆっくりと、紡いでゆっくりと魔力でターゲットを絞っていく。なかなか難しいわね。あと少し―――あら、マーデクが魔力に気づいたわ。でも、遅いわね。おかげで熊男にも気づかれた。しかし、残念だったわね―――詠唱は完成したわ。


「転移」


「なっ!?きさっ―――」


「おい!なにやっ―――」


「ホルティ―――」


「っ―――!?」


 あら。これでも避けられるなんて………さすがにその対策なんてしていなかったわ。熊男が魔法陣から抜け出すなんて―――ターゲットは選べるけど魔法の対象から大きくズレられたら転移も失敗してしまう。


 すぐに私のところに襲いかかろうと駆け出す。勝てるはずがないので私はそのまま熊男のされるがまま。床に縫い付けられた私は喉元に冷たい感触があるな、とぼんやりと考えた。ナイフじゃないわね。でも冷たい………なにかしら?


「殿下やアーバン、マーデク魔術師をどこにやった」


「この国―――国王の目の前よ」


「なぜっ」


「遅いからよ」


 だいたいの構想は決まっているのに何時にするか、まだ準備に必要なものがあるか、どんな言葉が、まず誰から、どこから、どのようにして、どんな風に語るか………そこまで拘る必要なんてないのよ。そんな畏まってしまった言葉より、私は想いのまま語る言葉の方が響くわ。嘘、偽りのない本心で語ってくれた方が、ね。


「ねえ、やることは分かっているのでしょう?そこまですべてを一度に変える必要はないわ」


「だからと、いきなり理由なしに転移させられたら困る。―――俺も飛ばしてくれ」


「魔力切れよ。残念ね」


 と、言えば垂直に降り注ぐ熊男の唇。変ね………これが普通になりかけていたんだわ。


 ことある事に、子どもたちと殿下たちの目を盗んで触れてきた唇。表面を上下とも満遍なく、私と貴方は繋がる。さらに求める口付けは絡まり始めて息がつまって苦しい。でも、この苦しさもきっと………最後だ。


 魔力をもらった私は転移の詠唱を唱える。私の頬を撫でる熊男の手はとても冷たい。どうやら、首に触れていた冷たいものは熊男の指だったらしい。そのまま頬と、耳と、髪を撫でて額に口付けが落とされた。あとは―――転移と唱えるだけ。


 今日も熊男の顔は鼻筋がしっかりと、口元もちくちくしないし、瞳もしっかりと捉えられる。毎日剃るのって、大変よね。ごみが。そんな事を思っているなんて、熊男は知らない。こうやって力強い手で立ち上がらせてくれる。


「ねえ、熊男」


「こんな時でも名前で呼んでくれないのか………いいか。絶対に迎えにいく。拐われるのが嫌いなら、ここでずっと待っていろ」


「はいはい。ちゃんとそっちを終わらせたら来てみれば?私はここから出る気はないもの」


「季節が幾度と巡っても、迎えに来てやる」


「そう………………じゃあ、いいこと教えてあげるわ」


 まだ魔力は繋がっている。大丈夫よ。あー、本当。なんで今さら確信に近づくように心が動いちゃったのかしら。腹ただしい。


「名前を呼んでほしいようですから、あっちの毛むくじゃらの時に呼んであげるわ。呼ばれ慣れていないのでしょう?今の状態では熊男。毛むくじゃらの時に貴方の名前。再会の時、貴方がどちらを選ぶのかしら―――楽しそうよね」


 ちょっと驚いたような顔で私を見たけど、時間切れよ。発動の前の魔力を維持し続けるのは辛いの。パッと離れて「転移」と唱えれば熊男が光をまとって消えていく。


 静まり返った部屋の中は外から聞こえる子どもたちの声がよく響いてくる。おかしいわね………熊男を元の場所に送り返しただけなのに“ 儚い ”と思える私がいたなんて―――でも、これで平穏は、続く。さようなら―――ゼフォンド。







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