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よく喧嘩するの


「よし!私からだ!」


 そう言って手合わせのため、ヨコヅナの前に立つメガロ。


「コヒィーリア王女!見ていてください、強くなった私の戦いぶりを!」

「はいはい、ちゃんと見てるわよ」


 コヒィーリアがいることで、いつもより気合が入っているメガロ。

 返事は投げやり気味だが、コヒィーリアは鍛錬を見学に来たのだから言われるまでもない。


「今日は本気で行かせてもらうぞヨコヅナ」

「いつもは本気じゃないだか?」

「本気中の本気ということだ」


 意味不明なことを言うメガロ、バカだから仕方ない。

 お互いに構えをとる、ヨコヅナとの手合わせに開始の合図はない、向かい合って構えたら始まりとなる。

 ヨコヅナは手合の構えではなく、腰を軽く落とし、両腕を胸前まで軽く上げた状態だ。

 手合の構えからだと大抵ブチかまし一発で終わってしまうからだ。


「行くぞ!」


 メガロが顔面へ向けて上段突きを繰り出す。

 その拳がヨコヅナに届く前に、


「ぬおっ!?」


 ストンッとメガロの体が落ち、尻餅をつく。


「気合が入ってるのは良いだべが、(りき)みすぎると足元すくわれるだよ」


 ヨコヅナはスモウの【蹴手繰り】一般的に言うところの足払いで、言葉通りメガロの足をすくったのだ。


「クククッ、ちゃんとご覧になられましたかコヒィーリア王女。強くなった気になっているバカロ様の戦いを」

「ええ…。はぁ~全く情けない」

「あ、いや、違うのです、ヨコヅナもう一度だ!」


 あまりにも情けない姿にやり直しを要求するメガロだが、


「一度負けたら終わりだべ」

「見苦しいわよメガロ、さっさと下がりなさい」


 手合わせは、足の裏意外が地面に着いた時点で負け、ヨコヅナに相手してもらえるのは一日一回というルールもコヒィーリアは事前に聞いて知っている。


「ううぅ~」


 まさに意気消沈といった感じで、トボトボと場所をあけるメガロ。


「……情けないとは言ったけれど、絶妙なタイミングの鋭い足払いだったわね」

「ヨコヅナ様も容赦ありませんね」


 確かにメガロが良いところを見せようと、浮き足立っていたのもあるが、ヨコヅナの足払いは見事と言う他なかった。


「次だべ」

「ルルガです。宜しくお願いします」


 何度も鍛錬に参加しているルルガ、わざわざ改めて名乗ったのはコヒィーリアが見ているからだろう。

 

「………来ないだか」


 ヨコヅナの前に出て剣を中段に構えるルルガだが、自分から攻めようとしない。

 今までの手合わせからヨコヅナが相手の攻撃を待ち、カウンターを狙うのが得意と考えていたからだ。だから今回はヨコヅナから動くのを待ってるルルガ。


「なら、こっちから行くだよ」


 ルルガの狙い通りヨコヅナから攻撃に動く。

 だがその速さはルルガの想像を超えており、易々とヨコヅナに剣の間合いの内側に入られる。


「なっ!?ぐへぁ!」


 張り手を顎に叩き込まれ、崩れるように倒れるルルガ。

 ヨコヅナはカウンターが得意だから攻撃を待っている訳ではない、手合わせだから待ってあげているだけなのだ。


「痩せたのもあって、大会の時よりも数段動きが速いわね」

「……ヨコヅナ様は口には出しませんが、痩せた一番の理由はハイネ様に勝つためかもしれません」


 環境の変化等が痩せた原因ではあるだろうが、ヨコヅナがその気であれば食事量を増やすなどして、元の体型に戻ることも可能だろう。

 そうしなかったのはハイネとの手合わせで勝つため。

 ハイネの速さに対応するには、重すぎると本能的に感じ取り、体重をあえて落ちたままにしたのではないかとラビスは考えていた。


「確かに【閃光】を捕まえるには速さが必要でしょうね……でも痩せればヨコが負ける可能性も上がるわ」


 ヨコヅナが今までハイネと手合わせしても、膝をつかずにいられたのは体格からなる、頑強さと安定感があってこそだ。


「だから先ほどこれ以上は痩せないと言っていたのかと、今ぐらいが頑強さと安定感を失わず、速さを得れる、ギリギリの体型と考えて」

「……そう上手くいくかしら?」


 デカくて速い、これは強さを求める者であれば一度は考えることだ。むしろこれが出来るだけでも強いと言える。

 

