第十話
俺たち二人は第二の都市に無事に帰還することができた。
猿人と遭遇することもなく。先行する猿人がいなくて助かった。
帰還の最中に、管理者から他の部隊の戦果も報告されてた。が、どれも数十体程度の討伐数で、俺らほどには至ってない。
接触してるのは遊撃部隊のみで守備隊は戦闘に至ってない。なので、都市に入る際もすんなり入れた。
「ふんふふ~ん」
だから、フェリシアも上機嫌に鼻歌交じりに歩いている。他の遊撃部隊は百体にさえ届かないなら、はっきり言って眼中にないってところか?
俺としてもトップなわけで気分がいい。だがしかしッ!
「あの戦法は二度とやらないからな?」
運んでくれるのはいいが、敵のど真ん中に落とされるのは二度とごめんだった。
途端にフェリシアが不機嫌そうに睨んでくる。
「何よ。【サンクチュアリ】で着地して、【ギガ・ブレイク】で薙ぎ払うだけじゃない」
言い切られてしまった。
できないとか言っても、はなから信じないだろう。
うげえ。このお強い眼差しは。強すぎて眼光に昇華しちゃってるよ。
「もうちょっとさぁ、普通に戦わないか?正面からとか安全に奇襲とか」
「いやよ。つまんない」
断言された。しかも、本音で。オブラートに包む気さえないのはある意味清々しいけども。
「はぁ。あのな、フェリ――」
「いやよ。獣と鬼ごっこなんて最悪。そういうのは【戦鬼】と呼ばれる男にこそお似合いよ。むしろ、【戦鬼】なら名前負けしない戦いを見せなきゃならないわね」
まぁ、確かに命がけの鬼ごっこは戦いと言うのかもしれませんけどね。そんな戦いは一度で十分なんですよ。
そんな感じで説得を試みながら――無駄に終わったけど――打ち合わせに使った部屋に足を踏み入れる。
すると――
「うおっ」
星覇者の皆様が一斉に視線を寄越してくださった。その眼差しの強いこと強いこと。
まぁ、嫉妬や妬みもあるだろうが、大部分は強者に対する興味みたいだった。値踏みするような、感心しているような。
俺もいつの間にか注目されるまでになったんだなぁ。フェリのおかげも多分にあるけど。
俺はしみじみしてるけど、フェリシアは興味が全くないのか眉一つ動かさない。さすがですな。こんだけ視線が殺到してるのに、ごく自然に受け流している。
これが強者の余裕ってやつ?相変わらず大物だ。
俺たちが入ったことに気づいた顔見知りが近づいてきた。
「やっほー、フェリ」
「あら、セシルじゃない。来てたのね」
五芒星職員のセシルが笑顔で近寄ってきた。
「つい、さっきね。あなたたちは順調みたいね」
「まぁね」
どうも臨時で手伝いに来たらしい。
少しの間ガールズトークしてたセシルが、こっちにも笑顔を向ける。
「レヴィ君もお疲れ様」
「あ、どうも」
頭を下げる。美人の笑顔ってのは癒されますな。
「隊長格にお呼び出しがかかったの。悪いけど、フェリを借りてくわね?」
「了解です。行ってらっしゃい」
フェリシアが俺に行かせようとしてたけど、無視した。そりゃめんどくさいし。
まぁ、彼女も絶対に俺に行かせるって感じじゃなかった。
ともあれ、彼女が行ってしまったので、俺はぼっちになってしまった。
と思ってたら、後ろから声をかけられた。
「やぁ、レヴィ君」
穏和そうな青年の名はニコル。マリウスの副官だ。もちろん、馬人族だ。
肩ぐらいまで伸ばした白髪を後ろで一つに結んでいる。マリウスと同じく全身鎧だった。騎士団の正装だったっけ?
顔はもう文句なしのイケメンだ。どれくらいイケメンかというと、周囲の女性星覇者が声をかけようとして、先を越した俺に恨みがましい視線を向けてくるくらいに。
あれ?理不尽じゃね?今、ニコルから声をかけてきたんだぞ?
