72sideゼフォンド
誤字・脱字等を修正いたしました。27.5.6
俺への任務は口にするだけならさほど難しいものではない。口にするだけならば。
俺は貴族、サーバルナータ家の次男だ。王族と少しだけ関わりを持っているだけの、公爵。俺は生まれた時から忌み子として敬遠された。顔だけが毛むくじゃらだったらしい。そこだけならよかったのだが、問題は別にあった。その問題が俺を生んだ母の血筋だ。本人は知らずとも、その罪はふりかかる。
母はもちろん人間だ。サーバルナータ家の大黒柱、父も人間だ。ならば俺も人間だ、と言いたいが少し違う。調べるのには途方もない過去を漁った。両家の過去なんてほとんど辿るのは困難だ。まあしかし、父の方は正真正銘の王家に連なる公爵なので歴史は明確だった。その歴史の中で疑わしいものはない。みな、王に仕えその身を捧げている。
では、疑わしいのは母に当たる伴侶だ。遡れば遡るほど血筋が多くなる。これには相当の時間を使ったようだな。俺は知らないが。遡ったのはいいが厄介なのは変わらなかった。
聞けば、遠い先祖が生粋の貴族ではなく平民からの女性がおり、その女性がハーフだったと言うこと。混血の半分はもちろん人間だが、もう半分はとんでもない血筋だった。熊の獣人だ………それだけでなく、古代の古き熊、黒銀熊。真っ黒な毛並みは月に照らせば銀に変わる熊族。黒銀熊のみで種族繁栄するこだわりを持つ、古代からその血を絶やさなかった熊族だ。その血は濃すぎるゆえに魔力は少し劣るが寿命の長さはエルフをも越え長寿と名をあげている。もはやその種族がいるのかは不明とされているが………よく混血したな、と俺は他人事のように思う。
まあ、軽く三千年は生きられるらしい。先祖帰りでそこまで特徴が得られるのかは不明だが、黒銀熊は回復力も高い。傷がついたところで明日には大体は治ってしまう。その性質を俺は持っているし、魔力もエルフよりは低いが人間より高い。魔法関連の扱いはほとんど出来ないのが痛いが、もともとサーバルナータ家は騎士道であるゆえ多少ぐらいで使えれば問題はない。現に今も表では狙撃隊副隊長に付き、裏では様々な貴族を捕まえてきた。暗殺とまでにはいかないが、国の闇にも貢献している。
しかし、顔だけ毛むくじゃらになるおかげで嫌われた。そりゃあ気持ち悪い。剃っても次の日には元に戻っている。一度、乳母が観察をしていたらしいが………じょじょに生えてくるらしい。それを両親に報告して気持ち悪いと家全体で言われ続ければ刷り込まれる。そんな俺に何も言わなかったのは、機械のように与えられた仕事と言葉しか喋らなかった俺の侍女つきぐらいだな。その頃は俺も、何も言わない彼女に救われた。機械のようでも、彼女だけが俺に祝福を願ったのだから………
それでも俺は次男なので切り捨てられない。兄にもしもの事があった場合に次男は必要だった。ここに三男でも生まれればさっさと俺は追い出されただろう。しかし、運命とはうまくいかない。その後に生まれてくる妹たちはどうみても弟にはなれないのである。しかたないので俺は道具として扱われ、顔は毎日のように剃られて見た目を取り繕われた。
まあ、生きるためにはしかたがない。やるしかなかった俺は言われるままに頑張ったもんだ。殿下にも出逢ってアーバンにも出逢って友と呼べるような仲になれた。しかし、女は醜いものだ。俺の腕が認められ、王の横に立つようになれば媚びてくる。俺の手にした功績と与えられた財産が目的なのは明白だ。毎日のように鼻が曲がるのも嫌だし、上部だけの飾った言葉も聞きたくない。もう、そんな物は俺は見たくないんだ。
「だから王に今まで働いた分の報酬を貰って立ち去ろうとしたんた。ハーフエルフはいつかバレるとは思っていたのだろう。すぐに承諾してくれた。俺の後釜はちゃんといるので問題もない」
「………色々と、言いたいことがあるのだけどいいかしら」
「なんだ?」
「毛むくじゃらとその魔力は認めるわ。でも黒銀熊なら毛の部分の色が淡く輝くのよ。貴方の髪は今も月夜に照らされているのにも関わらず変化がない。確証としては足りないわね」
「いや、変わってる。内側が茶色から金に輝くんだ」
ローブを目深くかぶっていても見えるだろう。俺は決してホルティーナを離さないように片方の手で自分の髪を持ち上げた。気づいたのはいつだったろうか。見習いの頃か、風が吹く見張りの晩にアーバンに言われた事で初めて気づいた。
