表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/11

009 宝石

 婚約発表の宴の特製フルーツゼリー、三百人分の納品を終えた私は、お庭のハンモックに揺られながら優雅に休息を堪能していた。

 自分へのご褒美に、製菓用チョコレートをポリポリかじりながら一休みだ。


「いい御身分だな、ナギ」

「あっ! 私の太陽! 何か用?」

「浮かれているな。確かにあのフルーツゼリーは傑作だった。今でもあの貴族達の驚いた顔を思い出すと笑いが止まらんな」


「ふふん、そうでしょ、そうでしょ。おみやげの金箔を貼ったスパイスクッキーも評判よかったみたいじゃない。この神の使い、天才パティシエのナギ様を讃えなさい」

「そんな神の使いに、新しい仕事だ」

「は?」




 ◆◆◆◆◆




「はあーー。そりゃそうよね。婚約発表だもんね、本番の結婚式があるのは当たり前よね」

「三週間の公示期間が過ぎたらすぐ結婚式ですか。少し急ですが、ナギ様の年齢を考えると仕方ありませんね」


「ちょっとエレノアさんまで! 23ならまだまだ全然大丈夫でしょ!」

「ナギ様……23と言えば、世間体を気にする親から修道院に行けと言われる年齢です」


「え!? そうなの? あれ……それじゃあエレノアさ……」

「なんですか、ナギ様?」


 笑顔のエレノアさんから、どす黒いオーラが漂っている。


「ひぇ……あっ……つ、次は、結婚式に相応しいお菓子だよね!」

「そうですね。まずは一日目の大宴会のメインの菓子。次に四日目の夜の宴の仕掛け菓子。最後に他国の王族に贈るお土産用の菓子ですね。あと、細々したお菓子をナギ様が考案した新作として振る舞う予定です」


 王族の結婚式。地獄のスケジュールを紹介するぜ!。

 初日は感動の挙式に大宴会。

 二日目は凄腕騎士や冒険者たちが名誉と財産を賭けて競い合う『トーナメント』。夜はダンスパーティー。

 三日目は団体戦。十一人対十一人のガチの『大乱闘』と、夜の優雅な観劇。

 四日目は一転して、森でモンスター狩りを楽しむ貴族たちのハイソなピクニック。

 五日目は市民サービス。城のバルコニーから市民のみんなに硬貨をパーッと撒いたり、職人さんたちの華やかなお祝いパレードを特等席で眺めたり。

 六日目の夜は、みんなが怪物や神話の仮装をして踊り狂う、ちょっとカオスな仮面舞踏会!

 そして最終日の七日目に、外国の王族や特使に豪華なお土産を持たせてお見送りして、ようやくフィナーレを迎える。


「ねえ、その『考案した新作』って、結局全部作るのは私ってこと?」

「すべてナギ様がお作りになったと発表しますと希少価値が下がりますから。簡単な作業なら私たちがサポートいたしますので、頑張りましょう」

「それなら大丈夫か。一回手伝ってもらってるから要領もわかってるはずだし」


 三百人分のゼリーを作ったときは、最後はみんな死んだような目をしながら作業してたな。エネルギー補給の代わりに製菓用チョコレートを配って、なんとか乗り切ったっけ。


「……ナギ様、申し上げにくいのですが。以前手伝った侍女達ですが……ナギ様のお手伝いをしたということで箔が付きまして、半分以上の者が婚約いたしました……」

「え!? ってことは、お手伝いしてくれる人が少なくなるってこと?」


「いえ、大丈夫です。ナギ様のお手伝いをすると結婚できると噂になりまして、年齢的に後がない侍女達がこぞって志願しております。結婚式本番まで時間がありますので、それまでに特訓しましょう」


「……それってもし結婚できなかったら、めちゃくちゃ恨まれない?」

「……彼女たちも藁をもつかむ思いなのです。もしダメでしたら私が説得しますので……」




 ◆◆◆◆◆




「よし! バルザード伯爵さんにハンドミキサーの開発もお願いしたし、まずは細々したメニューから決めましょうか!」


 例のマッサージ機を作ったバルザード伯爵に、小さめの泡立て器を何個か渡してハンドミキサーの開発をお願いしてきた。

 簡単に作れるようなことを言っていたけれど、早めに作ってもらわないと、手動でやらないといけなくなる。


 うっ! 洋菓子店にいた頃、ハンドミキサーが足りないからって手動でメレンゲ作りをさせられた記憶が……。


 私は買い出しリストを眺めながら、簡単で美味しくて、量産できて、なおかつ手抜きができるお菓子は無いかなーと思案する。


 !!!!!


 私に電流走る――!


「ナギ様、どうかなさいましたか?」

「……う、うん。ちょっと閃いてね。でも、これはパティシエとしてのプライドが……フルーツゼリーもかなり妥協したけど……流石にこれは……でも……」


 ぶつぶつ言いながら買い物をする私を、不思議そうに眺めるエレノアさん。




 ◆◆◆◆◆




「素晴らしいですナギ様! このような菓子をお作りになれるとは、まさに神の使い!」


 エレノアさんは目の前にある、赤く輝くルビーのようなものに感激している。

 正直、今までで一番驚いているように見えた。


 ミュージシャンが悩みに悩んで完成させた曲が売れず、息抜きに作った曲が大ヒットしてモヤモヤしているという話を聞いたことがあるが、私も今、完全に同じ気持ちである。


 エレノアさんの目の前にある、ルビーのようなもの。






 それは、ジェル状のフードカラーをウォッカに溶かして霧吹きで吹き付けただけの、ただの『氷砂糖』だ。


 もしかしたら綺麗にできるかなーと試しにやってみたところ、予想以上に上手くいってしまい、エレノアさんに見せた結果がこれである。


「最適解がこれだったとは……」


 手抜きでオランジェットとか、チョコのドラジェを作ってもらおうとか考えていたのに……どうしてこうなった!


 リュシアンにも見せたが、色を付けただけの氷砂糖は大好評だった。


「初めからこれを作っていれば、何も悩む事は無かったろうに。ふふふっ、これは食べる宝石として話題になるぞ!」


 今まで一度も見たことが無いような、満面の笑みだった。


 ちなみに、スキルで買ったオレンジの砂糖漬けで作ったオランジェットを見せたところ……。


「なんだこれは? オレンジに泥を付けたのか?」


 散々な言われようだった。




お読み頂きありがとうございます。

ブックマーク、評価など、よろしくお願いいたします。


7:00と12:00に公開予定。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