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67sideカルヴェルン

誤字・脱字等を修正いたしました。27.5.6

 余は―――自分がハーフエルフだと知ったのは十を過ぎた頃だった。母の姿を見たことがなく、国の宰相と傍に付けられた二人の教師だけしか余の傍にいさせない徹底ぶり。第一位王位継承権の余は他の弟たちより賢くなければならぬゆえの処置だと思っていた。


 気づいたのは五歳の時から余と共にいたゼフォンドとアーバンと三人で遊んでいたのだが、アーバンが城の行ったところのない場所に行ってみたいと言う好奇心からその正体を知る。


 衛兵の目を盗んで駆け回る余たちはすごく高揚していた。とても楽しかったのを今でも覚えている。一人の女性―――余の母と逢うまでは………そこには数年前から姿を消していた城の侍女と、身だしがとても綺麗で―――いや、綺麗すぎるエルフがいたのだ。


 彼女は余を見て泣いていた。滑らかにまっすぐ延びたグレーの髪は濁りなく輝き、泣きだした目尻に金の瞳が涙さえも黄金に彩らせる。あれは本当に、秀麗の極み。余は動けずにその場で感動し、涙も流した。


 しかし、現実は甘くも何もない。消えていた侍女が衛兵を呼び出してしまい、余ら三人は父王より叱責を直に受けて謹慎を受けさせられたものだ。その叱責の中でかのエルフが王妃であり、国の象徴であり、何かがあって傷ができたらどうすのか問われたと思う。もう、思い出せぬな。


 それ以来もう逢うことは願わぬが、余はそれで満足であった。そこで気づけたからだ。余が、ハーフエルフであると。この国のハーフエルフの迫害は知っている。酷いものであればすでに処刑する領地まであるのだ。余の存在が知れ渡ればどうなるか、簡単に想像がつくと言うもの。


 だからこの耳の先端が少し怪我をしていたのかと、この時に改めて理由が明確となったのだ。聞いたときは耳が頭とくっついていたと嘘を信じた余もだが、今なら鼻で笑える嘘だな。


 結局、魔力が疑われある貴族が調べた結果がこれだ。余と父王よりその貴族の言葉は確かなものが揃っていた。王妃がバレてしまえば脆いものだったな。そして余はゼフォンドと逃げ、追っ手から逃れたがゼフォンドでもあの数は手に負えなかったようだ。途中でアーバンと合流できなかったら余はすでに死んでいただろう。


 ゼフォンドとは別れてしまったが、今こうして再会できたのだから喜ばしい事だ。しかし………現状は何一つ変わっていない。せっかくマーデクを仲間に率いれてアヴリーベを取り込もうと思っていたのに―――余の思いは同じハーフエルフに少しも届かぬ。


 何かを言われればすべてを上回って迎撃されてしまう。悔しいが、何一つ言い返せず余が青すぎると思いしらされた。だからゼフォンドにはあいつを落とせ、と命令したのだが………………………………あいつはなんなんだ?本当に恋をしているようだし………なぜあのように辛口で交わされているのに嬉しそうなんだ?さすがにこれはわからんぞ。


「それで、母が生きているか聞いてきたがどういう事だ。余があやつの不敬罪を問い詰めればいいのだな?」


「いいえ、聞いてください。ホルティーナには魔法が多彩に使えるようで、風を使って音を拾えるのです。ここで過ごしていく間に王城がどのようになっているのか音のみで詮索したときに、王妃の声を聞きました」


「それを鵜呑みにしろと言うのか?ゼフォンド」


「殿下、まずは聞いてあげるんだ」


 しかたがない………続きを言え。


「一人は国の救いを必死に願う女性。そして王妃は脱け殻のように悲壮し、陛下に我が子を返せと嘆いておられました」


「っ―――それで、なぜ母が生死の危険になるのだ」


「殿下………そこは考えてほしいのじゃが…」


「マーデクは分かるのか?」


「俺もだいたい分かった」


 余は………考えたくはない。あの秀麗な母が余を求めている。そして願っている。どこに危険があるのだ?みなはあの女に騙されているのではないか………?そうであろう?余を貶めるために、そのようにみなで余を嵌めようとしているのだ。


「殿下。考えを止めないでくだされ。王妃はエルフなんです。王は人間なのです」


「………マーデクは何を言わせたいのだ」


「言わせたいのではありません。考えて、答えを導きだしてほしい、とわしは思っております。それは殿下にとってとても必要なものです」


 余に必要なもの。答えを導きだすことになにが必要になるのだ。世が国へ戻り、玉座に戻れば母も父王も変わりなく息災であろう。みなは何を言わせたい。母がエルフであること。父が人間であること。その間の子が余であるハーフエルフであること。


 余がハーフエルフだから余は迫害に追われている。ここでエルフである母の危険は………ん?そもそもよくエルフを我が国に受け入れられたものだな。あまり交流はなかったと思うし、エルフの方も接触をしようともしなかったし。


「熊男」


「ゼフォンドだ。親しくゼフでも新たに呼び名をつけてくれてもいい」


「じゃあ熊男でいいじゃない。これから子どもたちが魔法を使うから、貴方は私の時のように邪魔しないでちょうだい。壁の修復をするだけですから、貴方たちに危害が及ぶとしたら私たちにも危害がくると思っていてもいいわ」


「それってどういう意味なんだ?」


「土魔法で壁を修理するのよ。ただ、まだ魔法に不馴れな子がいるから魔法をどん!と使えば壁が壊れるの。その勢いで家が壊れて崩壊するかもしれないわね、という意味よ」


「………………外に出ていいか?」


「襲ってきた魔物を退治してくれるのなら。私は中にいますから手伝わないわ」


 こやつ………本当に余を敬わない。ここは余を守ることを最優先に言い渡すのではないかっ。なぜこのホルティーナという女は余に失礼なんだ!我慢ならんっ!!


「昨日から余に楯突いてなにがしたい!そなたはこの国が滅んでもいいのかっ!」


「元々ハーフエルフで迫害され居場所がないのですもの。滅―――」


「ホルティーナ。やめてくれ。殿下、少し落ち着いてください」


「っ―――!…………はあ………誰よ、殿下を教育していたの」


「陛下が決めた専属の教師だ」


「私に突っかかると言うこと。王妃の話をしてそれをそっちのけに自分を出したこと。この二つで殿下は残念ながら答えに至らなかったと判断するわよ」


「その、殿下は少し焦っておいでで………」


「マーデク。それはなんのフォローなの?殿下のフォロー?フォローする意味がどこにあったのかしら。フォローするならさっさと現実を突きつけてあげなさい。こうしている今も危ないのになに呑気に居座っているのかしらね。だいたい、離れたのなら少しは考えられるでしょう?なぜ思い至らないの。物事の捉え方が楽観視しすぎよ。色々と問題点か山積みじゃない」


「貴様っ!」


「ホルティーナ様。準備ができました」


「そう。なら、今から転移させるわ。さっきの事は覚えているわね?」


「はい。南都の『青い砂浜』の宿屋、マリーアンさんでしたよね?用件も覚えています」


「出来るだけ細かく聞いてきてちょうだい」


「余を無視して何をしている!!勝手は許さんっ!」


 余は、余は―ー―この国の次期国王だ!





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