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誤字・脱字等を修正いたしました。27.5.6
「………この水、うまいな」
「毒が入ってますから」
「おい、殿下に軽口を叩くな」
「はいはい」
適当に相づちを打って私はエーラに頼んで毛布を取ってきてもらう。少し怯えていたけど、素直に従ってくれた。それからみんなの解放に時間をかける。と、言っても―――私はトッティとミミルで動けないのだけどね。
それと面白いものを見たわ。狼狽えてどうしようと右往左往する熊男。カトレーとイーグに引っ張られ、モルフィーリからぽかぽかと叩かれる。怖かったそうよ。そして私が倒れた事を理由に三人で攻撃。痛くないみたいだけど、反撃も出来ないみたいで困っていたわ。顔が見えると面白いわね。
結局はイーグを肩車してカトレーとモルフィーリを両腕に抱き上げてその場を凌いだみたいだけど………それって危険だと思うのよね。ほら、肩に乗っているイーグが楽しそうに叫んでる。熊男が発進したら邪魔だから止めてちょうだいね。
「ホルティーナ様、どうぞ」
「ありがとう。エーラは頑張り屋さんね」
まだ体が強張っているわ。少しでも安心できるように頭を撫でて落ち着かせる。少し涙が浮かんできたようだけど、誉められたのが嬉しいのか花を咲かせた笑顔を返してアーテの手伝いに行ってもらったわ。………マーデクが来たから。
「ホルティーナ様………私は、殿下に生きていただきたいのです。もう、ここしかありませんでした。ですから、どうかっ」
「ねぇ、マーデク」
今から、酷いことを言うわ。もう、面倒で遠回しな会話は必要ないでしょう?
「殿下を長らえさせる事によって何が変わると言うの?殿下お一人で何が出来るのかしら。殿下はどれほど偉大なお方?貴方が汚名を付けられ背負うほど、殿下には何が出来るの?」
「殿下は、ハーフエルフでございます。ハーフエルフの殿下が国を築き上げれば、今までの見方が変わり、種族差別を取り止めさせる事が出来ます。王に一番近いお方です。不祥ながら私もお側に遣え、ゼフォンド殿とアーバン殿のお力添えと共に国を栄えさせてみせます」
「ハーフエルフの毛嫌いは深いわよ。そんな簡単に覆る事はない」
「いいえ、殿下なら出来ます」
「今逃げているのに?ハーフエルフだからと嫌われ、身を隠さなくてはならない殿下が?代替えを準備すれば殿下の意味はないわよ」
「それはない。余はすでに余の名を次期国王として国に名をあげておる。代替えしたくば、その首を掲げねばならん」
「………………殿下はお気づきでしょう?私がここまで否定している意味を」
たぶん、もう隠せない。子どもたちにも、誰にも真実を告げる気はなかったけど………マーデクがここにいる限り疑問は消えない。教え子であるマーデクの容姿はどう見ても老人。対して私の唯一見える手はしわがない。そして声も変えていないので若いまま。腰も曲がっていなければ背も縮んでいない。先程からピンピンと動いている。
比較されたらもう、私の存在は疑われる。マーデクより年上のはずなのに、年を感じさせない私に………殿下から見ればマーデクに対して知ったような口ぶりは勘違いにできないわよね。それこそ代替わりしていれば納得できたでしょうに。
私の問いかけに頷いてくれたのは子どもたちのためか。それとも別の意味か………それは殿下しか知らない。アーバンがなにかいいかけていたけど、熊男が叩いて黙らせたのが眼に見えた。
「殿下、ハーフエルフが迫害された始まりを知っていまして?」
「………知らぬ。もう五百年も前だ」
「そうでしょうね。五百年………五百年もよく続くものだわ」
自分から嘘を暴露する時って、なんだか解放感があるわよね。………どうも私はこの四人を追い出す手だてが思い浮かばない。殺せないし倒せる事も出来ない。かと言って私だけ逃げだすなんて考えられない。子どもたちを置いていくくらいなら初めからこんな事はしないもの。そう初めから………きっと私は拠り所を探していたのかもしれない。人と話せる、拠り所………ええ、欲していたわ。必要としてくれる、私を。
だから夢は見ない。私は自分ただ一人の平穏を望むだけ。だから、殿下には現実を教えてあげましょう。どうして無理なのか。どうして出来ないのか。どうして、変えられることが出来ないのか。
「みんなも、いらっしゃい。そして―――考えなさい」
手招きをすれば殿下を気にしながらも、微妙な距離を保ちながら私の傍まで来た。互いに寄り添うように。相手を威嚇するように。小さくなりながらも、傍に近寄る。
「今から面白い話をしてあげるわ」
そうして外すことのなかったローブを脱ぎ捨てた。私がこんな事をするとは思わなかった子どもたちは小さな悲鳴とホルティーナと呼ぶ声。広がる視界はとても見やすくて、端に私の夕日の色が散った。そう言えば髪なんて切っていなかったわね。ちょっと湿っているローブを腰に置いて殿下を見据えてやった。その目はきっと―――私の耳。
人間のように小さく丸い耳ではなく、エルフのように横に長く尖った耳でもない、中途半端な大きさの少し尖った、耳。ハーフエルフとしての、もっとも見分けられる部分。多くの視線が………私を見ていた。
「やはり、そなたはハーフエルフだったのだな」
「そうですよ。だからマーデクが年老いても、私はまだ若くいられる―――騙していてごめんなさいね。ハーフエルフは嫌われているから、私は臆病で貴方たちにたくさんの嘘をついたわ」
「………いいえ。嘘でも、私たちを育ててくださったのはホルティーナ様です。そのご恩を無下にするほど、私たちは教わっておりません」
「私の子どもたちはとても優秀ね。優秀すぎて洗脳でもしてしまったのか、疑っちゃうわ」
「捨てられて、拾って迎え入れてくださったのはホルティーナ様ですよ。ある意味では洗脳かも知れませんね」
「隠してたのってハーフエルフが理由だったんですか?そりゃあ隠したくなりますね」
なんて事。子どもたちが普通に会話してくれるわ。夢を見てしまったから、少し怖かったのだけど………なんだか拍子抜けよ。あんなにハーフエルフは、と罵っておいたのに。どうして本物をみてこう言えるのかしらね。
全員を見てみると、誰も怯えていない。むしろ綺麗と誉められてしまう始末。なんだか隠していた私が馬鹿らしくなる。誰か一人くらい、怯えてもいいのに………でも熊男は呼んでないのよ。わざわざ近づいて世辞を述べなくてもけっこうですから。離れてちょうだい。
「あれ?ホルティーナ様の顔が赤い!やっぱりホルティーナ様って」
「テテラ、それこそ嘘は駄目よ。私の顔は赤くなっていませんから」
「でも!嬉しいんですよね?」
「エーラ、貴方まで………」
「素直になったらどうですか?いっそ僕たちが計画してもいいですよ」
「………………ハーフエルフの私には無理よ。国が、あるかぎり」
さあ、お話をしましょう。とても覆すことのない、出来上がってしまったハーフエルフ迫害の実態像。そしてアヴリーベを広められない理由を。その意味を語ってあげるわ。




