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029 崩壊

「新たなる砂糖とスパイスの生産地が見つかりました! これからはオークションを行わず、購入希望者全員に、一箱金貨一枚で売りましょう!」


王都の中心、大広場に響き渡ったヴァルディシアの特使のその声を聞いた瞬間、私――ガルガドール王国の高位貴族である私の頭の中は、真っ白になった。


一箱、金貨一枚……だと?


冗談ではない。私が先月のオークションで、先祖伝来の領地を切り売りしてまで手に入れたあの『純白の砂糖』一箱は、金貨三百枚で買ったのだぞ!?


それが今、誰でもたった一枚の金貨で買えると言ったのか!?


広場には、ヴァルディシアから到着したという何百台もの馬車が連なり、山のような純白の砂糖とスパイスが惜しげもなく積み上げられていた。それはもう、王族だけが口にできる幻の宝石などではない。ただのありふれた、安い粉だ。


「ば、馬鹿な! 売らねば……っ、今すぐ手持ちの砂糖とスパイスを全て現金に換えろ!!」


私は屋敷に取って返し、金庫という金庫に詰め込んでいた証書と現物の砂糖を抱え、王都の取引所へと走った。

だが、遅かった。


「頼む、半額でいい! 誰か買ってくれ!」

「ふざけるな、俺は三分の一でもいいから現金が欲しいんだ!」

「駄目だ、証書の買い取りはすべて停止された!!」


取引所の扉は固く閉ざされていた。


扉の前では、私と同じように血走った目をした貴族や商人たちで溢れ返っていた。誰もが我先にと『売り』を叫んでいる。


しかし、当たり前だ。たった金貨一枚で新品がいくらでも買えるのだから、私たちの手持ちの高価な砂糖など、誰も買ってくれない。


売りが多すぎる。買い手は完全にゼロだ。

昨日まで家一軒の価値があった証書が、ただの紙切れへと変わった瞬間だった。


「あ、ああ……私の、私の全財産が……っ」


膝から崩れ落ちる者、発狂して笑い出す者。借金をしてまで「必ず値上がりする」と信じて投資に手を出していた大商人や市民たちは完全に追い詰められ、借金取りから逃れるために次々と王都から逃げ出す。


国家経済の崩壊。バブルは、あまりにもあっけなく弾け飛んだのだ。


そして、悲劇はこれで終わらなかった。


国庫が完全に空になり、軍の維持すらできなくなった王家は、この期に及んで正気を失った決定を下した。経済の穴埋めのため、一般市民に対し『急な大増税』を課したのだ。


ただでさえ物価の異常な高騰で生活を圧迫され、その日食べるパンすら買えずに困窮の極みにあった市民たちの怒りが、これで爆発しないわけがなかった。


「ふざけるな! 俺たちの生活を返せ!!」

「俺たちから全てを奪った王侯貴族を血祭りにあげろ!!」


暴動の炎は、瞬く間に王都を飲み込んだ。


給金である砂糖の価値がなくなった近衛兵たちまでが反乱軍に寝返り、難攻不落を誇った王城の門は、内側から呆気なく開かれた。


私は今、暴徒の松明によって燃え盛る自らの屋敷の中で、金庫に詰まった『かつて財産だったただの甘い粉』を呆然と見つめている。


無敵を誇った大国ガルガドール王国は、剣でも魔法でもなく、『砂糖とスパイス』の山に埋もれ、今まさに崩壊の時を迎えていた。


お読み頂きありがとうございます。

ブックマーク、評価など、よろしくお願いいたします。


7:00と12:00に公開予定。


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異世界から日本に逆異世界転移した公爵令嬢が出版業界で活躍します。

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ISEKAI BBQ 〜BBQソースと共にあらんことを〜
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