ホルティーナは見えなかったのか珍しくフードを少しだけ持ち上げる。見える瞳はあいにくと月の光と家から漏れでる淡い光しかないので透き通るスカイブルーは少し暗めだ。それもまた、あんな貴族の女たちの欲まみれの瞳ではない、綺麗で真っ直ぐ射る瞳は俺を魅了する。
「本当ね………でも、私はここから出る気はない。貴方の仕事が達成されない故に報酬は支払われず、私と貴方の縁は過ぎ去るわ」
「いや、そうはさせない。その縁は俺が望むまで留まり、絡まる」
「強情だわ。分かるでしょう?王の依頼は達成もされないのよ。しかもその王は退位する。早く帰らないとその報酬を与えてくれる人間がいなくなるわね」
「その前に戻ればいい。ハーフエルフはいずれ民へ知れ渡るのは予想できるものだ」
「ちょっと待ちなさい。それなら、この騒動は対処できるんじゃないっ」
「いや、二十六年となると王が計画を緩めてな………まだ完全に出来上がっていない。予想だけはしていたと言っていい」
「自分で墓穴を掘っているのにその対処を考えていなかったの?王族はどれだけ考えが足りないのかしら………で?貴方は何を王に頼まれたのよ」
もううんざりしたのだな。俺も少しうんざりしていたところだ。もうあれは王族だけでは機能しないだろう。政はうまく動かしていたのだがな………その他が何も出来ないらしい。
「第一王子は自分の息子なので生かしたい。しかし、ハーフエルフとバレたらきっと風当たりが辛いから自分では助けられない。王族として戻る事は無理だろうから次に王位が受け継がれる末の王子にはこんな事にならないように立派に育てたい。そのための教育係としてアヴリーベにお願いできないだろうか。出来ることならばつれてきてほしい」
「…………すいぶんと下にでた内容ね。本当にそんな事を王が言ったの?」
「言った。そのために俺は殿下が騒動に巻き込まれないように護衛をしつつ、『アヴリーベ』をしらみ潰しに探し、連れてくる命令が下されて今に至る」
「―――貴方にとっての優先は王なのね?」
「………殿下と比べるなら王だ。しかし―――優先となれば俺自身だ」
だからこうして仕事を脇においてホルティーナを捕まえているのだが………どうにも揺らいでくれない。こうして腕の中にちゃんといるのに―――いっこうに収まる気配が感じ取れないホルティーナ。どうすれば俺の傍にいてくれるのだろうか………抵抗は少なくなったんだがな。
髪を摘まんでいた手をホルティーナの背に回してしっかりとその細い肩と腰を抱き締めた。口では離せと言うが、押し退けるような抵抗はない。少しでも、俺を受け入れてくれていると思っていいのだろうか………まだ、わからない。
「同じ長寿の俺なら、ホルティーナと長い時間を歩める」
「確かにそうでしょうね。でも、私は」
「その長い時間をかけて俺はホルティーナにすべてを捧げる」
「………重い」
「そうしないとホルティーナは分からないだろう?重くなければ気づかないなら重くお前を離さない」
「なにそれ………私は恋をしないわ」
「では、愛せ―――」
話しかけている間に顔にかかるフードを脱ぎさっておいた。やはり抵抗はなかったのでそのまま何かを紡ごうとしたホルティーナの唇から言葉を奪った。触れるだけ―――そう思うも、零の距離から見つめる瞳は交差して俺の理性をくすぐらせる。
結果、ホルティーナが目を閉じるまで深く愛を注ぐように。零の距離を二人だけの世界に導いくように繋ぐ。短くも長い時間を。浅くも深い酔いを。儚くも満ちる瞬間を―――反応に押し返す腕は捉えて引き込む。とうとう閉じられた瞳は苦しそうにもきつく結ばれた。それと当時に息を求めたホルティーナにわざと誘えば誘われるように求めるものを一瞬に俺を意識させた。
小さく短い悲鳴も、今はホルティーナから放たれる歌としか聞こえない。角度を変えればまた違う音色を奏でて、触れあえばひくりと動く肩を抱き締めてうなじを撫で上げる。どれくらいホルティーナとキスをしていただろうか。決して長くもない時間だが、俺の服を握るホルティーナに少しだけ求められたのではないかと都合のいい錯覚に悩まされる。
「ば、ばかっ!んんっ―――っ!」
「っ―――はぁっ、馬鹿でいい。馬鹿ならホルティーナに溺れられる」
舌を噛まないなら、まだ溺れていられる。そうだろう………?ホルティーナ、こんな俺でも噛み殺さないのならそこまで嫌ってはいないのだろう?そう想っても、いいのだろう?―――お前はどうすれば俺に溺れてくれるんだ。




