63
誤字・脱字等を修正いたしました。27.5.6
「じゃあ、余はなんのために逃げているっ!」
「知りません。それより、王はどうなっているの?貴方がハーフエルフなら父王だって咎められるじゃない」
「それはないんだ、ホルティーナさんよ。あんたが言ったように、王族が絶対。王が『知らない』と言えばそれが正解と言える」
「………それって、殿下はすでに切り捨てられたも当然じゃない」
「余はこの国にとって必要であるべき存在として動いていた!現に、余が消えたことにより軍は足並みを崩して一歩も動けない状態だ!隊も組めぬ状態でなにも出来ていないっ」
「それも数日でしょう?王がいるのなら王が動かせばいい」
「いや、王は軍事が出来ない。進めとか引け、としか脳がないから動かないんだよ」
アーバン………それでどうやって王が務まるの?思わず聞き返したら殿下がいた、と。その前は宰相が担っていたという。指揮官や総大将みたいのはいなかったとか、さらに聞けば昔はいたが殿下が総指揮官になってから廃止して今はないとの事。呆れて何も言えないわ………殿下がハーフエルフでなくても、もしいなくなってしまったら駄目じゃない。
殿下が抜ける事によって軍ではなく隊が動かせないだなんて―――末期ね。この国、終わるかもしれない。なんだか頼りない殿下を見ていたらそう思えてきたわ。いっそどこか亡命でもしようかしら。
ただふと思っただけ。なんとなくでだいぶぼやけた思想だったのだけど………何を思ってか熊男に頭部を掴まれたわ。そしてこっちを向けと言わんばかりに私の頭が勝手に動かされる。その向きはやっぱり熊男の方。なにをしてくれるのよ。私はミミルを抱えていると言うのにっ。首が痛いじゃない!
「ホルティーナはどうすれば殿下が生き長らえれると思う?」
「どうするって………生きているのだから足掻きなさいよ。私たちには知恵がある。その知恵をうまく使って生き残るしかない」
「俺は殿下も助けたいし、ホルティーナも助けたい」
「殿下はわかるけど、なぜ私まで助けられなきゃいけないの?貴方たちが関わりに来なければ何も変わることはなかったわ」
「あんた、辛辣すぎないか?」
「あのね、貴方たちはここに招かざる人なのよ。結界を通り抜けられなかったのがその証拠」
「あの結界にはなにか条件を付けられていましたが、ホルティーナ様は何を付けたのですか?」
「マーデクがわからないなら、教える事はできないわ」
と、言えば元気よくシェルカが走ってきた。何事かと思えば遅れながらもマーデクたちを威嚇する。その小さな体で相手に出来ないでしょうに。飛び出していかないように首根っこを掴んでシェルカも抱え込む。これ以上は持てないわね。
でも、暴れるから仕方なく床に下ろした。それでも威嚇を続けるので顎の下を撫でてやる。するところっと寝転がってお腹だすのよねー。気持ちいいのか、うっとりとした顔で撫でられる。一瞬、和やかなムードになるけど、次には誰かの爆音が聞こえてみながお互いを見るために動き出す。すごい空腹音ね。回りを見てみれば殿下だったわ。顔の表情を取り繕っても、目は泳いでいるし隣にいたアーバンが笑いをこらえていればバレるわよ。
「あら、もう夕方なのね。ご飯の支度をしましょうか。今日は時間がないからテテラを中心にスープだけね。バナルとマティクにエーラは出来るまでの時間に家の壁とかを見てきてくれる?ひび割れがすごいのよ」
「わかりました」
「任せてください」
あら。意外と気にしないのね、みんな。役割を与えると年長組はスタスタと持ち場に行ってしまったわ。やんちゃな三人はテテラになにも言わず着いていく。まあ、ここは居心地が悪いものね。気づけばシェルカも微睡みの中に足を入れつつあるわ。いいけど。
「ホルティーナ様ー。人数ってどうすればいいですか?」
「熊男の分も抜いていつも通りよ」
「おい」
「わかりました」
殿下がなにか言っているけど、テテラは気にせず台所に戻っていった。さて、こっちも話をまとめましょうか。殿下がまた吠え始めてしまったもの。まったく。あんな浅知恵ですべてうまく行くと思っているの?よくよく考えたら殿下か城に戻る方法を聞いていないわよ。
「四人は自分達でどうぞ」
「余が作ると言うのか?!世はこの国のっ」
「この護衛のアーバンでもいいじゃない。殿下でも次期国王でも、歓迎されていない事ぐらいわかるでしょう?それに作らせて疑われるのも嫌ですし、何より口に合わないでしょうね。文句をつけられるのはやっぱり嫌なのよ」
「もう文句を付けられてるだろ」
「後からよりいいじゃない」
「俺、あんたに口で敵わない気がしてきた」
「貴方の何十倍も生きていますからね。熊男、作るのはいいけど貴方があそこに行くと狭くて邪魔よ。それに貴方がやると食材が勿体ないわ、やめて」
そんな落ち込んでも駄目よ。貴方、イモモの皮剥きやってもらったら散々だったじゃない。確かあの後、何個か粉砕もさせたわよね?鍋をかき回すだけなのに盛大に溢したでしょう?そしてその体格でみんなが動けなくて全員にぶつかっていたわよね?
次々と駄目だしをしていけばさらに熊男が小さくなった。本当に熊男には台所に入ってほしくないから言っているのだけど、熊男は懲りずに行こうとする。本当にやめてほしいものだわ。しまいには私に子どもたちが料理するか、俺たちが料理するか、選べですって?だったら時間差で熊男たちが作ることを選ぶわよ。
何、渋い顔してるの。毛むくじゃらを取ったのだからから貴方の表情は分かるわよ。むすっとしても作りません。何様よ。
「わかった、俺が作る。代わりに誰か助手を付けてくれ。殿下、構いませんか?」
「………任せた。そして奴等を唸らせるすごい料理を作れ!」
「―――善処、します」
すごく頼りないわね。そして頼み方がなっていない、ので却下よ。そう伝えればこちらも渋々と丁寧に頭を下げてお願いしてきた。それならいいでしょう。料理はテテラが子どもたちの中で一番上手で大好きな子だからテテラにお願いしておきます。でもね、一つ忘れているわよ。
マーデクもここで育ったアヴリーベなのだから料理ぐらい出きるわ。見てみなさいよ、あの所在なさげにおろおろした行動。言い出せない姿がなんだか可哀想じゃない。名だしをしたらまた妙な空気が漂って………マーデクが咳払い一つと自ら卑下してこの場を修めた。




