025 アフタヌーンティー
「ねえ、リュシアン。毎月毎月、琥珀糖やチョコとかをたくさん作ってるけど……あれ、何してるの? まさか全部リュシアンが1人で食べてるわけじゃないよね?」
執務室のソファでくつろぎながら、私はふと気になっていた疑問を口にした。
銅貨数枚のスキルで買った材料とはいえ、毎月かなりの量のお菓子を作ってリュシアンに渡している。いくら甘党でも、全部食べていたら大変なカロリーだ。
書類から顔を上げた私の夫——リュシアンは、ふわりと優雅な微笑みを浮かべた。
「あれか……ガルガドール王国に、謝罪の気持ちを込めて贈り物をしてるだけだよ」
「謝罪の気持ち?」
「ああ。先日の闘技場の一件で、彼らも大層なショックを受けたようだからね。我が国の特産品で、少しでも心を癒してもらおうと思って」
「……ふーん、それならいいけど」
どこか腹黒い響きを感じなくもなかったけれど、外交の役に立っているならそれでいい。美味しいお菓子を食べれば、誰だって平和な気持ちになるはずだ。
「そういえば、レンくんはどうしてるの?」
ふと、あの能天気な青年の顔が浮かんで尋ねると、リュシアンは楽しそうに目を細めた。
「姫たちと仲良くしているよ。当初は誰が正妻になるかで随分と揉めていたようだがね」
「うわあ……修羅場だね」
「ああ。だが、それに嫌気がさしてレン殿が逃げ出したら、我が国としても色々と敵わんからね。だから私が提案して、全員仲良く『公式の愛人』という形に落ち着かせたんだ」
「……どうなるの、それ」
正妻を決めずに全員愛人って、余計にドロドロしそうな気がするんだけど。私がドン引きしていると、リュシアンは事もなげに計画を語り始めた。
「簡単なことだよ。愛人それぞれに領土を与えて、将来的に独立した貴族にするのさ。彼女たちに男子が生まれれば、レン殿の持つ莫大な力も相まって、いずれ有力貴族として立ち回るようになるだろう」
「ふーん……領土ってそんな簡単にあげれるの?」
「まあ、色々と訳ありで領土を手放す貴族が結構いるんだよ」
「ふーん、そうなんだ」
私は考えるのをやめた。
ドロドロとした政治闘争なんて、私には難しすぎる。それよりも、もっと大事なことがあるのだ。
「それよりリュシアン、『アフタヌーンティー』しない?」
「アフタヌーンティー?」
聞き慣れない言葉だったのか、リュシアンがきょとんと首を傾げる。その仕草が少し可愛くて、私はふふっと笑った。
「おしゃれに紅茶を飲んで、サンドイッチやケーキを食べるの。お庭にもう準備してるよ」
窓の外を指差すと、手入れの行き届いた中庭のテーブルには、すでに三段重ねのティースタンドが輝いていた。
下段にはきゅうりとハムの一口サンドイッチ、中段には焼き立てのスコーンとたっぷりのクロテッドクリーム。そして上段には、フルーツをふんだんに使った色とりどりのタルトやケーキを並べてある。
「……なるほど。それは素晴らしいな」
リュシアンはペンを置き、私の元へと歩み寄ってきた。
「君が私のために用意してくれた、その『アフタヌーンティー』とやらを、ぜひ堪能させてもらおうか」
差し出された手を取りながら、私は頷いた。
私にとって一番大切なのは、リュシアンと一緒に、毎日美味しいものを食べてのんびり暮らすことなのだから。
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