031 密談
ヴァルディシア王城の最奥。防音の魔術が幾重にも施された国王の私室で、二人の男による密談が静かに交わされていた。
「――ガルガドール王国の件、無事に片付きました」
薄暗い部屋の中、リュシアンが笑顔で報告すると、豪奢な椅子に腰掛けていたリュシアンの父親、ヴァルディシア国王は、安堵と感嘆の入り混じった長い息を吐き出した。
「そうか。よくやった、リュシアン」
「事前の手はず通り、不良債権は、すべて周辺諸国に分配いたします。その代わり、ガルガドール国内の重要な港、豊かな鉱山、ならびに交通の要所につきましては、我が国が確実に接収いたします」
淡々と事後処理を報告するリュシアンに対し、国王はわずかに目を丸くした。
「よく、周辺諸国がその偏った条件で納得したものだな。実入りの良い場所はすべて我が国が持っていくというのに」
国王の問いかけに対し、リュシアンの端正な顔立ちに、優雅な笑みが浮かんだ。
「簡単なことです。『かつてガルガドールに理不尽に奪われた祖先の領土を、今こそご自身の手で取り戻す千載一遇の機会です。歴史に名を残す英雄になりませんか』と囁いたのです。どの国の王も目を輝かせ、是非にとお願いしてまいりましたよ」
「……お前のその舌には、悪魔すらも喜んで騙される甘い毒が塗られているようだな」
あきれ果てたように呟きながらも、国王の顔には明確な喜びの色が浮かんでいた。圧倒的な軍事力で常に周辺国を威圧していたあの巨大な王国が、自国の軍隊を一切動かすことなく、ただ一人の男の策謀によって地図上から消滅したのだ。
国王は手元のグラスに残ったワインを飲み干すと、満足げに深く頷いた。
「うむ。何はともあれ、これでひとまず、我が国の喉元に突きつけられていた無骨な刃は取り除かれたわけだ」
「ええ。彼らは自らその刃を甘い菓子と交換し、自重で崩れ去りました」
「だが、油断はできんな。……次は我々自身が、周辺諸国にとっての『密かに研がれた新たな脅威の刃』として包囲網を敷かれぬよう、これまで以上に慎重に立ち回らねばならん」
国王の戒めの言葉に、リュシアンは手にしたワインを掲げる。
「御意に。表向きはあくまで、争いを好まない平和で『甘い』国として……諸国とは仲良く手を取り合っていく所存です」
窓の外では、月明かりが平和なヴァルディシアの王都を照らし出している。
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