「二兎を追う者は一兎をも得ず、にならなければ良いけど」


 デカさも速さも両方求めることで、どちらも中途半端になる事は多い。だから一度は考えても大抵の者はどちらかをとる。


「それは…ああ、次の相手は丁度良いですね」


 次にヨコヅナは前に立った相手、


「ログルスです。お相手願います」


 ログルスは訓練に参加している兵の中で一番体格が大きく、ヨコヅナ比べても僅かに大きいくらいだ。

 

「……無手なのに、随分間合いが遠いわね」


 手合わせするために前出てきたログルスだが立つ間合いが遠い、だが槍などの長物の武器を持っているわけではない。 


「助走をつければ、倒せるとでも思っているようですね」

「助走?」


 コヒィーリアがラビスの言葉に?を浮かべながら、手合わせを見ていると

 前傾姿勢で腰を落とし、ヨコヅナに向かって全力で走り出すログルス。


「うおぉおぉぉ!!」


 そして体重を載せて肩からヨコヅナにぶつかる、つまりは体当たりである。

 ドスンっ、と重い音が響く。

 ログルスの体当たりを、その場を動かず正面から胸で受け止めたヨコヅナ。

 

「…ビクともしないなんてね」


 自分と同等以上の体格の、勢いをつけた体当たりを受けても、ヨコヅナは僅かも下がっていない。

 そしてゴロンっと、あっさりログルスを投げる。


「勢いと体重だけじゃ駄目だべ、踏み込む力を衝突の瞬間に合わせないと相手は動かないだよ」


 武器での戦いではなく、スモウに近い戦い方であれば細かい指摘もできるヨコヅナ。


「…いや、動かないのはヨコヅナ殿ぐらいかと」


 ログルスのそうツッコミのも無理はない。

 ヨコヅナの実力が常識からズレているため、指摘も少々ズレているのは仕方がない。


「………重さではなく技術によるのものね」

 

「踏み込む力を衝突に合わせる」は攻撃だけに言えることではなく防御でも同じであり、ヨコヅナが攻撃を受け止める際にほぼ無意識に行っている技術なのだ。


「はい。デカさ、速さ、そして技。これら三つを兼ね揃えてこそのスモウだそうです」

「ふふふっ、のんびり者のクセに欲張りね」



「姫様~!!」


 次々と手合わせをこなすのをヨコヅナを見ていると、コヒィーリアのよく知る声が訓練場に響く。


「あら、おはようヤズミ。早かったわね」

「はぁ、はぁ、おはよう、ございます…ではなく、探しましたよ姫様!」


 息を切らせて現れたのはコヒィーリアの側近執事ヤズミである。


「はぁ、はぁ、こんなところで何をされているのですか?」

「書置き読んでないの?スモウの稽古を見てるのよ」

「読みました、だからここに来たのです!何故事前に言って頂けなかったのですか?」

「言ったら一人で来れないでしょ」

「一人で来ることが問題なのです!もしものことがあったらどうするのですか!!」

「はいはい。次から気をつけるわ」

「いつもそう言って、何度も何度も何度も」


 コヒィーリアを絶対の主とし、命令に忠実なヤズミがここまで言うのは、ひとえにコヒィーリアの身を案じてのことだ。


「ヤズミ、うるさいですよ」


 そこへさらに火に油を注ぐようなことを言うラビス。


「何だと!」

「ヨコヅナ様の鍛錬の邪魔になります、騒ぐなら帰ってください」


 ヨコヅナはさして気にしていないが、他の兵達は確かにヤズミが騒いでいるせいで気が削がれている。それは間接的にヨコヅナの鍛錬の邪魔になっている。


「あなたの代わりに、私がコヒィーリア王女の側に付いてますよ」

「ふざけるな、お前など信用できるか」

「おや、信用されていないのは、いつも置いてきぼりのヤズミの方では」

「貴様ぁ!」

「やめなさいヤズミ、ラビスも無意味に挑発しないように」


 一触即発の二人をコヒィーリアが止める。


「まったく、王女に喧嘩の仲裁をさせるなんて、普通なら厳罰ものよ」

「姫様が普通の行動をして頂ければ、こんな事にはなっておりません」

「早朝に一人で街をうろつく王女は普通おりません」


 王女の普通に対して、普通を突き返す侍女二人。


「……貴方達、主に向かってひど過ぎじゃないかしら」

「主に忠言するのも家臣の役目です………話は戻りますが、次からは私かユナだけでも同行させてください」


 これも既に何度も言っていることなのだが、コヒィーリアとしては一人で出歩きたいのため、毎度こうなるのだ。


「………あ、面白いことを思いついたわ」


 コヒィーリアがヨコヅナの方を見て、楽しそうな笑みを浮かべる。


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