ただ、それに気づいたニコルが視線を女性陣に向けると、一斉に笑顔に変わる。顔を赤らめながらも。
女ってのは怖いね。
彼とは以前話したことがあったな。マリウスと出会った時に、紹介された。天空都市に来てからは会釈くらいだったけど、話しかけられたのは初めてだ。
せっかくだし戦果を聞いてみるか。
「上々だったっぽいな?」
ニコルが苦笑する。
「参りましたよ。本当に死ぬかと思ったので」
彼は若輩者の俺に対しても礼儀正しい。以前、マリウスともども救われた恩があるからだとかなんとか。
顔がよくて中身もいいとは……もはや、嫉妬も湧かんですよ。
それにしても、内容に驚く。ニコルは半獣化できないが、マリウスに続く実力者だ。はっきり言って半獣化なしだと俺は勝てる自信ない。
俺の目つきも真剣なものに変わる。
マリウスもニコルもいて、猿人ごときに手こずるはずがない。
「……対処できないくらい大量に襲ってきたのか?」
軽く驚きながら問いかける。
「いやいや。敵については問題ないのです。ただ、味方が問題でして」
嘆息した彼が視線を向けた先には、狂犬がいた。なんかセシルに絡んでる。
隊長格を連れてくだけで、彼女は戻ってきたらしい。セシルは困った様子で応対している。
ニコルが言うには、狂犬の攻撃スタイルに問題があった。
フェリシアは遠距離・近距離両方ともいけるいわゆる万能タイプだ。
俺は【ギガ・ブレイク】ができるようになったおかげで、中距離・近距離がいけるようになった近接タイプか。
で、問題の狂犬はというと、完全な近距離タイプだ。彼が半獣化すると、雷が使えるようになる。
そして、自分の周囲を巻き込むのだ。敵味方問わず。
威力が途轍もないので、彼が天雷を使う時は攻撃を中断して退避しなければならない。
「たとえ、目の前で猿人が拳を振りかぶっていても、背を見せて全力で逃げなければいけなかったのですよ……」
ニコルが疲れた様子で深いため息をつく。
うげ。マジで味方泣かせだ。連携もクソもない。狂犬って名前の由来がよく分かった。
さすがに同情が湧いてくる。俺だったら絶対関わりたくない。
微妙な顔で俺たちが話のネタになっている男に目を向ける。
「――っつーわけで、あえて俺自身を囮にして、まとめて消し炭にしてやったのよ!」
性格はナルシスト。セシリアにホの字。
終了。もう分かった。こいつとは関わらないようにしよう。と思ったが――
「あ、レヴィ。いたの~」
セシルが俺のところへ走り寄ってきて、腕に抱きついてきた。いたのって、さっき挨拶したじゃん……そして、どう見ても話しの流れをぶった切ってきたでしょ。
内心でそんなツッコミを入れながらも、腕に当たる胸の感触に集中している自分にちょっとだけ嫌気が差した。
「いや、ちょ――」
セシルが小声で、
『お願い、助けて』
『……絶対わざとでしょ』
半眼になる俺に対して、セシルが本当に申し訳なさそうに頼み込んでくる。これがフェリシアだったら、確信犯としてニンマリ笑ってくるだろうから、まだマシなのか?
疲れたように狂犬を見つめると、顔を引きつらせていた。目が合うと、即座に睨みつけてくる。俺に奪い取られたと思ってんだろうな。
非常にめんどくさい事態になりそうだ。俺は思わずため息をついた。
狂犬の後ろでちゃっかりニコルが避難していた。嫌味なくらい丁寧に頭を下げてきた。押し付ける気満々だよ。
『おい、何逃げようとしてんだ。お前の隊員だろ!?』
『すみません。私は急用を思い出したので』
『嘘つけ!』
『はい。嘘です。すみません。戦場以外では一切関わりたくないのです。よろしくお願いします』
凄絶なアイコンタクトの応酬をしたが、結果は変わらず。ニコルは最敬礼して去ってった。
ニコルが最敬礼するのはマリウスだけだと思ってた。それが俺にもやってくれた。こんな状況じゃなかったら嬉しかったな。こんな状況じゃなきゃな!
入れ替わりに狂犬が近づいてくる。
ついさっき関わりたくないと思ったのに、早くも関わることになっちまったよ……




