3.
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人々は聖剣が勇者に与える数々の異能を神のご加護だなどとありがたがるが、この三年程ベラルドを誰よりも近くで見続けてきたナターシャはこんな風に思っていた。
あれは、本当に神の加護なのか、と。
そのひとつが、聖剣の威光だ。
普段のベラルドはとても世界を救った勇者には見えない。けれども一たび剣を示すと善良なる人々は彼を勇者と認め、あらん限りの畏敬と賞賛を捧げる。
たとえ、目の前にいかなる地獄が広がっていようとも。
これが神の加護だなどと、ナターシャにはどうしても思えやしなかった。
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勇者ベラルドの降臨によって、小さな安宿で起こった大騒ぎは、やがて宿場町すべてをまきこんだ祭りとなっていた。
誰も彼もが勇者と聖剣を称え、光の神に感謝の祈りをささげつつ、酒を酌み交わす。それは夜が更けても続き、ちょうど朝日が昇り始めるころに、ようやくほとんどの人々は騒ぎ疲れ、あるいは酔い潰れて眠りについていた。
その中心となった安宿の食堂の床は、死屍累々といった風に、客たちが寝こけている。ナターシャと、彼女に手を引かれているベラルドは彼らを起こさないように慎重な足取りで歩いていた。もっとも、死んだような顔の勇者は、そんなことを考慮しているのかどうかまるでわからなかったが。
「もう発たれてしまうのですか?」
仕事柄早起きが習慣なのだろう、周りがこんな状態であっても既に起きていた宿の女将が、落とした声で二人に尋ねる。ナターシャは微笑みを浮かべ、「こんな騒ぎになってしまいましたし」と答えた。女将はなるほどとうなずき、「あ、少しお待ちください」と厨房へと引っ込んで行く。そして数分の後、小さな包みを持って戻ってきた。それをナターシャへと渡す。
「朝食にどうぞ。勇者様方にお出しするには粗末なものとは思いますが」
「ありがとうございます。それに、粗末だなんてとんでもない。昨日のお料理とてもおいしかったですよ」
ね? とベラルドにも同意を求める。すると、振ったナターシャにも意外なことに、彼はこくりと頷いて見せた。一瞬驚いてしまったが、(ああ、いや、違う。これは一瞬眠ってしまって舟をこいだだけだ)と理解し、胸中で嘆息した。
「昨日は皆に囲まれて、勇者様も眠らせてもらえなかったようですね」
女将はくすくすと笑うが、ナターシャは小恥ずかしかった。
「これからどちらへ?」
女将の問いに、ナターシャはちらりとベラルドを見やり、
「勇者様が落ち着ける場所を、探しに」
そう、答えた。
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ナターシャがベラルドに引き合わされた時、彼はまだ幾分か人間味を残していた。
言葉少なではあるが話しかければ返事はあったし、今よりもう少し目に光が宿っていた気がする。
「よろしく、神官殿」
これがナターシャが記憶している限り最初で最後の、ベラルド自ら発せられた言葉だった。
差し出された手を握り返し、ナターシャは柔らかく微笑む。
「こちらこそよろしくお願いします。勇者様」
神の啓示を受け、ナターシャが勇者の付き人となったのは三年程前のことだった。その時のナターシャは、与えられた大役に緊張していたのを覚えている。
聖剣の勇者の伝説に曰く、勇者の傍には常に神に選ばれし聖女がいたと。
ナターシャは自分がその伝説の乙女になったのだと、心を躍らせていた。
――この時は。
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